ゲイトソリューション継手は,脳卒中に用いられる装具の継手として.油圧ダンパーによる底屈制動を行うという,現在においても特殊な制御を行うことが出来る継手です.
もはやあるのが当たり前になって久しいこの継手ですが,一時は「良いらしいから使う」というひどい理解不足から.適応とは言えない状況でも使用されてしまう不幸を背負った装具でもありました.
GS継手についてお話をしていく前に,そもそもこの継手は,どんな経緯で,何を目的として,どんな機能が求められて作られたのかについて知っておくことが大切ではないかと思います.
それを知る上で,GS継手の前身とも言える存在である.「DACS-AFO」について,どういったものだったのか簡単にお話していこうと思います.
DACS-AFOは,「DACS力源ユニット」を使用した装具のことです.装具の継手としてはオクラホマなどの単軸継手が使用される事が多かったのではないでしょうか.
DACSは「Dorsiflexion Assist Controlled by Spring」の頭文字を取ったもので,スプリングによって背屈補助を行う力源ユニットが下腿後面に装着されています.
公益財団法人テクノエイド協会 より
http://www.techno-aids.or.jp/kaihatsu/j_35.shtml
90年代中盤から開発がされたこの装具ですが.私自身が臨床でこの装具に出会ったのは,「この装具を持っていた」という方に1度お会いした事があるだけです.
養成校にDACS-AFOのデモ機があり,ゲイトソリューションデザインと共に授業で紹介されて.「装具でも,機能も外観も進化した物が出てきているんだ」と思ったのが印象に残っています.
私が臨床に出た時には,すでにゲイトソリューションは使用される機会が増えてきていたので.DACS-AFOはその役目を譲っていました.
ですので今回のお話は,伝え聞いた部分も多くなります.詳細は参考文献をご覧頂くと,開発の経緯などより分かりやすいと思いますので.そちらも併せて見ていただければと思います.
当時よく使用されていた装具は大まかに分類すると
となっています.現在でも良く使用される装具ですよね.
脳卒中のリハビリでこれらの装具を使用していく上で,いくつかの問題がありました.
機能回復が進み,動作が正常歩行に近づけば近づくほど.装具の与える「機械的な力」と,可能になってきた正常歩行を行う「生体の動き」との差が徐々に大きくなっていってしまうというものでした.
正常歩行については割愛しますが.今回のお話は「観察による歩行分析」の内容に沿っていきますので.そちらを併せて見ていただければと思います.
既存の装具に起こる問題点が,具体的にどういった点か見ていきましょう.
問題となるのは,短下肢装具の立脚相制御です.その中で例を挙げていきましょう.
IC~LRにかけて正常歩行では,IC後に前脛骨筋の遠心性収縮を行いLRに至りますが.SHBなどでは装具の底屈制動を使ってその機能の代償・補助を行っています.
ですが,正常歩行に近づくほど.この立脚初期の制御は繊細な調整が求められます.
ダブルクレンザック継手や,オクラホマ継手などを「底屈制限」として使用する場合には.底屈の可動域が制限されるため,LRを経ることなくMStへ移行します.
SHBの制動では,この代償を行う事が出来るのですが.適切な制動力でなければ問題が起こってしまいます.
底屈制動が強すぎれば,制限を行った時と同様に足関節底屈を許さず,LRを経る事なくMStへ移行してしまいます.
逆に底屈制動が弱すぎれば,前脛骨筋の遠心性収縮を代償することが出来ず,ヒールロッカーを制御する事が出来ません.
このように,立脚初期の底屈制動による制御は.強すぎても弱すぎてもIC~MStに影響を与えます.
制限角度を調整できるものの,制限か遊動の2択となってしまうダブルクレンザック継手などと.
制動によってヒールロッカーの代償は出来るものの,トリミングによる微調整で制動力を変える必要があり.その調整が不可逆なSHBなどの選択肢が主なものでした.
SHBの持つこういった特徴については,コチラ↓の記事で
脳卒中のリハビリで使用される装具の中で,最も基本的な装具であるSHBについてお話していきます.今回の記事は,前回の脳卒中装具の足継手:SHB(シューホーンブレース)→記事を読んで頂いている事を前提に進めていきますので.特にSHBのメリット・デメリットについては目を通して頂ければと思います.新人の頃,リハDrが装具の選択についてまず教えてくれたのが... 脳卒中リハビリにおける SHBの機能と役割 - なぜなに。装具 まとめ |
他にも,バネの力を利用して底背屈の制動・補助を行う.PDAなどの選択肢もありましたが,これはどちらかというと底背屈の「補助」を目的としたものでした.
立脚初期に前脛骨筋の遠心性収縮の代償として,継手に働く底屈モーメントはとても大きなものです.
そんな大きな底屈モーメントを支えるためには.PDA継手のモーメントアームはあまりに短く.当時の継手に入っていたバネの力ではとても支えられるものではありませんでした.
そのためPDAに制動力を求めることは難しく.適切な底屈制動を行う事が出来る.新たな継手が求められます.
調整が困難であるものの,SHBは適切にトリミングを調整すれば.立脚初期の底屈モーメントを補うのに十分な制動力を発揮することは出来ます.
ですが,SHBにはまだ課題があります.
1つ目は,生体の足関節軸である「生理軸」と.SHBの底背屈を行う「機械軸」にズレがあることです.
リジットやセミリジットのSHBとして使用していた時には,そのとても強い制動力から底背屈可動域が制限され.良くも悪くも影響が少なかったのですが.
機能回復に伴い能動的に制御できる足関節可動域が増えてきて,フレキシブルなSHBとなると.可動域の最終域に近づくほど,足と装具のズレが大きくなります.
2つ目は,SHBに底屈制動に必ずセットでついてくる背屈制動です.
強すぎる背屈制動は,MStからTStへの移行がしにくくなり.前型歩行の妨げや早期の踵離床に繋がってしまいます.どれだけトリミングを削っても背屈制動を小さくするのには限界があります.
機能回復が進み,膝折れの心配がなく,背屈の制御が必要なくなった段階では.SHBの背屈制動は不要な制約となります.その条件では,オクラホマ継手などのように背屈を遊動とすることでアンクルロッカーの後半を妨げないような装具が求められます.
3つめに,SHBがプラスチックの撓みを利用して制動力を生み出しているため.その撓みが戻る時には,同等の強さの補助を発生させるということです.
底屈の制動力が大きくなれば,必ず大きな背屈補助が起こります.上手く作用している時にはプラスに働きますが.強すぎる背屈補助はLR~MStに,下腿を前方に強く押すため.早期にMStへ移行します.
脳卒中のリハビリをしていく上で,通常歩行に近い動作を行うために.既存の装具にいくつかの課題がありました.
必要となる機能として
という既存の装具になかった機能が求められたことから.DACS-AFOが誕生することとなりました.
こういった開発経緯があったそうですが.現在でも装具の適応を検討する際に,考えていく事のベースとなっている部分も多いのではないでしょうか.
DACS-AFOが実際どのような装具なのかについては,また次回お話していきましょう.
日本義肢装具学会 監修,装具学,医歯薬出版,第3版,p62-
kirsten gotz-neumann,観察による歩行分析,医学書院,2005,p54-
公益財団法人テクノエイド協会 DACS力源ユニット
http://www.techno-aids.or.jp/kaihatsu/j_35.shtml
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https://www.jstage.jst.go.jp/article/rika/18/3/18_3_115/_pdf/-char/ja
山本 澄子,バイオメカニクスから見た片麻痺者の短下肢装具と運動療法,理学療法学,2012 年 39 巻 4 号 p. 240-244
https://www.jstage.jst.go.jp/article/rigaku/39/4/39_KJ00008113248/_pdf/-char/ja
山本 澄子,片麻痺者のための背屈補助付短下肢装具 (DACS AFO) の開発,日本義肢装具学会誌,1997 年 13 巻 2 号 p. 131-138
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspo1985/13/2/13_2_131/_pdf/-char/ja
萩原 章由,足継手の調整ができる治療用装具,日本義肢装具学会誌,2007 年 23 巻 2 号 p. 142-146
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横山 修,油圧機構を用いた短下肢装具,総合リハビリテーション 30巻4号,p.363-368
https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1552109742
溝部 朋文,油圧機構を足継手に用いたAFOと理学療法,理学療法ジャーナル 36巻9号,p.651-657
https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1551106110
パシフィックサプライ ゲイトソリューション
https://www.p-supply.co.jp/products/index.php?act=detail&pid=375