PT国試義肢装具関連問題の解説.今回は第52回理学療法士国家試験午後の8問目から.
側弯症装具と適応に関する問題です.
今回の問題は疾患に関するものですが,「脊柱側弯症」と「装具療法」は非常に結びつきが強く,今回も選択肢の中に登場しています.
側弯症に用いられるコルセットは,コルセットという括りの中でも少し特殊な立ち位置にあり.通常のコルセットの考え方に追加して,側弯症装具特有の構造や目的を持っているためそういった知識も必要となってきます.
今回は,疾患については各教科の勉強をしていただくとして.よく使用される事となる側弯症装具である代表的なコルセットについてを中心に解説していきます.
14歳の女子.第5胸椎を頂椎とする側弯症.Cobb角は18度である.
体幹前屈時の様子を図に示す.正しいのはどれか.
問題を解くうえで
今回の問題を解く上で知っておきたいのは
- 思春期側弯症について
- 装具療法が適応となる条件
- 代表的な側弯症コルセット
についてです.
今回出題された疾患であると考えられる,思春期側弯症はもちろんですが.特発性側弯症全体の知識については整形外科学などでしっかりと学んでおきましょう.
また側弯症の治療において,装具療法は非常に大きな役割を占めています.使用されるコルセットも含めて,その目的や適応については確認しておきたいですね.
思春期側弯症について
思春期側弯症について,簡単に確認しておきましょう.
11歳以上の思春期に発症する側弯症で.側弯症の中で最も多い.症例の85%は女性で,右凸胸椎側弯が多い.
若年で発見されたものほど進行しやすいとされ,多くの場合骨の成長終了と共に進行は停止する.
診断に用いられる視診として,立位背面で
- 肩の高さの左右差
- ウエストラインの左右差
- 肩甲骨の凸側での突出
が見られ.特に重要な所見として,前屈時に
- 側弯凸側の背部肋骨隆起が顕著
となり,1~1.5cm以上の場合には側弯症が疑われます.
治療方法とその適応
特発性側弯症の治療方法を検討する際に重要となるのが
- 骨年齢の判定
- X線所見によるCobb角
の2つです.
側弯症は骨の成長と共に進行することが多く.17~19歳の骨成長の終了とともに,進行も基本的には停止することとなります.
側弯症装具の目的は,「矯正による改善」も含まれていますが実際重要なのは「進行を防ぐこと」にあるため.使用する期間と終了のタイミングを検討するのに重要です.
また,X線所見から.弯曲の傾斜が最も大きい上端と下端にある「終椎」の成す角である「Cobb角」を計測するCobb法は.治療法の選択をする際に目安となります.
年齢や背景によって様々ですが
- 20°以下では経過観察
- 20~50°では装具による保存療法
- 50°以上または年に5°以上進行で手術療法
と目安にされる事が多いです.
保存療法の中で装具療法は国内では唯一,側弯の矯正や進行の予防に効果があるとされており.コルセットにもいくつかのタイプが存在しています.
代表的なコルセットと適応
側弯症のコルセットには,様々なバリエーションがあります.
そんな中でも,今回これだけは覚えておきたい名称が
- ミルウォーキーブレース(CTLSO)
- アンダーアーム型装具(TLSO)
の2つについてです.
側弯症装具の役割はある意味でシンプルで.脊椎が凸方向の頂点となっている「頂椎」を目安に3点固定を行って弯曲した脊椎を矯正する力を加えることにあります.
脊柱を完全に真っ直ぐに矯正する事を目的としたものではなく.治療開始時から終了時の間に,出来るだけ側弯の変形が進行しない事を主に目的としています.
また将来的に手術が適応となる可能性があっても,可能な限り進行を抑えた状態でその時を迎える事ができるようにする事も重要な役割となっています.
当然ではあるのですが.他のコルセットと同様に,側弯症コルセットも体を覆っている部分にしか矯正力を働かせる事は出来ません.
数ある側弯症装具の中で最も代表的なのが,「ミルウォーキーブレース」です.
頚部にある「ネックリング」が特徴的な装具で,頚椎~骨盤を覆う頚胸腰仙椎装具(CTLSO)の1つとなっています.
その体を覆う範囲から,胸椎腰椎のカーブパターンに対応することが可能な一方で.ネックリングは服の中に隠す事は難しく,外観上の受け入れに難があります.
対して,もう1つ代表的な側弯症装具のタイプが「アンダーアーム型装具」です.
その名の通り,腕の下(脇下)までを覆う装具で.胸椎~骨盤を覆う胸腰仙椎装具(TLSO)の1つとなっています.
ネックリングを持たず,服の中では比較的目立ちにくい装具ですが.覆う高さが低い事から「頂椎がTh7以上のカーブ」の側弯を矯正することは出来ないため不適応です.
アンダーアーム型にもいくつか種類がありますが,その中で非常によく使用されている装具が「Boston(ボストン)ブレース」です.この名称だけは覚えておきましょう.
解答の考え方
それでは選択肢を確認していきましょう.
「1.右凸の側弯である」は,図示された前屈時の所見から.凸側の肋骨隆起が顕著に見られるため「右凸の側弯変形」であると分かります.これが正答ですね.
「2.手術療法が適応である」は,Cobb角18°であることから.Cobb角 50°以上または年に5°以上進行が手術療法の目安であるため 誤った選択肢です.
「3.側弯体操で矯正可能である」は,側弯体操に側弯を「矯正」する効果はないため誤った選択肢です.
「4.Boston型装具の適応である」は,Cobb角18°であることから.Cobb角20~50°が装具による保存療法 の目安で不適応なため.
また,アンダーアーム型である「Boston型装具」は第5胸椎を頂椎とする側弯を矯正することは出来ず不適応であるため,誤った選択肢です.
「5.第5胸椎の棘突起は凸側へ回旋している」は.側弯変形は椎体と肋骨の側方変位と回旋を伴って起こり,右凸の場合には右肋骨の隆起が顕著となりますが.その際に棘突起は凸側とは逆方向へ回旋しているため,誤った選択肢です.
まとめ
側弯症装具と適応に関する問題について解説しました.
今回のように,疾患と装具療法の関わりがとても強い場合には.こういった形で装具が選択肢に出てくることも多くあります.側弯症以外でもそういった疾患についてはよく見ておく必要がありますね.
装具の適応にスポットを当ててみると,選択肢の4は.治療方法の選択肢としても誤りですし.装具の適応の選択としても誤りなので.ある意味で優しさを感じる問題でもあります.
役割や特徴を知っていると,その適応も理解しやすいので.ポイントはよくおさえておきましょう.
参考資料
日本義肢装具学会 監修,装具学,医歯薬出版,第3版,p222-
日本義肢装具学会 監修,装具学,医歯薬出版,第3版,p126
松野丈夫 ほか(編集),標準整形外科学,医学書院,第12版,2015,p552
日本側彎症学会 理解と治療のための側弯症TOWN