こんにちは,なぜなに。装具です.
PTOT国家試験義肢装具関連問題の解説をしていきましょう.
第55回最後の問題は,上腕能動義手のチェックポイントについてです.
義手の適合チェックポイントはいくつもありますが.
上腕義手の適合に関する問題が最も出題されやすい気がします.
肩甲帯の機能,ソケット,肘継手,ハーネス,手先具と
操作のために介在する要素が多いのでチェックするべき点も多いですね.
知っておきたい点としては
ですね.
特に適合判定には,義手の各パーツがどんな役割を持っていて
どんな設定にすればきちんと機能してくれるのか
能動義手というものの機能を知ることが大切だと思います.
問題文にもある通り,上腕義手はいくつかの構成要素に分かれます.
大まかな構成要素として
となります.
差し込み式ソケットは上腕義手のソケットとしてよく用いられるソケットですが
自己懸垂機能はなく,基本的にはハーネスで懸垂されます.
8字ハーネスは上腕能動義手に用いられる基本的なハーネスで
反対側の腋窩にループをかけて上肢帯の動きをベルトに伝達します.
複式コントロールケーブルシステムは上腕能動義手の制御機構で
1本のケーブルが肘継手がロックされている時には手先具の開閉に
肘継手がロックされていない時には肘の屈曲に作用するという
2つの役割を持つ物が複式コントロールケーブルシステムです.
それとは別に,肘継手のロックを操作するケーブルがあります.
随意開き式能動フックは,その名の通り自分の意志でケーブルを操作すると
フックが開く手先具で.能動フックの中で最も使用されるものです.
この構成を見ると,上腕能動義手の中では
とてもオーソドックスな想像しやすい構成と言えますね.
義手の適合チェックポイントにはいくつか項目があります.
その中でも問題に設定されている
「肘90°屈曲位での手先具の操作チェック」は重要なポイントです.
選択肢を見ながら原因について確認していきましょう.
随意開き式能動フックは
ケーブルの引っ張りと
輪ゴムの締め付けによって
開閉が操作されています.
ケーブルを引く力が小さいと
ゴムの締め付けに勝てずに
フックを開くことが出来ません.
ゴムが強ければ開きにくいですし
弱いと簡単に開く事ができます.
しかし,ゴムが弱すぎると
フックを締める力が弱くなり
物を挟んでも落としていまいます.
フックの開と閉をちょうど良く出来る
ゴムの強さにする必要があります.
というわけで,フックのゴムが弱い場合には手先具は開きやすくなります.
肘90°で手先具が完全に開かなかった理由として1.は誤りですね.
まず義手の操作を行うケーブルそのものについてですが
義手のケーブルは,当たり前といえば当たり前ですが
何もしていない時は手先具は閉じるように
動かそうと操作したら手先具が開くように設定されています.
もしケーブルが本来の長さよりも長くて弛んでいると
手先具が開き始めるまでに,その弛み分余計に引っ張る必要があります
これでは手先具が最後まで開きにくくなってしまいます.
逆にケーブルが本来より短いと,何もしていないのに引っ張られて
勝手に手先具が開いてしまいます.
肩甲帯の動きで引っ張れるケーブルの大きさに合わせて
ちょうど手先具を操作できる長さに設定しなくてはいけません.
能動義手の操作を行うケーブルですがケーブルシステムを構成するパーツに
ケーブルハウジングと呼ばれるものがあります.
ケーブルの走路をある程度決めつつ,
ケーブルが動いても摩擦で服を痛めない,鞘のような役割をしています.
ケーブルハウジングが長すぎると,操作をしてケーブルを引っ張っても
手先具と干渉してそれ以上開かなくなったり
ケーブルハウジング同士が干渉して肘が曲がらなくなってしまいます.
よって2.のケーブルハウジングが短すぎる場合に
手先具が開かないのは誤りですね.
短すぎる場合はどちらかというとケーブルが勝手に最短ルートを通るので
手先具が開きやすくなる場合もあるのですが,
ケーブルの長さや引っ張るテコとの兼ね合いもありますね.
義手の手先具を開く時には
肩甲骨の外転と,肩関節の屈曲が必要です.
関節可動域はケーブルを引っ張る量に,
筋力はケーブルを引っ張る力に影響します.
様々な姿勢で手先具の操作を行うためには
肩甲帯の機能は重要です.これが正答ですね.
義手の前腕部は,肘継手を屈曲した時に
干渉しないようなトリミングとなっています.
トリミングが不良だと前腕支持部が
上腕部にぶつかって完全に屈曲しません.
手先具の開閉には関わりが無いので
4.の選択肢も誤りですね.
上腕義手を使う上で必要な肩甲帯の動きはいくつかありますが
特に能動義手の操作で重要となってくるのが,
肘継手屈曲と手先具の開大に必要となる肩甲骨の外転と肩関節の屈曲.
そして肘継手のロック操作に必要となる肩甲骨の下制と肩関節の伸展です.
肘屈曲90°での手先具操作に,肩関節回旋可動域は関わりないので
選択肢5.も誤りとなります.
ただし,口元で手先具を操作する場合には肩の回旋を利用する事もあるので
肩甲帯の可動域と筋力は義手の操作で重要となりますね.
上腕能動義手のチェックポイントについて解説をしてきました.
義足のアライメントが荷重線がどこを通るのかが重要なように.
義手の操作はケーブルがどこをどのように通るかで
操作の効率がガラっと変わったりします.
また義足は膝継手の種類がたくさんあってややこしいですが
義手ではケーブルシステムを構成する小さなパーツが多くあります.
PTOT国試で細かいパーツの役割が問われることは,そう無いと思いますが.
なんでここにコレが付いてるんだ…?というのを考えると.
肩甲帯の動きを,いかに継手や手先具に効率よく伝えるかという
工夫や調整の必要が理解できるのではないかと思います.
難易度としては「知っていれば簡単だが,理解するには勉強が必要」な
そこそこの難しさの問題ではないかと思います.
チェックポイントはどれも重要ですが,国試的には
の結果から問題点を探す出題がされやすいので,良く見ておきたいですね!
日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p107
川村次郎(編),義肢装具学,医学書院,第3版,p157
澤村誠志,切断と義肢,医歯薬出版,第1版,p101
日本義肢装具学会(監),義肢学,医歯薬出版,第1版,p76
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