第53回理学療法士国家試験解説PM-43 シリコンライナーの利点

第53回理学療法士国家試験解説PM-43 シリコンライナーの利点

PT国試,義肢装具関連問題の解説.今回は第53回理学療法士国家試験午後の43問目から,シリコンライナーの利点に関する問題です.

義足を使用する上で,当たり前のように使用する候補となっているシリコンライナーですが.非常に大きなメリットの裏にはいくつかデメリットがあります

義足の懸垂方法を検討する上で,非常に普及しているものですし,使用上の注意については知っておきたいですね.

理学療法士国家試験午後-問43

義足におけるシリコンライナー使用の利点はどれか.

問題を解くうえで

義足の懸垂装置の種類はいくつかありますが.下腿義足で言えばTSBソケット+シリコンライナーという組み合わせは非常に多いですし.大腿義足の場合も「特別な理由」がなければ,まずはシリコンライナーの使用を検討する程に,使用機会の非常に多いものです.

今回の問題を解くうえでも,卒後に義足に触れる時の知識としても

  • シリコンライナーの概要
  • シリコンライナーのメリットとデメリット

については,しっかり知っておきたいですね.

ライナーについて

ライナーは断端とソケットの間に装着するもので,硬い義足のソケットと断端の間の緩衝材としての役割と.義足を持ち上げるための懸垂装置としての役割を持ちます.

従来PTB式ソケットなどで使用されてきた「ソフトインサート」の代わりとして使用されるもので.シリコンやエラストリマー,コポリマーと様々な素材で作られています.

その素材によって特徴があるのですが,最も普及しているシリコン製のものから.総称してシリコンライナーと呼ばれている事も多くありますね.

ottobock
6Y43 シリコーン シースルーライナー
OSSUR ICEROSS®
大腿用シールインX5

緩衝材としての役割

シリコンライナーは断端に密着させて履くことで,断端とライナーのズレを極力小さくすることが出来ます.これによって皮膚とソケットの摩擦を軽減します.

またTSB(全面接触式)などのソケットでは,断端全面での接触によって荷重を断端全体で支えていますが.シリコンという適度な弾力を持つ素材であることで,断端にかかる部分的な圧力を更に分散させます.

懸垂装置としての役割

ライナーは遊脚期には,義足の懸垂機能を持つものがあります.

  • ピン式
  • 吸着式

がライナーでの懸垂の主となるもので.

ライナーに取り付けられたピンを,ロックアダプタに固定するものや.

シールインライナーに代表される,吸着バルブを使用することでソケット内を陰圧状態にして.断端とソケットを吸着させるタイプがあります.

ピンのよる懸垂
懸垂装置 シールインライナー
吸着による懸垂

シリコンライナーのメリットとデメリット

上記のライナーの特徴から,シリコンライナーには

  • 断端の保護
  • 断端とソケットのピストン運動の減少
  • ベルト等で固定の必要がない懸垂

と言ったメリットが挙げられます.

これはシリコンライナー登場前と比較して,義足適合において非常に大きなメリットです.体重を支持し,移動の手段となる義足にとってこのメリットの影響は大きく,検討時にまず候補となる理由でもあります.

一方でその陰には,無視できないデメリットも多くあります

  • 発汗とそれに伴う感染性皮膚炎
  • シリコン材料などを原因とするアレルギー
  • 装着の手間

などが挙げられます.

シリコンライナーと発汗の問題は切り離せない問題です.断端をライナーに密着させていることから汗の逃げ場がなく.夏場は特にライナー内に汗がたまり衛生の問題があります.

汗で濡れた断端は,より傷を作りやすい状態です.更に不衛生な状態が重なると感染症を引き起こすリスクがあります.

シリコンライナーの大きな問題の1つで,改善されつつライナーも登場していますが.最大の解決方法は「汗をこまめに拭く」というのが現状です.

また,材料による皮膚炎にも注意が必要です.導入前にパッチテストを行い,問題あればライナーの種類や使用そのものを検討しなくてはなりません.

場合によっては,装着の手間も問題となることがあります.ライナーはロールオンという,裏返した状態で被せるように装着していきます.

↓動画のように,装着しやすいライナーが増えてきていますが.それでもワンタッチで着けるというわけにはいきません.正しく装着するためには,ある程度の注意と慣れが必要となってきます.

センシティブライナー試着レポート 川村義肢株式会社 装着 0:42~

解答の考え方

理学療法士国家試験午後-問43

それでは選択肢を見ていきましょう.

1.ソケットトリムラインの上昇.ですが.トリミングラインが高い程ソケットが断端を支持する力は大きくなるので関節不安定がある場合には有用です.

ですが,不要にトリムラインが高いとソケットが干渉して可動域が制限されます

基本的にはソケットの問題ですが.シリコンライナーを使用して,トリムラインを上昇させる理由も無いので誤りですね.

トリムラインの違い

2.ピストン運動の減少.が正答です.断端とソケットのピストン運動は義足使用時の大きな問題で.シリコンライナーを使用する最大のメリットと言っても良いですね.

3.装着の簡便性.は誤りです.どの装着方法と比較するかにもよりますが.ライナー装着という1つ手間が増えているので,簡便とは言えないですね.

4.皮膚への刺激.はライナーを使用する上での大きなデメリットなので誤りです.

5.発汗の促進.も同様に誤りです.結果的に汗をかきやすい状況となってしまっていますが.断端管理の上でも極力避けたい状態ですね.

まとめ

義足のシリコンライナーを使用する利点に関する問題について解説をしました.

あまりにもメリットが大きいため当然のように選択肢として挙がるシリコンライナーの使用ですが.その裏には,決して無視できないデメリットも多くあります

シリコンライナーは断端管理の一環として,義足を制作する前に使用する場合も多くあります.メリット・デメリットをよく知り,ユーザーさんにも理解していただいた上で選択していきたいですね.

問題の難易度としては「知っていれば簡単」ですね.義肢装具に付随するこういった部品の良し悪しは,国試でも問われることがあるので.シリコンライナーなどの義肢装具を構成する基本的なものに関しては知っておきたいですね!

参考文献

日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p131

澤村誠志,切断と義肢,医歯薬出版,第1版,p362

ottobock. ライナー

https://www.ottobock.co.jp/prosthetic_le/socketech/liner/

パシフィックサプライ ossur ライナー&スリーブ&関連製品

http://www.p-supply.co.jp/ossur/catalog/iceross

川村義肢 デジタルカタログ 義足

https://kawamura-gishi.meclib.jp/gisoku/book/#target/page_no=7

第53回理学療法士国家試験、第53回作業療法士国家試験の問題および正答について

https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/topics/tp180511-08_09.html

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