装具を作成する上で,いくつか費用がかかるタイミングがあります.
前回は,装具を作成してから申請するまでの流れの中で.必要となる費用とそのタイミングについてお話しました.
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装具が高いと感じる要因の多くは.一時10割全額を負担して,その後申請することで自己負担以外が支給されるというシステムによるものではないかと思います.
支給申請すれば自己負担分は戻ってくるとはいえ,装具は高価なものであるのは間違いありません.
そもそも装具の価格がどのように決まっているのか?についてお話していきます.
装具の値段の決まり方
支給申請を行う装具に関しては,その値段を自由に決められるものではありません.
装具には治療などの目的のために,必要な支持性や関節を制御する機能が求められます.そのような機能を満たすため,パーツや構成する材質が変わってくるのですが.
装具の構成要素それぞれに厚生労働省が定めた価格があり,それらの組み合わせによって装具の値段は決定されています.
それぞれの構成要素の価格は毎年改定されており.価格が調整されたり,新しく認められたパーツが追加されたりしています.
支給申請をする領収書にはその内訳が添付されている必要があり.その構成要素をみればどのような装具なのか分かるような仕組みになっています.
どのような要素で装具の価格が決まっていくのか.よく使用される足に着ける装具である「両側支柱付短下肢装具」を例に見ていきましょう.
基本価格
まず装具には身体のどこを覆っている装具なのか?という基準があります.覆われている部分が多い程大掛かりな装具となり,値段が高くなるのは想像しやすいかもしれませんね.
また,装具作成の際に身体の情報をどのように装具に反映させているかも価格に影響しており.採寸と採型のどちらを行ったのかによって価格が変わってきます.細かな身体の情報を採型によって得る必要がある装具は,製作にかかる技術も必要であるため.より価格が高く設定されています.
前回お話した,採寸・採型を行ったことで病院へ支払った費用とは別物で.装具の価格そのものに反映されるものとなっています.
どれだけの大きさの装具で,どれだけの製作技術が必要な装具なのかを区分した装具の基本となる価格として「採型区分」という基準があり,この「区分」と「採寸・採型」のどちらを行ったかで価格が定められています.
今回の装具の例では.「A-6 下肢装具 採型」という項目が該当します.下肢装具を作成するために,膝下から足部までの採型を行って作成された装具と事が分かります.
製作要素価格
同じ下肢装具といっても,その形状や役割,どのような材質で出来ているのかと種類は様々です.どのような構成の装具なのかが反映されているのが製作要素価格です.
装具が身体を覆っている部分がどのような材質で出来ているかによって価格がかわります.サポーターなどの布や革製の軟性と比較して.プラスチックなどの硬性や金属製のものが高価に設定されています.
また関節をまたぐ装具では,その関節部分に継手を使用している場合にその種類によって価格が反映されます.装具の機能と支持性を決定づける重要な項目でもあります.
今回例に出した両側支柱付短下肢装具で見ていくと.
下腿部では
金属による強固な支えを行う基礎部分である
「下腿支持部 A 半月」と
足と装具を固定するベルトとなる
「下腿支持部 B-1 皮革等カフバンド」
足部でも同様に
金属による強固な支えを行う基礎部分である
「足部 A あぶみ」
足と装具を固定するように,足部全体を覆う
「足部 B-1 皮革等 大」
足関節に使用される足継手として
「足継手 遊動式」*2
が製作要素価格に該当します.
装具がどのような制約を行い,どれだけの支持性や強制力を持つかは.この部分を見ると分かってきます.
その他の加算要素
その他の装具を構成する要素として,特定の目的や機能を認められたものについては加算されます.
下肢装具で代表的なものは,「すべり止め」や足を覆うクッションとなる「内張り」,内・外反足を矯正するための「T・Yストラップ」などが挙げられます.
製作要素価格の支持部に追加して,装具の機能が決まる重要な要素です.見た目と名称が同じ装具でも,微妙に価格が変わるのは.付属する構成要素による理由が多いです.
完成用部品
装具を作成する上で必要となり販売されている,継手などの一部パーツは「完成用部品」として登録されており,支給の対象となっています.
パーツの選択によって装具の機能は大きく変わるため.製作要素価格と同様に「どんな装具か」を決定する重要な要素です.
当然ですが高機能な継手ほど高価で,高性能な膝装具や短下肢装具の値段が高くなっている要因でもあります.
装具では多くありませんが,義肢では一部の非常に高価なパーツは完成用部品に登録されていても.疾患や支給制度によっては申請が通らないケースもあるため.
今後装具でもロボットなど高価な継手が採用される場合には注意が必要になるかもしれません.
今回の装具の例では「足継手 制御式 制限付き」「あぶみ 制御式 制限付き 足板付」という項目が該当します.いわゆる「ダブルクレンザック継手」はこれを指しており,短下肢装具のみならず完成用部品に登録されている,どのような部品を使用しているのか?は装具の役割を大きく左右します.
非課税と課税
装具は身体障害者用物品として課税対象ではなく,消費税が非課税となっています.
ですが,装具を作成する際に必要となるパーツや材料については.販売されている課税対象のため,装具作成の際には非課税と課税の差が生まれてしまいます.
そのため消費税非課税品である装具ですが,仕入れについての消費税を考慮した算定式が適応されています.
現在の消費税率10%に対して,装具価格の6%が加算されています.
装具の価格と支給申請
装具の価格は,これらの構成要素に定められた金額の合算で決まります.
装具を作成する際には,医師を中心とした医療チームがユーザーさんを取り巻く環境を考慮した上で装具に必要となる機能を検討していきます.
装具を作成する義肢装具士はその機能を満たす,継手や材質を検討し装具を作成し,それに合わせた装具の値段が決まってくるわけですね.
作成した装具と過不足なく作成されたこの装具代金の「領収書」と,申請の際の提出する医師の 「装具必要証明書」に記載された病名を照らし合わせて.適した装具が処方されているか確認し,支給が決定するという仕組みになっています.
装具の構成を決めるのは,「医師・義肢装具士を中心とした医療チーム」が
構成要素の価格を決めるのは,「厚生労働省」が
支給の申請が適切かの判断は,「それぞれの支給先」が
主に担っています.
装具の値段には理由があり,定められた金額でなければ支給申請出来なくなってしまいます.構成が決まった装具の値段については自由に変更できるものではありません.
まとめ
装具の価格がどのように決まっているかについてお話しました.
支給申請を行う装具については,このような仕組みで価格が決まっています.
装具の機能や役割を,使用している素材や部品によって価格に反映したものとなっています.
逆に言えば,これらの定められた要素以外は装具の価格に反映されません.
ですが,実際の装具はこれよりも遥かに細かいパーツの選択によって成り立っています.
使用しやすい,装着しやすい細かいパーツの選択であったり,製作の工夫というのは義肢装具制作会社の努力によって成り立っているというのも忘れてはいけないポイントです.
一方で,「装具の値段」は装具を決定する要因なのは間違いありません.どれだけ適切で高性能な装具であったとしても,負担額が大きすぎるとその価値に見合ったものでは無くなってしまうかもしれません.
装具の構成を考える際には,求められる機能と共に.かかる費用についても適切なものであるのかどうか,よく考える必要がありますね.
参考資料
公益財団法人テクノエイド協会,補装具費支給事務ガイドブック p30
厚生労働省 治療用装具に係る療養費の 不適切な請求事案
法令検索 e-gov
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=332M50000100015
補装具の種目 厚生労働省
「補装具費支給事務取扱指針について」の制定について
https://www.mhlw.go.jp/content/000767371.pdf
公益財団法人テクノエイド協会 義肢装具等完成用部品情報提供システム