カテゴリー 義肢装具士

装具の経過を義肢装具士に報告していますか?

こんにちは,「なぜなに。装具」です.

今回お話していくのは,以前Twitterでご協力いただいたアンケートについてです.

治療のための装具を使用した経過を,義肢装具士さんに報告していますか?」というものだったのですが.Twitter上で少数の方に答えて頂いたものとはいえ.私の感じていた感覚に近い結果でした.

装具のアフターフォローは大事」と言われている一方で.そのために必要な医療チームの連携をしていく上で重要な情報の共有はきちんとされているのか?と考えると.関わってくる大きな問題の1つのように思います.

ご協力いただいたアンケートですし.私の感じる現状を含めてまとめていきます.もし改善が出来るならば,装具に関わる医療チームの方々で共有して頂けると嬉しいですし.

ユーザーさんにも自身の装具のフォローが,どのように行われているか.現状の一部を知って頂く機会になればと思います.

はじめに.

アンケートの内容

ご協力頂いたアンケートは2020.04.02.に「なぜなに。装具」のTwitterアカウントで行われたものです.内容は以下のとおりです.

治療用装具を使用した際に,治療終了や退院など使用が一区切りした装具の治療経過について,装具を作成した義肢装具士にどのように報告していますか?というものでした.

選択肢として挙げたのは

  • 全件書類で報告している
  • 全件口頭で報告している
  • 難渋したときなど一部を報告している
  • 特に取り決めはない

というものです.

今でこそ医療側・ユーザー側含めて多くの方にフォロー頂いている当アカウントですが,当時はそこまで多くなく「義肢装具に特に興味がある」方が多かったように思います.

Twitter上でのアンケートですし,選択肢もファジーなものですので.実際の医療で行われている現状を表したものでは無い事はご承知おきいただいた上でも.比率としては「正式な報告」をしているものより,「特に決まりがない」ものが多数でした.

これはかつて,私の居る施設を含めた周囲の施設での状況や.義肢装具士さんが関わっている施設での状況を伺ったものにとても近いものでした.

装具の治療経過報告とは?

外来などの処方された装具の経過報告

ユーザーさんにも分かるように簡単に流れを説明しておくと.

例えば,腰のヘルニアでコルセットが必要な場合には

外来の診察で,治療の方針や,コルセットの必要性について.医師と患者さんを中心に相談をしていきます.治療のためにコルセットが必要となれば,装具の作成が開始されます.

義肢装具士さんから装具についての詳細を聞き.必要であれば採寸や採型を行います.

コルセットが完成するのは数日後で,受け取りの際には使用上の注意など,使い方について説明がされます.

同時に医師を中心として,完成した装具が治療に適しているか.適合のチェックが行われます.

問題なければコルセット使用を含めて治療が進んでいき.症状の改善などコルセットが一定の成果を得られれば.装具を使用した治療は一区切りとなります.

この装具使用が一段落した時点が,外来で処方された装具の「装具治療経過」ですね.

入院中に処方された装具の経過報告

もう1つ例を挙げると,入院中に処方されたリハビリで使用する装具でしょうか.

入院中に処方される装具は,その相談される場所は施設や状況によって変わってくると思いますが.

医療チームと患者さんやそのご家族と相談のもと決まっていく事が多いと思います.

これも形態は変わってきますが,必要な装具の評価・検討を行い.採型したものが完成すれば適合のチェックが行われます.

装具が完成すれば,それを使用してのリハビリが開始されます.入院期間,様々な練習と機能回復を繰り返していきます.

症状の改善具合によって,装具の使用は継続されるか終了となるかは分かれますが.退院や転院は1つの区切りとなりますね.

この退院などの区切りが,入院中に処方された装具の「装具治療経過」となります.

これら,「装具を使用して行われた治療がどのような経過だったのか」をどのような形で行っていますか?というのが今回のアンケートの主旨でした.

かつて行われていた経過報告

きっかけとなった出来事

なぜ皆さんにこんな事を聞きたかったのかというと.私の施設で数年前にあった出来事がきっかけでした.

装具外来の予定の間に雑談や引き継ぎをしていた際に.義肢装具士さんから「あの難しい装具どうでした?」「難渋した装具の方どうされてます?」といった質問をされました.

無事に装具を使用できていたり,退院された方でしたので.お互いに一安心でしたが.これっておかしな事ですよね

装具を作成してくれている,装具の専門家である義肢装具士さんに.上手くいっていて問題ないとはいえ,装具のその後の経過が伝わっていなかったという事です.

便りがないのは良い便り?

もちろん,カルテ上には.装具の使用経過の記載があります.どの程度詳細に記載されているかは,施設によって差があるように思いますが.皆さんの施設ではいかがでしょうか?

行った微調整や,装具を使用してのリハビリの経過など事細かに記載している施設もあれば.「装具完成」の記載から,「経過良好のため装具終了」の間に何も記載がない事もあるかもしれません.

カルテの確認」は当然重要な方法なのですが,そもそも義肢装具士は病院に常駐していない施設がほとんどです.

外来で処方された装具の方が,また来院されたかどうかや.入院していた方が,退院したのか転院したのか全てを把握するのは困難です.

施設常駐の医療スタッフからの情報共有は不可欠ですよね.

使用していて問題があれば,当然調整の必要があります.微調整ならばセラピストが調整可能ですが,大きな加工が必要な場合には義肢装具士さんにお願いする必要があります.

良くも悪くも,情報は共有されます

ですが,特に何事もなく順調に装具が使用されていた時には.私の居た施設では装具使用後に特に決まった報告はされていませんでした

便りがないのは良い便り」状態になってしまっていたわけですね

改善のために必要な情報共有

現状を確認してみると

ユーザーさんにしてみれば.「え?そんな情報のやり取りもちゃんと出来てないの??」と思われてしまうかもしれません.実際そのとおりだと思います.

これは数年前の出来事なので,また実情は変わっているかもしれませんが.やはり多くは問題を抱えたままではないかと思います

「これではダメだ」と,当時「装具治療経過」の報告がどのように行われているか,義肢装具士さんに現状を確認してみると.

その対応は,今回のアンケート結果の割合に限りなく近いものでした.

もちろん,きちんと全件を書類で報告して情報共有している施設もあります.

ですが,それは義肢装具士さんが伺う多くの施設の中のほんの一握りで.多くは特に取り決めなく,問題あれば報告があるといったものでした.

当時の私は,「装具のアフタフォローをもっと改善しなくては!!」と.地域での連携など色々取り組んでいた時期だったのですが.

そもそも,フォローをするために重要な.装具作成時の医療チーム内ですら,情報の共有がきちんと出来ていないという事実に直面しました.

義肢装具士から見てみると

問題があった時だけ報告する,「便りがないのは良い便り」は.特に義肢装具士からみた情報共有に大きな問題があります.

装具が特に問題なく使用し続けられるのは良いことですが.数ヶ月後の診察で,症状の変化など様々な理由で装具調整の必要があるかもしれません.

そんな時,適合後何の情報共有もないまま.数カ月後に調整が必要な状態のユーザーさんと再会する事となってしまいます.

てっきり上手くいっていると思っていた方の装具が.数カ月後に急に調整の必要を言われるというのは,義肢装具士さんの「あるある」だそうで.

診察時に,急に調整の必要が発覚する事は多くありますが.それでも情報が共有されていない事による問題はありますよね.

装具のアフターフォロー

装具のアフターフォローをどのようにしていくのか,という視点でも情報共有がされていない事による問題は大きいですよね.

長期間使用する必要のある装具では,それだけ関わる医療チームの数も増えてきますが.それだけに,誰が主軸となってフォローしていくのかは大きな問題です.

装具のことは,やはり装具の専門家である義肢装具士さんの力を頼る場面が多くなりますが.そんな義肢装具士に情報が共有されていなければ,ユーザーさんが疑問を感じて相談しても.それまでの経緯が全く分からず対応のしようがありません

生活期の装具ユーザーさんにどのようなフォローをしていくのは重要な問題です.専門家同士の連携,地域での連携も必要となってくるでしょう.

それらを考えていくと同時に,本当に必要な情報が共有できているの?という確認をしていく必要もありますね.

情報共有で得られるもの

書面で共有できれば

装具を使用した経過がどうだったか?」という情報自体は.カルテにも記載があるでしょうし.転院や他施設を利用する際にも,サマリーなど書類でのやり取りをしているはずです.

共有する情報の精査は必要ですが.すでにある情報を共有するだけですし,ハードルはそこまで高くないはずですよね.

地域連携の一環としても,装具の情報が共有されていれば.その後のアフターフォローも行いやすく.相談先によって判断ができず.結局二度手間という事も起こりにくでしょう.

情報を共有する事で,何かが劇的に変わる事もないと思いますが.ユーザーさんと装具のフォローをしていく上で,連携の第一歩として「やっておくべき事」ではないかと思います.

よりよい装具を作成するために

また,そもそも論なのですが.

装具を作成してくれた義肢装具士さんに.装具療法を行った経過がどうであったのか?という情報が共有されていないというのは.どう考えてもおかしな話ですよね.

他の治療を行っていく中で.その経過を共有・確認し.成果を判断するという事がされていないなんて有り得ないことです.

本当に装具を使用して,改善していく気があるの?と言われてもおかしくないです.

もちろん,それぞれで評価はおこなっているはずですが,その共有は不十分なように思います.義肢装具士が常駐していないゆえに.本来行われていて当然の作業が疎かになってしまっている部分があるのではないでしょうか?

「コルセットだし,問題なく使えればいいか」とはいかないですよね.

治療経過の情報の蓄積は,当然つぎの装具作成時にはより良い装具を作成することに繋がっていきます.装具を使用してよりよい治療をしていくためにも,情報の共有は必須と言ってよいのではないでしょうか.

まとめ.

装具の治療経過報告のアンケート結果と,それに伴う情報共有の必要性に関するお話をしてきました.

Twitter上でのアンケート結果ではありますが.その割合は,かなり現実に近い比率のように感じます.

装具療法の経過を,義肢装具士にきちんと報告できていない」という事実は.文字に起こして客観的に見ると,かなりよろしくない状況という事が分かるのではないでしょうか.

当初は問題がなくても,長期間使用する装具に関しては.そのフォローをしていく上で情報共有の必要性は大きいです.

私の周囲では,取り組みによって少しずつ改善が見られていますが.義肢装具士さんに聞いてみると,まだまだ「便りがないのは良い便り」状態の施設は多いように感じます

あえて,もう一度問いかけてみたいですが.装具の経過を義肢装具士に報告していますか?

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NAZENANISOUGU

都内某施設でリハビリテーションに携わる理学療法士&義肢装具士です. 「装具」を使用する,ご本人や家族や,これから勉強する学生や新人さんに.装具ってどんなモノなのか?なんで着けるのか?使う時の注意は?など少しでも理解が広がればと思います.興味あれば是非フォローお願いします.

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NAZENANISOUGU