第53回理学療法士国家試験解説 AM-20 発育性股関節形成不全の装具

第53回理学療法士国家試験解説 AM-20 発育性股関節形成不全の装具

義肢装具関連問題解説していきましょう.

今回は第53回理学療法士国家試験午前の20問目から,発育性股関節形成不全と装具に関する問題です.

午前-19.20連続した問題となっているので,まず前問の19に軽く触れてから発育性股関節形成不全に大きな関わりのある装具であるリーメンビューゲルについて解説していこうと思います.

生後4ヶ月の乳児.健診で股関節の異常を指摘された.来院時に右股関節の開排制限を認めたため,股関節のエックス線単純検査を行った

AM-19

股関節の図を示す.臼蓋角はどれか.

AM-20

この患児の股関節のX単純写真を示す.行うべき対応として適切なのはどれか.

問題を解くうえで

冒頭でお話してしまいましたが.この問題はまず所見からこの疾患が「発育性股関節形成不全」であるという事を導いたうえで,必要な治療方針を選択肢から考えなくてはならない問題です.

そのために,前問の19がある意味でヒントとなっているわけですが.問題を考える上で知っておきたいポイントとしては

  • X線単純検査と臼蓋角
  • 発育性股関節形成不全の所見
  • リーメンビューゲルについて

となるのではないでしょうか.

通常であれば,1つの問題で別々で扱われるような内容がまとまった問題になっているので必要な知識も多くなりますね.順番に確認していきましょう.

発育性股関節形成不全について

疾患の概要と所見

発育性股関節形成不全(DDH)は周産期及び出産後の発育過程で大腿骨頭が関節包の中で脱臼している状態(関節包内脱臼)の事です.

出生前後の股関節脱臼はもちろん,亜脱臼や将来脱臼をきたす可能性のある臼蓋形成不全も含まれます

3・4ヶ月健診にて,開排制限を指摘され整形外科を紹介受診する事が多く.女児に多く見られ(男:女=1:5~9)半数は両側性です.

単純X線像による診断

DDHの診断方法の1つとして,単純X線像によるものが挙げられますが.その判断には種々の基本線の理解が必要です.

まず見たいののが,両腸骨最下端を結ぶ線であるHilgeneriner線(Wollenberg線)で,通常は骨頭が下方に存在しますが.高度の脱臼の場合には骨頭が上方に位置します.

もう1つが臼蓋縁よりHilgeneriner線に下ろした垂線であるOmbredanne線で,通常は骨頭が内側に位置しますが,脱臼時には外側に位置します.

更に臼蓋形成不全で重要なのが,寛骨臼接線とHilgeneriner線の成す角である臼蓋角です.

正常では20~25°ですが,この角度が30°以上となる場合は臼蓋形成不全であると判断されます.

もう1つ覚えておきたいのが,骨頭中心を通るHilgeneriner線の垂線と,骨頭中心と臼蓋外側縁を結ぶ線が成す角をCE角と呼びます.

通常は25~35°ですが.20°以下では脱臼と判断されます.

ただし,この角度は大腿骨頭の骨端核が出現する4歳以降でないと調べることは出来ません

というわけで,臼蓋角はe.の選択肢となります.

所見は発育性股関節形成不全の特徴の多くを示していますが.問題19の臼蓋角というのがX線像から右側の臼蓋形成不全を読み解く,ある意味ヒントとなっていますね.

発育性臼蓋形成不全の治療と装具

発育性股関節形成不全の治療で大切なのは,早期発見と早期の治療です.その初期治療に求められるのは骨頭障害を起こさないこと」と「整復すること」を同時に満たすことです.

その時期や方法については様々ですが.代表的な流れについて触れていきます.

治療時期と方法

・新生児期

厚めのおむつを付け,抱き方などに注意しながら経過観察します.

これはおむつによって開排位(股関節屈曲・外転)することで,自然整復を期待します.

・乳児期

リーメンビューゲル装具を用いて整復を目指す.整復されない場合にはオーバーヘッド牽引を行う.それでも難しい場合には麻酔・関節造影下での徒手整復を行い.これらの保存療法でも脱臼の整復と骨頭の安定が得られない場合には観血的整復が行われる.

・幼児期

まずは保存療法を試みるが,歩行後日時が経ったものは観血的整復に移行する事が多い.

リーメンビューゲル装具

リーメンビューゲルは,股関節と膝関節の伸展のみを制限し,他の動きは自由にする機能的治療法に用いられる装具です.

下肢を蹴り出す伸展力を,股関節外転力に変えて開排位を保ち脱臼の自然整復を促すもので.発育性股関節形成不全の初期治療に用いられる事が多い.

1歳以前では整復が得られやすいが,1歳以後になると整復が得られにくいものの,徒手整復や観血整復の準備としての意義は大きいと言われています.

整復率は80%程度と言われており,装着期間は様々だが1ヶ月ほどで整復を確認しながら様子を見ることが多いのではないでしょうか.装具の中では珍しく「着けているだけで,治る可能性がある」装具です.

一方で,リーメンビューゲルに関わらず,発育性股関節形成不全の治療において.「骨頭障害を起こさないこと」と「整復すること」の両立が求められます.

強すぎる求心位骨頭障害を起こす可能性があり,装着期間やベルト位置の設定は,強すぎて骨頭障害を起こさず,かつ整復位にあるテンションが必要とされ非常にデリケートです.

熟練の医師の指示を元に確認しながら,ご家族に正しい装着方法をお伝えする必要があります.

解答の考え方

では,問題と選択肢を見ていきましょう.

前問の19と,設問の所見から.発育性股関節形成不全であると考えられるので.その治療方法として適切なものを選べ.という問題ですね.

生後4ヶ月の乳児期に行われる,初期治療としてまず挙がるのがリーメンビューゲル装具を使用した治療です.よって5.が正答ですね.

1.経過観察新生児期の方針なので誤りです.発育・発達の程度によりますが,生後3ヶ月相当(頸がすわる頃)を目安にリーメンビューゲルでの治療が行われます.

3.観血的整復術4.オーバーヘッド牽引は,リーメンビューゲル装具での初期治療で整復が得られなかった場合の治療方法ですので誤りです.

2.ギブス固定ですが.かつては,Lorenz法というギプス固定や開排装具が用いられていましたが.近年では強固な固定は関節軟骨や骨頭への栄養・血流障害を招き骨頭障害を起こす可能性があるため,あまり用いられる方法ではなくなりました.

あくまでこれらは治療方針の目安であり.状況によって選択する治療方法は変わってきますが.リーメンビューゲルが治療の選択肢の中心にあるのは間違いないと思います.

まとめ

発育性股関節形成不全と用いられるリーメンビューゲル装具について解説しました.

連続した問題の中で,疾患の所見と画像診断,装具の知識が問われる難しめな問題だったのではないでしょうか.所見から発育性股関節形成不全だという事は比較的分かりやすいと思うので.そこから正しい選択を出来るかどうか?ですね.

リーメンビューゲルは数年に一度,国試に出題されると言ってもよい頻出な装具なので.その特徴や使用する時期はしっかり覚えておきたいですね.

関連する問題も多いので,チェックしおくと良いのではないでしょうか.

参考文献

日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p259

松野丈夫 ほか(編集),標準整形外科学,医学書院,第12版,2015,p613

加倉井周一,新編 装具治療マニュアル-疾患別・症状別適応-,医歯薬出版,第2版,p301

第53回理学療法士国家試験、第53回作業療法士国家試験の問題および正答について

https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/topics/tp180511-08_09.html

国家試験解説カテゴリの最新記事