第52回理学療法士国家試験解説AM-18 下肢装具の制約が歩行に与える影響

第52回理学療法士国家試験解説AM-18 下肢装具の制約が歩行に与える影響

PT国試義肢装具関連問題の解説.今回は第52回理学療法士国家試験午前の18問目から.

下肢装具の制約が歩行に与える影響に関する問題です.

正直,問題としては.本当にこの選択肢で良いのだろうか?と少し疑問を感じる点もありますが.国家試験としても重要であると共に.下肢装具の適合を行う際に,装具の制約が歩行にどのような影響を与えるかは「必ず知っておかなくてはならない」知識です

今回の問題では,1つの状況を取り出しただけですが.装具が行う制約の過不足がどのような影響を与えるかについては,よくチェックしておきたいですね.

PT52-AM18 問題文

85歳の女性.脳梗塞による左片麻痺.
歩行練習中に下肢装具の条件を変えて歩行を比較したところ底屈制動を軽減して中足足根関節以遠の可撓性を高めることで歩幅が増加した.
改善に影響を与えた麻痺側の主な歩行周期はどれか.

問題を解くうえで

今回の問題を解くためには,装具と歩行に関する知識が必要です.

おさえておきたいポイント
  • 足関節の制約
  • 歩行に与える影響

今回の問題でいうと,足関節底屈制動の過不足が歩行に対してどのような影響を与えるか?

についてはしっかり押さえておきたいですね.

「底屈制動を軽減して中足足根関節以遠の可撓性を高めることで」という設問から,代表的な装具の「SHB」を例に解説をしていこうと思います.

その他の足継手でも,底屈制動や制限が歩行に与える影響は同様なので.これを基本に考えていくと良いのではないでしょうか.

SHB
SHB

また足継手の制約の基本となる.

「制限」「制動」「遊動」などが,どういった制御なのか?について知りたい方は.コチラの別記事をご覧ください.

底屈制動の役割

脳卒中に用いられるAFOの目的

  • 失われた機能の代償
  • 早期立位・歩行訓練
  • 変形の矯正・予防

など,状況によって様々です.

今回の問題を解く上で知っておきたいのは,脳卒中によっておこる「尖足位」とそれに伴う「反張膝」を防ぐことが底屈制動の大きな目的となっているということです.

SHBの4つの力

尖足を防ぐために

尖足位を防ぐ「底屈制動」の主な目的は

  • IC時の踵接地の確保
  • 遊脚期のクリアランス確保

が挙げられます.

足部の自重と筋緊張亢進による尖足位に拮抗する制動力が求められます.

ただし,ただ尖足を防げばよい訳ではありません.足関節が「固定」された状態では,歩行のためのその他の動きが阻害されてしまいます

SHBの役割 踵接地とクリアランス確保

底屈制動のもう1つの役割として,IC~LRまでのヒールロッカーを行うための前脛骨筋遠心性収縮の代償が挙げられます.

IC後に適切な制動を行いながら全足底接地に至るという動作を,底屈制動は補助しています.

このヒールロッカーの代償は底屈「制動」という制約の特有の機能で.「固定」では完全に制約されますし,逆に「遊動」では完全に自身で制御しなくてはなりません.

SHBの底屈制動 ヒールロッカーの代償

反張膝を防ぐために

もう1つ底屈制動の重要な役割が.MStでの足関節中間位の保持です

尖足位を許すと,それに伴ってMStに反張膝を引き起こしてしまいます.

1つの関節の制御が,隣接する関節にも影響を及ぼすという事は,装具を扱う上でも重要なことですが.短下肢装具を使用することで,反張膝や膝折れを制御するのは代表的なものの1つですね.

尖足位に伴う反張膝

底屈制動の過不足が歩行に与える影響

主に尖足や反張膝を防ぐ事を目的とした底屈制動ですが.

装具が行うこういった制約は,不足していても問題を起こしますし,逆に過剰でも問題を起こしてしまいます.装具の種類を選択し,どのような設定とするかを決定する際には.どのような設定が「ちょうど良いのか」を検討しなくてはなりません.

問題文にある,「下肢装具の条件を変えて歩行を比較したところ」というのは.まさに,適切な設定を探すために行われる大切な過程ですね.

底屈制動が不足している場合

底屈制動が不足している場合には,装具が底屈制動に求めていた役割を満たすことが出来ません

尖足位」を防ぐことが出来なければ,踵接地が出来ず,遊脚期のクリアランスの確保が難しくなります.MStには反張膝となってしまうかもしれません.

こうなってしまうと,何のための装具を作成したのか分からなくなってしまいます.

MstのSHB底屈制動

またIC後に底屈の制動が制御出来ないと.「フットスラップ」を起こし,早期に全足底接地してしまいます

ヒールロッカーの消失は,運動効率を低下させ.歩幅の減少歩行速度の減少に繋がります.

これらの場合には,より底屈制動を強くする設定にするか,別の装具を検討する必要が出てきます.

底屈制動小さすぎる

底屈制動が過剰な場合

底屈の制動がしっかり行われている装具は,「尖足や反張膝を防ぐ」という目的を達成できる一方で.過剰な底屈制動は,歩行の他の動作の妨げとなってしまいます.

底屈方向への運動を必要以上に制動すると,可動域制限があるのと同じような状況を引き起こします.

ヒールロッカーの代償を行っていた底屈制動も,それが過剰となると底屈を全く許さずLRへ移行する事ができません.

底屈制動大きすぎる

そのため,LRを経ずに早期にMStへ移行する事となり立脚初期の期間が減少します.強制的なMStへの移行は膝折れの原因となる場合もあるため注意が必要です.

過剰な底屈制動は他の相にも影響があり.PSwで蹴り出しを行うための底屈を行いにくくしてしまいます

TStのフォアフットロッカーからPSwに至って得られるはずの前方への推進力が失われる事となり,歩幅の減少歩行速度の低下へと繋がります.

このように過剰な制動は,本来の動作の妨げとなることがあります.かと言って,制動を小さくして尖足や反張膝を起こしているようでは本末転倒なので.制動力は状況に合わせた適切な設定が求められることとなります.

蹴り出し出来ない

解答の考え方

PT52-AM18 問題文

それでは解答の考え方を整理していきましょう.

「底屈制動を軽減して中足足根関節以遠の可撓性を高めることで歩幅が増加した」というのは,逆の考え方をすれば「底屈制動が過剰だったため歩幅が減少していた」と言い換える事ができます.

底屈制動が過剰だった場合に起こる現象として

  • LRを経ずにMStへ移行する
  • PSwに蹴り出しが行われない

といった問題が挙げられます.

よって,選択肢は「1.荷重応答期」と「3.立脚後期」に絞られます.

なのですが,この2つの選択肢から.正答を決定づける情報が無いように思えます…

「3.立脚後期」は前記の通り,蹴り出しを行えない事で前方への推進力を得られず歩幅の減少へと繋がります正答と言える選択肢ですね.

一方「1.荷重応答期」は,LRを経ずMStへ移行する事で立脚初期が短くなります.

立脚初期が短くなる」というのは「=反対側の遊脚期が短くなる」という事です.

遊脚期が短くなる」というのは「=歩幅の減少」へと繋がります.

よってこれも正答といえる選択肢です.

直接歩幅に影響を与えるという意味では「3.立脚後期」が,より適した選択肢と言えるでしょうか.

発表された正答も3.となっています.

底屈制動大きすぎる

1.の選択肢を完全に否定する事は,この問題文では難しいです.「麻痺側の歩幅が増加した」であれば,間違いなく3.が正答となるのですが…

国家試験上では,難しいことは考えず「蹴り出しが行えるようになって歩幅が増加した」と考えれば良いかもしれません.ここから先は蛇足かもしれないので,気になる方は後記の補足解説を見ていただければと思います.

まとめ

下肢装具の制約が歩行に与える影響に関する問題について解説しました.

問題としてはちょっと悩ましいものでしたが,内容としては臨床上でも装具の検討適合チェックを行う上で基本となる非常に重要な内容です

短下肢装具において「底屈の制御」は,尖足の防止など装具を使用する根本の目的となるため,要とも言える機能です.

今回の設問のように,行う底屈制動を適切な大きさにすることには良く頭を悩ませることとなりますし.過剰な底屈制動による問題も起こりがちです

その他の制御も重要の点が多いので,足関節の制御についてはコチラなどと併せてよくチェックしてみてください.

補足解説

正答を出す上で,少し悩ましい問題だった今回ですが.解説をしていく上で「足関節の底屈制動」を主軸としてお話してきました.

ですが,問題文を見てみると.「足関節」の底屈制動という記載はありません.

また,「中足足根関節以遠の可撓性を高める」という記載から.前足部を全く覆っていない「ORTOP-AFO」のような装具への変更を想定しているのかと思います.

中足足根関節以遠の可撓性ついては,足継手の選択や設定はあまり関与せず.装具の前足部のトリミングによって変化するものです.底屈の制動」は「足関節の制御」と,こういったMP関節や中足足根関節などの「前足部の支持」によって成り立っています

中足足根関節以遠の 可撓性がある装具
前足部のトリミングによって変わる

ですが,そう考えても結局選択肢を決定づける事は出来ません.

前足部の支持性の変化だけを考えても,蹴り出しが行いやすくなり.LRに移行しやすくなるからです.

ただし,選択肢を比較した時に.前足部の可撓性が与える影響は,蹴り出しの方が大きなものです

LRへの移行については,前足部が接地すれば良いというものでもありません.

どちらにも影響があるが

どちらも,足関節と前足部の連動した動きが必要ですが.ヒールロッカーでは,より足関節の担う割合が大きいです.そう考えると「3.立脚後期」がより適した選択肢となったと言えるかもしれません.

ですが,そうなるとこの問題は非常に難易度の高い問題となります.義肢装具学の授業でこういった前足部のトリミングに深く言及することはそうないでしょうし.既存の歩行や装具の知識から想像力を働かせて解かなくてはなりません

現実的な話をすると,脳卒中で使用する装具は基本的に「前足部の支持性が小さいもの」は「足関節の制動も小さい」ものであることがほとんどです.

「LRに必要な底屈の制御」と「PSwに必要な底屈の制御」を完全に切り離すことは既存の装具には出来ず.必要となる機能と,不要な機能の中から,最もベターな選択肢を探る作業が必要となります.

足関節と前足部の制御

参考資料

公益財団法人テクノエイド協会,補装具費支給事務ガイドブック,p38

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000070149.pdf

日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p348

日本義肢装具学会 監修,装具学,医歯薬出版,第3版,p2-

加倉井周一,新編 装具治療マニュアル-疾患別・症状別適応-,医歯薬出版,第2版,p56-

kirsten gotz-neumann,観察による歩行分析,医学書院,2005,p112-

パシフィックサプライ オルトップAFO 

https://www.p-supply.co.jp/products/index.php?act=detail&pid=9

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