PT国試義肢装具関連問題の解説.今回は第52回理学療法士国家試験午後の30問目から.
下肢装具の適合チェックポイントに関する問題です.
装具の適合チェックは,セラピストとしても装具に関わる上で非常にウェイトが大きい部分ではないかと思います.
義肢・装具,上肢・下肢・体幹とそれぞれで覚えておきたいチェックポイントは多いですが.その中でも下肢装具の適合チェックは国家試験的にも,後の臨床的にも重要ですね.
装具に関わっていく中で絶対に必要な知識となってきますが,今回の問題は下肢装具のチェックポイントをかなり網羅した問題でもあるので,しっかりと押さえておきましょう!
骨盤帯付長下肢装具の適合判定で正しいのはどれか.
問題を解くうえで
骨盤帯付長下肢装具は,下肢の内外側に金属の支柱を持ち,そこに骨盤帯が接続されたものが基本形となるでしょうか(画像は骨盤帯付「両」長下肢装具)
長下肢装具に追加して,股関節と体幹の制御が必要な場合に用いられ.股継手と骨盤帯を持つこの装具ですが.下肢装具として,骨盤から足部までを覆う最も多い構成要素を持つ装具です.
構成要素が多いため,チェックするべき点も多いですが.この装具の適合チェックが分かっていれば,下肢装具の適合チェックの基本はOKと思って良いかもしれません.
- 股・膝・足関節の継手と機械軸
- 骨盤・大腿・下腿・足部の支持部位置設定
- 各ランドマークと,装具に必要なクリアランス
について覚えておけば,問題のタイプが変っても対応可能ではないでしょうか.
各関節の継手と機械軸
装具を製作する際には,関節の機能を代償するため身体の生理軸に近い,機械軸が設定されます.
股・膝・足継手の位置を決める際の基本となるので重要なチェックポイントです.生理軸と機械軸のズレが大きいほど,関節動作時に身体と装具のズレが大きくなり.動作が行いにくかったり,時には皮膚トラブルの原因となってしまいます.
体表で触知出来る骨突起などのランドマークを基準としている事が多いので,ランドマークとその位置関係はよく覚えておきましょう.
股継手
股関節の運動中心は,臼蓋の中心となります.基本的には,内・外転,内・外旋の動作は制約し.屈曲・伸展動作の制御を行うこととなります.
臼蓋中心は,体表から触知できないため.「大転子」をランドマークとして位置設定が行われます.
大転子から
- 1~2cm前方
- 2cm上方
に股関節の機械軸を設定することが基本となります.
膝継手
膝関節は,その回転中心が1箇所ではないため.1つの軸で生理的な動きに追従することは困難です.
膝装具など,膝関節の動作により近い動きをする必要がある場合には,2軸の膝継手が用いられますが.
長下肢装具などの場合には,どちらかというと動作を制約することが目的なので.膝関節の回転中心に比較的近い点に,1軸の機械軸が設定されています.
前額面上で見た時に
・内転筋結節と膝関節裂隙の中間点の高さを通り
矢状面で見た時に
・膝前後径の1/2と後方1/3の中間点
に膝関節の機械軸を設定することが基本となります.
足継手
足関節(距腿関節)の生理軸は個人差が大きいですが,機械軸は一般的に
前額面で見た時に
・外果中央(内果下端)を通り,床面に平行な軸
水平面で見た時に
・外果の中央を通り,踵中央と第2.3趾中間点を結ぶ線である足部中心線に直交する軸
に足関節の機械軸を設定することが基本となります.
実際に装具を作成する際には,個人差が大きい事からこれを基本として.反対側とバランスをとって調整を行いながら設定されることもあります.まずは基本を覚えておきましょう.
支持部の位置設定
支持部はその名の通り,装具が身体を支える部分であり.体重支持や矯正力を伝えるための箇所となっています.
力を加えるのに適しているのか,逆に力を加えるのに適していない避けるべき部位なのかは,よく知っておく必要がありますね.
継手の位置設定と同様に, 体表で触知出来る骨突起などのランドマークを基準としている事が多いので.ランドマークとその位置関係はしっかり覚えておきましょう.
骨盤帯
骨盤帯はその名の通り骨盤を支えるための支持部で,体幹装具を構成する要素の1つでもあります.骨盤・体幹を支持するための基礎部分とも言えますね.
骨盤帯は
- 側面では,腸骨稜と大転子の中間
- 背面では,上後腸骨棘と仙骨下縁の中間
に位置しています.
あまり遠位に設定すると股関節の動きや座位を妨げることになりますし.あまり近位に設定すると骨盤を支持することが出来ません.
その役割を果たすためには「必然的にこの位置に来る」と言った方がいいかもしれません.
体幹装具のチェックポイントでも重要な支持部なので,併せてチェックしておきましょう.
大腿近位半月とカフベルト
大腿部には基本的に,近位と遠位の半月とカフベルトが付いています.
大腿近位半月とカフベルトの位置設定の基準は,カフの上縁が
- 外側で大転子下端より下2~3cm
- 内側で会陰部下2~3cm
とされています.
骨突起部である大転子や,会陰部に支柱やカフが食い込まないように.それらを避けるような設定となっています.
逆にあまり遠位に位置しすぎると,大腿部を支える力が小さくなってしまいます.今回は骨盤帯付なのであまり関係ありませんが,必要な支持性に合わせて限界まで長くしたり.不要な支持性があるならば短くしたりと調整されることもあります.
下腿半月とカフベルト
先に下腿部から確認しましょう.
下腿半月とカフベルトの位置設定の基準は,カフの上縁が
- 腓骨頭下端より下2~3cm
とされています.
これは腓骨頭そのものを避けるというのもありますが.腓骨頭下の体表近くを腓骨神経が走行しているため.カフのよる圧迫が起こらないよう設定されています.
今回のように骨盤帯付で,非常に大きな支持性が求められる場合には.下腿半月を遠位にすると支持性の低下につながるので.丁度よい位置に設定することが求められますね.
大腿遠位半月とカフベルト
大腿遠位半月とカフベルトの位置は,下腿半月の位置によって決まります.
- 下腿カフの上縁と大腿遠位カフの下縁が膝継手から等距離
となるように設定されています.
装具を外した状態で膝継手を屈曲していくと,下腿カフの上縁と大腿遠位カフの下縁がピッタリぶつかるような位置関係が理想ですね.
装具と身体のクリアランス
体重を支持し,身体を固定して時には矯正を行うことを目的とした装具ですが.装具の中で,わずかに身体は動きます.
片脚支持時などの重心の移動に伴って,多少の動きはあるわけですね.
そんな時に,金属支柱など装具の固い部分が身体にぶつかってしまうとトラブルの原因となります.
両側支柱付の装具では,通常で2~3mm程度のクリアランスが.内外果など骨突起部でリスクの大きい部位では5mm程度のクリアランスが設定されています.
もちろん,支持部は身体を固定する部分なので.身体にピッタリになるよう設定されていますし.逆にこのクリアランスも必要以上にあると,嵩張りが増したり外観上の問題が出てきてしまいます.
多すぎず少なすぎず,適切な設定が必要ですね.特に内反足などを含めた前額面上のアライメント異常がある場合には要注意です.
解答の考え方
それでは選択肢をみていきましょう.
選択肢の1.ですが,「骨盤帯は側方で腸骨稜と上前腸骨棘の間」というのは誤りですね.正しくは「腸骨稜と大転子の間」です.
骨盤帯の位置関係としては,ちょうど上前腸骨棘の直上位に位置している事が多いのではないかと思います.
選択肢の2.は,「下腿半月上縁は腓骨頭下縁の直下」というのは誤りです.正しくは「 腓骨頭下端より下2~3cm」ですね.これは下肢装具の適合チェック全般で非常に問われやすいので絶対に間違えないようにしましょう.
選択肢の3の,「股継手は前額面で小転子より2cm上方」というのは誤りです.正しくは「大転子の2cm上方」です.臼蓋と大転子,小転子の位置関係を知っていれば分かりやすいですね.
そもそも下肢外側に位置する股継手のランドマークが,下肢内側にある小転子というのは違和感がすごい気もしてしまいます.
選択肢の4.ですが,これが正答ですね. 「膝継手は矢状面で膝前後径の1/2と後方1/3の中間点」に設定されます.
選択肢の5.の「足継手は前額面で内果中央を通る」は誤りですね.正しくは「外果中央を通る」です.これも下肢装具の適合チェックで問われやすいので覚えておきましょう.
まとめ
下肢装具の適合チェックポイントに関する問題について解説しました.
他の年でも似たような問題が出題されているように,非常に重要な内容です.
骨盤帯付という事もあり,体幹装具の知識も若干関わってきますし.1つずつ知識をリンクさせながら勉強していくと,身につきやすいのではないでしょうか.
今回の内容は,義肢装具の国家試験勉強をする上で絶対に避けては通れないものなので.時間を作って教科書の該当部分を見ながらしっかりと覚えていきたいですね.
参考資料
日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p230