こんにちは,なぜなに。装具です.
PTOT国家試験国家試験,義肢装具関連問題の解説をしていきましょう.
今回はPTの国家試験では数年ぶりに見る上肢装具に関する問題です.
問題を解くうえで
OTさんはスプリントの勉強に多くの時間を割いていると思うのですが
PTは上肢装具に苦手意識を持っている方も多いのではないでしょうか?
学校の授業でも,下肢装具・義足が中心で
上肢装具は軽く触れただけという事も多いのではないかと思います.
とはいえ,PTは下肢,OTは上肢なんて区分けはないので
上肢装具の知識もしっかりと持っていなくてはいけません.
その事を暗に示している問題なのでしょうか…?
今回の問題も上肢装具に関する問題ではとてもメジャーな
末梢神経,もしくは麻痺レベルによる機能障害と
それに対応した装具を選択する問題です.
第55回の義肢装具関連問題は比較的メジャーな問題が多いですね.
注目するべき点は…
- 脊髄損傷に用いられる上肢装具
- 末梢神経損傷に用いられる上肢装具
- 神経麻痺の所見と特徴的な肢位
ですね.
上肢装具に関わる問題の多くは,
脊髄損傷と末梢神経損傷に関わる問題だと思います.
しっかりと押さえておきたいですね!
脊髄損傷に用いられる装具
神経損傷に用いられる装具は上肢装具の中でも頻度が多いですが.
その中で重要な1つが脊髄損傷に用いられる装具です.
脊髄損傷という分野自体が非常に重要なのでしっかり勉強したいですが
zancolliの分類などと併せて,装具のことも覚えてしまいましょう.
残存機能と必要な装具
脊髄損傷の装具に必要なのは,
他の多くの装具と同様に失われた機能の代償です.
そのためには,麻痺レベルによる残存機能と失われた機能を
よく理解している必要がありますね.
今回は選択肢にあるBFOと把持装具について解説しますが
他の装具も1つずつチェックする時間を割く価値のある内容です.
実際の動作やADLを想像しながら勉強してもらうと良いと思います.
BFO
C5麻痺で用いられるBFO(balanced forearm orthosis)は
食事などの日常生活動作の訓練や自立を目的として用いられる装具です.
肩の挙上や肘の屈曲をすることで軽い作業が可能となります.
構成要素は参考程度に見てもらうと良いと思うのですが.
- ブラケット
- proximal arm support
- distal arm support
- 受け皿
などから構成されており.
テーブルや車いすに取り付けて使用します.
また行う動作に合わせて他の装具と併用する場合が多く,
食事動作であれば,手関節固定装具に自助具(スプーン)を併用します.
把持装具
把持装具にはいくつかタイプがありますが.
国試上で必要な知識としてはC6麻痺で用いられる
手関節駆動式の把持装具ではないかと思います.
手関節を背屈すると手指が屈曲して物を掴み
手関節を掌屈すると手指が伸展して物を離す
という把持に関わる,テノデーシスアクションですが,
C6麻痺は手関節背屈は出来ても,掌屈は随意で行えません.
手関節駆動式の把持装具は,随意で動作出来る手関節背屈を活かして
背屈時には手指屈曲で物を掴み,力を入れていない時は手指伸展する
把持動作を補助する装具です.
末梢神経損傷に用いる装具
国家試験によく顔を出す上肢装具のもう1つが
末梢神経損傷に用いる装具です.
こちらも同様に末梢神経麻痺による機能を代償することを
目的とした装具が多いですね.
特に,橈骨・正中・尺骨神経麻痺によっておこる機能障害と
呈する特徴的な手の肢位,必要な装具をおさえておきましょう.
橈骨神経麻痺の装具
橈骨神経は高位麻痺が起こると,
手関節の背屈,手指の伸展,
母指の伸展・外転が出来なくなります.
低位麻痺では後骨間神経のみ障害されて
手指の伸展,母指の伸展・外転が困難です.
特に高位麻痺によって呈する,
「下垂手」に対して使用される装具が多いです.
手関節を背屈位に保持する装具を総称して「カックアップスプリント」
と呼びますが,手関節軽度背屈位に固定する静的装具と
コイルばねなどで背屈を補助する
オッパンハイマー型などの動的装具に分かれます.
正中神経麻痺の装具
正中神経麻痺の最も有名なのが
手根管症候群によって引き起こされ.
母指球の萎縮とともに対立位が取れず
示指~小指と同一平面に位置して
扁平となる事から「猿手」と呼ばれます.
また高位麻痺では,前腕の回内不能と
母指・示指屈曲不能なが代表的です.
正中神経麻痺用の装具も様々なタイプがありますが.
高位麻痺では手関節掌屈困難のため,手関節を軽度背屈位で固定しつつ
対立位を保持するための長対立装具が.
手根管症候群など低位麻痺では.
対立位を保持するための短対立装具が使用されます.
対立装具はその形状によって,ランチョ型・エンゲン型など分類されますが.
そこを問われることは,ほとんどない印象があります.
尺骨神経麻痺と装具
尺骨神経麻痺は肘部管症候群などによって起こり
小指球,骨間筋,環指・小指の虫様筋に
麻痺と萎縮を呈し
それに伴った運動機能が影響を受けます.
特に環指・小指のMP過伸展とIP屈曲を招き
かぎ爪のような肢位から「鷲手」と呼ばれます.
尺骨神経麻痺の装具では,このMPの過伸展を制限し.
屈曲運動を補助するような装具が用いられます.
MP軽度屈曲位で制限する静的装具の虫様筋カフや
ゴムの力出屈曲を補助する動的装具のナックルベンダーが代表的です.
解答の考え方
脊髄損傷・末梢神経損傷に用いる代表的な装具を確認したところで
問題文を見返してみましょう.
右上肢を下に腹臥位で体動困難.
各装具の名称などありますが.
まず注目するのは図の所見から
症状を知る事が重要ですよね.
図を見ると,骨間筋の萎縮が見られ
環指・小指のMP過伸展,IP屈曲から
鷲手の特徴が見られ
尺骨神経麻痺であると考えられます.
ここまで見てきたとおり,各選択肢の装具は
1.BFO →脊髄損傷 C5麻痺など
2.虫様筋カフ →尺骨神経障害など
3.短対立装具 →正中神経障害など
4.手関節駆動式把持装具 →脊髄損傷 C6麻痺など
5.コックアップ・スプリント →橈骨神経傷害など
となり.正答は2.虫様筋カフとなりますね.
まとめ
神経麻痺と上肢装具について解説をしてきました.
尺骨神経麻痺だからこの装具!と分かっていれば簡単ですが
それぞれの疾患とその症状.特徴的な肢位や可能なADL
そしてそれに合わせた装具と,それぞれの知識が非常に重要です.
「頻出ですが,各分野の知識をきちんと持っているのが大事」
な問題と言えるのではないでしょうか.
装具以外の重要な知識も関わるのでしっかりと復習しておきたいです.
今回選択肢に登場した5つの装具は,上肢装具を代表する重要な装具です.
脊損の装具は,車いすに必要な機能などと合わせて
各麻痺レベルの能力と,必要な機能をしっかりまとめておきましょう.
末梢神経の装具は,似た機能で様々なバリエーションがあり混乱を生みます.
どんな装具があるのか目を通すことも必要ですが.
初見の装具でも,どこを支えて,どんな機能を持っているのか想像できると
理解が進みやすいかもしれません.
よく分からない装具が出てきた時の考え方の指標として…
関連問題
神経の障害に用いられる上肢装具に関する類似問題はコチラ
「ほぼ同じ」と言ってもよい問題が他の年にも出題されています.
参考資料
日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p205
加倉井周一,新編 装具治療マニュアル-疾患別・症状別適応-,医歯薬出版,第2版,p143
第55回理学療法士国家試験、第55回作業療法士国家試験の問題および正答について
厚生労働省HP
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/topics/tp200414-08_09.html
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