今回は短下肢装具の中でも,触れたり調整する機会が多いダブルクレンザック継手の調整方法についてです.
おそらく養成校でも一度は触れたことがあるはずで,私の場合は定期試験の中でも問われていたくらい.装具の中でも基本的な内容と言えるかも知れません.
ですが,やはり長い期間装具に触れる事がないと.こういった装具の調整方法についての知識は失われてしまっている事もあるかもしれません.長期間の使用を考えると,定期的にチェックや微調整が必要となる継手です.
使用される機会のとても多い継手なので,あまり装具に関わらない方でも.もし,目の前にダブルクレンザック継手を使用した装具のユーザーさんが現れたときのために.
調整方法やチェックポイントについてはしっかりと知っておきたいですよね.
今回はその中で,ダブルクレンザック継手の角度調整の方法と.メンテナンスの必要をチェックするべき箇所についてお話していこうと思います.
基本的な構造について
まず最初にダブルクレンザック継手の基本的な構造について確認をしていきましょう.メーカーさんによって同様の継手でも微妙に作りが異なることがありますが.根本的な部分は一緒です.
ダブルクレンザック継手は
- あぶみ
- 継手部
- 支柱
で構成されています.
継手部と支柱は一体化しており,継手部であぶみを挟むように接続されます.
継手は「継手を固定するネジとナット」で固定されます.
継手部には底背屈の角度を調整するための「ロッドとナット」があります.ロッドが剥き出しだと衣類など傷つける恐れがあるので,キャップが一緒に付いているかもしれません.
継手そのものの最大可動域は,継手部とあぶみが動く範囲で決まります.可動域を調整するロッドが入っていない状態で,可動域が少ない場合には.あぶみを削って可動域を増やす加工が必要です.
金属加工が必要なので制作会社での作業となり簡単には出来ません.予め20~30°程度の可動域が確保されています.
あまり削りすぎると強度と,ロッドが届かなくなるという問題があるため,より可動域が必要な場合は要相談ですね.
調整のロッドは,この継手に出来ている可動域を制限することで.角度を変更したり可動域の調整を行っています.
ロッドとあぶみの間にある隙間が遊動区間となり,ロッドの固定位置を変えることで継手の固定角度を変更する事が出来ます.
角度調整をする前に
では,継手の調整方法について確認していきましょう.
まず前提条件として,調整は装具を外した状態で行いましょう.ドライバーなど先端が鋭利な工具を使用して調整するため.なにかの拍子にズレて,足に当たってしまっては危険です.
装着しながら調整しなければならない理由が無い限りは,面倒がらずにきちんと外して行いましょう.
とはいえ,何度も着けたり外したりするのは.時間もかかりますし,ユーザーさんの負担にもなります.できれば1度で,望んだ調整を行えるようにしたいです.
ダブルクレンザック継手の調整は,目的や状況に合わせて角度の調整を行うという理由もありますが.調整の必要が無くなった後も定期的にチェックする必要があります.
装具に関わらずネジという物は,使っているうちに「緩むもの」です.歩くことで振動や衝撃の加わるロッドのネジ部分であれば尚更です.
ロッドが緩んで継手の制限角度が変われば,装具は役割を果たすことが出来ません.長期的に装具を使用する方にとって,この調整作業は必ず付随するものとなります.学生時代に授業で経験しなければならないのも頷けますね.
調整に必要な道具は
- ロッドを調整するための,マイナスドライバーか六角レンチ
- ナットを調整するための,スパナ
の2つです.装具の調整のために,サイズが変えられるモンキーレンチが1つあると便利ですね.またドライバーとレンチはネジ穴に合わせて選びましょう.サイズが合わないもので無理やり締めるとネジ穴が潰れてしまうので注意が必要です.
継手の調整方法
継手の仕組みが分かれば,調整の方法も分かってくるのではないでしょうか.ロッドは「継手の角度を調整するため」,ナットは「ロッドを固定するため」に締めたり緩めたりする必要があります.
今回は,底背屈0°固定の継手を背屈5°固定にする場合を例にして確認していきましょう.
底背屈0°固定から調整する場合には
- ナットを緩めてロッドを調整できるようにする
- 背屈のロッドを緩めて,背屈可動域を広げる
- 支柱を背屈させて,背屈5°となる位置にロッドを調整する
- 背屈状態で,底屈のロッドを締めて固定する
- 継手が背屈5°固定となったのでナットを締めてロッドが緩まないようにする
となっています.
慣れるまで作業に少し時間は掛かるものの,作業そのものはそこまで難しいものではないので.道具さえあれば,一度触れば思い出すのではないでしょうか?
基本が分かれば,調整自体は問題なく出来るのではないかと思います.緩みのチェックも兼ねてダブルクレンザック継手を使用した装具のユーザーさんに関わるタイミングがあれば.問題がないかどうか確認をしていきたいですね.
メンテナンスのために確認したい箇所
両側支柱付き短下肢装具の耐用年数は「3年」です.更生用装具であれば,ある程度の期間使用していくこととなります.
ダブルクレンザック継手は金属製の丈夫な継手なので,この金属部分を人の力で消耗させるというのは想像しにくいですが.
日々数千と歩く負荷が積み重なれば,金属ですら摩耗させます.ダブルクレンザック継手を使用する場合には強い痙性やアライメント不良がある場合が多いため,予想を遥かに上回る負荷が掛かる事もあります.
最も強固と言える支持性を持つこの継手ですら,それだけの摩耗のリスクがあるので.使用状況によって継手に掛かる負荷は本当に大きいですね.
装具の使用状況によって消耗の度合いはマチマチです.耐用年数を大幅に超えている装具を見ても全く問題ないケースもありますし.耐用年数以内でも各部に消耗が見られるケースもあります.消耗しやすい部分はある程度決まっているため,定期的にチェックをしていきたいです.
継手を「固定」で使用している場合は,比較的継手への負荷が少ないですが.「制限」として使用している場合は,動きの中でより大きな力が掛かるためより注意深くチェックする必要がありますね.
角度調整のロッド
角度調整のロッドは,歩行時の底背屈モーメントを受ける部分であるため.非常に大きな負荷を受けます.
あぶみと接触するロッドの先端部分は消耗しやすく.ロッドに伝わった力を固定しているロッドのネジ山部分にも大きな負荷がかかります.
耐用年数を遥かに超えて使用していたケースでは,ロッドのネジ山の波々が削れてなくなり.ロッドが抜けてしまうような事も起こります.
当然,継手は制限の役割を果たしていません.1年に1度くらいはロッドを外して大きく消耗していないか確認してみましょう.大量の金属粉が溜まっている場合にはどこかが削れている可能性があります.
あぶみ
ロッドと接触するあぶみは同様に消耗しやすい部分です.素材の硬さの関係か,ロッドよりもあぶみの方が消耗が大きいように思います.
また,継手の「軸」部分にあたるあぶみの穴には,体重・内反尖足など変形の矯正力など様々な方向へ大きな力が掛かります.
穴が広がると,継手にガタツキが起こったり,異常な金属音が起こる事があるので消耗がないか確認しましょう.
ロッドとの接触部分や軸の穴が消耗していないか確認するためには,ネジとナットを外して分解する必要があります.
分解自体は簡単ですが,ナットがハマりこんで抜けない事があるので.ネジを少し緩めてからネジ頭を軽くコンコンと叩くと外しやすいです.
ただし,絶対に強く叩かないでください.ネジが破損する恐れがあります.
後記しますが,継手のネジとナットが全然外せないというのは異常のサインです.義肢装具士に相談しましょう.
継手のネジとナット
継手のネジとナットは,あぶみと継手部を接続するパーツであると同時に.継手の軸の中心として「軸受け」の役割をしています.
あぶみに掛かった力と,支柱に掛かった力が.この軸受けであるネジとナットに集中し軸受を摩耗させます.長期に渡ってそのまま使用を続けると,酷いと金属を貫通して穴が開いてしまうほどです.
あぶみの消耗と同様に継手にガタツキが起こったり,異常な金属音が起こる事があるので消耗がないか確認しましょう.
また摩耗によってネジ山が潰れたり,金属片が詰まると.このネジとナットが外せなくなってしまうことがあります.確認して異変があれば義肢装具士に相談してみましょう.
まとめ
ダブルクレンザック継手の調整方法と,メンテナンスの必要を確認するためにチェックするべきポイントについてお話してきました.
装具にあまり関わることがない方でも,目の前に装具をすでに使用されているユーザーの方が現れれば.「ちょっとよく分からないので使うの止めます」という訳にはいきません.最低限の知識は持っていなければならないですよね.
長く使用する装具であればフォローは必須であり.状態の変化に合わせる継手の調整や,ネジの宿命である緩みを元の状態に戻すためにも.角度調整の方法は知っておきたいです.
また,非常に丈夫な継手ですが.適応を考えればそれ以上に大きな負荷が掛かる事も多いです.アライメントの問題が大きいほど,継手への負荷も大きくなりがちです.摩耗は破損へと繋がり,それが起こるタイミング次第で転倒など事故に繋がる恐れもあります.
ダブルクレンザック継手に限った話ではありませんが,装具が正しく機能しているか定期的なチェックをすることは.装具をよりよく使用していくために欠かせない事だと思います.
参考資料
公益財団法人テクノエイド協会,補装具費支給事務ガイドブック,p38
日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p348
日本義肢装具学会 監修,装具学,医歯薬出版,第3版,p2-
加倉井周一,新編 装具治療マニュアル-疾患別・症状別適応-,医歯薬出版,第2版,p56-