第56回作業療法士国家試験解説AM-28 静的装具と動的装具

第56回作業療法士国家試験解説AM-28 静的装具と動的装具

OT国試,義肢装具関連問題の解説.今回は第56回作業療法士国家試験午前の28問目から.静的装具と動的装具に関する問題です.

OT国試ではこの5年ほど,1問は上肢装具に関する出題が1問はあります.

非常に問われやすい問題ですので,ポイントはしっかりとおさえておきたいのですが.今回の問題は選択肢の装具がどういった装具か分からなければ解きようがない問題です

しかも,選択肢から2つ選べという問題なので難易度が高めとなっています.

選択肢に登場する装具は,国家試験問題でもとても良く顔を出す装具なので.これらの装具の名称と機能についてはしっかりと覚えておきたいですね.

OT56-AM28 問題文

手関節を保持する装具の中で静的装具はどれか.2つ選べ.

問題を解くうえで

今回の問題を解くうえでチェックしておきたいのが.

おさえておきたいポイント
  • 静的装具と動的装具
  • 代表的な上肢装具

についてです.

まず,設問の鍵である.「静的装具」と「動的装具」の見分け方を確認しておきましょう.

その上で代表的な装具の名称と役割について知っておかなくてはなりません.

この問題については,出来ることならば.選択肢5つをみた瞬間に,静的装具2つに○を付けたい程に上肢装具を代表するものです.

…なのですが.上肢装具では今回の「Thomas型」や「Oppenheimer型」といった選択肢にあるように,その名称を知らなければどのような装具なのか全く想像できないものも多く.問題を解く上で混乱の元となっています.

義肢装具の名称には制作に関わった「人」や「病院・地名」が入っている事があります.

扱う上では,機能や役割を知っている事が重要ですが.国家試験では「名称」を知らないとどうにもならない事もあるので,代表的なものについてはしっかり覚えておきたいですね.

静的装具と動的装具

静的装具」と「動的装具」は,上肢装具の機能を分類する上でとても大きな要素です.

静的装具(static-sprint)は骨,関節,皮膚に原因がある場合に適応となり.動的装具(dynamic-sprint)は神経,筋,関節システムに原因がある場合に適応となる装具です.

静的装具(static-sprint)の適応
  • 組織の安静および保護
  • 良肢位の保持
  • 拘縮の矯正
  • 変形の予防と矯正
  • 不安定な関節の支持
動的装具(dynamic-sprint)の適応
  • 瘢痕や癒着の予防
  • 拘縮の矯正
  • 筋バランスの動的支持・矯正
  • 関節運動の供給
  • 腱修復術後の早期運動療法における損傷指の動的支持
  • 筋・腱のバランスや再教育
  • 麻痺筋の代用

を目的に使用されます.

各目的はとても重要なので,チェックしていただきたいのですが.

今回の問題を含めた,国家試験を解く上で知っておいて欲しい2つの装具の違い

装具が,ある関節を対象としているときに

関節を固定」して安静位や特定の肢位を保持する事を目的としたものが「静的装具

特定の動作を補助」して機能を代償したり,拘縮の予防や,訓練を行う事を目的としたものが「動的装具と呼ばれています.

その名の通り,関節運動の有無が「静的装具」と「動的装具」の大きの違いという事を知っておいてもらえれば.その違いを見分けることが出来るのではないかと思います.

静的装具
動的装具

解答の考え方

「静的装具」と「動的装具」の見分け方については,上記のとおりですが.選択肢の装具がどのような装具なのか分からなければ判断のしようがありません.

代表的な装具については,名称とどのような装具なのかを一致させておきたいですね.

選択肢の装具について見ていきましょう.

選択肢1.長対立装具

対立装具はその名の通り「対立位を保持するため」の装具です.

手部のみが覆われて,対立位を保持する「短対立装具」と.

手関節・前腕部も含めて覆われる「長対立装具」があります.

長対立装具は主に高位の正中神経麻痺に用いられ.対立位と手関節を機能的肢位で固定するための「静的装具」に分類されます

プラスチック製のもの,金属製のもの.また形状も「Bennet型」「Rancho型」「Engen型」など様々ですが.近年それ自体が問われることはあまりないため.適応と役割についてしっかりと覚えておきたい,上肢装具の中でも何本かの指に入る代表的な装具です.

役割が名称になっているものは分かりやすいですね.

短対立装具
短対立装具
長対立装具
長対立装具

選択肢2.RIC型把持装具

「RIC型把持装具」と言われると,パッとどのような装具か思いつく人は少ないかもしれませんが.重要なのは「把持装具だ!」という事です

把持装具はその名の通り,「把持動作を代償する」ための装具です.

いくつかタイプがありますが,手関節の動きを手指の把持動作へと変換する事で代償するものが多いです.RIC(Rehabilitation Institude of Chicago)型は,ベルトや鎖によって手指側のカフが牽引されることによって把持動作を行うタイプです.

RIC型把持装具
RIC型把持装具
把持装具の仕組み

把持装具としてよく取り上げられる,Engen型(手関節駆動式)のものと比較すると.手関節にジョイントが無く,動きを伝えるのがロッドではなく軟性のバンドなどであるため.手関節の可動域が制限されにくい特徴を持っています.

動作を代償する」装具なので,関節の動きが固定されていては機能しません.なので把持装具は必然的に「動的装具」に分類されることとなります.

把持装具(Engen型)
Engen型把持装具

選択肢3.カックアップ装具

カックアップ装具も,対立装具と同様に上肢装具の中でも何本かの指に入る代表的な装具です.

手関節を軽度背屈位または機能的肢位に保持する事を目的とした装具で.橈骨神経によって失われた機能の代償や,手関節の安静位保持など広い場面で使用されます.

手関節の固定を行うため,「静的装具」に分類されます

カックアップスプリント
カックアップ装具

1つだけ補足で注意してもらいたいのが.「カックアップスプリント」という言葉が,「手関節を軽度背屈位(カックアップ)」する装具全体を指している場合です.

この場合は,「静的装具」だろうが「動的装具」だろうがカックアップスプリントと呼ばれるので混乱の原因となりかねませんが.「固有名詞としてのカックアップスプリント」は上記の装具を想像してもらえば良いと思います.

選択肢4.Thomas型牽引装具

固有名詞がついている「Thomas型牽引装具」ですが,国家試験にも度々登場する装具なので.どのような装具なのか,名称と形状や役割をしっかり覚えておきたい装具の1つです.

注目すべきは「牽引装具」となっている所でしょうか.

Thomas型牽引装具は,手部を手掌から背側にゴムなどで牽引することで.背屈位の保持と補助を行うことを目的とした装具です.掌屈は自動運動を行い,橈骨神経障害などによって失われた手関節背屈を補助する場合などに用いられます.

こういった「牽引」を行う装具は上肢装具に多く,特に手指の動作を補助する場合によく見られます.どれも動作を補助したり,拘縮の予防を行ったりするための「動的装具」に該当します.動的装具のタイプの1つなので覚えておきたいですね.

トーマス型牽引装具
Thomas型牽引装具
トーマス型牽引装具の仕組み

選択肢5.Oppenheimer型装具

同じく固有名詞のついている「Oppenheimer型装具」ですが.装具の機能や役割を示すヒントが名称になにもないため,名称を知っていなければどんな装具か想像もつきません.

ですが,この装具も国家試験によく顔を出す代表的な装具です.名称と形状や役割をしっかり覚えておきたいですね.

「Oppenheimer型装具」は背関節軸に設けられた「コイルばね」によって,背屈位の保持と補助を行うことを目的とした装具です.掌屈は自動運動を行い,橈骨神経障害などによって失われた手関節背屈を補助する場合などに用いられます.また,ゴムの牽引によって母指の外転補助を行っている場合もあります.

「コイル」が縮んだり戻ったりする力を利用したものも,「動的装具」のタイプの1つです.今回の問題については名称を知っている必要がありますが,装具が図示されている場合には大きなヒントなのでチェックしましょう.

オッペンハイマー型装具
Oppenheimer型の仕組み

まとめ

静的装具と動的装具に関する問題について解説しました.

今回の問題については選択肢を見た時に「長対立装具」と「カックアップスプリント」を静的装具として選択したい問題でしたが.代表的な装具の名称と機能についてはしっかりおさえておきたいですね.

こうして静的装具と動的装具を見比べると.関節の固定を行う事がメインの機能となる静的装具のつくりはシンプルですが.

静的装具と動的装具のつくり

動作の補助を行う機構が必要となる動的装具では,どうしても装具の嵩張りが増えてしまいます.今回見た装具の特徴は,そのまま装具のメリット・デメリットに繋がるので装具選択の基準の1つとなります.

国家試験に頻出となるにはそれなりの理由があります.卒業後に積み上げる知識の基礎ともなる部分なので類似問題も含めてよくチェックしておきましょう.

参考資料

日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p189~

加倉井周一,新編 装具治療マニュアル-疾患別・症状別適応-,医歯薬出版,第2版,p143川村次郎,義肢装具学,医学書院,第3版,p381

日本義肢装具学会 監修,装具学,医歯薬出版,第3版,p146

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