どんな装具にも当てはまりますが.正しい着け方が出来ていなければ.本来の機能を果たすことが出来なかったり,トラブルの原因になってしまいます.
正しく着けることは,装具をより良く使うための第一歩ですが,意外と簡単なことではありません.最も身近な装具であるコルセットも,それについては同様です.
今回は「コルセットの正しい着け方」についてお話していきます.
コルセットを使用するユーザーさんやそのご家族,また医療従事者でもあまりコルセットに触れる機会が少ない方は.
「正しい着け方」が出来ているどうか,確認しながら読んでみてください.
今回お話していくのは,主に「装具」として処方されたオーダーメイドのコルセットについてですが.基本的な考え方は,市販のコルセットでも同様なので参考にして着けてみてください.
市販のものとオーダーメイドで,違う点を挙げると.
オーダーメイドのコルセットは「正しい装着位置」が想定されていて,それに「合わせて作成」されていますが.市販品では,丈や形状などマチマチです.
症状や疾患によっては,着ける位置によって全く機能しなくなる場合もあるため.もし相談できる専門家がいれば,一度確認してもらうと安心ではないかと思います.
正しい位置で着けなければ,機能が失われてしまうのはオーダーメイドであったとしても同様です.特に固定力が強い,「プラスチック製のコルセット」などではその材質の硬さから,身体に合っていない位置で着けると皮膚のトラブルの原因にもなり得ます.
ぜひ知っておいて欲しいのが
コルセットは使っているうちに「必ずズレてくるもの」
という事です.
コルセットは締め付けて固定してはいるものの.身体に巻き付いている筒状のものでしかないため.立ち座りなど動作の中で,構造上「上にずれやすい」ものです.
コルセットを使用していく中で,ズレたコルセットを「正しい位置に直す」という行程が必ず必要となってきます.コルセットを正しく使うためには,「正しい着け方」を意識することが大切です.
コルセットを着ける時,最初に気をつけておきたいのが.コルセットは「いつ着けるものなのか?」という事です.
などタイミングはいくつかありますが.疾患や生活の状況によって適切なタイミングが異なります.
特に,「圧迫骨折」など.起き上がり動作でも脊椎への負荷が大きい場合には.朝起きて起き上がる前にコルセットを着ける必要があります.症状が悪化してしまうこともあるため,疾患によってはいつ着けるのかは非常に重要です.
どのタイミングで着ければよいのかは,必ず医師など専門家と相談しましょう.
着ける前にもう1つ意識したいのが.「肌着」を一枚着た上からコルセットを着けるということです.
コルセットを着けると,どうしても身体を覆うものが増える事となります.夏の暑い時期などは,「余計な服を着たくない」と思うのではないでしょうか?
夏場は汗をかきやすいですが,汗に濡れた肌は傷を作りやすい状態です.特にオーダーメイドのコルセットは固定のために身体を支える支柱や,プラスチック製など固い材質である事もあるので.肌に直接触れるのはリスクが大きいです.
またコルセットが汗を吸うのは,長期的に使用する事を考えれば衛生面や汚れを考えると極力避けたいです.
特別な事情が無い限りは,肌着一枚の上からコルセットを着けるのが基本となります.通気性がよい,速乾性のシャツなどが適していますね.
手術後など肌着を着るのが難しい場合にも,ストッキネットなど利用して肌に直接触れないようにしましょう.
実際にコルセットを着ける位置についてですが,まずその前に「上下が合っているか」をきちんと確認しましょう.
「そんなバカな!」と思われるかもしれませんが.コルセットの様子がおかしい…となって見てみると「上下逆でした」というケースが実際にあります.
それはある意味仕方ないことで,コルセットは着ける時には「帯状」なので.しっかり見ないと上下が分かりにくいです.
そういった事情もあり,オーダーメイドのコルセットには.制作会社さんが予め「上下が分かるような印」を付けてくれている事が多いのではないかと思います.コルセット受け取りの際には,専門家からしっかりと装着方法とそのポイントを聞いておきたいですね!
オーダーメイドのコルセットは採寸や採型など,体の形に沿って作成されています.
特に骨盤など,体表からも触れられるような骨の部分は.その形状がコルセットにもしっかり表れています.
コルセット全般に言えることですが,脊椎を支えるためには.まず骨盤をしっかりと保持する必要があります.
「骨盤をしっかり覆う」というのがコルセットの基本的な条件となっています.
コルセットの固定が持つ役割についてはコチラの記事を御覧ください
数ある装具のなかでも,比較的身近なものであるコルセットですが.腰痛やぎっくり腰の時に役立つものという事は知っていても.コルセットがどのような働きをしているのかは,あまり知らない方が多いのではないでしょうか?なんとなく,「固定する」「締めつける」もの,というイメージはあると思うのですが.今回はコルセットがしている,「固定する」という事に... 「コルセット」のはたらき -コルセットは動きを邪魔するためのもの- - なぜなに。装具 まとめ |
「骨盤の形状に合わせる」といっても,抽象的で分かりにくいかもしれません.そんな時,着ける位置の指標となっている場所があります.
骨盤を構成する骨の1つである「腸骨」にある,体表から触れる突起です.専門的には「上前腸骨棘」と呼ばれています.
「前ならえの先頭」の姿勢をした時に,指の延長線上にあるポコっと膨らんだ骨の突起がそれにあたります.
コルセットは調度この「骨の突起を覆う」ようにデザインされているのが基本形です.
コルセットを着ける時は,コルセットの下縁部分がこの骨の突起を覆うような位置に着けることを意識しましょう.骨盤の形状と,この「上前腸骨棘」の位置を目安に合わせると.コルセットを正しい位置で着けることが出来ます.
ですが,そんな骨の突起の位置を見つけて着けるのは,もしかしたら難しい事があるかもしれません.
そんな場合に,一番わかりやすい方法が.
股関節を90°に曲げて座った状態で.コルセットを太ももの付け根に触れる位置まで.下げられるだけ下げて着ける.
という方法です.
こうして着けると,先程の「上前腸骨棘」を覆う位置に調度コルセットが来るように着けることが出来ます.
もちろん,コルセットのデザインによっては,微妙に位置が異なる場合もあるので.コルセット作成時には制作会社さんの説明を聞いて,着けるポイントをチェックしたいですね.
この方法は,身体に合わせて十分な丈があるように作られたオーダーメイドコルセットについてです.
市販のコルセットは,しっかり骨盤を覆うのには丈が不十分なことが殆どなので.「上前腸骨棘」を覆うようにコルセットを着けると,骨盤を覆っただけで終わってしまうようなケースもあります.
症状やコルセットの種類によって位置はマチマチですが,説明書を読みつつ.「骨盤」にコルセットがかかるように着けるのを意識してもらうと良い位置で着けられるのではないかと思います.
最後に,ベルトを締める時の注意です.
着ける位置を決めたらベルトを締めていくわけですが.一度「仮止め」をしてから位置を微調整し.その後にしっかり締めると着けやすいのではないかと思います.
①>②>③>④の順で仮止めして.
再度①>②>③>④の順でしっかり締めましょう.
まず骨盤を固定する①のベルトを締めて位置を決めると分かりやすいです.
背筋が伸ばされるような固定感があるまで締めたいですが.あまりギューギューに締めてしまうと苦しくなってしまいます.
特に食後は胃を圧迫されて気分が悪くなってしまうこともあるので.上の③④のベルトに関しては適宜緩めましょう.
休憩中や食後には,身体に沿わせる程度でも大丈夫です.その代わり,固定の土台となる①②のベルトはしっかり固定しておきましょう.
コルセットを締める理由についてはコチラを御覧ください
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コルセットの正しい着け方についてまとめました.非常に身近な装具であるコルセットは使用したり目にする機会が多いものかもしれません.
そんなコルセットも他の装具と同様に,正しく装着しなければ力を発揮できないず.ずれて着けてしまうことで,皮膚のトラブルなど悪影響に繋がることもありえます.
オーダーメイドのコルセットは制作した際に基本的に専門家から装着についての説明があるはずです.正しく使うために正しい装着方法を知ることはとても重要です.すでに使用されているユーザーさんも,改めて正しく着けられているかどうか確認してみてください.
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加倉井周一,新編 装具治療マニュアル-疾患別・症状別適応-,医歯薬出版,第2版,p231-
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