PT国試義肢装具関連問題の解説.今回は第52回理学療法士国家試験午前の42問目から.
エネルギー蓄積型の義足足部に関する問題についてです.
「足部」は義足を構成する重要なパーツの1つで.地面に接触する部分であることから,その機能や特徴によって義足の操作も大きく変わってきます.
最新のパーツが更新され続ける義肢装具の分野ですが.特に義肢ではその進化のスピードもめざましく.
かつては最新パーツだった「エネルギー蓄積足部」も現在では当然にように使用され,こうして国家試験にも顔を出すようになっています.
同時に,足部パーツの種類と名称が分からなければ解きようがない問題でもあります.
代表的なものについてはしっかりチェックしておきましょう.
比較的新しい義肢装具のパーツでも,広く使用されるものでであれば問われる事があります.義肢であれば,足部,膝継手,ライナーなど機能に直結するものも多いため.教科書に載っているものくらいはチェックしておかなくてはならないですね.
エネルギー蓄積機能によって大きな推進力を得る目的で使われる義足の足部はどれか.
問題を解くうえで
足部には,細分化すると非常に多くの種類があります.それぞれ機能や役割が異なり,状況に応じて適応となる足部も変化していきます.
試験で,新しいタイプの足部の固有名詞が出題されることはあまりないと思いますが.代表的な足部の種類については今回のように問題に顔を出すことがあります.
足部を全て網羅する必要はありませんが
- 代表的な足部の種類
については確認しておきましょう.
足部の種類と分類
義足足部には,その継手の有無や構造によっていくつかの分類がされています.
足関節・足根関節・MP関節といくつかの関節の役割を代償する必要があるのと同時に.体重支持や接地時の衝撃吸収といった役割も担っているため.足部がどのような機能を持つのかは,義足の機能にも大きな影響を与えます.
大まかにどのような機能と役割をもった足部があるのか確認しておきましょう
無軸足
装具と同様に義足足部も,足継手がどのような機能を持っているのか?というのは重要な要素です.継手の種類は足部を分類する1つの項目となっています.
その中の1つが「無軸足」です.代表的なものは「SACH(Solid Ankle Cushion Heel)足」でサッチ足と呼ばれる,非常に多く用いられる足部の1つです.
「無軸」と聞くと,足継手がなく低機能という印象を持ちがちですが.継手機構をもつ足部よりも軽いというアドバンテージを持ち.足継手が可動しないという事は,裏を返せば「安定した足部」であると言えます.
足関節が担うべき可動域については,踵部のクッションがヒールロッカーを,中央部に芯材として設けられているキールがフォアフットロッカーをそれぞれ代償しているため.「全く動かない低機能な足部」という認識は誤りです.
低~中程度の活動度の方にとっては,有用な選択肢の1つであり.義足足部について学ぶ時に,まず知っておかなくてはならない固有名詞を持った足部です.
単軸足
そういった無軸足に対して,単軸の継手をもつ足部が「単軸足」です.基本的には「底背屈」の可動域をもつものを指し,いくつかタイプはありますが前後にバンパーを持つものがポピュラーかもしれません.
前方のバンパーが背屈方向の制御を,後方のバンパーが底屈方向の制御を行います.装具の底背屈制動・制限を想像してもらうと分かりやすいでしょうか.
足継手による足関節の機能を代償できるメリットもありますが.「動ける」というのは「不安定」という事にもなりかねないので,義足を十分にコントロール出来る必要があります.
日本の生活様式においては,靴と裸足でのヒールピッチの差に幾分対応しやすいというメリットも大きいです.
多軸足
更に,内外反や回旋の動きを可能としたものが「多軸足」です.
不整地に対応しやすく,運動・スポーツの動作にも対応がしやすいことから.比較的高活動向けの足部です.その機構から,比較すると重かったり,高価である場合もあります.
特定の方向の運動軸を持つものや,バンパーが前後左右を360°覆っているものなどタイプはいくつもありますが.特に名前を覚えておきたいものとして
- ブラッチフォード多軸足
- グライシンガー(Greissnger)足
は国家試験によく顔を出すのでチェックしましょう.
エネルギー蓄積型足部
近年では,高活動用の義足足部は「エネルギー 蓄積型足部 」に取って代わりつつあります.といっても,これは足部の継手の種類による分類ではなく.無軸,単軸,多軸のどの形態の足部にも用いられるものです.
最も想像しやすいのは,スポーツ用義足に用いられる足部で.元を辿ればスポーツ用として開発されたものです.
カーボンなど高い弾性をもつ素材を用いて.接地時の荷重によるエネルギーを蓄積し,立脚後期の蹴り出し時に放出して利用する足部の総称です.
現在ではスポーツ用だけではなく,高活動向けの義足足部に多く用いられ.重量に対する非常に優れた強度と,エネルギー効率を持つメリットがあります.
特に名前を覚えておきたいものとして
- SAFE足
- フレックス足
- トライアス足
などがよく国家試験に出題されます.
SAFE足に関しては,カーボンではなく可撓性のある素材をキールに使用した足部であり.多軸足部の1つとして挙げられることもあります.
近年では,各メーカーからエネルギー蓄積型足部の選択肢が増えています.
カーボンプレート製という点で言えば,低・中活動向けの足部に使用される事も増えてきており.どこからが エネルギー蓄積型足部 なのかという線引きは若干曖昧となりつつありますが.その定義と,代表的なエネルギー蓄積型足部であったこの3つの名称についてはチェックしておきましょう.
解答の考え方
では選択肢を確認していきましょう.
今回の問題に関して言うと,シンプルにエネルギー蓄積足部の選択肢を知っているか?もしくは,それ以外の選択肢を除外できるか?という問題となっています.正直,足部の名称とその役割が分からなければ解きようがありません.典型的な知識を問う問題ですね.
解説でも触れたとおり,無軸,単軸,多軸といった足継手の分類とエネルギー蓄積型足部かどうかは直接関係はありません.ですが,問題を解くうえでは重要なヒントです.
2.SAFE足と4.フレックス足がエネルギー蓄積型足部だと,選択肢を見て分かるのが一番良いのですが.そうでなければ消去法で考えるしかありません.
1.単軸足は,それだけではエネルギー蓄積型足部とは考えられず誤りですし.
3.SACH足は,代表的な無軸足で エネルギー蓄積型足部 には該当しないため誤りです.
5. Greissnger足 も,バンパーを用いた多軸足部で謝りなのですが.
結局のところ, Greissnger足 がどんな足部なのか分からないと消去法で答えをだす事もできないため.やはり代表的な足部の分類と役割については覚えておく必要がありますね.
まとめ
エネルギー蓄積型の義足足部に関する問題 について解説しました.
現在ではその数も多く,新しい足部も登場することが多いため.ピンポイントで「ある製品の足部」が国家試験で取り上げられることは少ないかも知れませんが.
かつて数える程度しか存在しなかった,代表的な エネルギー蓄積型の義足足部 についてはしっかりチェックしておく必要がありますね.
足部に限らず義足の問題では,膝継手など義足の機能に大きな影響を与えるものも多いため.今回挙げたものについては,名称とある程度の特徴については教科書に間違いなく登場しているはずなので.目を通しておかなくてはならないですね.
実際のところ,冒頭でも触れたとおりその種類は多岐にわたるため.臨床で義肢に関わりながら少しずつ学んでいくことになると思います.その際には,義肢装具士さんやパーツを扱っているメーカーさんの協力が不可欠ですので.しっかりと情報交換をしていく必要がありますね!
参考資料
日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p122
澤村誠志,切断と義肢,医歯薬出版,第1版,p213
オットーボック 義足総合カタログ 20-21
オットーボック 義肢 足部