短下肢装具の歴史 DACS-AFOからGS継手に至るまで part-2

短下肢装具の歴史 DACS-AFOからGS継手に至るまで part-2

ゲイトソリューションという継手を知る上で重要な,その前身とも言える装具であった「DACS-AFO」についてお話していきます.

当時,脳卒中のリハビリで多く使用されていた装具には.回復が進み,正常歩行に近い能力を獲得するに従って.身体の動作と装具の働きの間に差が生まれてくるいくつかの課題がありました.

それらの課題を解決するために,開発された装具が「DACS-AFO」でした.詳細は↓前回の記事を御覧いただきたいのですが.今回は実際どういった装具であったのかについてまとめていきます.

DACS-AFO
あるくところ

求められる機能と開発された装具

脳卒中のリハビリを行っていく上で,通常歩行に近い動作を行うための.現状の装具の課題をまとめてみると.

  • 生理軸と機械軸が一致している
  • 立脚初期の制御には強い底屈制動が必要
  • 底屈は制動したいが.背屈は遊動にしたい
  • 適切な制動力に調整出来て.かつ変更が可逆
  • 適切な背屈補助を行う
求められる装具?

といった点が挙げられました.

改めて見てみると,SHBとオクラホマなど底屈制限を行う装具の「いいとこ取り」をしたような装具が求められていますね.これらの課題を解決するために開発されたDACS-AFOというのはどんな装具だったのでしょうか.

力源ユニットによる底屈制動

DACS-AFOは「DACS力源ユニット」が下腿部後面に装着された短下肢装具です.

「Dorsiflexion Assist Controlled by Spring」の頭文字からDACSと呼ばれており,スプリングが内蔵されています.このスプリングが底屈方向に動いたときに縮むことで,底屈補助と背屈補助の力を発揮します.一方で,背屈域では何の力も発揮しないため.

  • 底屈は制動したいが.背屈は遊動にしたい

必要な力だけ発揮し余計なことはしないという,条件を満たすことが出来ます.

既存で主流の装具になかった,新しい足関節の「制約」を持った装具でした

この背屈「遊動」底屈「制動」がDACS-AFOの最大の特徴と言えます.

DACS力源ユニット
DACS-AFOの行う制約

またSHBとは違い,底屈制動の機械軸はオクラホマなどの足継手に依存するため.

  • 生理軸と機械軸が一致している

という.SHBになかったメリットを得ることも出来ます.

立脚初期の制御を行うための底屈「制動」

「新しい制約」と言ったものの.ただ背屈「遊動」,底屈「制動」にするだけならば.PDAなど既存の装具にも可能でした.

重要なのは主に立脚初期の前脛骨筋の遠心性収縮によるヒールロッカーの動作を代償し得る程の「底屈制動」が求められている事です.立脚初期の制御には強い底屈制動が必要でした.

PDAもDACSも,その力を発生させる力源は「バネの力」です.

大きなモーメントアーム

ですが,DACS-AFOは力源ユニットが下腿後面と,足関節軸から離れた場所に位置しているため.何倍も大きなモーメントアームを持ちます.

これによって,IC後からLRに至るまでに必要とされる底屈制動に「近い力」を発揮する事が可能となり.片麻痺での歩行においても,立脚初期を制御するのに足りる機能を持っていました.

また,(PDAでも可能なのですが)バネの強さの種類を変えることで制動力を調整することが出来て.力源ユニットが与える力の大きさから,調整幅を大きく変更する事が可能で.

  • 立脚初期の制御には強い底屈制動が必要
  • 適切な制動力に調整出来て.かつ変更が可逆

という,開発のコンセプトと言える条件を満たすことが出来る装具が誕生しました.

DACS-AFOの恩恵と課題

新しい選択肢

DACS-AFOは,機能回復が進み,動作が正常歩行に近づけば近づくほど.装具の与える「機械的な力」と,可能になってきた正常歩行を行う「生体の動き」との差が徐々に大きくなるという問題を解決するため作られました.

スタビリティとモビリティがトレードオフな中で.歩行能力が高く,より繊細な動作を学習する際に.特に立脚初期の制御において,DACS-AFOは背屈遊動・底屈制動という制約によって,必要最低限のスタビリティを提供する事が出来ます

脳卒中リハビリの,歩行能力に応じた装具の選択肢に.オルトップのようなショートSHBとは違ったアプローチで,「既存の装具」と「裸足」の間を埋める,新しい選択肢を生み出しました

スタビリティとモビリティ
新しい選択肢

この選択肢は,装具の種類は変わったものの現在でも受け継がれて.装具を選択する際の基本的な考え方の1つとなっていますね.DACS-AFOによる立脚初期の制御を有効に活用出来る場面では,非常に有用な選択肢となりました.

残された課題

こうして短下肢装具として,新しい考え方と機能をもったDACS-AFOは画期的といって良い装具でしたが.一方でいくつかの課題が残されていました.

非常に優れたコンセプトを持った装具でしたが,イマイチ受け入れられなかった最大の理由は.下腿後面に配置された力源ユニットの後面の嵩張りによる外観だったのかもしれません.

靴を履く時には干渉しないデザインではあったものの.

  • 力源ユニットの「後面の嵩張り」
  • オクラホマなど既存の継手の「内外の嵩張り」
DACS-AFO

と,これまでの装具に追加して.内外・後面と嵩張りが増えてしまいました.

また,現在のゲイトソリューション継手の油圧の設定が悩ましいのと同様に.力源ユニットのバネの強さの選択が難しく,可変とはいっても簡単に変えられるものでもないため.当初はまだ経験値も少なく,設定が非常に難しい装具だったそうです

更に,バネの伸縮を利用している以上.縮むときに大きな制動力を発生させれば,バネが戻る時には大きな背屈補助が働いてしまうという構造は変わりません.(立脚初期の制御で問題になることは少なかったようですが)

こういった残されたいくつかの課題は,後の装具に託されていきます.

制動と補助

受け継がれるコンセプト

DACS-AFOの開発経緯とコンセプトは,現在でも脳卒中リハビリ装具の基礎の1つとなっています.DACSの開発と運用によって得られた知見は,その後のリハビリと装具に大きな影響を与えたのではないでしょうか

そのコンセプトの多くは,ゲイトソリューション継手に受け継がれて行くこととなるのですが.こうして後から見てみると,基本的な継手としての役割はDACS-AFOの段階でかなり完成されていたものだと分かります.

GS継手については今後触れていくとして.今回お話した内容に興味が出た方は,是非参考文献の論文に目を通していただきたいです.お話した内容が,より詳細に分かりやすくまとめられております.

脳卒中のリハビリ装具について知る上で,DACS-AFOは非常に重要な立ち位置にあった装具ではないかと思います.

GS継手

この3つの論文は必見です.

山本 澄子,片麻痺者のための背屈補助付短下肢装具 (DACS AFO) の開発,日本義肢装具学会誌,1997 年 13 巻 2 号 p. 131-138

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspo1985/13/2/13_2_131/_pdf/-char/ja

山本 澄子,動作分析にもとづく片麻痺者用短下肢装具の開発,理学療法科学,2003 年 18 巻 3 号 p. 115-121

https://www.jstage.jst.go.jp/article/rika/18/3/18_3_115/_pdf/-char/ja

山本 澄子,バイオメカニクスから見た片麻痺者の短下肢装具と運動療法,理学療法学,2012 年 39 巻 4 号 p. 240-244

https://www.jstage.jst.go.jp/article/rigaku/39/4/39_KJ00008113248/_pdf/-char/ja

参考文献

日本義肢装具学会 監修,装具学,医歯薬出版,第3版,p62-

kirsten gotz-neumann,観察による歩行分析,医学書院,2005,p54-

公益財団法人テクノエイド協会 DACS力源ユニット

http://www.techno-aids.or.jp/kaihatsu/j_35.shtml

山本 澄子,片麻痺者のための背屈補助付短下肢装具 (DACS AFO) の開発,日本義肢装具学会誌,1997 年 13 巻 2 号 p. 131-138

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspo1985/13/2/13_2_131/_pdf/-char/ja

山本 澄子,動作分析にもとづく片麻痺者用短下肢装具の開発,理学療法科学,2003 年 18 巻 3 号 p. 115-121

https://www.jstage.jst.go.jp/article/rika/18/3/18_3_115/_pdf/-char/ja

山本 澄子,バイオメカニクスから見た片麻痺者の短下肢装具と運動療法,理学療法学,2012 年 39 巻 4 号 p. 240-244

https://www.jstage.jst.go.jp/article/rigaku/39/4/39_KJ00008113248/_pdf/-char/ja

萩原 章由,足継手の調整ができる治療用装具,日本義肢装具学会誌,2007 年 23 巻 2 号 p. 142-146

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspo1985/23/2/23_2_142/_pdf/-char/ja

横山 修,油圧機構を用いた短下肢装具,総合リハビリテーション 30巻4号,p.363-368

https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1552109742

溝部 朋文,油圧機構を足継手に用いたAFOと理学療法,理学療法ジャーナル 36巻9号,p.651-657

https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1551106110

パシフィックサプライ ゲイトソリューション

https://www.p-supply.co.jp/products/index.php?act=detail&pid=375

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