OT国試,義肢装具関連問題の解説.今回は第56回作業療法士国家試験午後の5問目から.上腕断端長と肘継手に関する問題です.
形態測定から,適切な義肢のタイプを選ぶ問題はよく出題される問題ですが.今回の問題は断端長に適した義手と,その義手を構成するパーツを選ぶという.いくつかの知識を必要とするので,難易度としては高めかもしれません.
一方で選択する明確な理由があるので,その理由さえ知っていれば.間違えにくい解きやすい問題へと変わってきます.
設問の形式は違いますが,本質的にはほぼ同じ問題もありますので併せてチェックしてみてください.今回の問題は下記の2つの問題の一部を合わせたような問題となっています.
問題を解くうえで
今回の問題を解くうえでチェックしておきたいのが.
- 切断レベルに応じた義手
- 切断レベルの算出方法
- 使用する義手に適した肘継手
ではないでしょうか.
設問にある断端長から,どのような義手が適応となるのかを知らなくてはなりません.
適した義手を知る上で1つの目安となるのが,断端長から導き出される「切断レベル」です.断端の長さによってある程度,義手に必要となる機能が分かってきます.
適した義手を知った上で,そのために必要となる義手の肘継手の知識も必要となります.
いくつか知識が必要となりますが,1つずつ整理して考えていけば.「そりゃそうだよね」となるようなとても分かりやすい理由があります.「なぜそうする必要があるのか」に注目してもらうとよいのではないでしょうか.
切断レベルの算出と適合する義手の目安
上腕の切断レベルを算出する方法は
となっています.
「肩峰」を基準として,健側の上腕長と上腕の断端長を比較した割合が用いられます.
今回の問題で考えると,(断端長10cm/健側上腕長25cm)*100なので「40%」が上腕切断レベルとなります.
この算出された数値に合わせて,切断レベルと適応となる義手の目安が分類されています.
0~30%では「肩関節離断」
30~50%では「上腕短断端」
50~90%では「上腕標準断端」
90~100%では「肘関節離断」
に分類されます.
切断部位に応じた,選択肢となる義手については
- 「肩関節離断」の場合には肩義手
- 「上腕短断端」「上腕標準断端」の場合には上腕義手
- 「肘関節離断」の場合には肘義手
が適応であるとされています.
今回の問題では切断レベルが「40%」なので,「上腕短断端」で適応となる義手は「上腕義手」となるのですが.断端の長さによって適応となる義手が分類されているのにはどのような理由があるのでしょうか?
「短断端,標準断端」レベルの場合
切断レベルの30~90%である短断端,標準断端は,上腕切断の多くを占め.この場合に適応となる上腕義手は
- ソケット
- 肘ブロック継手
- 前腕支持部
- 手先具
によって主に構成されています.
(継手について詳しくは後記)
能動義手の場合には上腕と両肩甲帯の動作をケーブルに伝える事によって,肘継手や手先具の操作を行っています.
これが上腕義手の「基本」といって良い構成です.
「肩関節離断」レベルの場合
では切断レベルの0~30%にあたる,断端が極端に短い場合はどうでしょうか.
解剖学的なことを言えば0%が「肩関節離断」に該当しますが.義手の切断レベルの場合には,断端長がとても短い場合も含まれます.
前項でも触れましたが,能動上腕義手は上腕で肘継手や手先具の操作を行いますが.断端が短すぎる場合には義手の操作を行うのに十分な力を発揮する事が難しいです.
また短い断端を上腕義手ソケットに収めると,義手の懸垂が難しいという面もあります.
そのため,断端が極端に短い0~30%の上腕切断の場合には.「肩関節離断」に分類され.適応となる義手も肩義手となります.肩義手は肩甲帯と体幹を覆うようなソケットとなっており,肩甲帯と健側で義手操作を行います.
「肘関節離断」レベルの場合
逆に切断レベルの90~100%にあたる,断端が極端に長い場合はどうでしょうか.
解剖学的なことを言えば100%が「肘関節離断」に該当しますが.義手の切断レベルの場合には,断端長がとても長い場合も含まれます.
「肩関節離断」とは違い,義手を操作するためのモーメントアームが十分に確保されており.ソケットに断端を納める範囲も大きいため義手を支持するために十分な懸垂力を得ることが出来ます.
ですが,長過ぎる上腕断端長では義足を作成する上で別の問題が出てきてしまいます.
「短断端,標準断端」で用いられる,最も多いタイプの能動上腕義手には肘継手に「能動単軸肘ブロック継手」が用いられています.
肘の関節軸の位置に合わせて設定されるこの継手ですが,義手に内蔵されるものです.
断端帳が極端に長い肘関節離断の場合にこの継手を使用すると.本来の肘関節の位置に継手が収まらずに,上腕長が長くなってしまいます.
「上腕義手」と「肘義手」の大きな違いがここにあります.
肘義手の場合には「ブロック継手」が使用できず.かわりに義手の内外側に設置した「ヒンジ継手」が用いられます.
装具に使用される継手を想像すると分かりやすいでしょうか.
断端が短すぎても,長すぎても.義手の作りや求められる機能が変わってくるため.分類としては違った義手が必要となる事は覚えておきましょう.
解答の考え方
では解答の考えかたを,使用される肘継手について確認しながら見ていきましょう.
「短断端」で「上腕義手」を使用する場合に適切な肘継手を選択する必要がありますが.
まず前提として知っておきたいのが,前項でも少し触れましたが.義手の肘継手は「ブロック継手」と「ヒンジ継手」に分類されるという事です.
詳細は後ほど各項でお話しますが,義手に内蔵されるのがブロック継手で,義手に外付けされるのがヒンジ継手というのが大きな見分け方となっています.
もう1つは「能動継手」と「遊動継手」などそれ以外の違いです.
能動肘継手は,ハーネスなどによって肘継手の動きを操作する事が出来ます.そういった機構がなければ当然肘継手を自分の意志で操作することは出来ません.
これらのポイントについて見ていくと,誤った選択肢を消去しやすいですね.
軟性たわみ式継手
たわみ継手は,コイルばねなどの軟性の素材で出来ている継手です.
ヒンジ継手に近いですが,ヒンジ継手は継手としての軸が明確に定められているのに対して.軟性の素材のためどこでも曲げる事が出来ます.
主に「短断端の前腕義手」に用いられるもので,懸垂を補うための上腕カフと,義手の本体である前腕ソケットを連結するためのものです.
そういった作りなので,継手自体に肘を操作する機能はなく.残存している肘機能を用いて肘関節を動かすこととなります.
短断端の能動上腕義手としては誤った選択肢ですね.
倍動肘ヒンジ継手
倍動肘ヒンジ継手は,肘継手の中でも少し特殊な機能をもった継手です.
前腕義手として使用されるこの継手は.短・極短断端で支持性が少なかったり,肘の屈曲可動域制限があって,肘の屈曲を行う事が困難な場合に用いられます.
倍動肘ヒンジ継手は,スプリットソケットという.断端を挿入する「前腕ソケット部分」と,手先具に繋がる「前腕支持部分」が別れた作りになった前腕義手にセットで使われる継手です.
ソケットに挿入した前腕部が動かした可動域に対して,継手で連結された前腕支持部が「倍の可動域動く」事によって.不足している肘の屈曲可動域を補います.
短断端の能動上腕義手としては誤った選択肢ですね.
能動単軸肘ヒンジ継手
断端レベルの項でも触れたとおり,能動肘ヒンジ継手を用いるのは「肘義手」の場合です.
能動継手であるため,ハーネスなどを通して自身で継手の操作を行う事が出来るので.上腕義手でも全く使えないわけではないのですが.
内・外側に継手の厚み分,嵩張りが増えてしまうため.適切な選択肢とは言えず誤りですね.
遊動単軸肘ヒンジ継手
一方で,遊動単軸肘ヒンジ継手は継手自体を操作する機能を持っていません.
軟性たわみ式継手の選択肢と同様に.「短断端の前腕義手」に用いられ,懸垂を補うための上腕カフと,義手の本体である前腕ソケットを連結するためのものです.
基本的に肘の機能が残存していることが使用の条件となるため.短断端の能動上腕義手としては誤った選択肢ですね.
能動単軸肘ブロック継手
断端レベルの項でも触れましたが.「短断端」で「上腕義手」を使用する場合に適切な肘継手としてまず挙げられるのが「能動単軸肘ブロック継手」です.
ロックのON/OFFをハーネスで操作して.ロックをOFFにした状態でケーブルを操作する事で肘継手を動かします.
上腕のソケットと前腕の支持部を連結すると共に,肘関節としての役割を担う.上腕義手の基本となる継手となっています.
というわけで,5.「能動単軸肘ブロック継手」が正答ですね.
まとめ
上腕断端長と肘継手に関する問題について解説をしました.
問題を解くためには,断端レベルとそれに適した義手についての知識と.それぞれの義手に適した肘継手についての知識が必要となるので.多くの知識が必要となる問題だったかもしれません.
「短断端」で「上腕義手」が適応ということさえ分かってしまえば,選択肢にはヒンジ継手や能動継手では無いものが多いため.誤った選択肢を消去しやすいですね.
多くの要素をもった難しい問題ですが.数年に1度,似たような問題が出題されるので.今回の問題がしっかり理解できていると,色々な出題のタイプに対応出来るのではないかと思います.
参考文献
日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p85
松澤 正,理学療法評価学,金原出版株式会社,改訂5版,p28
川村次郎(編),義肢装具学,医学書院,第3版,p142
澤村誠志,切断と義肢,医歯薬出版,第1版,p101