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脳卒中下肢装具 足継手の制約まとめ

どの足継手を使用するか?」は,装具に関わり始めた新人セラピストの悩みのタネであると同時に.熟練したセラピストでも,様々な要素を加味した上で選択する必要がある,装具の機能を決める大きなポイントだと思います.

今回は,脳卒中のリハビリに使用される下肢装具の足継手が,どのような制約を行っているのかまとめていきたいと思います.

脳卒中リハの装具は「練習道具」としての側面が強いですが.どんな練習をするのに向いている道具なのかは,その機能を知ることが最初の一歩ですよね.

はじめに.

歩行の獲得などを目的とした,脳卒中片麻痺などで用いられる装具の役割は.

ものすごく要約してしまうと

運動の一部を制約する事で,練習の難易度を下げて.運動学習を行いやすい条件を作る

という事だと思います.

足継手による自由度の制約

運動の自由度を制約することで,一部の動作の制御は装具に任せて.取り組むべき課題に集中する訳ですが.

脳卒中の回復の過程で,変化していく取り組むべき課題にあった装具の選択が求められます.

足継手」という事で見ていくと,元々自由度6の足関節の制約を行う事が目的となるわけですが.一部の特殊な足継手を除いて,基本的には「内・外旋」「内・外反」は完全に制約されています

短下肢装具を使用するという事は,基本的に6つある運動方向を,「底・背屈」の2つに制約し.更にその上で継手の特性によって,底・背屈をどのように制御するかが変わってきます.

今回は継手の種類によって,「背屈域」と「底屈域」にどのような制御を行うことが出来るのかをまとめていきます.

足継手の制御

解説をしていく上で,前提となるお話を少ししておきましょう.御存知の方は読み飛ばしていただいでも大丈夫です.

足継手が行う制御は

  • 遊動
  • 固定
  • 制限
  • 制動
  • 補助

の5つだけです.

それぞれの詳細について知りたい方は→の記事を見ていただきたいのですが.

数多くある足継手は,5つの組み合わせと.その中で特徴の違いがあるのに過ぎません.どんな制御を行う継手かは,その継手の機能を決める非常に大きな要素です.

脳卒中の回復過程で,歩行での足関節の制御は.「背屈域」の獲得から次第に「底屈域」の制御の獲得へ移り変わっていくもので.装具の足継手もそれを踏襲したものとなっています.

今回の解説では,本来の用語と微妙にズレが生じてしまいますが.

  • 底屈・背屈域それぞれで,可動域を完全に制約する場合を「固定
  • 底屈・背屈域それぞれで,可動域を一部の制約する場合を「制限
  • 底屈・背屈域それぞれで,可動域を全く制約しない場合を「遊動

と解説の都合上呼んでいきます.

正確には,足関節の可動域を完全に制約する事を「固定」と呼びますし.可動域の一部を制約する場合には「制限」される区間と「遊動」の区間が存在するのですが.詳細は「下肢装具足継手の基本」の記事を御覧ください.

継手の紹介

今回は足継手が調節可能である,自由度0~2の間で.それぞれの継手にどのような特徴があるのかを確認していきます.

前記の通り,脳卒中の回復過程で足関節の制御としては.自由度0の底背屈「固定」から.背屈を「遊動」とした自由度1を経て,底屈背屈「遊動」の自由度2へと至る事が多いので(もちろん状況によって様々ですが)

その過程で継手がどのような役割を持つのか確認していきます.

今回は継手の数も多いので

  • 背屈・底屈ともに制約の調整が出来るタイプ
  • 背屈・底屈ともに一部だけ制約の調整が出来るタイプ
  • 底屈の制約を調整が出来るタイプ

にグループ分けして紹介していこうと思います.

継手の詳細については,今後1つずつ触れていくので.そちらを確認して頂きたいです.

背屈・底屈ともに制約の調整が出来るタイプ

調整の幅が最も大きいタイプであり.難易度の段階を多く設定できる事から,脳卒中の回復過程で多くの条件に対応することが出来ます.

調節は可逆である事も重要で,練習の課題の調整や獲得したい動作などに合わせて.その都度行った調整をもとに戻す事が出来ることも重要です.

ダブルクレンザック継手

ダブルクレンザック継手」は,脳卒中のリハビリで用いられる装具の継手の中で,1つの基準となっている継手と言えます.

固定」「制限」「遊動」と角度の調整が可能です.

その広い調整の幅強固な固定から,幅広い回復の経過の中で必要とされる条件に対応することが出来ます.また,両側支柱付の短下肢装具という特徴から,内・外反の制御を「最も」行える継手と言っても良いですね.

付属のパーツを替えることで更に調整幅を増やせますが.それはまた詳細をお話する機会に.よくある選択肢の中で,最も強い制約と,大きな調整幅を持っています.

ダブルクレンザック

PDC継手

PDC継手」は,底背屈の制御ではダブルクレンザックと全く同じで.

固定」「制限」「遊動」と角度の調整が可能です.

両側支柱付ではなくプラスチック短下肢装具として使用する継手であるため.制約の強さではダブルクレンザックに及びませんが.同様の調整幅を持っているため多くの条件に対応することが出来ます.

PDC

RAPS

RAPS-AFO後方にある継手と,カーボン製の後方支柱によって足関節の制約を行う継手です.

継手では「固定」「制限」「遊動」と角度の調整が可能な事に加えて.支柱は硬さが4種類あり,それによって「制動」の力を変化させることが出来ます.

この事から,「RAPS」は現在よく使われる継手の中では最も調整の幅が広い継手の1つです.

後方支柱ゆえの靴の問題や,強い内外反を制御する事は難しいですが.様々な条件での課題設定を行いやすい装具です.

RAPS

背屈・底屈ともに一部だけ制約の調整が出来るタイプ

続いて,制約の程度を微妙にですが調整できるタイプです.

主にプラスチックなどの撓みを利用して「制動」を行うものが該当しますが,調整の幅には限界があり.また,その調整は不可逆であることが多いです.

SHB(シューホーンブレース)

継手というよりは,短下肢装具としての特性ですが.SHB(シューホーンブレース)にも底屈・背屈に機械軸がありそれぞれが底背屈を制御しています.

プラスチックの厚みと,装具のトリミングラインによって制約の程度は変わり.硬いSHBとして作成すれば底背屈「固定」に.柔らかくなるに従って底背屈「制動」を行います.「制動」によるある程度の動作を許容しながらの制約が可能です.

シンプルな構造のため,全ての短下肢装具の中でもかなり軽いというメリットがある一方で.

プラスチックの厚みとトリミングの組み合わせ次第で,調整できる幅に限界があり.その調整は不可逆です.

SHB

オルトップLH+,SPS

SHBと同様に装具としての特性となるのですが.非常によく使用される既製品装具ですので紹介しておきます.

オルトップLH+SPS-AFOでは制動力など違いがありますが.役割としては同様なので今回は一括とします.

いわゆる,「ショートSHB」がここに該当し.固定を行うような制動力は無く.底屈・背屈をSHBと比較すると弱い「制動」による制約をしています.

トリミングの調整で制動力を小さくすることは出来ますが限界があり.装具の強度を保ちながら「遊動」とする事は難しいです.

あくまで調整は「制動」での範囲内となります.

オルトップLH+

底屈の制約を調整が出来るタイプ

ここからは,底屈の制約を調整出来るタイプの継手です.背屈の制約は調整することが出来ず全て「遊動」です.自ずと,足関節背屈は自身で制御する必要があるため運動学習の難易度としては高いものとなってきます.

オクラホマ継手

オクラホマ継手」は,底屈の制約のみを行う継手の中で最もオーソドックスな継手かもしれません.

背屈は「遊動」で制約をしていません.

基本的には制作した際の初期角度での底屈「固定」をする継手で.必要に応じて後方のバンパーなどを調整することで,底屈の「制限」角度を調整します.

オクラホマ継手

タマラック継手

タマラック継手」は底背屈の制約はオクラホマ継手と同じです.同様に底屈の制約のみを行う継手の中ではよく使用されるものですね.

オクラホマ継手との違いとして,タマラック継手は継手自体の撓みによって僅かに内外旋を許しています

制約は少なくなり,運動学習の難易度は高くなるので.どちらを活かすのか,状況に合わせた使い分けが必要です.

タマラック継手

ゲイトソリューション(GS)継手

ゲイトソリューション(GS)継手」は,油圧ユニットによって底屈の「制動」を行う継手です.

油圧による制動は,プラスチックやカーボン支柱の撓みによる制動とは特性が異なり.速くて大きな力に対して制動力を発揮しやすいです.

その特性から,立脚期IC~LRのロッカー機能の代償をする事に非常に優れていますが.一方で筋緊張による底屈位を制御するのには限界があります

背屈は「遊動」で,底屈もある程度の「制動」であることから.継手の制約としての機能は小さく.運動学習の難易度は高くなります

GS継手

オルトップAFO

装具としての特性ですが,よく用いられる既製品装具なので例に挙げておきましょう.

前記した,オルトップLH+よりも更に制動力が小さく.底背屈「制動」を行う装具ではあるものの,実際のところ背屈を制動する力はほぼ無く実質背屈「遊動」と言って良いでしょう.

底屈「制動」も制動力は小さく,脳卒中で使用される場合には裸足歩行のオプションとして選択される事がある程度でしょうか?

下垂足」用の底屈制動と言って良いかもしれません.

オルトップAFO

まとめ

脳卒中のリハビリに用いられる足継手の制約についてまとめました.

数ある短下肢装具の足継手ですが.大きく分類すると特殊なものを除いて,このような分類が出来ると思います.

どのような制約をしているかは,「装具の機能」そのものと言って良いのではないでしょうか.それは,どのような状況で使用するのか?にも関わってきます.

調節の幅が広ければ多くの場面に対応する事が可能ですが.回復の過程にどのような課題と運動学習をして行くかによって.必要となるステップの難易度と数は変わってきます.

行いたい練習をするために,どの道具を選ぶのか」は練習道具である装具の知識がもちろん必要となってきます.継手の制約はその1歩目と言えますね.

実際は装具そのものの特性も関わってきますが.今回の「足継手の制約」と「調整可能な幅」を知っているだけで.行っていくであろう課題の難易度に向いている装具かどうか少し分かってくるかもしれません.

装具の特性や実際どのように使われているかは,今後1つずつ紹介していきますので.そちらのもぜひご覧頂ければ,より装具について知ることが出来るのではないかと思います.

参考文献

日本義肢装具学会 監修,装具学,医歯薬出版,第3版,p60

日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p232

株式会社 小原工業

http://www.obara-kogyo.jp/wp/wp-content/uploads/2017/04/square3.pdf

東名ブレース RAPS-AFO

https://www.tomeibrace.co.jp/catalog/pdf/raps.pdf

東名ブレース SPS-AFO

http://www.tomeibrace.co.jp/catalog/pdf/sps-afo.pdf

パシフィックサプライ オルトップAFO

https://www.p-supply.co.jp/products/index.php?act=detail&pid=9

パシフィックサプライ オルトップLH+

https://www.p-supply.co.jp/products/index.php?act=detail&pid=7

パシフィックサプライ ゲイトソリューション/ゲイトソリューションデザイン

https://www.p-supply.co.jp/products/index.php?act=detail&pid=375

NAZENANISOUGU

都内某施設でリハビリテーションに携わる理学療法士&義肢装具士です. 「装具」を使用する,ご本人や家族や,これから勉強する学生や新人さんに.装具ってどんなモノなのか?なんで着けるのか?使う時の注意は?など少しでも理解が広がればと思います.興味あれば是非フォローお願いします.