こんにちは,なぜなに。装具です.
今回もPTOT国家試験から義肢装具関連問題の
解説をしていきます.
第55回理学療法士国家試験,2問目の義肢装具関連問題は
義足膝継手の遊脚相制御に関する問題です.
とてもよく出題されるタイプの問題の1つです.
この問題を解くうえで注目したいのが…
についておさえておきたいですね.
義足の制御機能は基本的には身体の失われた機能の
「何かの機能を代償している」ものです.
間違いなく授業で触れているはずですが
義足だけで覚えようとすると難しい事もあるので
その機能が何を代償しているのかを知ることが
知識の整理に繋がるかもしれません.
義足膝継手の立脚・遊脚相制御に関わる問題は
数年に一度は出題される頻出問題だと思います.
過去の問題も含めてよく見ておきたいですね!
義足の制御は立脚相制御と遊脚相制御に分かれます.
その名の通り,歩行周期の立脚相と遊脚相それぞれの
膝継手の動きを制御するためのものです.
立脚相制御はそこから
随意制御と不随意制御に分類されます.
これまたその名の通り,ユーザーさんが自身の意志で
制御できる事か,出来ないことか,という違いです.
分かりやすい随意制御は
股関節伸展による膝折れの防止です.
それ以外の自身の意思ではどうにもコントロールできない
膝継手の制御が不随意制御に分類されます.
どんどん分類が細かくなってややこしいですが
不随意制御はアライメントスタビリティと立脚制御装置に分類されます.
義足の設定や機能によるものが不随意制御となるわけですね.
アライメントスタビリティは義足のアライメントによって変化する
立脚相の義足の制御のことです.
静止立位のスタティックアライメントも
歩行時のダイナミックアライメントもこれに含まれます.
ソケット,膝継手,足部と身体の位置関係で
膝継手の安定は変化します.
分かりやすい例は大腿ソケットの屈曲角が少ないことで
膝継手が膝折れしやすくなることです.
この辺りのアライメント設定も国試頻出ですし,よく確認したいですね.
立脚制御装置は膝継手に付随するもので
立位や歩行を安定させる機構のことです.
何かしらの方法で継手が動かないようにして安定させる静的安定性と
継手が動きながら安定を高める動的安定性に分類されます.
継手にロックが掛かって動かなく出来る「固定膝」と
継手に体重がかかった時にブレーキが掛かかる
「荷重ブレーキ」が静的安定性に分類され.
多軸リンク機構を持ち,踵接地時に膝が軽度屈曲して
それ以上曲がらない「バウンシング」と
義足に荷重すると油圧抵抗で膝継手がゆっくり屈曲していく
「イールディング」が動的安定性に分類されます.
続いて遊脚相の制御についてです.
立脚相制御が荷重時の膝継手をコントロールしたのに対して
遊脚相制御は各相での足の振り出しのスピードを
コントロールするためのものです.
通常の歩行も大腿部と下腿部の2重振り子を
微妙に加減速しながら行っているので
義足も基本的な動きは振り子の力で振り出します.
遊脚相制御はそんな中で行われる微妙な加減速の
機能を代償するためのものとなります.
固定膝は低活動の方向けの膝継手であり
ロックのON/OFFで膝継手が固定されます.
立位・歩行はロックをかけて行い
座るときにはロックを外すというように使用して
ロックの掛かっているときは絶対に膝折れしない
という安心感がありますが
その代わりに本来膝を曲げたい遊脚相でも
膝は伸展位でロックされたままです.
制御しているというよりは
伸展のまま固定されているといった状態ですね.
前述の通り足を振り出すのはほとんど振り子動きで
普通の速度で歩くときは特別大きな力は発揮していないのですが
義足を前に振り出すのを助け,「完全伸展位」で踵接地に移行するために
膝を伸展させる補助バネが付いています.
またPSw~ISwにかけて大腿部の振り出しが強すぎる時に
膝が屈曲しすぎないようブレーキの役割もしています.
機械的制御は継手に抵抗を加えて継手の制御を
行うもので主に膝継手伸展時に起こる
ターミナルインパクトを抑えるために使用される.
一定の摩擦を加える定摩擦と
屈曲角度によって摩擦力が変わる可変摩擦がある.
違いについては後ほど詳しく解説しますね!
流体制御は膝継手が屈曲伸展する際に
その抵抗によって速度を調整するものです.
素早く曲げたときには大きな抵抗が
ゆっくり曲げたときには小さな抵抗がかかるのが特徴で.
抵抗の後に少し反発するような空圧シリンダーと
ゆっくり動いても抵抗のある油圧シリンダーがある.
同じ油圧を使っていてもイールディングは
立脚相制御を表しているので勘違いしないように注意です.
義足膝継手の立脚相制御と遊脚相制御について
分類を確認したところで選択肢を見返してみましょう.
設問は義足の遊脚相において下腿部の振り出し速度を制御する
膝継手はどれか?ということでしたね.
選択肢を1つずつ見ていくと.
1.固定膝は立脚相制御
2.可変摩擦膝は遊脚相制御
3.荷重ブレーキ膝は立脚相制御
4.バウンシング機構付きは立脚相制御
5.イールディング機構付きは立脚相制御
なので,遊脚相制御を行っているのは
2.可変摩擦膝が正答となります.
立脚相制御の固定膝と遊脚相制御の固定が紛らわしいですが
固定膝は固定されているため遊脚相での振り出し速度を
制御することは出来ないので分類を知っていれば
仲間はずれを見つけられる問題ですね.
この問題は立脚相・遊脚相制御の分類が分かれば解けるので
機能そのものには深く言及するものではありません.
ただ,言葉だけで覚えようとすると義肢装具関連の知識は
なかなか覚えにくいような気がします.
実際なにをするための機能なのかイメージが湧くと
知識も身につきやすいのではないでしょうか.
今回は正答となった可変摩擦について触れていきます.
冒頭で触れたとおり,義足の機能の多くは
「失われた身体の機能を代償する」ためのものです.
「遊脚相の振り出し速度を制御する」と言っても
実際は身体のどのような機能を代償しているのでしょうか.
歩行の遊脚期では股関節の振り出しと連動して適度に膝を屈曲し
そのまま振り子のスイングで振り出した後
振り出しの速度が大きい場合には大腿二頭筋短頭が働き
膝が伸展しすぎないようにブレーキをかけています.
この大腿二頭筋短頭が担っているブレーキが
義足遊脚相制御の可変摩擦が代償している機能です.
もしも義足の膝継手に何の機構もついていなければ
義足の下腿部は振り子のスイングの勢いまま伸展していきます.
そのまま完全進展するとそれ以上伸びないので止まりますが
その止まった際に起こる衝撃が「ターミナルインパクト」と呼ばれます.
振り子の勢いが強すぎるとターミナルインパクトも大きくなり
1歩振り出すたびに起こるその大きな衝撃は歩行の妨げとなってしまいます.
そこで膝継手に摩擦を加えることで振り子のスイングに
ブレーキをかける機構が遊脚相制御の機械的制御となります.
可変摩擦はその機構のうちの1つですね.
振り子のスイングを摩擦で伸展制動することで
大腿二頭筋短頭が行っていた機能を代償し
ターミナルインパクトを抑えることが出来るわけです.
遊脚相制御の分類の1つである機械的制御は
定摩擦と可変摩擦に更に分類されます.
どちらもターミナルインパクトを抑える機能がありますが
どんな違いがあるのでしょうか?
定摩擦はその名の通り,膝継手が屈曲伸展する時
常に一定の摩擦で抵抗を与えます.
一方で可変摩擦は膝の屈曲角度によって摩擦力が変化し
スイングの速度があるMSwではあまり減速せず
TSwの完全伸展手前で減速するような仕組みになっています.
良し悪しはその時々によって変わってきますが
比較すると可変摩擦の方が人体の動きに近く
歩く速度の変化にも追従しやすい膝継手の機能と言えますね.
機械的制御はターミナルインパクトを抑えるための機能…
という事でターミナルインパクトを悪い物のように扱ってきましたが.
適切なターミナルインパクトは義足ユーザーさんによって
なくてはならない非常に重要なものです.
多くの膝継手が膝折れしないための立脚相制御は
「膝完全伸展位で踵接地する」
という条件で機能するものが多いです.
膝が完全伸展しない状態で接地してしまうと
立脚相制御が働かずに膝折れにつながってしまいます.
ターミナルインパクトの「パコッ」という衝撃は
膝が完全伸展したことを伝えてくれます.
摩擦が弱すぎて膝の伸展が制動できずに起きてしまう
「大きすぎるターミナルインパクト」は
衝撃が強く歩行の妨げとなるので抑えなくてはいけません.
しかし,摩擦が強すぎて膝の伸展を制動しすぎてしまうと
ブレーキが効きすぎて完全伸展前に止まったり
「小さすぎるターミナルインパクト」は膝が完全伸展しているか
認識がしづらく時にはそのまま接地して膝折れから転倒してしまいます.
必要な強さは人それぞれで変わってくるのですが
「適切なターミナルインパクト」に調節することが
遊脚相制御には求められてくるのですね.
第55回理学療法士国家試験 午前-29
義足膝継手の立脚・遊脚相制御について解説をしました.
細かい機能や内容が問われているわけではなく
「分類の仲間はずれを探す」という問題ですね.
膝継手の機能は数年に1度は出題される頻出問題です.
稀に機能にまで突っ込んで問われる場合もありますが
今回は「義肢装具について勉強するならおさえるべき」
という落としたくない難易度の問題ですね.
義肢に関する知識は卒後の進路によっては
なかなか使う機会も鍛える機会も少ないかもしれません.
もしそんなあなたの前に義肢ユーザーさんが現れた時に
必要な判断ができるように,PTOTとして必要最低限の
義肢に関する知識は持っておきたいです.
日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p124
川村次郎(編),義肢装具学,医学書院,第3版,p95
澤村誠志,切断と義肢,医歯薬出版,第1版,p193
ottobock 義足 膝継手
https://www.ottobock.co.jp/prosthetic_le/joint/knee/
Twitterでのつぶやきを再編したものです.
元のつぶやきはコチラ