PT国試,義肢装具関連問題の解説.今回は第53回理学療法士国家試験午後の42問目から,関節リウマチの足部に使用する装具と補正に関する問題です.
関節リウマチはその疾患の特性から,症状のある関節によって様々な装具が使用されます.その目的も様々で,固定による保護・免荷・変形の予防矯正と多くの役割を持っています.
関節リウマチの開張足を矯正する装具で最も適切なのはどれか.
問題を解くうえで
関節リウマチでは,好発する関節に使用される多くの種類の装具があります.
手指に使用されるスプリントやサポーターは代表的ですが.足部に使用される,靴型装具や足底装具はその中の1つです.立位・歩行という移動に大きく関わる装具なので状況に合わせた対応が求められます.
RAの足部に使用する装具について考える上で
- リウマチ足の特徴
- 必要とされる装具
について,確認していきましょう.
リウマチ足について
関節リウマチの方の8割以上が足部に何かしらの罹患があると言われています.
特に急性期の痛みや腫脹が強い時期に安静を保つ事は重要であると共に,変形の予防による関節の負荷の軽減や.変形した足部に荷重が集中する事によって起こる胼胝の予防や免荷を行うことが主な目的となっています.
関節リウマチの足部疾患でよく見られるものとして
- 扁平足
- 開張足
- 外反母趾
- 槌指
が挙げられます.
変形も胼胝も,一度悪化してしまうと改善が困難です.足部は歩行など活動に大きく関わるため,早期のアプローチを心がけたいですね.
リウマチ足に主に使用される装具
前記の通り,関節リウマチの足部に対して使用される装具は.その部位や目的によって多くの種類があります.
足底装具(インソール)
その中でも,代表的なものはインソールを含んだ足底装具です.
- 扁平足
- 開張足
- 外反母趾
- 槌指
という足部の疾患に対して,低下したアーチの保持を目的として使用されます.
屋内・外どちらでの生活と装具使用に重点を置くかによって.インソールタイプのものか,ベルトで足に固定するタイプかが分かれてきます.
それぞれ,
- 扁平足 -内側縦アーチの支持
- 開張足 -中足骨アーチの支持
- 外反母趾 -中足骨アーチの支持
- 槌指 -指枕
などの補正が行われます.
また変形に伴う胼胝には部分的な免荷が行われる場合もあります.
アーチサポートなどは,アーチを支持して変形の矯正を行うことを目的とする場合もありますが.変形が強くなるに従ってその効果は少なくなっていくため.トータルコンタクトによる荷重の分散を目的としたものとなる事が多いです.
靴(靴型装具)
関節リウマチの方にとって,靴選びというのは関節の変形の程度にもよりますが,履ける靴が無いというのが困り事の理由の1つです.
特に靴のMP以遠は,トーボックスの容量と形状に大きく左右され,調節するにも限界があります.
外反母趾のバニオンによる足囲と靴のMP周径は大きな差があることも多く.変形が重度の場合には足を入れることが出来る靴を探すことも一苦労です.
また槌指や外反母趾によって足指の重なりがある場合には.トーボックスの高さと,その柔らかさも重要な要素です.足囲と同様調整幅が少なく,靴と足趾が触れていると皮膚のトラブルに繋がりやすくなってしまいます.
市販靴の中でワイズの大きな靴を探すこととなりますが.市販靴で対応が困難な場合には靴型装具を作製する場合もあります.
手指の変形を伴う場合には,靴そのものの履きやすさにも注意が必要となりますね.
変形矯正・予防装具
変形矯正を行う装具にはいくつか種類がありますが.関節リウマチという疾患の特性もあり,矯正を行うことは難しい場合が多いです.
どちらかというと,それ以上の変形を防ぐことで痛みや皮膚のトラブルを防ぐことに主眼が置かれます.
特に外反母趾の変形悪化によって足趾同士が重なり合ってしまうと.皮膚同士の接触によるトラブルが多く起こってしまいます.
注意したいのは,既製のものは厚みが決まっているため.足趾間を無理やり広げるようなものとならないようにしましょう.
RAにおけるこれらの装具の目的は,足趾間を広げるよりも「隙間を作る」事です.変形が強い場合には,ガーゼなどをカットした物で厚みを調整した方が良い場合も多いですね.
足趾の変形を伴う疾患では,骨アライメントの問題だけでなく,皮膚のトラブルにも注意が必要です.
解答の考え方
ここからは選択肢を見ながら解説していきましょう.
装具の種類が多くあるように,装具や既存の靴に対して様々な補正が行われます.選択肢に挙がっているものはよく行われる補正ではないでしょうか?
外側ウェッジ
まず1.外側ウェッジですが,靴や装具の底に行われる補正ですね.
後足部や前足部など目的に合わせて行われる補正ですが,よく行われるのは外側ヒールウェッジでしょうか.主に内反足などのアライメントの補正に用いられます.
開張足との関係は薄いので誤りですね.
関節リウマチでは,外反扁平足と外反母趾,開張足がよく起こることから.内側方向へのアライメント補正は逆効果であることが多いです.内側縦アーチの保持と共に内側ヒールウェッジが行われる事の方が多くあります.
外側Tストラップ
2.外側Tストラップ.は主に短下肢装具の足関節部に追加で用いられるベルトです.内反足の矯正を行うため外側からベルトで押さえる事で3点固定を行います.
靴内部で強い内反を矯正するために,似たようなベルトを使用する場合も全くない訳ではないですが.開張足の関連性はないので誤りです.
基本的に外側Tストラップは両側支柱付き短下肢装具とセットと考えてよいでしょう.
踵補高
3.踵補高.はシンプルですが,前後のアライメント補正を目的として,靴や装具の底によく行われる補正です.
踵のみを補高した場合は重心は前方へ移動します.前足部荷重が増すため開張足の場合には不適当なので誤りです.
逆トーマスヒール
4.逆トーマスヒール.は靴の踵部に行われる補正です.踵部の外側を延長する事で足根骨と中足骨外側を支持します.
内反尖足などの場合に多く用いられる補正です.開張足との関わりは薄いので誤りです.
関節リウマチでは,外側ウェッジと同様の理由で.使用するならば外反足の矯正を助けるトーマスヒールが用いられる事が多いのではないでしょうか.
メタタルサルアーチパッド
5.メタタルサルアーチパッドは,横アーチを支える靴内部の補正です.開張足といえば横アーチの支持が,まず1つ思いつく補正方法と言ってもよい位よく行われる補正なので,これが正答ですね.
中足骨アーチの支持や中足骨頭の免荷など様々な目的で用いられるこの補正は,関節リウマチによって起こる前足部の変形の矯正・予防と.荷重の集中によって起こる胼胝の免荷に大きな役割を持っています.
まとめ
関節リウマチ足部に用いられる装具と補正に関する問題の解説をしました.
問題としては,関節リウマチという疾患自体にはあまりフォーカスしておらず.開張足には「中足骨アーチの支持を」という問題となってしまっていますが.実際には,その変形の程度や症状の時期に合わせて必要な装具も変わってきます.
足部の変形の程度によっては,インソールで内側・横アーチともに支持するのに限界がある場合も多いです.そんな場合には靴の補正を併用したり,他の装具による別のアプローチが必要となる事もあります.
国家試験を解くうえでは,「疾患の知識と装具の基本的な用途」を押さえておくことが重要です.特に今回選択肢で登場した補正は,非常によく用いられる補正ばかりなのでしっかりと復習しておきたいですね.
靴の補正や短下肢装具ストラップに関しては,他記事も参考にしてみてください.
参考文献
加倉井周一,新編 装具治療マニュアル,医歯薬出版,第1版,p271
日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p279
日本義肢装具学会 監修,装具学,医歯薬出版,第3版,p29
日本足の外科学会 リウマチ足
https://www.jssf.jp/pdf/pamph_riumati_reg.pdf
SORBOTHANE ソルボ外反母趾サポーター薄型
https://www.sorbo-japan.com/products/detail.php?id=44
第53回理学療法士国家試験、第53回作業療法士国家試験の問題および正答について
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/topics/tp180511-08_09.html