こんにちは,なぜなに。装具です.
PTOT国家試験義肢装具関連問題の解説.
今回からは第55回作業療法士国家試験問題について解説していきます.
今回は義手と切断レベルに関する問題です.
上腕義手を作成する際に,どのような義手が選択肢となるのか考える
1つの指標となる切断レベルに関する問題です.
問題を見てみると,悩む選択肢はそう多くないのですが.
ちょっとややこしい部分もあるので補足しつつ解説していきましょう.
押さえておきたい点で
について触れていきたいと思います.
早速ですが,上腕の切断レベルの算出法について確認していきましょう.
上腕切断の切断率を算出する場合には
「肩峰」を基準として
健側の上腕長と上腕の断端長を
比較した割合が用いられます.
後ほど補足しますがこれは
「ここを計測することに決めました」
という物なので,覚えるしか無いですね.
とはいえ,通常の上肢長計測と同じなので
さほど違和感はないのではと思います.
今回の問題はこれだけ知っていれば解けるので,
先に解答の確認をしておきましょう.
上腕の切断レベルを算出する式は
断端長/A*100=上腕切断(%) であり.
Aにあてはまるのは,健側の上腕長.
つまり②の肩峰~外側上顆 が正答ですね.
問題の解説自体はこれだけなのですが
この問題に関わる大切な補足が多いので確認していきましょう.
算出した切断レベルの%ですが.
それを基準に切断部位の名称と
選択肢となる義手の分類がされているので補足します.
0~30%では「肩関節離断」
30~50%では「上腕短断端」
50~90%では「上腕標準断端」
90~100%では「肘関節離断」
に分類されています.
切断部位に応じた,選択肢となる義手については
「肩関節離断」の場合には肩義手
「上腕短断端」「上腕標準断端」の場合には上腕義手
「肘関節離断」の場合には肘義手
が適応であるとされています.
同じ上腕切断で,必要な義手が変わる理由についても
少し触れていきましょう.
肩関節離断というと,その名の通り肩関節での離断を想像すると思います.
切断レベルで言うと0%ですね.
しかし,義手を使用する場合には断端帳が極端に短い場合
断端を収めるソケットが短くなり懸垂を行う事が難しく
また能動義手(自身で継手の操作を行う義手)の場合には,
その操作を行うだけの力を発揮することも難しくなってしまいます.
そのため,断端が極端に短い0~30%の上腕切断の場合には
「肩関節離断」として肩義手の適応が選択されるという事ですね.
能動の肩義手は,操作を肩甲帯と健側で行います.
逆に断端帳が極端に長い場合には.
懸垂や能動義手の操作をする能力には問題ないのですが.
義手を作成する上で1つ問題が生じてしまいます.
上腕義手には肘の動きを代償する,肘継手というパーツが使用されます.
能動義手では「能動単軸肘ブロック継手」という継手が多く使われます.
肘継手位置は健側の肘の位置に合わせて調整されるのですが.
このブロック継手には必要な丈があります.
断端帳が極端に長い肘関節離断の場合にこの継手を使用すると
本来の肘関節の位置に継手が収まらずに,上腕長が長くなってしまいます.
肘関節離断の肘義手の場合には,
ブロック継手は使用しません.
「ヒンジ継手」を使用して
長い断端でも肘の位置を
合わせることが出来ます.
装具の肘継手を想像すると
分かりやすいでしょうか?
同じ上腕の切断でも,このような理由で使用される義手が変わってきます.
実際は90%以下なら,絶対にブロック継手が使えて上腕義手!
というわけでも無いのですが.
切断レベルは,断端の長さと義手を検討する際の指標となっています.
さて,ここまでで評価学をきちんと勉強した学生さんは
疑問に思っている事が,1つあるかもしれません.
上腕断端長の計測って「腋窩レベル~断端末端部」の長さじゃないの?
ということです.
それは「正しい」です!
が,ちょっとややこしいので補足していきますね.
断端長を計測する基準には,ISOとAAOSの2つがあります.
計測の基準点が,この2つは異なっており
ISO(国際標準機構)の断端長計測の基準は
腋窩,上腕骨内側上顆,尺骨茎状突起,となっています.
一方でAAOS(米国整形外科学会)の断端長計測の基準は
肩峰,上腕骨外側上顆,橈骨茎状突起,母指,となっています.
かつて臨床場面ではAAOSでの計測基準が多く用いられてきたそうです.
切断レベルの算出にこのAAOSが用いられているのは,
その流れを汲んでのものです.
上腕長と比較したものなので.上肢長計測でもある
肩峰を基準にして比べないといけないですしね.
その後,国際標準として上腕断端長は腋窩~断端末を計測しましょう.
という事が定められました.
なので今の評価学の教科書には,コチラが記載されている訳ですね.
親切な教科書は,切断レベルとAAOSの使用も書いてくれてます.
場合によっては,今まで腋窩だった断端長計測の基準が
切断レベルの話になった途端,肩峰が基準となっているので
混乱してしまうかもしれません.
PTOT的には,上肢長計測の肩峰が基準点として馴染み深いですし
断端長は別枠で覚えたほうが分かりやすいのでしょうか?
ちなみに,このあたりの経緯の一部の報告もあるので
気になる方は読んでみてください.
青山 孝,ISO-TC168 WG 1&2-義肢装具の分類と用語-,
日本義肢装具学会誌,vol.11 No.4 1995
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspo1985/11/4/11_4_263/_pdf
義手と上腕切断レベルについて解説をしてきました.
今回は補足のほうが長くなってしまいましたね.
ちょっとややこしい部分もあるのですが
形態測定は評価の基本中の基本ですし,しっかり押さえておきたいですね.
難易度としては「基本の問題だが,勘違いに注意」
といった問題でしょうか.
問われやすい内容ではあるので,きちんと復習しておきたいです.
日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p85
松澤 正,理学療法評価学,金原出版株式会社,改訂5版,p28
川村次郎(編),義肢装具学,医学書院,第3版,p142
澤村誠志,切断と義肢,医歯薬出版,第1版,p101
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