PT国試,義肢装具関連問題の解説.今回は第53回理学療法士国家試験午後の47問目から.上肢装具と末梢神経障害に関する問題です.
中枢・末梢神経麻痺によって起こる障害と,それに応じた上肢装具の組み合わせは.国家試験においてとても問われやすい内容です.解剖学・運動学・評価学といった基礎があれば.あとは装具に関する知識を補うだけですね!
末梢神経障害による猿手で使用する装具はどれか
問題を解くうえで
冒頭でも触れたとおり,上肢装具に関する問題の中では非常に問われやすい内容で.特に第55PT国試PM-19の問題は,設問こそ違えどほぼ同じ問題と言って良いくらいです.
注目するべき点は
- 神経麻痺の所見と特徴的な肢位
- 末梢神経障害に用いられる装具
- 脊髄損傷など中枢神経障害に用いられる装具
となります.
末梢神経障害の基礎となる知識に装具が追加されたような問題ですので,麻痺に見られる所見など基本的な部分も重要ですね.
似たような問題は是非チェックして頂ければと思います.
末梢神経障害に用いられる装具
末梢神経障害に用いられる装具の多くは,起こった末梢神経麻痺による機能を代償する事を目的としたものです.
特に,橈骨・正中・尺骨神経麻痺によって起こる機能障害と,呈する特徴的な肢位に対応する装具はしっかりと覚えておきたいです.
橈骨神経麻痺の装具
橈骨神経は高位麻痺が起こると,手関節の背屈,手指の伸展,母指の伸展・外転が出来なくなります.
低位麻痺では後骨間神経のみ障害されると手指の伸展,母指の伸展・外転が困難です.
特に高位麻痺によって呈する,「下垂手」に対して使用される装具が多いです.
手関節を背屈位に保持する装具を総称して「カックアップスプリント(コックアップスプリント)」と呼びますが,手関節軽度背屈位に固定する静的装具とコイルばねなどで背屈を補助するオッパンハイマー型やトーマス型懸垂装具などの動的装具に分かれます.
また低位麻痺の場合には,指の伸展を補助する装具が用いられる場合があります.
これも固定を行う静的装具と.バネなどで手指伸展の補助をする動的装具に分かれていますが.動的装具は変形予防や拘縮改善に用いられる事も多いですね.
尺骨神経麻痺の装具
正中神経麻痺の最も有名なのが手根管症候群によって引き起こされ.母指球の萎縮とともに対立位が取れず示指~小指と同一平面に位置して扁平となる事から「猿手」と呼ばれます.
また高位麻痺では,前腕の回内不能と母指・示指屈曲不能なが代表的です.
正中神経麻痺用の装具も様々なタイプがありますが.高位麻痺では手関節掌屈困難のため,手関節を軽度背屈位で固定しつつ対立位を保持するための長対立装具が.
手根管症候群など低位麻痺では.対立位を保持するための短対立装具が使用されます.対立装具はその形状によって,ランチョ型・エンゲン型など分類されますが.そこを問われることは,ほとんどない印象があります.
尺骨神経麻痺の装具
尺骨神経麻痺は肘部管症候群などによって起こり小指球,骨間筋,環指・小指の虫様筋に麻痺と萎縮を呈しそれに伴った運動機能が影響を受けます.
特に環指・小指のMP過伸展とIP屈曲を招きかぎ爪のような肢位から「鷲手」と呼ばれます.
尺骨神経麻痺の装具では,このMPの過伸展を制限し.屈曲運動を補助するような装具が用いられます.MP軽度屈曲位で制限する静的装具の虫様筋カフやゴムの力出屈曲を補助する動的装具のナックルベンダーが代表的です.
脊髄損傷などに用いる装具
神経損傷に用いられる装具は上肢装具の中でも頻度が多いですが.その中で重要な1つが脊髄損傷に用いられる装具です.脊髄損傷という分野自体が非常に重要なのでしっかり勉強したいですがzancolliの分類などと併せて,装具のことも覚えてしまいましょう.
残存機能と必要な装具
脊髄損傷の装具に必要なのは,他の多くの装具と同様に失われた機能の代償です.そのためには,麻痺レベルによる残存機能と失われた機能をよく理解しておきましょう.
今回は選択肢にあるBFOと把持装具について解説しますが他の装具も1つずつチェックする時間を割く価値のある内容です.
BFO
C5麻痺で用いられるBFO(balanced forearm orthosis)は,食事などの日常生活動作の訓練や自立を目的として用いられる装具です.肩の挙上や肘の屈曲をすることで軽い作業が可能となります.
構成要素は参考程度に見てもらうと良いと思うのですが.
- ブラケット
- proximal arm support
- distal arm support
- 受け皿
などから構成されており.テーブルや車いすに取り付けて使用します.
行う動作に合わせて他の装具と併用する場合が多く,食事動作であれば,手関節固定装具に自助具(スプーン)を併用します.
把持装具
把持装具にはいくつかタイプがありますが.国試上で必要な知識としてはC6麻痺で用いられる手関節駆動式の把持装具ではないかと思います.
- 手関節を背屈すると手指が屈曲して物を掴み
- 手関節を掌屈すると手指が伸展して物を離す
という把持に関わる,テノデーシスアクションですが,C6麻痺は手関節背屈は出来ても,掌屈は随意で行えません.
手関節駆動式の把持装具は,随意で動作出来る手関節背屈を活かして背屈時には手指屈曲で物を掴み,力を入れていない時は手指伸展する把持動作を補助する装具です.
解答の考え方
では選択肢を見ていきましょう.
猿手は正中神経の障害によっておこる特徴的な肢位です.
各選択肢を確認していくと
1.コックアップスプリント.は橈骨神経麻痺に使用するので誤り
2.短対立装具.は正中神経麻痺に使用するので正答
3.虫様筋カフ.は尺骨神経麻痺に使用するので誤り
4.手関節駆動式把持装具.はC6麻痺で使用するので誤り
5.BFO.はC5麻痺で用いるので誤り
となります.
まとめ
上肢装具と末梢神経障害に関する問題について解説しました.
すこしメタ的な話になってしまいますが.国試の上肢装具の問題といえばコレというくらいに頻出の問題ではないでしょうか.
義肢装具関連の問題と関係なく,こういった神経障害の知識や分類はとても重要なので.しっかり復習した上で,追加で装具の知識も補完していくと良いのではないかと思います.
装具の働きとしては,基本的に3点固定を行うものばかりなので.この装具がどういう固定をしてどんな役割を持っているのかな?という事から見ていくと理解しやすいのではないかと思います.
参考文献
日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p205
加倉井周一,新編 装具治療マニュアル-疾患別・症状別適応-,医歯薬出版,第2版,p143
第53回理学療法士国家試験、第53回作業療法士国家試験の問題および正答について
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/topics/tp180511-08_09.html