PT国試義肢装具関連問題の解説.今回は第52回理学療法士国家試験午後の13問目から.
脳卒中と下肢装具の選択に関する問題です.
脳卒中後の装具を選択する際には.様々な要素を検討して決定することになりますが.今回の問題は,その検討の基本となる部分を踏襲した設定の問題となっています.
設問に登場している所見や検査結果は,下肢装具を検討する際に実際に注目すべき点ですし.選択肢に登場している装具も代表的なものばかりです.
選択肢が図示された問題全てに言えることですが,図からそれがどのような装具なのか読み取る必要があるため.見た目と機能が一致するようにしておきたいですね.
65歳の男性.被殻出血による右片麻痺.発症2ヶ月.意識レベル,認知機能および左下肢の機能に問題はない.右足関節の位置覚障害が見られる.
起居動作は自立し座位は安定している.現在,平行棒内での歩行練習中である.
歩行中,右下肢の振り出しは可能であるが,踵接地が見られず,右下肢立脚中期に膝折れを認める.Brunnstrom法ステージ右下肢Ⅲ右下腿三頭筋のMAS(modified Ashworth scale)は2である.歩行に用いる最も適切な装具はどれか.
問題を解くうえで
今回の問題を解く上でチェックしておきたいのが
- 代表的な下肢装具の種類と役割
- 所見から得られる情報
- 適応外で検討から除外される装具
についてです.
装具を選択する時の基準はあくまでも目安です.条件が1つ変われば適した装具も変ってくるかも知れません.今回の問題の中で整理しておきたいのは
- 適していると考えられる装具
- 条件が合えば選択肢に入る装具
- 不適合で選択肢から除外される装具
のどれに該当するのかが理解できてくると.
設問の選択肢からどれを選ぶべきか分かってきます.
実際の装具の検討でも,同様の考え方をまずすることになると思うので.今回の問題が理解できれば,だいぶやりやすくなっていくのではないでしょうか.
得られた所見の確認
装具の選択をする際に必要な情報について,設問の所見を見ながら確認していきましょう.
まず整理しておきたいのが,装具の使用そのものが適応なのか?という点についてです
- 意識レベル
- 認知機能
- 感覚障害
- 反対側の機能
などが今回の問題で該当します.
意識レベルや認知機能の問題が大きければ装具の使用は困難ですし.重度の感覚障害の場合には装具の使用は不適応とされています.
また
- 起居動作の獲得
- 座位保持の獲得
などの前段階の機能の獲得が出来ていない状態で,装具を使用した立位歩行訓練に臨むのは早計で.立位・歩行訓練自体が困難であったり効率が悪くなってしまいます.
一方,もう1つ重要なのが.その装具を選択するのか?に関わる所見です.
- 歩行の所見
- BRSのステージ
- 下腿三頭筋のMAS
などが該当します.
念の為に,BRSとMASについても簡単に確認しておきましょう.
下肢Brunnstrom StageⅢでは,共同運動を起こすようになり.共同運動を外れた自由な運動を行うことが出来ません.この段階で痙性は最も強くなり,連合反応,原始姿勢反射などの影響も最も強くなります.
下腿三頭筋 modified Ashworth scale 2では,足関節背屈方向への他動運動を行った際にROMのほとんどの範囲での抵抗感が見られます.
歩行中の所見をみていくと
- 麻痺側の振り出しは可能
- 踵接地が見られない
- MStに膝折れが見られる
となっています.
出来ることと難しい事を整理しておくのは重要です.
これらの事から今回の問題で読み取ってもらいたい装具に求められる機能は
筋緊張の増加によって起こる尖足を防ぎ,踵接地を可能とする.「足関節底屈」を制御するような装具であり.
MStに起こる膝折れを防ぐために.「膝の伸展を補助」する.
もしくは,「足関節背屈」を制御することで隣接する膝関節に影響を与えるような装具が必要となってきます.
解答の考え方
それでは選択肢の装具について、確認していきましょう.
1.の選択肢のSHBはプラスチック短下肢装具で,プラスチックの撓みを利用して底屈,背屈制動を行う装具です.
底屈制動は尖足を制御し,踵接地を行いやすくし.
背屈制動はMSt以降の膝折れを防ぐことに働きます.
求められている機能は満たしていますが,プラスチックの装具は強い痙性によって起こる筋緊張を制御することが難しく.内反を伴う強い尖足がある場合には,適応とならないことが多いです.
MASが2ということを考慮すると,△の選択肢といったところでしょうか。
選択肢の2は,レディメイドの装具の中でもよく使用される1つであるオルトップAFOです.
SHBと同様に底背屈の制動を行いますが,装具の丈が短いため制動力は強くありません.
末梢神経麻痺による下垂足や,軽度の麻痺の場合に用いられる装具で.強い麻痺がある場合に適した装具ではありません.
著名な緊張がある場合の尖足は,その力に装具が負けてしまい尖足を制御することが出来ませんし.
体重を支持する力も弱いため,足関節の制御によって膝折れを防ぐ事も難しいです.
今回のような場合には検討の対象となりにくい除外して良い選択肢ですね。
選択肢の3は,両側支柱付短下肢装具と呼ばれる装具で.継手によって底背屈固定・制限・遊動を調整する事ができます.
よく使用されるその他の装具と比較すると,金属の支柱によって強い支持性を持つ装具です.
著名な痙性による尖足を底屈制限によって.背屈制限によって膝屈曲モーメントが過大になる前に膝折れを防ぐ事ができます.
1.のSHBと比較して,コチラの方がより適した選択肢であることから.これが正答ですね.
選択肢4は両側支柱付長下肢装具です.
長下肢装具は大腿〜足部を覆う装具で,足・膝継手を持ち同関節の制御を行います.
足継手は,3の両側支柱付短下肢装具と同様に.底背屈の遊動・制限・固定を行います.膝継手はロックのon/offで伸展位での固定を行います.
足関節に注目すると,底屈の制限によって尖足を防ぎ踵接地を可能にしますし.膝関節では,膝継手の固定によって膝折れを防ぐ事ができます.
一方で,長下肢装具は本来.立位や歩行の体重支持,下肢の振り出しが困難な場合に用いられるものです.どれだけ尖足や膝折れが防げたとしても,膝の固定によって,現在獲得している動作まで妨げてしまうような装具は過剰なものと言えます.
選択肢としては適切ではない誤ったものですね.
選択肢の5は,ゲイトソリューションデザイン(GSD)というレディメイド装具です.
GSDは、背屈は遊動、底屈を油圧ユニットによって制動を行うゲイトソリューション(GS)継手を持っています.
油圧による制動は優れた立脚初期の制御を行える一方で,強い緊張による尖足を防ぐことはできません.
GS継手を使用したものの中でもGDSは、とても良い外観を持つ一方で内反を伴う尖足を制御するのが難しいというデメリットがあります.
また,背屈は遊動であるため.膝折れに対して何の制御も行っていません.
今回のようなケースで歩行を目的として使用するには,不適応な装具と言えます.除外すべき誤った選択肢ですね.
まとめ
脳卒中と下肢装具の選択に関する問題について解説しました.
下肢装具を選択する際の「入門編」といっても良いような内容の問題で.卒業後に装具に関わることになった時に,まずこういった事を検討しながら装具を選択していくこととなると思います.
今回選択肢に登場した1.SHBは,国家試験の問題としてはより適した3.両側支柱付短下肢装具を選ぶべきですが.より多くを検討する必要がある臨床の場では,十分選択肢に入る装具でもあります.
プラスチックの厚みを変えたり,トリミングを変えることで,装具の制動力は大きく変化するため.条件を整えれば今回のようなケースでも使用できるかも知れません.
とは言え,脳卒中では.症状の回復に伴って必要となる装具の機能も変化していくため,継手で調整可能な装具のメリットも大きく.それぞれのメリット・デメリットをよく知っておく必要がありますね.
参考資料
日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p237
松澤 正,理学療法評価学,金原出版株式会社,改訂5版,p174.181
パシフィックサプライ オルトップAFO
https://www.p-supply.co.jp/products/index.php?act=detail&pid=9
パシフィックサプライ ゲイトソリューションデザイン
https://www.p-supply.co.jp/products/index.php?act=detail&pid=375
公益財団法人テクノエイド協会,補装具費支給事務ガイドブック,p38