装具の初期角度

装具の初期角度

装具検討の際に,考えなくてはいけない1つの要素として初期角度があります.

装具の種類によっては,最初に決めたその設定から変更できないものもあるので

最初で間違えると作り直し…なんて事も起こりかねません.

新人さんが最初に思う「どうしたらいいの?」の1つだと思うので

どんな影響があるのかはしっかりと知っておきたいですよね.

装具の初期角度

まず注意して見ておきたいのが,

装具の初期角度がどのように設定されているかです.

装具作成時に「背屈角度は○°にする」という話はよく出てきますよね.

装具の初期角度とは

そもそも装具の初期角度って何の事を言っているの?

という所から触れていくと.

外果と腓骨頭を結ぶ線が

地面からの垂線と一致する角度が

底背屈の中間位だとすると.

装具に何も力が加わっていない

ニュートラルな状態

外果と腓骨頭を結ぶ線の成す角度が

「初期(背屈)角度」となります.

初期角度の設定

「背屈角5°の装具を作成する」というのは

ニュートラルな装具の状態が5°背屈している設定の装具という事ですね.

初期角度が与える影響

「初期角度」は装具の制御を考える上で重要な基準となります.

前記の通り,初期設定であるこの状態では装具は何の力も発揮していません

この初期角度を基準として

背屈(前方)方向で背屈域の制御

底屈(後方)方向で底屈域の制御

行われて装具は力を発揮します.

背屈域と底屈域の制御

厳密に言うと,装具の制御は

  • 背屈域で背屈方向への力を制御する
  • 背屈域で底屈方向への力を制御する
  • 底屈域で底屈方向への力を制御する
  • 底屈域で背屈方向への力を制御する

の4つに別れるという事になります.

SHBを例にすると,初期角度を境に

  • 背屈制動
  • 底屈補助
  • 底屈制動
  • 背屈補助

が働いている事になりますね.

SHBの発揮する力

ここで,問題となるのが.制動は「初期角度を境に働きはじめる」という点です

特にプラスチックやカーボンなど

撓みを利用した制動に顕著ですが.

底屈制動を例にすると

初期角度から底屈し始め

制動の力は小さく

底屈するに従って大きくなり

最終的には底屈が制限されます

初期角度と制動力

上手に使えば,各歩行周期でブレーキを掛けながら底屈を使って歩く

という大きなメリットがありますが.

視点を変えれば,ある程度の底屈を許してしまっています

もし初期角度底背屈0°

SHBがあったとすると.

荷重時に底屈位の制動を行うまでに

よほど強い制動にしなければ

底屈位となってしまいますよね.

それを許しすぎれば反張膝

なってしまいます.

初期角度0°のSHB

初期角度で背屈○°をつけるのには.

遊脚期に背屈位であることでトークリアランスの確保をしやすい事に加えて

立脚中期に底屈位と反張膝を許さないような制動距離を確保する

という意味合いもあります.

トークリアランス確保
目的の制動を行える角度

よく装具検討の際に話に出てくる,

「背屈角度を3°にするか,5°にするか」のような話は要約すると

プラスチックの厚みと,作成する装具のトリミングを加味して

このくらいの制動力があるから

底屈を制御するために○°くらい角度が必要だよね!という事です.

ちょっとややこしいかもしれませんが,

その装具がどの域でどんな力を発揮する装具なのか整理出来ると

装具の働きが理解しやすいのではないかと思います.

義肢装具士さんとよく相談しながら作成することが重要ですし.

デモ機や備品の装具を自分でつけてみて

それぞれの装具にどのくらいの制動力があるのか体験しておくのも大切です.

初期角度の設定と変更

ここまでお話してきたとおり,装具の初期角度は

装具が行う制御に大きな影響を与えます.

作成時の設定が重要なのですが,時には変更したいと思う事もあるはずです.

しかし,冒頭でも触れたとおり.装具によっては作成時の設定が全て

変更する場合は作り直し,という場合もあります.

代表的なものを紹介していきますね.

自由に調整できるもの

角度調整を行うことが出来る装具は,任意の角度で固定や制限を調整出来るため

初期角度は,あってないようなものですね.

万が一,想定より筋緊張が強くなったとしても.ある程度対応しやすいです.

課題の難易度や習得したい動作などによっても,

装具の角度を変えることが出来るため,脳卒中の治療用装具などでは

あると良い機能と言えるのではないでしょうか.

代表的なものは,Wクレンザック,RAPS,PDCなどの継手です.

微調整できるもの

自由に調整できるわけではないですが.

調整用パーツなどで角度を変更することが出来るものです.

代表的なものでは,GS継手はパーツ交換で0°か5°で角度調整が出来ますし.

タマラックオクラホマ継手などは後方バンパーの高さを調整することで

初期角度を調整することが出来ます.

角度を変更する予定がなければコレで十分かもしれません.

また,オクラホマやタマラックでは.

モーションコントロールリミッターを付けることで

調整の対応がしやすくなります.こうなると

「自由に調整できるもの」に分類されるかもしれませんね.

GS継手の角度調整
有薗義肢
モーションコントロールリミッター

調整できないもの

問題なのは調整できない装具です.

ここまでの話でも出てきていますが,代表的なものはSHBですね.

トリミングの変更で,制動力を減らすことだけは出来ますが.

角度は作成時の設定が全てです

これがSHBが最も基本な装具のわりに,適合や設定が難しい理由の1つですね

経験豊富な方なら,装具のプラスチックの厚みとトリミング見ただけで

どのくらいの制動力があるのかある程度想像できると思いますが.

新人さんには難しいと思うので,

とにかくたくさんの装具に触れて感触を覚えつつ

備品を使って先輩やPOさんと評価していくのが良いのではないでしょうか.

まとめ

装具の初期角度について解説をしてきました.

装具の制御を行う基準ともなるため

装具自体の機能を決める重要な要素の1つです.

特にSHBなど後から調整困難な装具では,最初の設定が重要なので

義肢装具士さんとよく相談しながら設定していきましょう.

この初期設定は「装具に足がしっかり収まっている」という事が前提です.

どんなに初期の設定が良くても,正しく履けていないと意味がないので

装着の指導は,ポイントを押さえて見ていきたいですね.

また脳卒中の治療装具などでは,使用される装具の設定が

作成時に完全に定まっており変更の予定が無い場合をのぞいで.

角度調整が出来る装具を選択しておくのが,

様々な課題に対応するためにも良いのではないかと思います.

参考資料

日本義肢装具学会 監修,装具学,医歯薬出版,第3版,p61

日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p237

パシフィックサプライ GSDマニュアルVer.2

https://www.p-supply.co.jp/products/documents/index.php?act=list&doctype=manual&d_id=1085

有薗義肢 取り扱い製品カタログ

http://arizono.co.jp/wp-content/themes/ArizonoTheme/pdf/21_Catalog.pdf

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