第53回理学療法士国家試験解説PM-07 大腿義足の異常歩行 

第53回理学療法士国家試験解説PM-07 大腿義足の異常歩行 

こんにちは,なぜなに。装具です.

今回は第53回理学療法士国家試験午後の7問目から,大腿義足のアライメントと異常歩行の義肢装具関連問題解説です.

午前中でも下腿義足のアライメントに関する問題が出題されていますが.近年はこういった問題が,1年に2問という事もありますね.

実地問題2問分が義足アライメントと思うと配点的にも大きいですし.しっかり復習しておきたいですね!

PT53PM07

45歳の男性,左大腿切断後,大腿義足を用い歩行練習中,左立脚中期に過度の腰椎前弯が観察された.原因として正しいのはどれか.

問題を解くうえで

義足のアライメント問題は,苦手意識がある方も多いと思うのですが.もし義足にそんな問題があったら,どういう異常が起こるのだろう?と考えるだけで解けてしまう問題が多くを占めていると思います.設問をよく読んで想像することも大切です.

今回注目して見ていきたいのが

  • 義足長が長すぎる時に起こる異常
  • 単軸足部のバンパーの硬さの影響
  • ソケットのアライメントで起こる異常
  • 膝継手の摩擦の強さの影響

について解説していきたいと思います.

義足長が長すぎる場合

多くの場合はスタティックアライメントで,義足長の大まかな調整が行われますが.実際歩いてみると,義足側への荷重のかかり具合やクリアランス次第でも義足長の良し悪しの判断は変わってきます.

主に見られる異常歩行としては

  • 外転歩行
  • ぶんまわし歩行
  • 伸び上がり歩行

が挙げられます.義足遊脚期のクリアランスが大きく関わっていますね.

外転歩行

まず主に立脚期の問題です.義足が長いと立位も含めて両脚支持する際には,骨盤を挙上しなくてはなりませんが.多くの場合で股関節外転で歩行して長過ぎる脚長差を補います

実際はこの図ほどの外転はスタティッアライメント時に調整しているので.歩行では起こりませんが.重心移動や歩隔を見ると僅かに外転歩行しているというのはよく起こる事ではないかと思います.

外転歩行

ぶんまわし歩行

こちらは義足遊脚期のクリアランスが原因で起こります.義足が長いと何かしらの方法で代償しなくてはなりません.ぶんまわし歩行はその1つですね.

同様に,義足長が原因で図のように露骨に大きなぶんまわし歩行をする事は多くありませんが.外転歩行と混在しながら僅かにぶんまわし歩行をしているという事はよく起こるので注意して見たいです.

ぶんまわし歩行

伸び上がり歩行

伸び上がり歩行は健側つま先立ちすることで,義足のクリアランスを確保する異常歩行です.

振り出しのタイミングを調整するという理由が多いですが,よく見られる異常歩行ではないかと思います.

義足長が原因の場合には,同様に僅かに見られる事が多いと思うので,よくチェックしましょう.

伸び上がり歩行

単軸足部のバンパー

義足足部には様々な種類がありますが,一部ではありますが足の機能を代償するための機能を持っています.単軸足部の前・後方バンパーはその1つです.

単軸足部は図のような作りをしており.後方バンパーは底屈の制動を,前方バンパーは背屈の制動をしています.

バンパーが硬い程,制動力は増します

後方バンパーの役割

特に後方バンパーの役割は大きく.底屈の制動によって,IC~LRのヒールロッカー機能における前脛骨筋の遠心性収縮を代償しています.

適切な後方バンパーの働き

後方バンパーが柔らか過ぎて制動力が少ないと,この機能を代償する事ができません.踵接地後そのまま底屈するフットスラップが起こっていまいます.

逆に後方バンパーが強すぎると,制動が強すぎて足部が底屈せず.ヒールロッカーの代償が出来ずにLRを経ずMStへ早く移行します.膝折れが起ったり,義足全体が回旋する原因の1つとなってしまいますね.

柔らかい後方バンバー
硬い後方バンパー

SACH足の踵部

これは足部の種類が変わっても同様です.SACH足部の踵部のクッションが同じ役割を持っています

踵部クッションが柔らかすぎると底屈しやすく,フットスラップを起こします.

硬すぎると底屈しにくいためMStへの移行が早くなってしまいます.

足部の種類が変わっても,特徴や役割は変わりますが.足部の機能を代償するという点については共通です.

SACH足部の構造

ソケットのアライメントで起こる異常

ソケットが前方に位置しすぎている

ソケットが前方に位置しすぎている義足は,相対的に膝継手や足部が重心よりも後方に位置してしまいます.

床反力は膝伸展モーメントとして働きやすくなるため,立位で膝継手が後方に押されるような感覚があったり.

歩行時には膝の屈曲が行いにくくなってしまいます.

ソケットの初期屈曲角が少ない

ソケットの初期屈曲角が少ない場合にもいくつか問題が起こりますが.特に大きな問題となるのが,屈曲角度の少ない義足を履くと.股関節の可動域が同じでも,義足が相対的に伸展方向の可動域が少なくなってしまいます

減少した義足の伸展方向の可動域を代償するために.骨盤の前傾と腰椎の前腕の増強が起こります

また立脚期には,正しいアライメントと比較して股関節伸展筋が働きにくくなり,膝継手の随意制御がしづらく膝折れ感に繋がる場合もあります.

膝継手の摩擦の強さ

膝継手の摩擦を調整する部分には,いくつかの種類と役割があります.主に立脚制御と遊脚制御の違いです.

義足膝継手の制御の違いは,→コチラの記事をご覧ください.

立脚制御の膝継手摩擦

立脚制御で膝継手の摩擦の強さを調整する必要があるのは,主に荷重ブレーキの摩擦の強さです.

荷重するとブレーキがかかるこの膝継手では.膝継手の摩擦が少ないと,立脚期に膝折れを起こしやすくなり.

逆に摩擦が強すぎると,小さな荷重でもブレーキがかかってしまい.膝が曲がりにくくなり遊脚期に移行しづらくなってしまいます

M0770 BASS
今仙技術研究所

遊脚制御の膝継手摩擦

遊脚相制御での膝継手摩擦には2種類あります.

1つ目は,ISwで足の蹴り上げを抑制する屈曲制動です.これがないと振り出しの足が後ろに大きく蹴り上がり.振り子の幅が大きくなって足の振り出しが遅くなってしまいます

もう1つが,TSwで足を振り出した際にターミナルインパクトを抑制する伸展制動です.これがないと勢いよく義足が振り出され大きすぎるターミナルインパクトが起こってしまいます.

詳細は上記の「義足膝継手の遊脚相制御」の記事の補足知識の解説部分にあるので,そちらを見て頂くとより分かりやすいのではないかと思います.

制御調整部分
M0771 P-BASS
今仙技術研究所

解答の考え方

PT53PM07

では選択肢を見ていきましょう.

ここまで解説してきたとおり,過度の腰椎前弯が観察されるのは.4.ソケットの初期屈曲角が不足している.正答ですね.

1.義足長が長すぎる.は義足側骨盤の挙上と体幹の側屈が起こる可能性はありますが.腰椎の前弯増強は当てはまりにくいので誤りです.

2.足継手の後方バンパーが弱すぎる場合には,フットスラップが起こったり.足部が底屈位を取りやすい事から,立脚中期に義足を乗り越えるような感覚がありますが.腰椎前弯増強には繋がらないので誤りです.

3.ソケットが前方に位置しすぎている場合には,膝伸展モーメントが働きやすく.立脚後期から遊脚期に膝が曲がりにくくスムーズに移行しづらい問題がありますが,腰椎前弯増強との関係は薄いので誤りです.

5.膝継手の摩擦が弱すぎる.はどの場面を指しているのか分かりませんが.立脚・遊脚制御ともに腰椎前弯の増強とは無関係なので誤りです.

まとめ

少し長くなってしまいましたが,大腿義足の異常歩行について解説しました.

こういった問題はとても多く見かけますが,今回の設問はその中でもアライメントや膝・足継手の知識が必要となる.様々な要素を含んだ問題だったと思います.

この問題の選択肢を,しっかりと説明出来る知識があれば.多くの問題に対応できるのではないでしょうか?

冒頭でも触れたとおり,義足の問題は定期的に出題されます.

義肢装具のチェックポイント」など代表的な義肢装具の本には,義足の異常歩行が詳しく載っていると思います.

メインとなる他の教科の勉強が一段落したら,しっかり時間を作って勉強すると良いのではないかと思います.

参考文献

日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p144

澤村誠志,切断と義肢,医歯薬出版,第1版,p339

今仙技術研究所 義肢 M0771 P-BASS / M0770 BASS

https://www.imasengiken.co.jp/product/lapoc/m0771.html

第53回理学療法士国家試験、第53回作業療法士国家試験の問題および正答について

https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/topics/tp180511-08_09.html

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