国家試験が終わってやっと落ち着いたと思ったら.新たな生活が始まって慌ただしい日々が続いていると思います.今年の新人さん達も少しづつ新しい環境に慣れ始めたでしょうか?
毎日学ぶ事ばかりで,日々勉強といった方が多いのではないでしょうか.何ヶ月かすれば装具を使用されている方と関わることもあるので.それについても学ぶ事になっていくのではと思います.
今回は脳卒中のリハビリでよく用いられる下肢装具について,これから学んでいく上で新人さんに知っておいて欲しいことについてお話していきます.
国家試験の勉強をして,装具の名称や大まかな機能は比較的頭に入っていると思うので.特に脳卒中などに関わる新人さんは,その上に積み重ねていく知識の前提として知っておいて頂ければと思います.
今回お話していくのは,脳卒中リハビリで用いられる装具の中でも「治療用装具」についてです.その名の通り治療のために使用される装具で,機能回復などを目的とした装具です.
一方で,症状の回復がある程度落ち着いた障害固定後に.作成・使用される装具は「更生用装具」と呼ばれ.失われた機能の代償と,日常生活の改善などを目的として使用されます.
この2つは,支給される制度の違いでもあるのですが.その目的や役割も異なります.あまり学校で学ぶような内容でもないように思うので.大まかに分類するとこの2種類があるんだという事を,まず頭にいれて貰えればと思います.
適応の装具を選んで「歩けるようになる」ために使う.といった漠然としたイメージがあるかもしれません.今回まず新人さんに知っておいて欲しい事の1つ目が.
おそらく患者さんも考えるであろう,この漠然とした「歩けるようになる」には.ちゃんと整理しておかなければならない違った意味があるということです.それはまさに,先程触れた「治療用装具」と「更生用装具」に違いに大きく関わってきます.
1つの意味として,失われた機能を代償する事で.
ということです.
立つため,歩くため,外出のため,仕事のため,など理由は様々ですが.目的のために必要な能力を補うために使用される事が多いため.
前記の通り,主に「更生用装具」に多く求められます.
もう1つの意味として,治療やリハビリの結果として
という点です.
「(装具を使って練習したことで)歩けるようになる」ので,前者とは意味合いが異なります.治療用装具はこのどちらの意味合いも大切ですが,特に脳卒中に用いられる治療用装具では「機能回復によって歩けるようになる」という点が重要となってきます.
脳卒中から離れますが,1つ分かりやすい例を挙げると.
対麻痺に用いられる,「骨盤帯付き両長下肢装具」は.
やっていることは同じ「歩くこと」かもしれませんが,使用する目的も場面も変わるため.装具に求められる機能も変わってくることとなります.
機能の代償を行うことで移動の手段となり,「生活必需品」のような立ち位置になる装具と.機能回復のための「練習道具」としての立ち位置にある装具とでは,話が変わってきますよね.
脳卒中に用いられる装具では,この2つの意味合いが混在しますが.何を目的とした装具が必要となっているのかは,しっかりと整理をしておく必要があります.
新人さんに知っておいて欲しい事2つ目は.
脳卒中のリハビリで使用される治療用装具は.先程触れた通り「練習道具」としての側面が強いということです.
今の所,「この装具を着けたら機能回復する」なんて都合の良い装具は存在していません.
装具を使用しての早期の歩行訓練開始は,歩行能力の獲得や日常生活動作の獲得に有用であるとされていますが.
これは「装具を着けたらから」ではなく.
「装具を着けて練習したから」ですよね.
装具はあくまで「練習道具」であり,大切なのはそれを使ってどんな練習をしたかです.
何色のセラバンドを選ぶかはもちろん重要ですが.そのセラバンドを使って何をするかの方が更に重要ですよね.
考えると当たり前の事ですが.装具を作るとなると,どんな装具を作るかに意識が向きすぎてしまう事があります.
この「機能の獲得」が課題だから,この「運動学習」が必要.そのための練習道具として「装具を選ぶ」と順序だてて考える事が必要です.「練習」と「装具」は必ずセットです.
どんな時でも選べる装具もないですし.適切な装具を選んでも,その使い方によって良し悪しは全く異なるものとなってしまいます.
3つ目に知っておいて欲しいことは.
装具を練習道具として見た時に,他の練習道具と同様に持っておかなくてはならない「知識」の種類です.
この両方の知識が必要で,どちらかがなくても.正しく装具を選んで使う事は出来なくなってしまいます.
そこにダンベルがあっても,「◯kg」のダンベルなのか知っていなければ.選びようも使いようもありませんよね.ダンベルなら「◯kgの重り」と言えますが.装具はそれに比べると複雑で多くの知識が必要です.
その上で,ダンベルをどのように使うのかを知っていなくてはなりません.使い方は,状況によってとても多くの選択肢があるでしょう.装具も同様で,身体の状況や目的,環境によって変化しますし,無限と言ってよい選択肢があるのかもしれません.
装具そのものの知識は,学校でもその導入部分を学んできたと思います.使おうにも「装具そのもの」の事が分からなければ使いようがありません.
幸い,装具の事を知るうえで強い味方がいます.装具のことは「義肢装具士」さんに聞くのが良いです.装具の種類は多いですし専門家の力を借りるのが一番でしょう.
義肢装具士が常駐していない施設がほとんどでしょうし.タイミングが合えばお話を聞いてみましょう.親切に色々教えてくれるはずです.
一方で,装具の「使い方」に関する知識は膨大です.
「これをしておけば良い」といった方法もなく.多くある選択肢の中から適切なものを選択していく必要があるため.今後装具に関わるのであれば,生涯学び続ける事になるのではないかと思います.まずは,先輩達から1つずつ学んでいくこととなるでしょう.
脳卒中リハの装具は,この2つの知識のどちらが欠けてもなりません.
これから知識を積み重ねていくうえで,意識できると良いのではないでしょうか.
装具をこれから本格的に学ぶ入り口に立っている,新人さん達に知っておいて欲しいことについてお話してきました.
本当に基本的なことなので,当たり前のように感じられる事なのですが.「装具を作成する」という普段とは少し違った状況に際して,そんな基本がスッポリ抜け落ちてしまうのを良く見かけます.
そのまま進んでしまっては,装具をなんのために使っているのか分からなくなってしまいます.
これから実際に装具に触れる機会が増えていくであろう新人さんが知識を蓄えていく準備として.その根幹とも言えるこういった基本的な考え方は,常に頭の片隅に置いておいてもらうと良いのではないでしょうか.
脳卒中治療ガイドライン2015〔追補2019〕
https://www.jsts.gr.jp/img/guideline2015_tuiho2019_10.pdf
理学療法ガイドライン 脳卒中
http://www.japanpt.or.jp/upload/jspt/obj/files/guideline/12_apoplexy.pdf
公益財団法人テクノエイド協会,補装具費支給事務ガイドブック,p6