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第55回作業療法士国家試験 午後-08 問題解説

こんにちは,なぜなに。装具です.

引き続き義肢装具関連問題の解説をしていきましょう.

今回は関節リウマチに関する問題です.

問題を解くうえで

関節リウマチで使用する装具に関する問題ですが.

今回の問題は例年の問題の中でも難しい問題ではないかと思います.

必要となる知識がいくつもあり,

その上で消去法で最も適したものを選択する必要があります.

この問題を解く上で知っておきたいのは

  • Steinbrockerのstage分類
  • Steinbrockerのclass分類
  • 関節リウマチに起こりやすい手指の変形
  • 各上肢装具の特徴と適応

となっています.

1つずつ確認していきましょう.

Steinbrockerの分類

関節リウマチは,多発性の関節炎を主症状とする

原因不明の進行性の全身性疾患ですが.

その症状の状態を,関節や日常生活への影響から

分類しているものがいくつかあります.

そのうちの1つがSteinbrockerの分類です.

SteinbrockerのStage分類

関節リウマチの進行度を,関節がどのような状態なのか見ることで

病期を評価する方法の1つがSteinbrockerのStage分類です.

X線所見での骨破壊の程度や,関節変形

骨性強直の有無などで分類されています

SteinbrockerのClass分類

一方で,関節リウマチによる機能障害の程度

日常生活をどのように送る機能があるのかで分類したものが

SteinbrockerのClass分類です.

仕事や身の回りの動作が行えるかどうかで分類されています.

関節リウマチには他にも,RAの分類基準Larsenの分類など

RAの診断や評価に用いられる重要な分類が多くあるので

しっかりと復習しておきましょう.

Steinbrocerの分類と同様に,そのクラス分けを知らないと

解きようがない出題の場合も多くあります.

関節リウマチの手指変形

関節リウマチは,滑膜の異常増殖とそれに伴う骨・軟骨組織の破壊を特徴とし.

膝・手・手指の関節に初発しますが,障害頻度で見ると

手関節・MP関節・PIP関節が侵されることが多く

関節破壊が進むに従って,関節の変形運動制限が表れます.

関節包や靱帯に弛緩が起こり関節が動揺性を示したり

変形する事もあり,手指ではいくつか特徴的なものがあります.

装具と関わりが大きいものを確認していきましょう.

尺側偏位

MP関節の炎症から関節包が弛緩し.

指伸筋腱が尺側に脱臼・偏位したり

尺側骨間筋に拘縮が生じるなどして

示指~小指のMP関節が尺側偏位します.

軽度の場合は疼痛少なく機能障害も軽度だが

変形が高度になると把持動作が著しく制限される

尺側偏位

スワンネック変形

MP関節の腫脹,掌側脱臼,骨間筋萎縮や

PIP関節掌側関節包弛緩など

様々な要素が絡み合って引き起こされる,

PIP関節過伸展,DIP関節屈曲変形

PIP屈曲が困難でピンチ動作が制限される.

スワンネック変形

ボタン穴変形

PIP関節の滑膜炎に伴う腫脹が背側に起こり.

中央索は引き伸ばされて弛緩し

側索が徐々に移行するという

外傷でのボタン穴変形と似た変形要素となる.

PIP関節屈曲,DIP関節過伸展変形

ボタン穴変形

母指Z型変形

母指もCM関節やMP関節の滑膜炎から

MP関節屈曲,IP関節過伸展を引き起こし

母指内転を伴ってZ型変形と呼ばれます.

変形が高度となると把持やピンチが困難です.

母指Z型変形

その他の変形

手関節部では指伸筋腱の腱鞘炎から尺骨頭が背側に亜脱臼しますが

それに伴って環指,小指の伸筋腱の皮下断裂を生じる事があります.

またムチランス型RAの変形で,手指が支持性を失い

他動的に伸縮するオペラグラス変形などが生じる場合もあります.

関節リウマチで使用される上肢装具

関節リウマチに対する装具の目的はいくつかありますが

  • 炎症の強い時期に安静を保ち疼痛緩和する
  • 予想される変形を予防する
  • 炎症を生じた関節の機能を補う

というのが主な目的となるのではないでしょうか.

安静には静的スプリント

変形予防や機能の代償には動的スプリントが用いられる場合が多いです.

関節リウマチにおいて安静を保つ固定装具は有用ですが

長期間の固定は拘縮に繋がる恐れがあります.

急性期でも1日に1回は痛みのない範囲で動かす事が必要ですし

亜急性期以降は動的スプリントを用いて

可動域の動作を補助する事が必要となる場合があります.

それぞれの変形に使用されることの多い装具を見ていきましょう.

尺側偏位に用いる装具

尺側偏位には,その矯正する力は様々ですが中間位へと矯正する

装具が用いられることが多いです.

プラスチックなどの硬性装具は,それだけ支持性も高く矯正力も大きいのですが

その分装着困難で継続しての使用が難しい場合もあります.

サポーター生地の軟性装具の方が装着が容易で受け入れやすいです.

把持動作のしやすさも含めて使い分けが必要ですね.

尺側偏位
尺側偏位防止サポーター

スワンネック・ボタン穴変形に用いる装具

スワンネックではPIPの過伸展

ボタン穴変形ではPIPの屈曲を防止する装具が用いられます.

安静のための固定を行うのか?

多少の矯正力を加えつつピンチを行える動的装具にするのか?

加えた矯正力が関節に与える影響は問題ないか?

装着のしやすさや,生活動作の妨げにならないか?

など多くの要素を考慮し,必要な装具の形状は異なります.

スワンネックはPIP過伸展防止
ボタン穴はPIP屈曲防止

安静を保つ固定タイプ

プラスチック製やスプリントシートで

作成することが多い

PIP固定装具

コイルばねの力で

PIPの伸展補助を行うタイプ

PIP屈曲可能

大きすぎる矯正力とならないよう

バネの力の調整が必要.

PIP伸展補助装具

PIPの過伸展のみを制限するタイプ

PIP屈曲は可能

抜け落ちず,装着が容易なように

サイズの微調整が必要.

PIP過伸展防止装具

母指Z型変形に用いる装具

同様に必要な固定力を検討する必要がある.

サポーター生地の物を用いる場合もあるし

柔らかいプラスチックで作成される場合もある.

母指内転とMP屈曲を防止して良肢位を保持

把持やピンチを行いやすいような装具が使用される.

母指Z型変形
母指CMサポーター

手関節の変形に用いる装具

手関節は,尺骨頭の亜脱臼などの変形に加え

握る,掴む,持つなど多くの動作で負荷があり

強直を起こしやすい部位でもあります.

良肢位に保つとともに,

手への荷重を支えるための装具が用いられます.

手関節固定装具

紹介した装具は1例なので,目的や難渋している動作などに

合わせて作成をする必要があります.

装具を使用する事によって得られる関節の保護の必要性

難渋している作業が行いやすくなるなどのメリットが感じられないと

装具を使用しなくなってしまうので,良く検討が必要です

解答の考え方

それでは関節リウマチと装具について確認したところで

この問題について考えていきましょう.

見るべき点が多いので,順番に確認していきましょう.

Steinbrockerの分類から考えられること

まずはSteinbrockerのステージとクラスですが.

SteinbrockerのStage分類
SteinbrockerのClass分類

それぞれの項目を確認してみると,

関節リウマチは進行しており骨性強直が見られ

なんとか身の回りの動作が出来るといった状態です.

どちらかといえば,関節に積極的になにか行うというよりは

安静や保護を優先したほうが良いのかな?という想像ができます.

所見から考えられること

続いて写真を見ていきましょう.

母指Z型変形尺側偏位が,この写真から明らかに見て取れます.

スワンネックやボタン穴変形は起こっていないようにも見えますが

これらの変形に対して使用される装具が選択肢にあるでしょうか?

選択肢の装具について

1.のナックルベンダー

その名の「コブシを曲げる」という通り

MP関節屈曲装具です.

ナックルベンダー

ゴムやスプリングを使用して,MP屈曲の補助変形の矯正を行います.

尺骨神経麻痺による手内在筋の代償やMP伸展拘縮などの持続的伸長が

主な適応疾患で,関節リウマチで良く起こる変形にはあまり使用されません.

2.のOppenheimer型装具

手関節背屈装具でコイルばねを利用して

手関節の背屈を補助します.

高位の橈骨神経傷害に用いられ

手関節背屈機能を代償し機能的肢位を取る.

Oppenheimer型

3.のIP屈曲伸展補助装具

母指IP関節に使用する装具です.

(図はPIP)

母指IP関節伸展の代償に用いられますが

関節リウマチで使用される事は少ないでしょうか

PIP伸展補助装具

4.のタウメル継手式手関節装具

手関節拘縮改善を目的とした装具です.

継手のハンドルを回すことで

任意の方向に大きな矯正力を働かせます.

タウメル継手式手関節装具

関節リウマチの場合には大きすぎる矯正力は

関節の破壊を助長してしまう恐れがあるので,使用してはいけない装具です.

拘縮改善の必要があっても別の方法を考えましょう.

5.のPEライト製手関節軟性装具

PEライトという,適度な硬さのスポンジを

成形する事で作成した手関節装具です.

支柱のある装具に比べると支持性は少ないですが

軽く,硬すぎないので装着しやすい装具で

手関節固定を行うことを目的とします.

PEライト製手関節軟性装具

選択肢の消去法

選択肢の

1.ナックルベンダー

2.Oppenheimer型装具

4.タウメル継手式手関節装具

は今回の手指の変形を見ると

使用の選択肢に入りづらい装具です.

またSteinbrockerの分類からも,関節の強直を呈しており

積極的な補助や拘縮改善を行う装具は適していないと考えられます.

3.IP関節伸展補助装具も

母指Z型変形がIP過伸展を呈するので

適した装具とは言えません.

使用するとすれば屈曲補助です.

補助装具という点も同様ですね.

以上のことから,所見から見て取れる変形に対する装具ではないのですが

消去法から,手関節の安静を保つため

5.PE製手関節軟性装具が正答の選択肢となります.

PEライト製手関節軟性装具

まとめ

関節リウマチに使用する上肢装具について解説をしてきました.

今回の問題は,関節リウマチの病態を把握する分類を理解し.

所見からよく起こる変形を判断した上で.

使用される装具の知識を持って消去法で解答をしなければいけません.

それぞれの知識は押さえておきたい部分ですが

きちんと解答を出すには難しい」問題です.

義肢装具関連問題はだいたい知ってれば分かる問題が多いですが.

この問題は知識を使って考える必要のある問題でしたね.

参考文献

米本恭三,最新リハビリテーション医学,医歯薬出版,第2版,p262

日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p199

松野丈夫 ほか(編集),標準整形外科学,医学書院,第12版,2015,p257

加倉井周一,新編 装具治療マニュアル-疾患別・症状別適応-,医歯薬出版,第2版,p233

元つぶやき

Twitterでのつぶやきを再編したものです.

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NAZENANISOUGU

都内某施設でリハビリテーションに携わる理学療法士&義肢装具士です. 「装具」を使用する,ご本人や家族や,これから勉強する学生や新人さんに.装具ってどんなモノなのか?なんで着けるのか?使う時の注意は?など少しでも理解が広がればと思います.興味あれば是非フォローお願いします.