PT国試義肢装具関連問題の解説.今回は第56回理学療法士国家試験午前の32問目から.
大腿義足の遊脚相に起こる異常歩行についてです.
下腿義足・大腿義足のアライメントや異常歩行に関する問題は,必ず1問は出題されるといっても良い頻出問題です.例年似たような問題が出題されているのでよくチェックしておきたいですね.
大腿義足の遊脚相において,健側で爪先立ちが観察された.原因として正しいのはどれか.
問題を解くうえで
義足アライメントの問題は,その仕組さえ分かれば基本的には問題文にある情報だけで解くことが出来ます.問題の形式が変わっても,しっかり考えるだけで間違えることの少ない,ある意味でサービス問題です.基本となる部分はしっかり覚えておきたいです.
大腿義足のアライメントについて考える時に重要なのは
- 立脚相と遊脚相どちらの問題か
- 矢状・前額・水平面どこの問題か
- ソケットの初期屈曲・内転角の影響
- 断端側筋力の影響
ではないかと思います.
国家試験の選択肢には,遊脚期の事を聞いているのに立脚期に起こる異常の選択肢であったり.矢状面上で起こる事が原因なのに前額面上で起こる異常の選択肢であったりと.よく整理してみると全く関係ないものが紛れていることが多いです.
アライメントに関しては,実際に簡単に絵を描いてみて.その状況で義足を操作したらどうなるのか?という事を考えるととてもわかり易いのではないかと思います.
伸び上がり歩行が起こる理由
大腿義足の遊脚相における健側で爪先立ちは,「伸び上がり歩行」と呼ばれている異常歩行です.
遊脚期に起こる異常歩行の原因は,基本的には遊脚期のなにかにあります.
原因として挙げられるのが
- 義足長が長すぎる
- 義足に対する不安感
- 膝継手遊脚相制御の屈曲抵抗が小さい
- 膝継手遊脚相制御の屈曲抵抗が大き過ぎる
となっています.
義足長が長すぎる
義足長が長過ぎるというのはとてもシンプルな理由です.
遊脚期に長過ぎる義足側のクリアランスを確保するために取ってしまう大まかな動きが.「健側を爪先立ちして義足側のクリアランスを確保する」という矢状面上での解決方法か「外転歩行・ぶん回し歩行で義足側のクリアランスを確保する」という前額面上での解決方法の2つです.
義足以外でも,脚長差がある状況を想像すると分かりやすいでしょうか.遊脚側のクリアランスを確保するための代償動作が異常歩行として観察される事となります.
必要なのは,適切な義足長への調整ですね.
義足に対する不安感
義足に対する不安感は,立脚期・遊脚期に共通する問題ですが,どちらも膝折れに対する不安によって起こります.遊脚期に起こるものについては,義足を遊脚期に振り出しする際に.本来であれば膝の屈曲を利用し2重振り子の動きを行うことで義足を振り出します.
ですが,義足に不慣れな時期は特に.膝をしっかりと振り出して.完全伸展していない状態で接地すると膝折れを起こしてしまいます.その恐怖から,膝の屈曲を使わずに完全伸展した状態で足を振り出してしまいます.
膝の屈曲が行われずに義足を振り出せば,義足遊脚期のクリアランスが不足することとなります.前項の義足が長い状態と同じことが起こってしまいます.
理由は異なりますが,義足遊脚期のクリアランスが不足すると.その確保のために,「伸び上がり歩行」「外転歩行」「ぶんまわし歩行」といった異常歩行によってクリアランスを代償する事となります.
義足自体に不安を感じる原因があればその改善が必要ですが.訓練によって義足の操作を獲得していく必要のある場合もあります.
膝継手の遊脚相屈曲制動
義足長など見ただけで比較的分かりやすいものに対して.義足膝継手の設定によって引き起こされる伸び上がり歩行もあります.
膝継手は様々な機能を担っていますが,遊脚相制御における膝の屈曲制動もその1つです.
遊脚期の振り出しは,振り子の力が大半で大きな筋力を必要としませんが.速く振りだそうと勢いを付けるほど振り子の幅は大きくなってしまいます.速すぎる振り子による受動的屈曲は本来大腿四頭筋によって制動されていますが.義足では膝継手が「膝屈曲制動」を行う機能を持っています.
「振り子の幅が大きくなる」というのは「振り子を振り出す時間も増える」事を意味します.膝継手の屈曲制動が小さいと本来の振り出しより遊脚期が長くなってしまいます.接地したいタイミングなのに「まだ遊脚期」という状態です.
その結果,健側を爪先立ちになって「時間稼ぎ」をする事で長くなった遊脚期の時間調整をします.これが膝継手の「屈曲制動が小さい場合」に起こる伸び上がり歩行です.
逆に屈曲の抵抗が大きすぎると,二重振り子の動きに必要な膝の屈曲までも制動してしまいます.膝を曲げたいのに抵抗が強すぎて曲げられない状態です.
こうなると膝伸展位での遊脚期となってしまいます.前項の「義足への不安感がある時」と同様にクリアランスの確保ができません.
クリアランス確保のために伸び上がり歩行で代償することとなってしまいます.
膝継手の屈曲制動の設定が「小さすぎても,大きすぎても」同じ「伸び上がり歩行」に繋がってしまいますが.起こる経緯には違いがあることに注意したいですね.
解答の考え方
では,問題を見ていきましょう.
ここまでお話してきたとおり,健側で爪先立ちが見られる「伸び上がり歩行」の原因となるのは.「1.義足長が長すぎる」が正答となります.
その他の選択肢も見てみると.
3.4.の選択肢は切断側の筋力不足の問題です.
遊脚期は義足の操作の多くを振り子の力で行っているため大きな筋力を必要としません.遊脚期で問題にならないとは言いませんが,その遥か前に立脚期で問題が起こってきます.
「股関節外転筋力の不足」では義足と関係なく.片脚支持期に骨盤の水平を保つ事が出来なくなってしまいますし.
「股関節伸展筋力の不足」は義足の膝継手を操作する際に,股関節伸展によって膝継手を伸展させる力を発生させているため,膝折れや不安定感に繋がってしまいます.
4.5.の選択肢はソケットの初期設定角度の問題です.
ソケットの初期角度設定も立脚期に与える影響が大きいです.
「ソケットの内転角度が大きすぎる場合」には,アライメントの不良によって荷重時に義足の内倒れが起こってしまいます.
「ソケットの屈曲角が不足している場合」も同様に,立脚に問題が起こりやすいです.屈曲角の不足は膝継手の伸展が行いにくいことから膝折れを起こしやすくなり,不安定感の原因となります.
また遊脚期にも影響を与え,屈曲角の不足は股関節を完全伸展しても義足の伸展可動域が減少してしまいます.減少した伸展域を代償するために「腰椎の前弯増強」が起こったり,それによって「歩幅の不同」や,大きく伸展した股関節を勢いよく戻すことで「蹴り上げの不同」を引き起こします.
まとめ
大腿義足の遊脚相に起こる異常歩行に関する問題について解説しました.
非常によく出題される問題なので「義肢装具のチェックポイント」など教科書の下腿・大腿義足適合チェックの該当ページは.国試の勉強をしていくどこかのタイミングで,しっかり時間をつくって学ぶようにしたいです.
義足は切断によって失われた身体の機能を代償するためのものです.義足の機能について学ぶ時には,身体の機能の「どのような役割を担っているのか」覚えていくと,既存の知識とリンクして覚えやすいのではないでしょうか.
参考文献
日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p124
川村次郎(編),義肢装具学,医学書院,第3版,p95
澤村誠志,切断と義肢,医歯薬出版,第1版,p193