PT国試義肢装具関連問題の解説.今回は第56回理学療法士国家試験午前の18問目から.
下垂足に用いる下肢装具に関する問題です.
今回の問題は,ミオパチーという筋疾患によるものですが.末梢神経障害による下垂足は,下肢装具の中でもとても問われやすい内容です.
ミオパチーなどの筋力低下によって必要となる装具には,「この状況ではこの装具」という明確な決まりがあるわけではありません.身体の状態とニーズや生活の環境によって選択される装具も変わってきます.
国家試験的な事をいえば,その中で最適なものを選択する必要がありますが.選択肢の中には全く関係ない装具が混ざっている事も多いです.
まずはそういった選択肢を消去する所から始めましょう.
45歳の女性.遠位型ミオパチー.下肢筋力低下が徐々に進行し両側の下垂足を認める.
最近つまづいて転倒することや捻挫することが多くなり装具を検討し歩行の改善を目指すことになった.下肢筋力を表に示す.最も適切な装具はどれか.
筋・神経疾患による「下垂足」に対して必要な装具を考える時に必要な知識として.今回の問題で特に押さえておきたい内容は.
ではないでしょうか.
問題文にもある通り,「筋疾患による筋力低下」によっておこる,つまづきや捻挫の原因となっている「下垂足」を防ぐような装具が必要となってきます.
冒頭でもお話したとおり,今回の問題については,ありえない選択肢をまず除外してその中から適切なものを選ぶようにしたいですね.
そのためには,選択肢にある装具がどのようなものなのか?という知識が必要となってきます.
それでは,選択肢にある装具について.どのような装具で「下垂足」を防止するのに適しているのか見ていきましょう.
PTB短下肢装具は,「PTB免荷装具」とも呼ばれています.
PTB(膝蓋靱帯)部で体重を支持し,それ以遠の免荷を行うことを目的とした装具で.主に下腿骨折や足部疾患の免荷のために使用されます.
体重を完全に免荷するタイプや一部を免荷するタイプがありますが.「下垂足」に対しては,何の影響も与えない装具なので.明らかに除外しなければならない選択肢ですね.
足関節軟性装具は短下肢装具に属する装具で,主にサポーターなどの軟性生地で出来た装具に,必要に応じてプラスチックなどの固定が追加で行われているものです.
フルオーダーやレディメイドなどこれもいくつかのタイプがありますが.底背屈・内外反の制御を目的として使用されます.
足関節の固定を行うことで,下垂足を防止できるため.選択肢の1つとなる装具です.
スウェーデン式膝装具は,その名の通り膝装具なので.足関節に直接作用することはありません.
遊脚期に起こる下垂足に対して,膝装具は出来ることがないので.明らかに除外しなければならない選択肢ですね.
スウェーデン式膝装具は「膝過伸展防止装具」として,国家試験でもよく選択肢に登場する装具です.スウェーデン式膝装具=伸展防止で必ずセットで覚えておきましょう.
金属支柱付長下肢装具は,最もオーソドックスな長下肢装具で.長下肢装具と言われてまず想像するものではないかと思います.
足部~大腿部までを覆い,足継手と膝継手を持つため膝・足関節の制御を行うことが出来ます.
「下垂足を防ぐことが出来るか?」という点では選択肢に入る装具ですが.長下肢装具を選択するには,膝関節の制御などにも大きな問題があり立位・歩行が困難な場合に用いられる事が多いです.
プラスチック短下肢装具には,多くのタイプがありますが.そのほとんどが足関節の底背屈・内外反の制御を目的としたものです.最も見かけるの「SHB」を想像すると良いのではないでしょうか.
足関節の制約を行うことで,下垂足を防止できるため.選択肢の1つとなる装具です.
冒頭で触れたとおり,どの装具を選ぶべきかという基準が明確に決まっているわけではありません.症状や生活環境の中から最善の選択をする必要がありますが.今回の問題ではどの選択肢を選ぶのが
選択肢にあがっている装具の中で,下垂足を防止することが出来るのは.
の3つです.
この中でも,「長下肢装具」は膝・足関節の制御を目的として使用するもので.「下垂足だけ」を目的として使用するには適した装具とは言えません.
立位・歩行が困難なほどに膝の筋力の低下がある場合には,また話が変わってきますが.
特に今回の用に両側性の筋疾患の場合には,金属支柱の長下肢装具を両側に装着するというのは負担も大きく.その重量の大きさから,低下した筋力では逆に歩行の改善が望めないケースも考えられます.
4.金属支柱付長下肢装具は下垂足によるつまづきや捻挫を防止するために,適切な選択肢とは言えませんね.
残りの2つの選択肢はどうでしょうか.下肢筋力の表と合わせて見ていきましょう.
「足関節軟性装具」と「プラスチック短下肢装具」の2つを比較すると.軟性装具を使用するのは比較的軽度の場合です.
特に決まりがあるわけではないですが.目安としてはMMT2~3は軟性装具が,MMT0~2となると硬性装具が向いています.
足関節底背屈のMMTが「1」というのは,軟性装具を使用するには足関節を固定する力が不十分であるため.消去法で5.プラスチック短下肢装具が正答の選択肢となります.
筋・神経疾患による下垂足のための短下肢装具には,近年では「カーボン製の装具」が用いられる事があります.
両側支柱付長下肢装具の項でも触れましたが,金属製の重たい装具では取り回しが難しい事も多くなってしまいます.
そんな中で,カーボン製の装具は重量に対しての支持性が非常に優れており.軽量でありながら下垂足を防止するために大きなメリットがあります.
カーボンという素材の特性上,微調整が難しく.その素材の硬さは時として皮膚のトラブルに繋がる事もあるので注意が必要ではありますが.使用する上でメリットの多い条件が揃っている場合には,これほど良い選択肢はないと言ってもよいかもしれません.
国家試験で問われることはそうないと思うのですが.こういった選択肢があるということもぜひ覚えておいていただくとよいのではないでしょうか.
下垂足に用いる下肢装具に関する問題について解説しました.
今回の問題に関しては,「何かを考える」というよりは.「装具の名称」を知っていて,その中から「最も適切なもの」を選べますか?という問題でした.
今回提示された条件の中では,プラスチック短下肢装具が最も適した選択肢と言えますが.状況によって違う装具が適切な場合も出てきます.
最適な装具を選ぶためには,ユーザーさんの状況を知ることと,選択肢となる装具の特徴やメリット・デメリットを学ばなくてはなりません.
国家試験の勉強はそのための第一歩と言えるかもしれませんね!
公益財団法人テクノエイド協会,補装具費支給事務ガイドブック,p38
日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p348
日本義肢装具学会 監修,装具学,医歯薬出版,第3版,p2-
加倉井周一,新編 装具治療マニュアル-疾患別・症状別適応-,医歯薬出版,第2版,p188-
第56回理学療法士国家試験、第56回作業療法士国家試験の問題および正答について
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/topics/tp210416-08_09.html
アルケア アンクルサポート
https://www.alcare.co.jp/medical/product/orthopedic/supporter/ankle/anklesupport.html
小林 庸子,神経筋疾患の装具療法について,日本義肢装具学会誌,vol.30,no1,2014,p6
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspo/30/1/30_6/_pdf/-char/en
allard トーオフ(国内取扱 株式会社田沢製作所)
http://www.tazawa.co.jp/AllardCatalogue.pdf
http://www.tazawa.co.jp/main/2017/09/post-5cdc.html
ottocok ウォークオンリアクション
https://www.ottobock.co.jp/orthotic/lower/ankle/walkon_reaction/