PT国試,義肢装具関連問題解説.今回は第53回理学療法士国家試験午後の14問目から,車いすの採寸ポイントに関する問題です.
PTOT共に関わり多い車いすですから,どちらの国試でもよく出題される問題です.よく問われるポイントは決まっているのでしっかり復習しておきましょう.
身体に合った寸法の車いすを選択する基準とともに,誤った選択をするとどのような弊害があるのかも知っておきたいですね.
身体計測の結果を図に示す.
厚さ3cmのクッションを用いる場合の車いすの基本寸法で正しいのはどれか.
問題を解くうえで
問題を解いていく上で,注意したいのが.この問題は複数の解答が正答となる問題です.
解答が2つの問題は,問題文で「2つ選べ」と指定されますが.この問題では特に指定がありませんが解答となる選択肢が2つ存在します.
不適切問題ではあるのですが,その内容としては非常に重要な問題です.
第53回理学療法士国家試験及び第53回作業療法士国家試験における採点除外等の取扱いをした問題について
https://www.mhlw.go.jp/general/sikaku/successlist/2018/siken08_09/dl/pmrigaku14.pdf
車いすの採寸を知る上で
- 身体計測部位
- 車いすの基準寸法
- 車いすの各部名称と役割
が重要です.
前提条件として,車いすを構成する各部パーツの名称については確認していただきたいですが.その役割を知っていれば,身体測定の数値に対してどのような寸法の車いすが必要となるか分かるのではないでしょうか.
車いす各部の寸法
車いす処方時には,5W1Hを確認しながらどういった車いすが必要となるのか考えていく必要があります.身体計測から得られる寸法は,多くある車いすの要素を決める基本となる1つですね.
細かい計測部位と対応するパーツがあるので,一通り確認して頂きたいのですが.特に重要で国試でも問われやすい部分について確認していきましょう.
シート幅
シート幅は,座位での殿幅が基準となって決定されます.
殿幅は殿部の左右の最も突出した部分を計測しますが,大転子間の距離となることが多いのではないでしょうか.
殿幅に対して(2~5cm)で設定するのが適正とされています.
狭いと座ることが出来ないので論外ですが.広すぎると座位が安定せず姿勢が崩れたり,駆動も行いにくいので,活動度と合わせて検討する必要がある.高活動な方ほどゆとりは少なめの方が操作しやすいです.
車いすに座った際に,利用者の両手掌が両サイドに入る程度の幅が1つの目安.
シート奥行き
シートの奥行きは,座底長が基準となって決定されます.
シート奥行きとは,寸法基準点からシート先端までの距離です.寸法基準点は車いす寸法の基準となる点で,バックレスト取り付けフレーム前面とシート取り付けフレーム上面の交点です.
座底長は殿部最後端から膝窩部までを計測します.座底長-(2.5~5cm)に設定するのが適正とされています.
長すぎると膝窩部を圧迫したり,骨盤後傾し仙骨座りを誘発します.逆に短すぎると座位不安定となり,殿部の圧迫が集中してしまいます.
バックレストに殿部が着くよう車いすに座った際に,膝窩部に2~4横指のゆとりがあることが1つの目安となっています.
バックレスト高
バックレスト高は腋下高が基準となって決定されます.
バックサポート高は寸法基準点からバックレスト上端までの距離です.
腋下高はシート座面から腋下までの距離を計測します.腋下高-(5~8cm)に設定するのが適正とされていますが.体幹筋力や座位バランスによって必要となる高さは大きく変わってきます.
クッション利用時にはその厚みも考慮しましょう.
アームレスト高
アームレスト高は肘頭高が基準となって決定されます.
アームレスト高は寸法基準点からアームレスト上端面までの距離です.
肘頭高は,上肢を下垂し肘を直角に曲げ,手掌を内側にして前腕を水平にした際の座面から肘下縁までの距離を計測します.肘頭高+2cmに設定するのが適正とされています.
高すぎると,肩が挙上されて疲れやすくなってしまいますし.低すぎるとアームレストで前腕が安定せず,前傾・側方姿勢を誘発してしまいます.クッション利用時にはその厚みも考慮しましょう.
フットレスト・シート間距離
フットレスト・シート間距離(レッグレスト長)は下腿長が基準となって決定されます.
フットレスト・シート間距離はフットレスト上面からシートの先端までの距離です.
下腿長は踵の後端から膝窩部までの距離を計測します.下腿長-2.5cmに設定するのが適正とされています.クッション利用時にはその厚みも考慮しましょう.
下腿長に対して短すぎると,膝は深く屈曲し大腿部がシートに接する面積が少なくなり殿部に荷重が集中します.逆に長過ぎると足部が浮いてしまい大腿部での圧迫が増します.駆動時に前傾しやすくなるため不安定です.
シート高(前座高)
シート高は下腿長が基準となって決定されます.
シート高は床面からシート先端までの距離です.上肢で操作するか,下肢で操作するかによってその高さは変わってきますが.下腿長+(2~5cm)に設定するのが適正とされています.
クッション利用時にはその厚みも考慮しましょう.
シート高が高すぎると,足部が床面に着きづらく不安定ですが.低い場合には立ち上がりの難易度が高くなるため疾患によって検討が必要です.
解答の考え方
では選択肢を見ていきましょう.
1.背もたれ高:45㎝.ですが,バックレスト高は腋下高-(5~8㎝)が適正とされています.3㎝のクッションを加味して,42+3-(5~8)㎝となり,37~40㎝が目安となるので誤りです.
2.肘掛けの高さ:23㎝.ですが,アームレスト高は肘頭高+2㎝が適正とされています.3㎝のクッショの厚みを加味して,18+3+2㎝となり,23㎝となるので正答ですね.
3.シート長(座長):43㎝.ですが,シート奥行きは座底長-(2.5~5㎝)が適正とされています.40-(2.5~5)㎝となり,35~37.5㎝が目安となるので誤りです.
4.膝窩からフットプレート:38㎝ですが,下腿長-2.5㎝が適正とされています.38-2.5㎝となり,35.5㎝が目安となるので誤りです.
5.座幅:40㎝,ですが.シート幅は殿幅+(2~5㎝)が適正とされています.35+(2~5)㎝なり,37~40㎝が目安となるのでこれも正答です.
よって不適切問題ではありますが,2.5.が正答となります.
まとめ
車いすの採寸ポイントに関する問題について解説しました.
計測した数値に対して,車いすの部位がピッタリなのが良いのか,小さい方が良いのか,大きいほうが良いのか知っておく必要がある問題でしたね.
装具のチェックアウトとともに,車いすのチェックアウトは非常に出題されやすい問題です.今回は特に頻出部分を見ていきましたが,一通り目は通しておきましょう.
車いすに全く触れない施設というのは少ないですし,採寸の依頼をされることも定期的にあります.実際は採寸表に記入しながら計測を進めていきますが,車いすの各部パーツとその設定理由についてはしっかりと覚えておきたいですね.
参考資料
日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p284
第53回理学療法士国家試験、第53回作業療法士国家試験の問題および正答について
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/topics/tp180511-08_09.html
第53回理学療法士国家試験及び第53回作業療法士国家試験における採点除外等の取扱いをした問題について
https://www.mhlw.go.jp/general/sikaku/successlist/2018/siken08_09/dl/pmrigaku14.pdf
財団法人テクノエイド協会 身体寸法と車いす寸法の合わせ方
http://www.techno-aids.or.jp/taisdoc/leaf_whch/leaf_whch2.shtml