こんにちは,なぜなに。装具です.
今回は昨年度行われたPTOT国家試験の中から
義肢装具関連の問題を抜粋して解説していきます.
問題を解くうえで
第55回理学療法士国家試験,最初の義肢装具関連問題は
二分脊椎の歩行練習に関する問題です.
注目する点はいくつかありますが…
- 顕在性二分脊椎
- Sharrardの分類はⅣ群である
- 歩行練習の実施方法で適切なもの
- 各装具と杖の組み合わせ
というのが重要なポイントでしょうか.
二分脊椎という疾患とSharrardの分類が頭に入っていない場合は
しっかりと復習をしておきたいですね!
二分脊椎とSharrardの分類
二分脊椎とは
国家試験の勉強という意味でも二分脊椎は非常に重要な疾患です
症状と合併症は特に問われやすいので別途復習して頂きたいですが.
脊髄・脊椎が発生の種々の段階で癒合が停止したもので
そのために様々な神経障害を呈し,腰仙椎部に多発します.
また
- 水頭症
- 髄膜瘤・脊髄髄膜瘤
- 膀胱直腸障害
- 下肢機能不全
を伴うことがあります.
Sharrardの分類
問題文にもある通り,PTOT国家試験の勉強で
二分脊椎とSharrardの分類は切り離せないものですね.
Sharrardの分類は麻痺レベルと機能予想を分類したもので
運動・知覚麻痺が脊髄のどのレベルで起こっているか確認した上で
運動機能や活動のレベルの予測を行うものです.
![](https://sougu.xsrv.jp/wp-content/uploads/2020/07/Sharrad分類Ⅳ群3.png)
設問にあるSharrard分類のⅣ群はL5機能残存です.
問題を解くうえでこれを知らないとどうにもならないので
よく確認しておきましょう!
Sharrardの分類と歩行能力
Sharrardの分類Ⅳ群の残存部位,障害部位が分かったところで
どのような運動機能があり,どういった歩行練習が必要とされるのでしょうか?
ここでもう1つ覚えておきたいのがSharrardの分類と歩行能力の関係です.
![](https://sougu.xsrv.jp/wp-content/uploads/2020/07/Sharrad分類と歩行能力2.png)
どの群がどれだけの歩行能力を持つ分類なのかは
しっかり覚えておきたい重要なポイントです.
Ⅳ群の歩行能力を見てみると
- AFOで自立歩行
- 装具なしでも歩行可能
となっています.
また解答に直接関わりはないですが,日常生活をおくる上で
どのような歩行能力なのかはHofferの分類によって評価される事が多いです.
![](https://sougu.xsrv.jp/wp-content/uploads/2020/07/Hofferの分類-1024x384.png)
併せて覚えておきたい分類ですね.
二分脊椎と装具
Sharrardの分類Ⅳ群の運動機能と歩行能力が理解できたところで
次は装具について見ていきましょう.
…と言っても,この設問では大まかな分類で登場しているので
歩行能力が分かれば解けてしまうのですが
何のために装具を使用するか知っておくことはとても重要です.
装具の目的
使用する装具によって主な目的は変わってきますが
二分脊椎に重要な装具の目的は
- 変形の矯正・予防
- 体重の支持,起立・歩行の補助
- 体重支持部の保護
が大きな目的として挙がるのではないでしょうか.
前述の下肢運動の障害により失われた機能を代償し
拘縮や変形が起こりやすい状態なのでそれを防ぎ
変形と下肢知覚障害によって起こる潰瘍などを防ぐ
という役割を担っています.
骨盤帯付き長下肢装具(LSHKAFO)
胸髄レベル対麻痺の場合に処方されることが多く,立位・歩行訓練に用いられる.
実用歩行は困難だが,長期歩行を経験しなかった場合と比較して
骨折回数・褥瘡が少なく,移乗能力も高いとされる.
PCWなどの歩行器とともに歩行訓練を行う.
長下肢装具(KAFO)
L2,L3レベルの麻痺.
L4,L5レベルの麻痺で下肢内旋,内転が強い場合に処方されることが多い.
歩行器やロフストランド杖とともに歩行訓練を行う場合もある.
短下肢装具(AFO)
二分脊椎で最も多く使用される装具で内反足,尖足,踵足に処方される.
足関節を適切な背屈位とすることで
立位での膝関節軽度屈曲,股関節伸展の下肢アライメントを確保する.
足装具(FO)
解答の考え方
二分脊椎の歩行能力と装具の特徴に触れたところで
あらためて選択肢を見返してみましょう.
![](https://sougu.xsrv.jp/wp-content/uploads/2020/07/Sharrad分類と歩行能力2.png)
Sharrardの分類Ⅳ群がAFOで自立歩行,装具なしでも歩行可能であることから
選択肢の
2.長下肢装具を使用する
4.長下肢装具とロフストランド杖を使用する
5.骨盤帯付き長下肢装具とPCWを併用する
は明確な誤りとなります.
また,Sharrardの分類Ⅲ群がAFOと杖での実用歩行可能であることから
3.短下肢装具とロフストランド杖を使用する
の選択も誤りであると考えられます.
よって,歩行練習として適切なのは?という設問と消去法から
1.靴型装具を使用する
が正答となります.
補足知識
問題を解くうえではむしろ混乱を招くのですが
今後臨床に出た時のために頭の片隅に置いておいて欲しいことです.
分類と実際の運動機能
国家試験的にはSharrardの分類を用いてその運動機能の予想から
必要である歩行練習を考えましたが.
臨床上ではこの分類とは異なる状況という事があるかもしれません.
二分脊椎という疾患は麻痺レベルと運動機能が一致しない事も多く
下肢・体幹の筋力,平衡機能,褥瘡の有無,知的能力,年齢などで
必要となる装具もその時々で変わってきます.
麻痺レベルがL5でも杖やAFOが必要となる場合もありますし
例外を挙げるとキリがないですがKAFOが必要となる場合もあるでしょう.
文献によっても微妙に違いがありますが
麻痺レベルL5でも実用歩行では杖の有無やAFO・FO・装具なしが
混在しているのが現実ではないかと思います.
国試的な暗記も大切ですが,様々な条件を加味した上での評価が
二分脊椎では特に重要と言えるかもしれません.
![](https://sougu.xsrv.jp/wp-content/uploads/2020/07/麻痺レベルと歩行能力.png)
靴型装具とインソール
正答となった靴型装具とインソールについて少し補足します.
学校の授業ではKAFO,AFOに触れることは多くても
靴型装具に深く触れるということは少ないのではないでしょうか.
実際の臨床上では誰もが使う日常必需品である靴の知識が必要となる場面も多いです.
今回の二分脊椎の場合のように知覚障害を伴う疾患で
「足部の保護」を目的として靴型装具が処方されることがあります.
潰瘍など皮膚のトラブルが起こりやすいため
足全体を柔らかい素材で包み込みながら体重を支持することを求められ
短靴では足と靴のズレが多いためチャッカ靴や半長靴で制作される事が多いです.
また足関節の固定を行うため
歩行時のヒール・アンクル・フォアフットロッカーの機能を代償するため
靴底を船底型にするロッカーボトムにする場合があります.
靴型装具に内蔵されているインソールも非常に重要で
潰瘍がある場合にはその部位にアーチサポートと免荷を行うことで
予防や治療を行います.
潰瘍悪化によって歩行が困難になってしまうので
足底部のケアは常に意識をしなくてはいけません.
まとめ
第55回理学療法士国家試験 午前-19
二分脊椎と装具の問題について解説をしてきました.
実際は装具そのものの知識を問う問題というより
「二分脊椎とSharrardの分類について勉強しましたか?」
という問題ですね.
国試ではこういった他の知識が重要なところに
装具がくっついてくるという問題がよく出題されます.
案外装具の事が分からなくても解ける問題も多いので
設問をよく読んで考えることが重要ですね!
難易度としては,「知っていれば解けるけど知らないと無理」な
ちょっと難しめな問題でしょうか.
1問が明暗を分ける事もあるので,疾患とそれに伴う分類は
しっかりとおさえて勉強するようにしたいですね.
似た出題について
第53回PT国試 AM-10でも似たような二分脊椎に関する出題があります.
参考文献
米本恭三,最新リハビリテーション医学,医歯薬出版,第2版,p384
日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p257
細田多穂,シンプル理学療法学シリーズ 義肢装具学テキスト,南江堂,改訂第2版,p170
沖高司,二分脊椎の装具療法,日本義肢装具学会誌,vol19 No.1,2003,p77
松野丈夫 ほか(編集),標準整形外科学,医学書院,第12版,2015,p550
加倉井周一,新編 装具治療マニュアル-疾患別・症状別適応-,医歯薬出版,第2版,p124
第55回理学療法士国家試験、第55回作業療法士国家試験の問題および正答について
厚生労働省HP
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/topics/tp200414-08_09.html