装具はたくさんある方法の1つ

装具はたくさんある方法の1つ

歩行練習は,様々な事を目的として行われます.歩くことを運動として利用して,身体機能の維持や強化を目的とすることもありますし.

病気や怪我によって失われてしまった,歩行能力を再度獲得することを目的としている事もあります.

今回はそんな,脳卒中のリハビリなどで行われる.歩行能力の獲得を目的とした練習で用いられる装具に関するお話です.

歩行の再獲得を目的としたリハビリテーション

装具を使用した治療は,選択肢の1つです.状況によって向き不向きがあります.

装具をこれから使う・使っている方に「どんな理由で装具を使って,歩く練習をしているのか?」知る助けになるよう.出来るだけ分かりやすくお話していきたいと思います.

装具はたくさんある方法の1つ

装具を使う目的と役割

装具を使用する理由については,→記事で少し詳しくお話しているので.そちらも併せてご覧頂きたいのです.

脳卒中の歩行練習の目的は,脳の病気が起こった位置によっても変わってきますが.基本的には,「歩く」という脳の命令が上手に出せなくなってしまったものを.もう一度歩く能力を再獲得する事が大きな目的となっています.

運動の再獲得は,「新しい事を出来るようになる」事と,とても近い部分があり.

多くの方が経験した事があるであろう,何かを上手になるための練習との共通点が多いので.そう考えると理解しやすい部分があるかもしれません.

その根本にあるのは

  • 上手になりたい事を練習するのが,一番の練習になる
  • 練習したことが,練習に応じて上手になる

ということです.

これだけ聞くと,「そりゃそうだよね」となるのではないでしょうか.少し簡略化しすぎかもしれませんが,脳卒中のリハビリの歩行の再獲得は.病気の状態に合わせて専門知識の元,こういった考えを基本に行われています.

歩くことを学習するためには,歩く練習をしたい

バッティングの練習でバッティングをするように.ギターの練習でギターを弾くように.歩行の学習のためには,歩くことが1番の練習になります

ですが,一言で「歩く」といっても.そこには様々な要素が詰まっています.

バッティングやギターを弾くという事に当てはめてみてもそれは同様ですよね.

良いバッティングのためには,筋力身体のコントロールの両方が必要となるのではないかと思います.

どちらも必要な能力ですが,筋肉トレーニング「だけ」をひたすらやったとしても.バッティングはあまり上達しません

バッティングに適した筋力は,その動作をするために必要な「前提条件」です.もちろん蔑ろにしては,まともなバッティング練習は出来ません.

新しく「出来るようになる」ための練習
筋トレだけでバッティングは上達しない

前提条件」を揃えるための練習と,獲得したい「動作そのものの練習」に分かれますが.バッティングの獲得にはバッティングの練習は避けて通れません.

歩行のためのリハビリもそれは同様です.筋力をつけるためのリハビリはとても大切ですが,長い期間ベッドでの生活で筋肉が落ちてしまって歩けないという場合でなければ.筋力トレーニングだけをひたすらやっていても歩行の上達には繋がりません

脳卒中などの病気やケガの原因や程度によって,必要となる練習はより複雑になりますが.歩行を獲得するためには,最終的には歩行の練習を避けては通れず,「歩くために歩く練習をする」事が1つの練習の目標となってきます.

四頭筋-訓練
平行棒内の歩行訓練

練習した事が,やった練習に応じて上手になる

練習したことが上手になる」というのは,当たり前のようですが.ただただやれば上手くなるわけではないというのもまた,実生活の中で感じることではないでしょうか.

練習したことは,練習しただけ上達します.練習していない関連の薄い動作が,突然上手になるという事は無いですよね.同時に,その練習内容がとても重要運動学習に繋がるものでなくては,なかなか上達しないこともあります

もう一度バッティングを例にすると.バッティング上達のために素振りの練習をするとして.ただ闇雲にバッドを振っていれば,バッティングが上達する訳ではありません.

ただバッドを振る」のと「素振りの練習」では,バッティングに必要となる動作に差があるからです.

フォームもぐちゃぐちゃで,ただバッドを振る練習をしてしまっては.それはバッティングの練習」ではなく「バッドを振る練習」になってしまいます

素振りの練習

歩くための練習も同様で,「ただ歩けばいい」という訳では無いことは.想像しやすいのではないでしょうか.

バッティングに比べると,「歩く」は多くの方にとって当たり前に出来てしまう事ですが.脳卒中という病気では時として,それを1から獲得していく事となります.

良い歩き方」を普段の生活で意識することは,あまり多くないですが.もし先程の素振りと同様に,間違ったフォームでひたすら練習してしまったら.歩行に繋がる練習とは言えないですよね

練習をしたことは,練習しただけ上達するという事は.「どんな練習をするか」が非常に重要になってきます.

歩行の補助

大切なのは「どんな練習」をするか

上達に適した練習はどんなものなのか?

スポーツや楽器などの練習と同様に,歩行の練習でも多くの要素が絡んでいるため.多くの方法がありますし,時と場合によって適しているものも変わってくるでしょう.

その中の1つの要素に「難易度」があります.

  • 出来るようになるには,それを練習するのが良い!
  • でも難しくて出来ないから練習にならない…
難しすぎるギターの練習

という経験は誰にでもあるのではないかと思います.あまりにも難易度の高い練習は,そこから得られる物も少なくなってしまいます.出来ないから練習したいのに,出来なくて練習にならないという状態に陥ってしまいます.

そんな時に,練習の内容を「少し簡単なものに変える」というのは.これもまたよく行われる方法で,生活の中でも実感がある事ではないでしょうか.

またバッティングを例にしますが.実際の野球の試合のためのバッティングという課題を獲得するために.その動作だけを素振りで練習したり.止まったボールにバッドを当てるという,条件を限定したティーバッティング練習が行われます.

これは実際のバッティングから「難易度を調整した練習」ですよね.少し簡単な練習でバッティングの習熟度を上げていき,最後にはバッティング練習に到達することが出来ます.

適切な難易度」は上達に適した練習の重要な条件ですね

素振りの練習
ティーバッティング
バッティング

脳卒中のリハビリで行われる歩行練習も同じことが言えます.

詳細は「装具は歩く練習をするために必要?」の記事でも触れていますが.脳卒中という病気の結果,脳が身体を動かすための司令を上手に出せなくなってしまいます.

そんな中で,いきなり体の動き全てを自身でコントロールするのはとても難易度が高いことです.まさに,歩けるようになるために歩く練習をしたいけれど,歩くのは難しくて出来ないという状況に陥ってしまいます.

そこで難易度調整のための道具として登場するのが「装具」です.

身体の全部を動かすのが難しければ,一部の関節のコントロールは装具に任せて.先に獲得したい動作の獲得に集中するというのが,脳卒中リハビリにおける装具の主な役割です

一部の動作を獲得して,それが出来るようになったら外して次のステップへ…という自転車の「補助輪」のような役割を装具はしています.歩けるようになるために歩く練習をする事は,「運動療法」と呼ばれるものの1つで,装具はそのために使われている1つの要素と言って良いかもしれません.

運動学習として見た,補助輪の役割
長下肢装具で足・膝関節を制約して.練習難易度を調整

装具は選択肢の1つ

歩行練習のための難易度調整に使用される装具ですが.脳卒中のリハビリで歩行練習をする時に,必ず必要なものというわけではありません.今の身体で出来る能力と,行いたい練習によっては装具も向き不向きがあります.あくまでも選択肢の1つです.

難易度を調整するという意味では.セラピストが行う「補助」も同様です

自身でコントロールをするのが難しい動きを,難しすぎない程度に調整する役割を持っています.

もしこの補助だけで,行いたい練習の難易度調整が出来るなら装具を使用しなくても良いわけです.

装具とセラピスト,2つ合わさってよりよい練習を

自転車の補助輪を使わずに,ずっと付きっきりで補助をしても.自転車を漕ぐ練習として適切なものであるならば何の問題もないですよね.

運動の獲得に適した難易度にするためには,を使うこともあれば,装具を使うこともあります.

電気の刺激で,筋肉の働きを助ける方法もあります.

もし脳が正しい命令を出せずに,勝手に筋肉が収縮してしまう事が歩くのを難しくしているならば.筋肉の緊張を抑える注射をする事もあります.

その他にも,身体を上手に動かしやすい状態を作ったり.逆に動かしにくい原因を取り除くことによって.「歩く練習をするために良い状態」を作ります.

脳卒中のリハビリで大切なのは,装具や電気や注射を使ったから歩ける訳ではなく.あくまでも歩く練習をしたから」歩く能力を獲得出来るということです

自分が今持っている能力に,これらの様々な方法を追加することで.難易度の調整を行って,難しすぎない練習を正しい方法で,反復して行う事が.再び歩く能力を獲得するために必要なものです.

難しすぎれば上達しにくいですし,間違った歩き方で練習しては意味がありません.ただ歩けば良いわけではないのは前記の通りですよね.

大切なのは,それらを組み合わせた合計でどんな練習が出来るかです.そこに装具が必要でなければ,装具は「0」だって構いません.

杖を使う
電気治療
ボツリヌス療法

歩行練習を行うのに適した状態を作るのに便利な道具」として装具は大きな力を発揮しているため,「脳卒中のリハビリのために装具が必要です」となっているわけですね

大切なのは練習に適した状況を作ること

まとめ

脳卒中リハビリで,歩行再獲得のために必要なことと装具の役割についてお話しました.

リハビリをする上で装具を使わなければならない理由も,使わない理由も特になくて.一言で言ってしまうとよい歩行練習が出来る」時に使う練習道具です

装具を着けたから歩けるわけではなく.歩行の再獲得はあくまでも,歩行練習という本人の努力によるものです.

気をつけなくてはいけないのは,ただ闇雲に歩いても意味はないこと.難しすぎると練習になりにくいこと.良くも悪くも練習した事が上達するということです.

どんなに頑張って練習をしても,それが「歩行」に繋がることでないと意味は薄れてしまいます.大切なのは「どんな練習をしたか」です

短下肢装具を使ったリハビリ

脳卒中という病気によって一度失われてしまった能力を,もう一度1つずつ獲得していくためには.自分の持っている能力と,獲得したい能力は移り変わっていきます.

そんな時に,難しすぎる練習を何とか出来るものに調整するために.歩行練習の多くの場面で装具は役に立ってくれる選択肢の1つとなっています

参考文献

日本義肢装具学会 監修,装具学,医歯薬出版,第3版,p2-

日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p189.215.231

加倉井周一,新編 装具治療マニュアル-疾患別・症状別適応-,医歯薬出版,第2版,p56-

理学療法ガイドライン第1版 6.脳卒中

http://www.japanpt.or.jp/upload/jspt/obj/files/guideline/12_apoplexy.pdf

最強の回復期リハビリテーション- FIT program

http://www.fujita-hu.ac.jp/~rehabmed/contents/n_md02/reha02sub/book_fit2.html

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