こんにちは,なぜなに。装具です.義肢装具関連問題解説していきます.
今回は第54回作業療法士国家試験から,前腕義手に関する問題です.
義手の構成要素の中でも,特の重要となるソケットと継手に関する問題ですね.前腕・上腕義手の違いで構成要素は大きく変わるのでしっかり確認していきましょう.
30歳の女性.断端長25%残存の左前腕切断.肘関節が屈曲30°に制限されている.屈曲運動を補い,腹部前面での両手動作を可能にするための能動義手を作製する.ソケットと肘継手の組み合わせで正しいのはどれか.
設問の状況から,適切な能動前腕義手のソケットと肘継手を選択する問題です.
必要となる知識として
の両方が必要となります.
ソケットも継手も.よく用いられるものと,使用は限定的だが特徴的なものに関しては1度復習をしておくとよいのではないかと思います.
能動前腕義手は,肘関節の機能がどの程度残存しているかや,断端長によってもその程度は変わってしまうものの.基本的に操作をするのは手先具のみなので,機能性は比較的高いとされています.
ソケットも,断端長などによってその適応などが変わってきます.代表的ないくつかのソケットについて簡単に触れていきましょう.
また特徴的なソケットについては後ほど別に解説します.
1つ目は,差し込み式ソケットです.
古くから使用されているソケットの1つで,あまり厳密な適合を行わないものですが.近年はソケットに特別な加圧も除圧も行わないものを指す事も多いです.
義手を懸垂するのはカフとベルトで,ソケットそのものに支持性はありません.
他のソケットで,圧迫が問題となり.緩めの適合が必要な場合以外では.使用されることが少なくなっているソケットです.
2つ目は,ミュンスター式ソケットです.現在前腕義手の中で主に使われているソケットのうちの1つです.
ソケットは顆上部支持をしており.支持と懸垂機能をソケットが持っています.
顆上部支持は上腕骨の内外側上顆を覆うことで,特定の角度以外では骨ロックが働きソケットが固定されるものです.
特定の手技を加えることでソケットの適合もよく,作業時に抜けにくく支持や懸垂を行いやすいの事が特徴で.短・極短断端の前腕切断に適応のあるソケットです.
一方で,ソケットの開口部が狭く.肘を深く屈曲するとソケットが干渉しやすく屈曲の制限が起こってしまう事があります.また開口部が狭いという特徴から,長断端の場合にはソケットを装着しにくく不向きな場合が多いです.
3つ目は,ノースウェスタン式ソケットです.もう1つの現在主流なソケットですね.
ミュンスター式と同様に,ソケットは顆上部支持をしており.支持と懸垂機能をソケットが持っています.
特徴として,広く設計されたソケットの開口部が挙げられます.
これにより,肘屈曲を深く行っても制限される事もなく.長断端でも装着が可能となります.長断端に適応のあるソケットと言えますね.
逆に開口部が広いことで,短断端では十分な支持が得られないので.断端長はミュンスター式とノースウェスタン式を使い分ける基準となります.
肘継手は,前腕部と上腕部を連結するパーツですが.同時に肘関節の機能を代償するものでもあります.
肘継手にどういった機能が必要となるかは,装飾・能動義手によっても異なりますし.断端長によっても求められる機能は変わってきます.
代表的な肘継手を確認していくと
となります.義手としての機能が大きく変わる部分でもあるのでよくチェックしましょう.
能動肘ブロック継手は能動の上腕義手で用いられる継手です.
ロックのON/OFFをハーネスで操作することが出来ます.能動上腕義手の肘継手で基本的に使用されているものですね.
上腕のソケットと前腕の支持部を連結すると共に,肘関節としての役割を担っています.
断端長が長い場合に,この肘ブロック継手が収まらない場合には,これ以外の継手が選択肢となります.
肘ヒンジ継手は,ソケットの内・外側に渡って取り付けられる継手です.
能動ヒンジ継手は,ブロック継手が収まらず使用できない,上腕長断端の肘義手や.前腕義手でも極短断端で肘の機能が少なく支持性がほとんどない場合に用いられる継手です.
短・極単断端で支持性は少ないけれど肘関節が機能している場合には.ハーネスなどで操作する必要のない前腕義手として,上腕部と前腕部を「連結するための継手」として使用されることもあります.
上腕義手で必要となる場合と,前腕義手で必要となる場合には.肘関節の残存機能によってその役割に違いがあるので注意が必要ですね.
たわみ継手は,コイルばねなどの軟性の素材で出来ている継手です.
ヒンジ継手は,曲がる軸が決められていましたが.たわみ継手は特性上どこでも曲げることが出来ます.
基本的には前腕義手で使用されるもので.上腕カフなどと前腕部を連結するために用いられます.
義手を作製する際には,求められる機能から適切なソケットや継手を選択し組み合わせていきますが.そんな中で,特定の組み合わせで使用されるソケットと継手が存在します.
その代表と言えるのが,「スプリットソケット」と「倍動肘ヒンジ継手」です.
前腕義手として使用されるこの組み合わせは.短・極短断端で支持性が少なかったり,肘の屈曲可動域制限があって,肘の屈曲を行う事が困難な場合に用いられます.
スプリットソケットは,前腕部を挿入するソケット部分と,手先具に繋がっている前腕支持部が別のものとなっています.
その別々のパーツで構成された,ソケットと前腕支持部を.上腕部と連結しているの倍動肘ヒンジ継手で.この継手は,ソケットを動かした角度の「倍」を前腕支持部が動くような作りとなっています.
これによって,肘の屈曲可動域が少ない場合でも.その倍の可動域を確保する事が可能です.一方で,その作りから外観はあまり良くなく.「倍動く」という操作の難しさというデメリットもあります.
では,選択肢を見返していきましょう.
前腕極短断端で,屈曲可動域制限がありますが.屈曲を補い両手動作を可能とする能動前腕義手が必要という事ですね.
この条件がまさしく,スプリットソケットと倍動肘ヒンジ継手の組み合わせが必要とされる状況です.という訳で,2.が正答ですね.
1.は組み合わせ自体が誤りです.
3.のノースウェスタン式前腕ソケットは,長断端で用いられる事が多く.肘の機能は残存しており.ソケットにも支持機能があるため特に懸垂装置を必要としません.能動単軸肘ヒンジ継手が必要となる事は,特別な理由が無い限りありませんし.可動域の問題は解決出来ません.断端長からソケットの選択としても,継手の組合せとしても誤りですね.
4.は組み合わせとしてはありえますが.可動域の問題を解決出来ませんので誤りです
5.の能動単軸肘継手は,上腕義手で用いられるものです.前腕義手では絶対に使用しないものなので誤りです.
前腕義手のソケットと肘継手に関する問題の解説をしました.ソケットも継手もそれぞれメリット・デメリットがあり.適した組み合わせを選択することは,適合する義手を作製する上でも機能を大きく変える要因となります.
今回はスプリットソケットと倍動肘ヒンジ継手という.少し限定的な状況で用いられるソケットと継手に関する問題でしたが.こういった特徴的なものは国家試験で出題されることも多くあります.
「知らないとちょっと難しい問題ですが,基本的な知識でも消去法で答えを導ける」問題でもあるので.ソケットや継手など基本的な構成要素にどのような特徴があるのかはよく見ておくと良いのではないかと思います.
日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p88
澤村誠志,切断と義肢,医歯薬出版,第1版,p139