PT国試義肢装具関連問題の解説.今回は第56回理学療法士国家試験午後の6問目から.
両側支柱付短下肢装具の設定と適合チェックに関する問題です.
BRSやMASの情報はあるものの補足的なもので,本質的には脳卒中片麻痺に用いられる金属支柱の短下肢装具の適合チェックを行う時に覚えておかなくてはならないポイントについての問題ですね.
卒業後の臨床においても,装具の適合チェックは「最も」といっても良いほど.まず身につけておかなければならない内容ですし.国家試験的にもよく出題される問題ですので,特に下肢・体幹装具の適合チェックはしっかりと整理して覚えておきましょう.
57歳の男性.脳出血による左片麻痺.Brunnstrom法ステージ下肢Ⅲ.左下腿三頭筋のMAS(modified Ashworth scale)は2.平行棒内歩行時に左下肢の踵接地は見られず,内反尖足となる.また,左下肢立脚中期に膝のロッキングを認める.そこでダブルクレンザック(ロッド式)短下肢装具を作成した.誤っているのはどれか
今回の問題を解く上でチェックしておきたいポイントは
です.
まず第一に,装具の各部パーツの名称が選択肢に出てきていますが.どこを指しているのか分からないと解きようがありません.
また,装具の適合をチェックする際のポイントとその基準となるランドマークについてが今回の問題の要点です.教科書の短下肢装具の適合チェックポイントと併せて,よく確認しておきましょう.
そして最後に大事なのが,今回の問題にも登場している様々な数値が「なぜそのように設定されているのか?」という理由を知っておくことです.
ただ場所と数値を覚えるという作業は,勉強する上でも中々大変だと思います.「こういう理由があるから,こんな数値にする必要がある」というのをある程度知っているだけでも.装具の適合について学ぶ時に大きな助けになるのではないかと思います.
冒頭でも触れたとおり,今回の問題に関して言えば.BRSとMASの情報は,あくまで現状を説明しているだけでステージやレベルで装具の内容が大きく左右されるというものではありません.どちらかというと重要なのは,その結果として内反尖足や膝ロッキングが起こるような状態だと言うことです.
を目的の1つとした装具が必要となり.そのためにはダブルクレンザック継手を使用した「両側支柱付短下肢装具」を適切な設定にしなくてはなりません.
まず,装具を構成する部位の名称が分からないと.どのような設定にすればよいのかも分からないので確認していきましょう.
ダブルクレンザック継手を使用した短下肢装具は
がメインで構成されています.
継手は足関節の制御や角度設定を行い.
支柱・半月・あぶみは金属のフレームとなって装具の支持性の基本部分となります.
装具の種類によって若干異なりますが,あぶみには「足部」が,半月には「下腿カフ」が接続されて.それぞれが足部と下腿部を介して固定することによって,装具が行う制御を足に伝えています.
それでは選択肢を見ていきましょう.
選択肢の1.は下腿半月の位置についてです.
これは両側支柱付短下肢装具だけではなく,全ての短下肢装具に共通する事ですが.装具下腿部の上縁の上限は「腓骨頭の下端から2~3cm下」に設定します.
「下腿半月の上縁の位置:腓骨頭」は誤りですね.
これは,腓骨頭下で腓骨神経が走行するため.装具固定と腓骨によって腓骨神経が圧迫される事を避けるためです.
装具の装着によって神経麻痺を引き起こすリスクがあるため.腓骨頭下から装具上縁までに,2横指程度の隙間があるのかチェックすることは.短下肢装具の適合チェックの中でもまずチェックすべき点の1つとなっています.
この問題に関して言えば,この重要な点について知っているか?という1点に尽きる問題と言えますね.
選択肢の2.は下腿半月の幅についてです.
これについては,「この幅にしなければならない」といった決まりはありませんが.4cm前後が目安となっているのではないでしょうか.
幅が広い分には,装具が重くなるという点は気になるものの.装具自体の機能として問題はないのですが.逆に幅が細すぎるといくつかの問題が出てきてしまいます.
まず半月が細すぎると,狭い面積で下腿部を保持する事となるため.装具が与える力が集中し,下腿部の筋腹に食い込みやすくなってしまいます.
今回のように,尖足位や膝のロッキングを防ぐため.大きな矯正力を必要とする場合にはより顕著となります.
また,半月はあぶみと共に両側の支柱を連結して「閉じた輪」を作っています.
「内反尖足」という3次元の動きを矯正するために大きな役割を果たしていますが.半月が細いと装具そのものが「捻じれやすく」なってしまいます.
装具に求められる必要な強度を保つための目安が,4cm程度という事ですね.
実際は半月の「厚み」によっても強度は左右されるため,必要な幅というのはケース次第です.問題の選択肢としてみると,他に明らかな間違いがあるので.「細すぎるとダメなんだな」と覚えておいてもらうと良いのではないでしょうか.
選択肢の3.は支柱と皮膚との隙間についてです.
どれだけ装具が強制力を働かせているといっても.片脚支持期など体重心の移動に伴い,装具内で僅かには足が動いています.
mm単位の動きでも,硬い金属やプラスチックに接触すれば皮膚のトラブルの原因となります.
絶対的な決まりはありませんが.支柱の中央付近で3~5mm,継手部分で5mm程度の隙間が設けられています.
多少の軟部組織のある下腿部に比べて,骨突起部である内・外果では多めにゆとりが設定される事が多いです.
ある程度のクリアランスが必要となるわけですが.あまりにも隙間が大きすぎるのも問題です.装具の幅は増えて,ただでさえ気になる嵩張りが増して服の選択が制限されてしまいます.
内外で1cmづつも隙間があると,随分幅が増えてしまいます.大きすぎず小さすぎない適切なクリアランスとして5mm前後が目安として設定されているわけですね.
選択肢の4.は足継手軸の位置についてです.
足・膝・股関節軸の位置設定については,非常に問われやすいので各々チェックしておきたいですね.
前額面で見た時の足継手位置は,「外果中心と内果下端を結ぶ線」とするのが最も基本の設定となっています.
装具の足継手軸である機械軸と,身体の生理軸には違いがあり.生理軸に出来るだけ近づけた足継手軸の設定もありますが.まずはこの「基本設定」を覚えておきましょう.
ちなみに,水平面で見た時の足継手位置は,「踵の中心と第2.3趾の中間を結ぶ線」に垂直な「外果中心を通る線」が最も基本の設定となります.
選択肢の4.は足継手軸の位置についてです.
ダブルクレンザック継手は足関節の角度制限を調整することができます.足関節にどのような制約を行うのか,装具の設定の要となる部分ですね.
目的によって角度の設定は様々ですが,今回のように
ためには,底屈の可動域を制限することとなります.
の必要もあるため.底背屈0°~軽度背屈位である.「底屈 -5~0°」に設定される事が多いのではないでしょうか.
必要に応じで,足関節の制限角度を調整することが出来るというのが.「ダブルクレンザック継手」の大きなメリットとなっています.
両側支柱付短下肢装具の設定と適合チェックに関する問題について解説しました.
短下肢装具の適合チェックについては,理学療法士として装具に関わる上で.卒業後の臨床でなによりも知って置かなければならないことですし.下肢装具に関わる事が多い実習先の場合には,実習の最中にしっかり学ぶ必要があるような内容です.
今回は短下肢装具についてでしたが,長下肢装具について出題されるケースもあるので併せて確認しておきましょう.
それぞれの正誤や数値を覚えることも大切ですが,「なぜそうする必要があるのか」を知ることは.理解と応用を進めていく上でも重要です.
学校の備品室にある装具を見ながら確認してみると.実際の数値と装具に求められる機能を比較できて,より学習が進みやすいのではないかと思います.
日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p231