第54回理学療法士国家試験 午前-41 義肢装具問題解説

第54回理学療法士国家試験 午前-41 義肢装具問題解説

こんにちは,なぜなに。装具です.

第54回理学療法士国家試験の義肢装具関連問題

今回は大腿義足の歩行時のアライメントについてです.

問題を解くうえで

義足のスタティック・ダイナミックアライメントは,

国家試験でも数年に一度顔を出す頻出問題です.

苦手意識ある方も多いと思うのですが,何が起こっているのか整理すれば

問題文の中にある情報だけでも解ける問題がほとんどです.

義足アライメントを考える時に注目したいのは

  • 前額面,矢状面,水平面で,どの問題なのか
  • 通常歩行との共通点
  • 代表的な異常歩行
  • 絵を書いて状況整理

という点ですね.

絵を書いて状況整理は,時間はかかりますが確実です.

歩行の基礎的な知識はあると思うので,正常なアライメントと比較して

この状態で荷重したらどうなるのだろう?と1つずつ考えて行けば

正しい選択肢を選ぶことが出来るのではないかと思います.

試験中にやるには時間がかかるので,

最後に時間を取って落ち着いて解くと良いかもしれないですね!

それでは,設問に関わる内容を見ていきましょう.

股関節の屈曲拘縮

股関節の屈曲拘縮は,切断に関わらず起こりやすい拘縮ですが.

大腿切断の場合には,股関節伸筋と屈筋のバランス

下肢の重さが無くなったことによって,

股関節屈曲拘縮を非常に起こしやすい状態

大なり小なり股関節の伸展制限を起こしてしまう事は多くあります.

断端訓練の中でも,股関節伸展訓練は非常に重要な1つです.

股関節の屈曲拘縮が起こってしまった場合の弊害はいくつかありますが

大腿義足を操作する上で,股関節の伸展が制限されるのは大きな問題です.

立脚後期の踏み出しが行えない事に加えて,

膝継手の随意制御には股関節伸展筋力と可動域が大きく関わります

股関節伸展拘縮による可動域

骨盤の前傾と腰椎の前弯増強

代償するのは通常歩行も

義足でも同様です.

外転歩行

大腿義足の外転歩行は,よく見かける異常歩行の1つです.

様々な原因によって起こるので確認していきましょう.

義足が長い場合

義足が反対足よりも長いと,

足を擦らないようにするために外転位で歩行してしまいます.

基本的にはスタティックアライメントで長さの調整をしておきたいですが

外転歩行を起こす1つの要因ということは覚えておきましょう.

会陰部に痛みがある場合

会陰部に痛みがある場合の外転歩行は,主にソケットの問題で起こります.

内壁上縁の突き上げや内転筋ロール,皮膚の炎症などによって起こる

会陰部の痛みや不快感を回避するために隙間を作ろうと外転歩行します.

ソケット内壁が高すぎても低すぎても,緩すぎてもキツすぎても起こるため

何が原因で外転歩行となっているかはよく評価しなくてはなりません.

足部がアウトセットしている場合

義足のアライメントが原因で起こる外転歩行の1つです.

義足の練習を進めていく上で,断端の変化や荷重量で今までなかった異常が

起こってくることもあるので,そういった際はアライメントを

微調整して対応出来ると良いですね.

ソケットの内転角が大きい場合

義足のアライメントが原因で起こる外転歩行の1つです.

足全面を接地して立とうとすると,股関節内転位となってしまいます.

義足に不安定感がある場合

膝継手が膝折れしそうで,転倒が怖い場合

膝継手が曲がらないように,外転歩行することで膝を曲げずに歩く

という事が起こってしまいます.

不安定感が義足のアライメントなどの問題なのか,恐怖心からくるものなのか

よく評価して対応を考える必要がありますね.

義足膝の不安定感を起こす原因として

自分の意志で制御(随意制御)できるものと

義足の機能やアライメントによるもの(不随意制御)に分かれます.

随意制御は自身で股関節を

伸展する事で行われます.

伸展筋力や可動域に問題があれば

随意制御が行いにくいので

義足に不安定感を感じてしまいます.

不随意制御にはいくつか原因があり

  • ソケットの初期屈曲角不足
  • 継手に対してソケットが後方に位置している
  • 足部の背屈角が大きすぎる
  • 足部の踵が下腿

などの原因が挙げられます.

伸び上がり歩行

伸び上がり歩行は,義足遊脚相で,反対側がつま先立ちとなる歩行です.

・義足長が長すぎる.

・遊脚相制御機構の屈曲抵抗が弱くて振り出しが遅れるので,伸び上がりによってタイミングの調整をしている.

・遊脚制御機構の屈曲抵抗が強く膝が曲がらずに足部のクリアランスが足りないので,伸び上がりによって調整している.

・義足への不安から,膝を曲げずに歩行するため

といった理由が挙げられます.

ぶん回し歩行

ぶん回し歩行は義足だけでなく,

装具装着時や脚長差がある場合にも起こりうる異常歩行です.

教科書のようなグルっと回ってというぶん回しは実際はあまり起こりませんが

小さなぶん回しや外転歩行は非常によく見られる異常歩行です.

・義足長が長すぎる

・転倒などの不安から,膝継手が曲がらないように振り出すため

が主な原因です.

解答の考え方

それでは選択肢を見返してみましょう.

1.の過度の腰椎前弯が見られるのは.

股関節の屈曲拘縮が起こっている場合なので,これは誤った選択肢ですね

2.の外転歩行前額面上で起こる異常歩行ですが

股関節屈曲拘縮が影響を与えるのは,基本的に矢状面の動きです.

これも誤った選択肢ですね.

3.の義足膝の不安定股関節伸展筋力低下によって起こります

これが正答ですね.

選択肢みて正答選べれば一番良いですが

この問題は消去法でも比較的簡単に答えを出せるのではないでしょうか

4.伸び上がり歩行矢状面上で起こる異常歩行ですが

股関節内転筋力の低下が影響を与えるのは,基本的に前額面の動きです.

これも誤った選択肢です.

余談ですが,股関節伸展・外転筋力が異常歩行の場合に

特に重要となる場合が多いですが,通常歩行以上にモーメントアームが短いので

外転筋と共に側方のコントロールを行う内転筋力は重要ではあります.

5.ぶん回し歩行は,股関節内転拘縮の場合には逆に起こりにくいですよね.

これも誤った選択肢となります.

まとめ

大腿義足のダイナミックアライメントに関わる問題を解説しました.

おそらく教科書を見ると,義足の異常歩行たくさんあって覚えるのツライ…

と考えてしまうのではないかと思います.

ただ義足は失われた足の機能を代償するものなので.

起こる異常歩行も義足の有無関わらず共通するものはとても多いです.

ソケットのアライメントや,継手の不随意制御は分けて覚える必要がありますが

半分以上は,持っている歩行の知識だけで説明できるのではないでしょうか.

義足の異常歩行に関わる問題は総じて

一見難しそうで混乱するけれど,冷静になってみると簡単

という問題がほとんどです.

知識を問う問題ではなく,考えれば解ける!という事がほとんどなので

1つずつ整理して考えるのが,正答を選ぶために大切ですね.

参考文献

日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p144

澤村誠志,切断と義肢,医歯薬出版,第1版,p403

義足の不随意制御に関してはコチラの記事もご覧ください

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