第52回作業療法士国家試験解説AM-05 義手の構成要素の選択

第52回作業療法士国家試験解説AM-05 義手の構成要素の選択

OT国試義肢装具関連問題の解説.今回は第52回作業療法士国家試験午前の5問目から.

義手の構成要素の選択に関する問題です.

義足は基本的に,体重支持や歩行を目的としたり,生活の環境によって,その構成要素を決定していくこととなります.

「立ちたい、歩きたい」といった目的は,身体機能によって義足に求められる機能は変化するものの.ニーズ自体はある適度共通する部分があります.

義足でランニング


一方で義手は,上肢の機能を代償するという特性上.目的となる「動作や作業」は人それぞれで全く異なります.

  • 事務作業を行いたい
  • 工具を使って作業をしたい
  • 家事をしたい
  • 外観を優先したい
義手で出来ること

など,人それぞれで.ある人にとっては全く必要ない機能も.ある人にとっては「無くてはならない機能」となり,義手を使用する目的を大きく左右します.

当然,目的に合わせた義手が必要となり.求められる機能もガラッと変わってきます.義手のタイプそのものが変わってしまう事あるでしょう.

逆に言えば,目的を達成できない義手は使用する理由も失われてしまいます.何を目的に義手を使用するのかという根本的な部分の把握と,それに適した義手の構成要素の選択は作成を検討する上で非常に重要です.

OT52-PM05 問題文

30歳の男性.左上腕切断短断端.右利き.肘継手の屈曲および手先の開閉コントロールを行い,「釘打ちがしたい」との希望があり,上腕義手を作成することになった.
選択する義手のパーツとして適切なのはどれか.

問題を解くうえで

今回の問題では,ニーズとそのために必要な義手の機能が設問の中に記載されています.

チェックしておきたいポイントとして

おさえておきたいポイント
  • 構成要素がどのような機能を持っているのか
  • 特徴的な機能を持つ構成要素

については押さえておきましょう.


今回のニーズは「釘打ちがしたい

必要な機能はそのための

  • 肘継手の屈曲
  • 手先の開閉

をコントロールすることが可能な能動義手です.

問題の選択肢となる構成要素が,どのような機能をもっているのか確認してきましょう.

解答の考え方

選択肢1.オープンショルダーソケット

オープンショルダーソケットは,全面接触式上腕ソケットの1つです.

外壁上部がその名の通り,肩峰部分を覆わないような形状をしているため.ソケットが肩外転動作を妨げにくくソケットの回旋を防ぐ構造になっています.

自己懸垂を持ち,かつ機能的なソケットではあるのですが.肩峰を覆っていないことから,その部分での懸垂力に劣ります.「義手自体の重さ+手先具にかかる重量」をソケットの懸垂力によって確保しなくてはなりません.

今回のケースは短断端であり,ソケットが断端を覆う面積が元から少ない事もあり.ソケットのトリミング形状を変える事でいくらか対応できるものの,懸垂力に不安があり向いているソケットとは言えません.

選択するのであれば,差し込み式ソケットか,可能であればピン付ライナーを用いたソケットでしょうか.

頭上での作業など,肩関節可動域が作業に占める割合が大きい場合には検討の対象になる可能性もありますが.今回は誤った選択肢ですね.

オープンショルダーソケット

選択肢2.リュックサックハーネス

ハーネスは

  • 義手の懸垂
  • 能動義手を操作する力を伝える
  • 着脱を容易に行う

ことを目的とした構成要素です.

その中でも,リュックサックハーネスは.能動手義手能動式手根中手義手に用いられる,用途の限定されたハーネスです.

リュックサック(複環式)ハーネス

能動手義手などで適合が良い場合には,必要となるソケットの丈は短くなります.

必要最低限のソケットの大きさで済むのは良いことなのですが.手先具を操作するケーブルの走路を調整する,「リテーナー」などのパーツを組み込む余地が無くなってしまいます.

手義手でリュックサックハーネスを使うのは…

そこでケーブルの走行を考慮した機構をもつリュックサックのような形状の,特殊なハーネスである「リュックサックハーネス」が用いられます.

能動上腕義手に用いる事は出来ないため,誤った選択肢ですね.

選択肢3.単式コントロールケーブルシステム

能動義手を操作する,体内力源となる関節運動は.ハーネスを介してコントロールケーブルに伝えられて,義手を操作する力に変換されます.

今回の問題でややこしく,特に覚えておいてほしいのが.このケーブルがどのような働きを持つかによる違いについてです.

コントロールケーブルシステムは義手の種類によって使い分けされており

  • 単式コントロールケーブルシステム
  • 複式コントロールケーブルシステム

に分類されます.

単式コントロールケーブルシステムは,「1つのケーブル」を引っ張る力が,「手先具を開閉する」という「1つの動作」をコントロールしています.

これは肘の機能が残存している前腕義手などで用いられるシステムです

一方で,複式コントロールケーブルシステムは.「1つのケーブル」を引っ張る力が,その力の方向や継手のロックの有無によって,「手先具を開閉する動作」と「肘継手を屈曲する動作」の「2つの動作」をコントロールしています.

同じケーブルを操作しても,状況によって義手の動きが変わるわけです.

これは,肘継手と手先具の2つの操作が必要となる.肩義手上腕義手で用いられます

今回は上腕能動義手が必要であり,単式コントロールケーブルシステムを用いることは出来ないため.誤った選択肢となります.

コントロールケーブルシステムの違い

選択肢4.能動肘ブロック継手

能動肘ブロック継手は能動上腕義手で用いられる継手です. ハーネスの操作によって,ロックのON/OFFをコントロール出来ます.

上腕のソケットと前腕の支持部を連結すると共に,肘関節としての役割を担っています.

能動上腕義手を作成する際に,骨格構造と殻構造の2つの構造から選択することとなりますが.殻構造の能動上腕義手の場合には肘継手としてこの継手が使用されます.

これが正答の選択肢ですね.

能動肘ブロック継手
上腕義手と能動肘ブロック継手
ブロック肘継手 ケーブルの操作

今回は上腕切断短断端 でしたが.上腕の断端長が長すぎる肘離断」に分類される場合には,ブロック継手を使用することは出来ません.そういった場合に使用される肘義手では「能動肘ヒンジ継手」が用いられます.

肘義手でブロック継手を使用すると
肘ヒンジ継手

選択肢5.能動ハンド

能動ハンドは,能動義手に用いられる手先具の1つです.

色々なタイプがありますが近年では.ケーブルの操作によって,母指・示指・中指による三点摘みを行う機構を内蔵しており.その上から,手部を模したグローブを被せるタイプのものが一般的でしょうか.

作業を選べば,実用性も高い手先具なのですが.細かい作業をするには検討の余地があります.

ottobock-随意開き式ハンド
能動義手ハンド
ottobock  8K22 / 8K23 随意開き式

特に今回のように,「釘打ちがしたい」というような細かいものを把持する必要がある場合には.「能動フック」の方に,作業効率の軍配があがるかもしれません.

外観では劣りますが,作業のニーズを優先するのであれば.グローブの介在が無くフックが直接釘を把持し,視覚的にも確認が行いやすいです

能動フック
ottobock 能動義手(フック)

また,更に作業に特化するのであれば.作業用ハンドも選択肢となります.

(動画は筋電義手作業用ハンドなので,また話は変ってきますが参考に)

能動ハンドの選択肢が全くダメという訳ではありませんが.「能動肘ブロック継手」が必ず使用する構成要素であるのに対して,能動ハンドには他のより良い選択肢があることから,誤った選択肢です.

外観と作業を両立したい」といった条件であれば,能動ハンドは一気に有力な選択肢となるかもしれません.

支給制度によっても,作成する義手が左右されることはありますが.ニーズや目的が少し変わるだけで,義手の構成要素が大きく変わるという良い例かもしれませんね.

まとめ

義手の構成要素の選択に関する問題 について解説しました.

設問として見ると,正答を探すだけならば.「短断端の能動上腕義手に使用される構成要素を見つける」というだけの問題なのですが.しっかり全体を見てみると,義手の構成要素について広い知識がなければ理解できないという,なかなかの難しい問題かもしれません

今回の選択肢でも登場したように,義手では特定の条件で使用される構成要素が多いため.解説してきたような,構成要素の特徴をよく知っておくことが重要ではないかと思います

形は違えど,義手に関する問題はほぼ毎年出題されているので.他の問題についてもチェックして,知識を積み重ねておきたいですね.

参考文献

日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p88

澤村誠志,切断と義肢,医歯薬出版,第1版,p139

ottobock 義手

https://www.ottobock.co.jp/prosthetic_ue/

ottobock 義手パーツ

https://www.ottobock.co.jp/prosthetic_ue/movo/

はじめての義手 – 国立障害者リハビリテーションセンター

http://www.rehab.go.jp/application/files/7915/2047/7857/guide-upper_full.pdf

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