こんにちは,「なぜなに。装具」です.今回は「装具のフォロー」に関して装具に関わるユーザーさんや専門家の皆さんにご協力のお願いがあります.
装具を使用していく期間は,目的によって様々です.治療のための装具であれば,治療を行う一定期間を目安に使用されることとなりますが.日常生活を含めた長期間の使用が想定される場合には,変化していく状況に合わせて装具も調整を行っていく必要が多くあります.
ですが時として,残念ながら装具のフォローが満足に行えていない場合があります.その状況は様々ですが,いわゆる「装具難民」と呼ばれている方のフォローを行う事が,この「なぜなに。装具」を立ち上げた目的の1つです.今回,その一環として.義肢装具士のリモートによる装具に関する相談の受付を検討しています.
実際に,訪問のセラピストとリモートを通じてテストを行い.ある程度の相談であればリモートでも対応可能であるという事は分かっているのですが.現状では,セラピストや義肢装具士がこれまで関わりがあり.オフラインでも対応可能なユーザーさんとの相談に限られています.実際にリモートで運用した場合にどのようなメリット・デメリットがあるのか把握しきれていません.
そこで実際にリモートのみで,ユーザーさんのニーズにどこまで対応可能なのか,テストにご協力頂けるかたを募っています.今回は現状と,検討中のテスト内容についてお話していきます.少し長くなってしまいますが,装具に関わる方にはぜひご覧頂ければと思います.
装具を取り巻く環境は,ユーザーさんによって様々です.疾患も,装具を使用する期間も目的も,人それぞれで大きく変わってきます.
当然装具に関する「悩み」も人それぞれです.
挙げだせばキリがありません.
装具に関わるユーザーさん自身や,周囲に頼れる専門家が.こういった問題を認識し,正しく対応する事が出来れば装具と「よいお付き合い」を続けることが出来ると思います.
しかし,残念ながらそうではない場合も多くあります.
実際に使用されている装具の中には,問題を抱えたまま使用されていたり.本来必要な機能が無くなってしまったり.装具が必要であるのに,装具を使っていない…といった方が見受けられます.
いわゆる「装具難民」と呼ばれる,装具に対して必要なフォローを受ける事が出来ていない方々です.これには装具に纏わる様々な問題が関わっています.
本来,作成された装具であれば.医師やセラピスト,義肢装具士などがフォローをしていく必要があります.ですが,装具を使う期間が長くなると.だんだんとそのフォローが行き届かない場面が多くなってしまいます.
例えば,入院している時に作った装具だとすれば.
退院して日常生活に復帰すれば,装具を作成した病院との関わりはだんだんと少なくなっていきます.それ自体は悪いことでは無いのですが,装具のフォローに必要な,専門家との関わりが薄くなって行くことで.ユーザーさんとその装具は,誰のフォローもない「宙ぶらりん」の状態となってしまいます.
こういった構造を解決しようと,様々な試みが行われつつありますが.未だに装具のフォローが完全に行き届いている状況とは言えません.
装具は長く使用すれば消耗します.
など,破損や消耗によって.装具は本来必要な目的の機能を発揮出来なくなります.
また,身体の変化に伴う問題もあります.
装具を作成した時と,現在とでは身体の状態が大きく変わってしまう場合があります.装具もその変化に合わせたものでなければ,作成時の役割を果たす事が出来なくなってしまうかもしれません.
装具は身体に密着している事から,僅かな変化でもトラブルの原因となりかねません.装具の知識を持った専門家が,定期的にチェックして出来る環境でなければこういった問題が見過ごされたままとなってしまいます.
装具が本来の機能を果たしていない状態は,身体に悪影響がある状態である場合もあり.また,せっかく作って毎日着けている装具の意味も薄れてしまいます.ユーザーさんにとって不幸な状態です.適切なチェックと必要な対応をする専門知識が求められます.
現在の装具が「正しく機能しているものなのか」確認していく上で,医師,セラピスト,義肢装具士など専門家による定期的なチェックは欠かせません.
特に医学的判断が必要である場合には「医師の診察を受けること」が必要となってきます.疾患に関する事,装具の処方に関する事の双方で,最終的な判断が医師に委ねられるからです.
最も良い装具への対応は,「装具を処方した医師の診察を定期的に受け.専門家のチェックを受けること」と言えると思います.ですが,現実はそうもいかない事が多くあるのではないでしょうか.
退院後定期的に診察が予定されていれば,一緒に装具を診てもらうことが可能でしょう.しかし,定期的なチェックがなく,「何かあったら相談してください」という事も多いですし.日常生活で使用する装具では,相談に行くことも大変な場合があるかもしれません.
また,医学的な判断を必要としない加工や修理が必要な場合でも.それを行うためには「義肢装具士」と「装具制作会社」の力が必要です.
義肢装具士は病院に常駐していない事がほとんどで,会うためには日時を合わせて病院に行くか,装具制作会社に直接出向く事となります.しかし,装具ユーザーさんにとって遠方への移動のハードルは高い事も多いです.
出向くのが難しい場合には,義肢装具士さんに来てもらうしか無いですが.多くの義肢装具士は,決まった曜日と日時で病院と制作会社を行ったり来たりです.
なにか問題がハッキリしていれば,訪問の依頼もしやすいですが.「ちょっと相談したい」くらいでは,なかなか義肢装具士さんに訪問してもらう機会を作るのは難しいと感じてしまう事も多いかもしれません.
「気になる事はあるけれど,相談しに行くのはハードルが高い」という方もいらっしゃるのではないでしょうか.
いわゆる「装具難民」の方が抱える問題は様々で
といったケースが多くあります.
装具を作成した病院との関わりが全く無くなってしまえば.装具を医師に診てもらえるタイミングは無くなってしまいますし.転院や施設が変わったり,病院にいる義肢装具担当が変わって相談先に悩んでしまう方も多く対応が求められます.
そして,更に大きな問題となりやすいのが
といったケースです.
問題に気がついていれば,出来るかは別として何かしら解決のためのアクションを起こすことが出来ますが.問題に気が付かなければ,「それが普通」と思って問題があるまま装具を使い続けてしまいます.
そういった場合,問題がより一層大きく顕在化した時に発覚するため.対応が困難となってしまいます.
時には取り返しのつかない悪影響が起こってしまっている事もあります.そのため装具の定期的なチェックとフォローを行っていく事が重要となります.
現在,この装具のフォローに関する問題を解決するために.それぞれの専門家や地域での連携による様々な取り組みが行われています.
改善はされつつあるものの,まだまだ問題はあり装具ユーザー全てにフォローが行き届いていると言える状況ではありません.
今回の取り組みは,そういったフォローをユーザーさんに届けるようにするためのアプローチの一環です.
今回検討しているのは,義肢装具士によるリモートでの装具相談です.
以前からこういった試みは少しづつ行われていましたが.良くも悪くもコロナ禍によって,リモートでの通話と対応を行う事への認識と環境が,とても浸透したのではないでしょうか.
距離の制約が少なくなり,環境と機会さえ整えれば.これまでより遥かに容易に装具の相談を行うことが出来ます.
定期的なチェックを行う機会を増やすことが出来ますし,「ちょっと気になる」「これでいいのかな?」といったちょっとした疑問であっても,比較的気軽に相談が出来るのではないでしょうか.「装具難民」を少なくするためには,何より専門家のチェックをする機会を増やすことと,早期に発見することが重要です.
当然,リモートの画面越しに得られる情報には限界があります.装具をチェックする上で,直接触れることが出来ないのは大きなデメリットです.
細部のチェックはやはり専門家が直接みて確認していく必要があるでしょう.ですが,現状の装具難民の方が抱える問題の中には.ひと目見ただけで気がつくような,大きな問題を抱えている方も多く.「誰かがもっと早く気がついていれば…」と悔やまれるケースもまた多く存在します.
義肢装具の適合は「多くの医学的情報」の上に成り立っています.それ無くして適切な判断をする事は難しいです.
基本的な解決の方法としてはこれまでと大きく変わらず.医学的な判断を必要とする場合には医師の診察をお勧めする事となるでしょうし.もし,修理が必要ならば,義肢装具制作会社への連絡をお勧めする事となるでしょう.
大切なのは「きっかけづくり」です.
装具でお困りの方の中には,「ちょっと気になるけど様子を見よう」として.だんだんと状況が悪化してしまう方もいらっしゃいます.
多くのユーザーさんにとって,なにか問題を抱えていても
なかなか判断がつきづらいと思います.
チェックと相談の機会を増やし,必要なフォローとの連携を増やす事で「装具難民」と呼ばれる方を少しでも減らすことが,このリモート装具相談の最大の目的となっています.
ユーザーさんのフォローが目的ではありますが.フォローする側にもメリットがあります.前記の通り,義肢装具士は自宅に訪問して対応するという機会を多く設ける事が難しいのが現状です.
必要であれば,ご自宅で対応しますが.何の情報もなく伺う事となってしまうと.その場で対応出来ないケースも多く,再度対応のために訪問する必要が出てしまいます.義肢装具士にとってこれは大きな負担であり,相談する側にとっても気軽に相談しにくい原因の1つとなっています.
リモートの相談によって,直接義肢装具士が対応する必要があったとしても.あらかじめ情報があれば,最初の訪問のタイミングで必要な器具や,交換のパーツ,評価のための装具を準備して伺う事が可能です.
また,セラピストなどが訪問している場合でも.装具の必要性を検討する際に,義肢装具士の意見を比較的容易に確認する事ができます.
例えセラピストが,装具についての知識が少なかったとしても.専門的な知識を共有する事が出来るようになります.
リモートでの相談であれば,状況さえ整えばそれ以外の多くの専門家が同席することも可能です.多くの専門家の目と意見があれば,より良く装具を使っていく事が出来るようになるかも知れません.
もう1つの目的は,リモートによる相談で得られた「起こりやすい問題」の情報を共有することです.
情報を蓄積し,それを周知することも.装具難民を減らすためには重要なプロセスではないかと思います.
ユーザーさんは,よく起こる問題を知ることで.自身の問題に気が付きやすくなり,相談するきっかけを作る事が出来るかも知れません.
生活期に関わるセラピストは,装具との関わりが少なかったとしても.起こりやすい問題を知っていれば,早期の発見と対応の機会を作ることが出来ます.
装具作成時の医療チームも,起こりやすい問題やリスクの高い問題を予め知っていれば.予めユーザーさんに,チェックポイントと対策と対応をお伝えできます.
「問題に気が付かない」という事が,より問題を大きくしてしまいます.知っていれば,それぞれの立場で必要な行動をとるきっかけとなるはずです.そのためにも装具に関わる方全てに,情報の周知をすることが必要となるのではないでしょうか.
リモートでの装具相談の現状と,検討中のテストについてお話をしてきました.
出来ることはあくまで「相談」でしかなく,専門の機関で医師やセラピスト,義肢装具士と直接やり取りをするのが.理想であり基本の流れとなる必要があります.
とはいえ「装具外来受診しましょう」のひとことで解決するのであれば.装具難民と呼ばれる方が生まれるはずもなく,そこに至るまでのフォローときっかけ作りが重要だと思います.
リモートでの装具相談は,対象を限定すれば現状でも十分運用可能な方法ではありますが.その対象を広げると,多くの課題が出てくるのではないかと予想しています.
相談の内容は多岐に渡るでしょうし,得られる情報も限定される事から,判断が難しい場面も予想されます.使用されるデバイスや撮影の環境によって,得られる情報にも大きな差が出てきてしまいます.
また,連携して対応するためにはユーザーさんと直接対応できる義肢装具制作会社さんの協力も必要となってきます.
そのため,装具に関わる多くの方に.テストにご協力をお願いできればと思っています.具体的な内容については,本ブログやTwitterなどを通じて今後告知をしていきますので.ぜひ→Twitterアカウントもフォローして頂ければと思います.
ご意見・要望などあればコメント頂けると嬉しいです.