PT国試義肢装具関連問題の解説.今回は第52回理学療法士国家試験午後の6問目から.
大腿義足を構成する部品に関する問題です.
写真から,その義足のパーツを判断する必要があり.なかなか直接義足に触れる機会の少ない学生さんたちにとっては,授業中に見た義足の記憶も重要となってくるかもしれません.
「物」と「知識」を結びつける必要があるので,出来れば国家試験に臨む前に,もう1度学校の備品の義足を直接見ながら確認出来ると良いですね.
問題を解くためには,ポイントとなる1点が分かっていれば良いですが.選択肢の全てを理解するためには,義足の構成要素をよく理解している必要があり,とても難易度の高い問題と言えます.
義肢の写真を別に示す.使われている部品はどれか.
今回の設問となっている大腿義足は
が構成する大きな要素となっており.機能や目的の異なる部品の種類が存在します.
また他にも.身体の様々な機能を代償するための,付属する部品が多く存在するため.
についての知識が必要となります.
選択肢の中に,義足に多少関わっていても「これなんだったっけ…?」と思うよう部品もあるため.今回はそれぞれの選択肢について,ポイントとなる部分を確認していきましょう.
義足のソケットは,身体と義足を接続する重要な要素です.
その役割は
と義足機能の根幹を担っています.
必要となる機能や役割によって,ソケットにはいくつか種類があり.「吸着式ソケット」はその中の1つです.
の3つについてチェックしていきましょう.
これらを見分ける際には,懸垂機能に注目すると分かりやすく.またぞれぞれに特徴的なパーツが使用されています.
吸着式ソケットは,断端全体を適度に圧迫することで.ソケットと断端の間に吸着作用を生じさせて自己懸垂機能をもったソケットです.
大腿義足では,吸着バルブと呼ばれる1方向のみ空気の出入りが可能な部品を用いて,密閉したソケット内の空気を外へ排出し,陰圧状態を作るものが一般的です.
ソケットと断端に適度な密着が保たれる事から力の伝達に優れ,断端全体で義足を支持する自己懸垂を持つことから,ソケットの種類の中でも有用な選択肢の1つとなっています.
一方で,断端のボリューム変化が大きい場合には,ソケットをしっかりと密着させる事が出来ず.高齢や上肢機能に問題がある場合には装着が難しいというデメリットもあります.
見分けるポイントとなるのは「吸着バルブ」があることです.
吸着式ソケットに対して,ある程度ソケットと断端の間に余裕をもたせたソケットが差込式ソケットです.
非吸着式であるためソケットに自己懸垂機能はなく.腰ベルトや肩吊りバンドによって義足の懸垂を行う必要があります.
断端のボリューム変化が大きい場合や,コンプレッションをかけることが断端への負荷が大きい場合などに用いられますが.
吸着式に比べてフィッティングで劣り,ソケットのピストンや回旋などを起こし義足のコントロールに問題があります.デメリットも多いため,現在では他のタイプのソケットを使用する条件が合わなかった場合に使用される事が多いです.
見分けるポイントとなるのは「腰ベルトや肩吊りバンド」など付属の懸垂装置があることです.ただし,吸着式の場合でも短断端などで十分な懸垂力が得られない時の補助として用いられる事があります.
大腿義足ソケットの選択肢を吸着式と二分するのが,ライナーを用いたソケットです.
いくつかタイプがありますが代表的なものは,シリコンなどのライナーを断端に装着し.ライナーの先端にあるピンと義足のロック機構によってライナーと義足を固定し懸垂するものです.
吸着式に比べて幾分断端ボリュームの変化に対応することが可能で.シリコンライナーはその弾性を持つ特性から,断端の保護にも優れています.
義足の着脱はボタンでワンタッチで出来るため吸着式と比較して簡易ではありますが.ライナーを断端に密着して装着するのには,やはりある程度の手の巧緻性が求められます.
見分けるポイントとなるのは「ライナー」と「ピン」,そして義足ソケット側の「ピンを挿入するアダプタ」です.
ライナーを用いたソケットには多くの種類があり,他にもライナーが吸着を行うものや,ライナーをベルトで固定するものなど状況に合わせた選択がされています.
ターンテーブルは,主に股関節の回旋の機能を代償するもので.ソケットと膝継手の間に用いられる部品です.
大腿義足では,股関節の内・外旋は大きく制限されてしまいます.
座位で反対側の膝に義足を載せて靴を履いたり,あぐらをかいたり,といった動作を可能とするため.日常生活にそういった動作が必要な場合には,必須と言っても良い部品となっています.
ソケットと同様に,膝継手にも多くの種類が存在します.
「膝継手軸」に関する分類が
・単軸膝継手
・リンク式膝継手
の2つです.
その名の通り,単軸膝継手は1つの軸を持ち.
リンク式膝継手は,4つ以上の軸をもった機構が膝関節軸を構成します.
最も大きな違いは,回転中心の位置です.
単軸膝継手は,膝の屈曲伸展において常に1つの軸が回転中心となります.
一方でリンク式膝継手は,膝の屈曲伸展によってリンクが変化することで回転中心も変化していきます.
単軸では荷重線を跨いだ前後で屈曲・伸展モーメントが変化しますが.
リンク膝は完全伸展時に回転中心が上後方に位置するため,膝折れを起こしにくく設定されています.
一方膝を屈曲していく遊脚期には,リンク膝は単軸に比べてクリアランスを確保しやすい軌道を描きます.
膝屈曲90°ではリンクが折りたたまれコンパクトになるので,僅かにですが座位での膝継手の前方への出っ張りを小さくする事ができ.大腿義足の長断端や膝義足では外見上の脚長差を少なくできます.
一見メリットだらけのリンク膝ですが,単軸膝継手にもまたメリットがあるため状況によって使い分けがされています.近年ではコンピュータ制御膝継手が利用される機会も増えてきており,リンク機構での機械的な制御の必要がないため単軸膝継手が用いらてれます.
膝継手は機構によって機能が大きく変わるため.それぞれの特徴を知ることが重要ですね.
トルク吸収装置は,義足の回旋方向の力を吸収して.断端に加わる負荷を軽減するための部品です.
必須のパーツという訳ではないですが,ある程度活動度が高く,方向転換や体を捻る動作が必要な運動を多く行う場合に力を発揮します.
足部とソケットの間のどこかに設ける部品ですが,足部と継手を連結するアダプタにそういった機能が付加されていたり.ソケットの連結部分に設けられていたり,「ターンテーブル」にトルク吸収装置の機能が付加されているものがあったりと,様々なタイプのものがあります.
義足足部には,膝継手などと同様に非常に多くの種類が存在します.
そんな中でも,ある機能に特化した足部と言える.「作業用足部」にあたるのが,この「ドリンガー足部」です.
作業用と聞くと,「作業用義手」の方がイメージしやすいかも知れませんが.義手と同様に,外観に主眼をおかず農作業の行いやすさと耐久性を重視した足部となっています.
義手にそれなりに関わっている有資格者の方でも,この名前を聞いてパっと思いつく人は少ないかもしれません.
ですが,よく使用する足部だけが選択肢では無いという事を覚えておかなくてはならないですね.
足部については,午前中にも出題されているので.そちらも併せて確認してみてください.
問題についてしっかり理解するためには,非常に多くの知識を必要とする今回の問題でしたが.
解答の考え方を確認していきましょう.
多くの知識を完全に網羅するのは,国家試験の義肢装具分野を勉強していく上でとても大変な作業です.
消去法で答えを導き出すのが難しいため,ある1点について知っているか?という問題と言えるかもしれません.
この問題は,「吸着バルブ」がソケットにあることから.「吸着式ソケット」であるという事が導き出せるかどうか?という1点に尽きます.
ソケットが断端と義足を連結する部分であり,その機能はもちろん,装着方法まで大きな影響を与える部分です.
大腿義足を扱う上で,持っていなくてはならない最低限の知識といえるかもしれません.というわけで,1.吸着式ソケットが正答です.
他の選択肢も確認してみましょう.
ターンテーブルは,「ソケット」と「膝継手」の間に設けられる部品なのですが.そういったパーツは見受けられません.
…といっても,義足を見慣れていないと.どこからどこまでがソケットを構成する部品で,どこまでが膝継手なのか見分けがつきにくいかもしれません.
やはり,実物に触れる機会があれば.直接確認して覚えるのが1番ですね.
膝継手には,単軸膝継手が用いられています.「荷重ブレーキ」の立脚制御をもった,低活動の場合に用いられる,以前からよく使われている膝継手です.
今回は,継手を見た時に4つ以上の軸を持つ「リンク膝継手」ではないという事が分かると良いですね.
「4.トルク吸収装置」については,パイプやアダプタに内蔵されている事もあるため一見して分からない事も多いのです.学生さんが見ただけで見分けられる必要は無いと思います.
今回は1.が明らかな正答なので,選ぶべきではない選択肢でしょうか.
また「5.ドリンガー足部」も,その名称については.広い義肢装具の内容の中で学ぶべき優先順位で言えば,かなり後ろに位置するのではと思います.
足部の詳細は写真から判断は難しいですが.少なくとも,外観を重視せず作業に特化した足部ではない.という事だけでも分かると良いですね.
大腿義足を構成する部品に関する問題について解説しました.
問題としては,「明らかな正答を見つける問題」ではありますが.しっかり理解しようとすると,大腿義足に関する膨大な知識を必要とする問題でもありました.
今回の解説でも触れた通り,義足を構成する部品の数は多岐に渡り,全て網羅するのは非常に困難です.セラピストとしては部品の知識について,義肢装具士さんやパーツメーカーさんの力を大いに頼ることになるでしょう.
とは言え,その大まかな分類や特徴についてはある程度知っておく必要があります.義足を構成する要素を知らなければ,どんな義足が必要なのか考える事すら出来なくなってしまいます.今回選択肢に出てきた部品たちは,その知っておくべき知識の一端かもしれません.
膝継手の立脚相制御と遊脚相制御について
シリコンライナーについて
日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p120
澤村誠志,切断と義肢,医歯薬出版,第1版,p213
補装具費支給事務ガイドブック – テクノエイド協会 p101
オットーボック 4R160 キスキット
https://www.ottobock.co.jp/prosthetic_le/socketech/suspension/4r160/
パシフィックサプライ オズール ICEROSS 大腿用シールインX5
https://www.p-supply.co.jp/ossur/catalog/iceross/iceross01/itf673xx.htm
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https://www.ottobock.co.jp/prosthetic_le/joint/adapter/4r57/
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https://www.ottobock.co.jp/prosthetic_le/joint/knee/3r106/
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https://www.ottobock.co.jp/prosthetic_le/joint/knee/3r80/
オットーボック トーションアダプター
https://www.ottobock.co.jp/prosthetic_le/joint/adapter/torsion/