第52回作業療法士国家試験解説PM-36 上肢装具と使用の目的

第52回作業療法士国家試験解説PM-36 上肢装具と使用の目的

OT国試義肢装具関連問題の解説.今回は第52回作業療法士国家試験午後の36問目から.

上肢装具と使用の目的に関する問題です.

装具を使用する目的は,その選択の基本中の基本です.何をする装具なのかを知らなくては選びようがないですよね.

使用目的を知るためには,装具がどのような機能をもっているのかが重要ですし.国家試験においては,名称と一致するかも大切です.今回は特に,名称が装具の機能と結びつきやすいものとに,にくいものが混在しています.よくチェックしておきたいですね.

OT52-PM36 問題文

上肢装具と目的について正しいのはどれか.

問題を解くうえで

今回の問題について言えば

おさえておきたいポイント
  • 代表的な装具の名称・機能・目的

を知っているか?という点につきます.

こう言ってしまうと元も子もないですが.代表的な装具については「覚えるしかない」部分もあります.まずは重要な点から優先して知識をつけていくと良いのではないでしょうか.

選択肢の装具を見ながら,どういった装具なのか確認していきましょう.

解答の考え方

1.ウェブスペーサー

これについては,「装具」というくくりを抜きにして.どういったものなのか想像しやすいのではないでしょうか?名称と機能が直結した装具ですね.

指の隙間(ウェブスペース)を確保することを目的としたもので.理由は様々ですが,主に脳卒中など上肢痙縮によって起こる「握りこぶし状変形」など拘縮やそれに伴う皮膚のトラブルを.ウェブスペースを保ち,防止する事を目的としています.

ウェブスペース

純粋に指間に挟む,自助具のような簡易のもの

自助具 ウェブスペーサー

母指・示指間の主に対立位確保を目的としたもの

ウェブスペーサー

パンケーキ型装具の指間にウェブスペーサーを追加したものなど,その形は多岐に渡りこういった役割を持った装具を総称してウェブスペーサーと呼んでいます.

パンケーキ型

ウェブスペースの確保を目的としていることから,母指は外転位または対立位を取る場合が多く.どちらかと言えば母指内転筋短縮予防を目的として用いられるため.

母指外転筋短縮予防という選択肢は誤りですね.

2.Thomasスプリント

Thomasスプリント は手関節軽度背屈を目的としたダイナミックスプリントです.

名称と機能が結びつきにくい装具の代表例のような存在ですが.国家試験においては非常によく登場するメジャーと言ってよい装具です.

橈骨神経麻痺などによる下垂手に対する背屈補助や,手関節屈曲拘縮を改善・防止するために使用されます.

トーマス型牽引装具

手関節中間位というのは,状況次第の設定ではありますが.重要なのはThomasスプリントは,ゴムなどの力を利用したダイナミックスプリントであるということです.

手関節中間位「固定」というのは,誤った選択肢ですね.

トーマス型牽引装具の仕組み

指用ナックルベンダー

指用ナックルベンダーも,名称と機能が一致した装具の1つですね.ナックルベンダーという名の通り,手を握る動作を目的としたもので.「指用」とあるように手指に対して使用するダイナミックスプリントです.

通常のナックルベンダーがMP関節を対象とするのに対して.DIP・PIPと使用する部位を更に分けますが,どちらも手指の屈曲補助や伸展拘縮の防止を目的とします.

指用ナックルベンダー
指用ナックルベンダー

PIP関節屈曲補助は,指用ナックルベンダーの使用目的なの正しい選択肢ですね.

Knuckle bender
ナックルベンダー

肘屈曲型アームスリング

肘屈曲型アームスリング には色々なタイプや目的のものがありますが.まずは,三角巾のように使用するアームスリングを想像してもらうと良いのではないでしょうか.

骨折時の腕吊りや,肩関節の良肢位保持を目的として使用されます.

アルケア NewArmSuspender
ニューアームサスペンダー

アームスリングには「肘屈曲型」「肘伸展型」に大きく分けられます.伸展型は屈曲型に対して,腕部重量の免荷が少ないものの.肘屈曲拘縮のリスクが少なく,重心の変化も少ないため状況に合わせて使用されることとなります.

こちらも目的は様々ですが,主に脳卒中などの肩関節亜脱臼を防止することを目的に使用されます.

ottobock オモニューレクサ プラス
オモニューレクサ プラス

肘屈曲型アームスリング という点で見ると,肩関節の良肢位を保つことを目的としているため.今回の選択肢をみる限りでは「肩関節外転保持」という選択肢は誤りです.

肩関節外転を目的とした装具はまた別物で.腋窩部にある「外転枕」によって肩関節の外転位を確保します.

腱板損傷やそのOPE後に使用される装具ですね.

ottobock オモ インモビル
オモ インモビル

これは余談となりますが.肩装具の中には一見「肘屈曲型アームスリング」のようにも見える,腱板損傷OPE後などに使用される肩装具があります.

肩関節「軽度外転位」保持を目的としたもので,比較的小さな外転枕を持ちますが.必要な外転位の程度によっても必要な装具は変ってきます.

他の装具も同様ですが.アームスリングと肩装具については,その目的によって装具の役割も変化しますね.

ウルトラスリングⅢ
ウルトラスリングⅢ

フレクサーヒンジスプリント

フレクサーヒンジスプリントは,継手を持つ特定の装具を指すこともありますが.「把持装具」全体を指してそのように呼ばれることが多いでしょうか.

名称と機能が一致した装具 ではありますが,あまりパッと思いつかないかもしれませんね.テノデーシスアクションを利用し,手関節「背屈動作」を把持動作の補助へと変換する装具です.

「手関節屈曲機能」を利用した把持装具というのは,誤った選択肢ですね.

把持装具(Engen型)
RIC型把持装具

まとめ

上肢装具と使用の目的に関する問題 について解説をしました.

今回登場した装具は,どれも代表的なもので.過去の問題にもかなりの頻度で出題や選択肢に顔を出しています.どのような役割をもった装具なのかを知る上でも,とても重要な装具達と言えるのではないでしょうか.

その装具がどんな装具で,どんな機能があって,どのような目的に使用するのか?は.装具を選択する上でもまず知っておかなくてはならないスタートラインとも言える知識です.

名称と結びつきにくいものもありますが.整理して1つずつチェックしておきたいですね.

参考資料

米本恭三,最新リハビリテーション医学,医歯薬出版,第2版,p262

日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p199

松野丈夫 ほか(編集),標準整形外科学,医学書院,第12版,2015,p257

加倉井周一,新編 装具治療マニュアル-疾患別・症状別適応-,医歯薬出版,第2版,p233

DJO ウルトラスリングⅢ

https://www.djoglobal.com/products/donjoy/ultrasling-iii

アルケア ニューアームサスペンダー

https://www.alcare.co.jp/medical/product/orthopedic/supporter/shoulder/newarmsuspender.html

ottobock オモニューレクサ プラス

https://www.ottobock.co.jp/orthotic/upper/shoulder/omo_neurexa_plus/

ottobock オモ インモビル

https://www.ottobock.co.jp/orthotic/upper/shoulder/omo_immobil/

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