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脳卒中装具の足継手:ダブルクレンザック継手

SHBはそのシンプルな構造から,基本的な装具の1つとして.装具の機能や役割を学ぶ際にも重要な装具でした.

その一方で,ダブルクレンザック継手を使用した両側支柱付短下肢装具は.その特徴から,装具を検討する際にその1つの指標となる.短下肢装具を使用していく上での,基本となりうる装具と言えるものです.

脳卒中のリハビリにおいて,特に治療用装具としては出番が少なくなりつつあるSHBに対して.両側支柱付短下肢装具は,必ず一定の使用機会が存在する装具です.

SHB
Wクレンザック

今回はそんな両側支柱付短下肢装具とその機能の多く決めるダブルクレンザック継手の,基本的な特徴についてお話していきます.

両側支柱付短下肢装具の概要

基本的な部分については,↓記事をご覧頂ければと思いますが.

タイプによって,若干構成が変わるものの.

基本的には,金属部分である

  • 支柱
  • 継手
  • 半月
  • あぶみ

と.下腿,足部を固定する

  • 下腿カフ
  • 足部覆い(など)

によって構成されています.

その名称ともなっている,内外側にある金属支柱は.支持性に大きく寄与しているのですが.同時に各方向への運動の制御にも大きな役割を持っています.金属部分である,支柱,継手,半月,あぶみが金属で出来た閉じた輪を形成することで.装具に大きな剛性をもたらします

その他の装具でも,一部が金属の装具は多いですが,カーボンなどで補強が行われるものの.金属で連結されていないプラスチック部分などは撓みを許します

閉じた輪の安定性は,セラピストもよく理解しているところではありますが.この構造の違いは,内外旋,内外反の制御に大きな差が生まれます.特にあぶみは,内外反の制御に大きな役割を持っていますね.

水平・前額面の足関節の動きを撓むこと無く「完全に制約する」ことは.両側支柱付短下肢装具を使用する目的の大きな1つとなっています.

ダブルクレンザック継手の機能

支柱,半月,あぶみが,内・外回旋,内・外反の制御を行う一方で.継手足関節底・背屈の制御を行います.

ダブルクレンザック継手は,両側支柱付短下肢装具に使用する継手の中でも最もポピュラーなものではないかと思います.

ロッドとナットの固定によって.任意の角度での「固定」や,「制限」と「遊動」を設定する事が可能であり.

すべての足継手の中でも,とても優れた「調整性」を持っている継手です.

後記しますが,この「支持性」と「調整性」は.脳卒中の回復過程で行われるリハビリで大きな力を発揮します.

安全を考慮すると,調整時には装具を一度外して頂く必要がありますが.六角レンチとドライバーがあれば,あとは知識さえあれば誰でも調整することが出来ます

固定角度を調整する際には,4本のロッド全ての調整が必要なので慣れるまで時間が必要ですが.専門的な技術を必要とせず,義肢装具士さんが不在でも調整できる事は重要です

せっかく調整性のある継手を選択しても.次に義肢装具士さんが来院するタイミングに先延ばしになっては.機能を活かせず勿体ないですよね.

メリットとデメリット

ダブルクレンザック継手を使用した両側支柱付短下肢装具は,非常にメリットとデメリットのハッキリした継手です.他の継手や装具では対応が困難な場面で使用される事が多く,「必要だから選ぶ」場合が多い継手でもあります

どんなメリットが必要とされていて,その際にどんなデメリットに注意する必要があるのかについて知ることは.装具の検討を行う際に,重要な基準の1つとなります.

ダブルクレンザック継手のメリット

ダブルクレンザック継手を使用した両側支柱付短下肢装具の最大のメリットは前記にもある通り

  • 強固な支持性
  • 継手の調整性

の2つが大きな理由となっています.

特に支持性については,全ての継手の中でも最も強固な支持を持っているため.取りうる選択肢で事実上の上限値です.

著名な筋緊張や,内反などの変形の矯正やそれに伴うアライメントの不良を支持するためには.強固な支持性が求められる事が多く.唯一の選択肢と言っても良いのが現状ではないでしょうか.

最も強固であるがゆえに,継手を選択する際には「1つの基準」となります

更に強い支持性が必要な場合には,この両側支柱付短下肢装具を更に加工して支持性を補強する方法が殆どです.

あぶみに側方の支柱を追加したり,足板を延長したり,支柱を厚みのあるものを選択したりと.体重を含めたかかる負荷を検討した上で選択する必要があります.

持性の不足は,下肢の制御だけでなく.装具の破損のリスクを高めます.義肢装具士さんとよく相談した上で検討しなくてはならないですね.

また脳卒中の回復過程と機能の獲得のためには.歩行を1例にしても,様々な課題を獲得しながら「目標となる歩行」を目指す事となります.

これは長下肢装具として使用することも加味するとより顕著となりますが.現在の能力と獲得したい課題の難易度状況に合わせて調整できる事は非常に大きなメリットとなっています.

装具の調整の幅は,目標の課題との間に用意できる「ステップの数」です.

長下肢装具を使用する時には,乗り継ぎながら獲得したい課題の数も多くなることでしょう.

ダブルクレンザック継手を使用した両側支柱付短下肢装具は,全ての短下肢装具の中でも.多くの状況に対応する事が可能な装具と言えますね.

ダブルグレンザック継手のデメリット

時として,ダブルクレンザック継手以外の選択肢がない場合もありますが.それでもデメリットについては意識する必要がありますし,選択する際の問題となる事もあります.

そのデメリットの多くはメリットの裏返しで.金属製であることに起因していますが

  • 外観
  • 嵩張り
  • 重さ
  • 金属音

などが挙げられるのではないでしょうか.

特に外観に関しては,いかにも装具」といったもので.受け入れがたい事があるかもしれません.

強固な支持性のためには,ほぼ選択肢がない事も事実ですが.ユーザーさんへの説明はしっかりとしたいです.

同様に嵩張りも,解決し難い問題です.足部のタイプによってその問題の程度は変わってきますが.継手部分に必要な幅に変わりはなく,この上に靴を履く場合には大きな制限を受けてしまいます

金属パーツが多く使われている事で,短下肢装具の中でも強い支持性を得られている代償に.その重量も大きなものとなってしまっています.

外観と重量に関しては,フルオーダーのカーボン支柱などによって緩和するという手段が一応存在しますが.

その部分に関しては基本的に自費となり非常に高額で.フィッティングの調整が困難となってしまうため.特に脳卒中リハビリの治療用短下肢装具としては,向いている選択肢とは言えません

また,ダブルクレンザック継手を「固定」している時には問題が少ないものの.「制限」として使っている時に特に問題となってくるのが継手の金属音です.

金属同士が干渉することによる「ガチャガチャ」という金属音は,日常生活での使用時に気になることが多いです.

実際使ってみて問題と感じることも多い点であるため.製作時にはこういったデメリットも事前にお伝えしなくてはならないですね

継手に追加する機能

ダブルクレンザック継手が行っている「遊動」や「制限」は.その制限する角度によって足関節の動作を制約して難易度を調整しています.

ですが,その遊動区間では継手はなんの制御も行っておらず.その点においては「1」か「0」になってしまいます

KAFOからAFOにカットダウンする時のように,その制約が全く無くなるというのは難易度がとても高くなるもので.時としてそれは足関節の制御でも同様です.

そんな場合には「スクエアバネ」などに代表される,継手に「制動」の機能を持たせるパーツを使用する方法があります.

「制動」は有効に使うことが出来れば.「制限」と「遊動」の間を繋ぐ「補助のステップ」を追加することができます.

角度の調整は出来なくなってしまいますが,フレキシブルなSHB程度の制動を追加する事が出来るため.

制動力に違いがあり体重支持する力はないものの.RAPS-AFOと似たような「難易度調整の段階」を用意する事が可能です

ダブルクレンザック継手は脳卒中のリハビリに用いる装具として,こういったパーツを使用する事も含めると.「油圧による立脚初期の制御」という特別な状況を除いて,著名な痙性や変形に求められる支持性から,回復の過程に合わせた調整まで.

何でも出来る短下肢装具」と言える存在になります

予後の予測が難しい場合や,症状の程度によって立位や歩行の条件が厳しい場合など,何が起こっても対応できる可能性のある,ある意味で「無難な選択肢」とも言えます,

デメリットも大きいものの,それを上回る必要性や有用性がある場合が多い装具なので.装具検討の際には,ここを基準として他の継手にどんな使用するメリットがあるのか考えていく場合も多いのではないでしょうか.

まとめ.

ダブルクレンザック継手を使用した両側支柱付短下肢装具のメリットとデメリットについてお話をしました.

この装具は金属製であることと,その継手の特徴から.短下肢装具の中でも非常に優れた「支持性」と「調整性」をもった継手です

そのメリットは脳卒中のリハビリに用いる際に,長下肢装具として使用していく期間も含めて.求められる機能を持っており,選択される事が多い装具と言えるのではないでしょうか.

実際のリハビリでの使用については,今後触れていくとして.そのメリット・デメリットはとてもハッキリとしたものです.

私達作成する側は,そのメリットと必要性を十分に理解した上で選択する事となりますが.多くのユーザーさんにとっては当然知る所ではありません

必要性が大きい装具であるがゆえに必要性が先行し,ユーザーさんへのデメリットなどの説明が不十分となる事も起こりがちです.

どれだけ必要なものでも,ユーザーさんの理解が得られなければ,その価値は大きく下がってしまいます.メリット・デメリットをよく理解した上で,それをユーザーさんと共有できるようにしなければならないですね!

資料提供

今回の記事を作成するにあたり引き続き,「ダブルクレンザック継手」の資料提供を義肢装具総合メーカーの「株式会社 小原工業」様からご協力いただきました.

今回の記事でも触れた「スクエアバネ」についても,ぜひご覧頂ければと思います.

株式会社 小原工業 ホームページ

http://www.obara-kogyo.jp/product/%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%82%A8%E3%82%A2%E3%83%90%E3%83%8D/

参考資料

公益財団法人テクノエイド協会,補装具費支給事務ガイドブック,p38

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000070149.pdf

日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p348

日本義肢装具学会 監修,装具学,医歯薬出版,第3版,p2-

加倉井周一,新編 装具治療マニュアル-疾患別・症状別適応-,医歯薬出版,第2版,p56-

村山稔,アメリカ式ダブルクレンザック足継手に使用する底屈制動バネの開発,POアカデミージャーナル,巻:23 号: 1 ,p 36-41 , 2015

脳卒中片麻痺装具の素材,川村 一郎,日本義肢装具学会誌,1991,7 巻 3 号,p289-297

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspo1985/7/3/7_3_289/_pdf/-char/ja

脳卒中片麻痺患者の下肢装具,大竹 朗,理学療法学,2012, 39 巻 7 号 ,p427-434

https://www.jstage.jst.go.jp/article/rigaku/39/7/39_KJ00008521513/_pdf/-char/ja

脳卒中重度片麻痺者の歩行再建をめざした回復期病棟での理学療法,門脇 敬,理学療法学,2020,47 巻 4 号 ,p369-376

https://www.jstage.jst.go.jp/article/rigaku/47/4/47_47-4kikaku_Kadowaki_Kei/_pdf/-char/ja

NAZENANISOUGU

都内某施設でリハビリテーションに携わる理学療法士&義肢装具士です. 「装具」を使用する,ご本人や家族や,これから勉強する学生や新人さんに.装具ってどんなモノなのか?なんで着けるのか?使う時の注意は?など少しでも理解が広がればと思います.興味あれば是非フォローお願いします.