こんにちは,「なぜなに。装具」です.今回は,前回お話したリモートによる装具相談のテストをしていく上で.現状の課題やテストの目的についてお話していきます.
テスト版のご紹介については,↓記事を先にご覧いただければと思います.
リモートでの相談をしていく上での課題はいくつかありますが,その中でもテストをしつつどのように対応するか検討して行かなくてはならない事でもあります.ご興味ある方は是非ご意見などいただけると嬉しいです.
はじめに
現在テストを進めているリモートでの義肢装具士による装具相談ですが.「なぜなに。装具 相談所」として運用していくうえで,いくつか課題となっている点があります.
テストをする中で,どのような問題があるのか,どのように対応していくのか検討をしていかなくてはならないのですが.
現状で特に課題として,テストをしていく必要がある点の一部を挙げていきます.
主に,「リモートであること」と「対象を特定しないこと」に起因する事となるのですが.リモートでの装具相談を広く受ける中では,課題となってくるのではないかと思います.
デバイスと環境による影響
そもそもなのですが,リモートで装具相談をしていく上で,その環境を作る必要があります.
このコロナ禍の影響もあり,幾分身近となったオンライン通話ですが.遠方にお住まいのご家族とお互いの様子を確認しつつ通話するために,ある程度ご高齢の方でも環境が整っている事が増えてきました.
とは言ったものの,まだまだ万人に浸透している程ではないのではと思います.
リモートで相談をしていくためには,まずこの環境がなければ成立しないため.課題となる点がいくつか存在します.
導入のハードル
「zoom」など,ビデオ通話を行えるツールの認知はかなり広がったのではないかと思います.リモートワークやリモート授業など,ニュースなどでも見かける事が多かったのではないでしょうか.
「知っている」という事で言えば,その数はこの1.2年で爆発的に増えたと思います.
ですが,「使ったことがある」となると話は大きく変わってきます.存在は知っていても,「使い方が分かる」となるとその数はガクっと少なくなってしまうのではないでしょうか.
現状,テストをしてきた中で.「すでに使っている」という方は1割ほどでした.それ以外の方は,「アプリさえ入れれば使える」といった方から「デバイスの購入が必要」といった方まで,導入に必要な手間の幅は様々ですが.環境作りから始めなくてはなりません.
ビデオ通話を行うためには
- カメラ
- マイク
- スピーカー
が必要となります.
スマートフォンはこれらを備えているため,導入のハードルは下がりますが.
アプリをいれて,通話の招待を受けて参加する,といった手順はおそらく多くの方が踏まなければならない手順ではないかと思います.
実際テストしている中でも,まずこの導入の段階で,その程度は違えども「訪問のセラピストがお手伝いして環境設定をする」という事が必要となる場面も多くありました.
完全にリモートとなると,お手伝いすることも難しく.ユーザーさん自身が,マニュアルに沿ってアプリを導入するところまで辿り着かなくてはなりません.まずこのスタート地点といえるデバイスと環境を整える事が,1つのハードルとなっています.
デバイスと撮影の環境による得られる情報の違い
完全なリモートで相談を行うことを考えると,デバイスと撮影の環境によって得られる情報の違いがあることに十分留意しなくてはなりません.
特に,カメラの映像から得られる情報は.装具の状況を知るためには非常に重要ですが.デバイスの性能によって大きく左右されてしまいます.
特にスマートフォンなどに付属するカメラを使用する場合には,そのカメラの性能によって映像の鮮明さは変わってきてしまいますし.歩行など動作を見る際には,ネットワーク環境によっても遅延がおこり判断が難しくなります.
現行のスマートフォンの多くは,ビデオ通話を行うのに十分な性能を持っている事がほとんどですが.デバイスの性能によって得られる情報が少なくなる事があります.
撮影する環境も1つの課題となります.
通常のリモート会議のように,WEBカメラでの撮影では移動できる範囲に制約があります.
また「装具そのもの」を撮影することは1人でも可能ですが.もし動作を撮影するとなると「撮影者」が必要となります.三脚などを使う方法もありますが,「見たい映像を撮る」のが意外と難しく大きな課題となっています.
更に,歩行の状態を撮るためには家屋の状況にも左右されます.歩行を評価できる廊下や部屋があるとは限らず.それを撮影するとなると,より限定されてしまいます.
現状では,WEBカメラとスマートフォンなどを併用したり.訪問セラピストが撮影する状況の選定や,必要な情報を得られるような撮影を行っていますが.
もし,ユーザー1人で相談を受ける場合には.デバイスと環境は1つの課題となるため,どの程度まで対応可能なのか,テストをしていく必要があると考えています.
必要な情報を得るためには
現状では,リモートでテストを行った方は.
- 義肢装具士が製作時に関わった(ユーザーを直接知っている)
- ユーザーと一緒に,セラピストなど専門知識を持つ者も同席している
- 依頼・紹介などがあり,医学的情報があらかじめある
といったケースがほとんどです.
どちらもリモート相談に臨むにあたり,必要となる情報を得ることが出来ますが.全く関わりのなかった方から相談を受けるとすれば,それらの情報を得るハードルは高くなり,現状で最大の課題となっています.
装具を評価するために必要な情報
装具を評価するためには,今そこにいるユーザーさんと装具だけを見ているだけでは判断を出来ない事が多くあります.
医学的情報や,これまでの経緯など.装具にまつわる様々な背景を知ってこそです.
現状でテストしたケースでは,ある程度それらの背景を把握できた状態でリモート相談に臨む事が出来ていましたが.
完全に初対面の方で,情報がない場合は「ユーザーさんから語られる情報」しか得られません.判断の基準も,「今のユーザーさんと装具を見て分かること」に限定されます.
元より,相談とアドバイスというのが.このリモート相談の目的ではあるものの.得られる情報が少なくては,アドバイスも曖昧なものとなってしまいます.
これはリモートに限った話ではなく,何の情報もない状態から訪問する場合でも同様で.1からお話しながら対応を検討する事となりますが.
それでも得られていない情報の中に,見逃しているリスクがないかどうか判断することが難しく.リスクに注意を払いつつ,お伝えできる範囲で…となってしまう事も少なくありません.
画面越しとなるリモート相談では,更に得られる情報が少なくなるため.リスク管理はより注意しなくてはならないという懸念があります.
最低限の情報を得るために必要な時間
前記の通り,装具の相談とは言え.その背景を知らずに判断ができないため.初対面の場合には,情報収集のため,時間の確保の必要があると考えられます.
相談の内容によって,必要な時間は変わってくると思いますが.リモートで行った場合に,どの程度の時間が必要で,どの程度の情報収集の質を確保できるのか.
不特定の方を対象とする場合には,テストを行っていく必要があると考えています.
理想を言えば,セラピストなどのユーザーさんをよく知る専門職が相談に同席できれば良いのですが.
そもそも相談する相手がいないから相談したいというケースが多いため,リモート相談をしていくうえでは解決しなくてはならない課題となっています.
その後のフォローをどのようにしていくか
相談の結果,その場だけで解決できれば良いのですが.その後のフォローが必要なケースが多いのではないかと思います.医学的な判断が必要な場合は医師の診察を,修理や加工が必要な場合には義肢装具制作会社へと対応を引き継ぐこととなるでしょう.
医療機関はともかく,問題となるのは頼れる制作会社がない場合です.基本的には「装具作成した制作会社」に連絡をとって事情を説明するというのが最もスムーズですが.遠方で対応困難であったり,どこで作ったのかすら分からないといったケースも僅かに存在します.
頼れるフォロー先がないとなると,距離的な制約があり対応が難しくなってしまいます.
相談した内容を元に,それまで関わりがなかった装具でも対応してくれる.信頼できる義肢装具制作会社を,ユーザーさんの出来るだけ近辺で探さなくてはならず.相談したは良いものの,そこで立ち止まってしまっては相談した意味も薄れてしまいます.
そのため,その後の対応をオフラインで継続してできる.制作会社さんのネットワーク作りも課題となります.これについては方法を模索中ですが,どういったニーズに対応する相談が多いのか把握するためにも,リモートでのテストが必要と考えています.
まとめ
リモートでの装具相談の,テストを行う課題と目的の一部についてお話しました.
リモートで広く相談の対象を受け付けるとなると,やはり解決しなくてはならない多くの課題が考えられます.
特に今回挙げたものは,テストの中で改善や方針をある程度決定していかなくてはならないものだと考えています.
そのため,装具に関わる多くの方に.テストにご協力をお願いできればと思っています.具体的な内容については,本ブログやTwitterなどを通じて今後告知をしていきます.ご意見・要望などあればコメント頂けると嬉しいです.