「手」は言うまでもなく,様々な動作を行う際に多くの役割を持ち.上肢の関節が連動して動くことでその動作を可能としています.義手は,切断によってその上肢の一部が失われてしまった際に.機能の代償を目的として装着する器具です.
肩,肘,手,指の関節にどれだけの機能が残されているかによって,義肢に求められる機能も大きく変わってきますが.今回は義手の「機能的な分類」について,義手について知りたい,勉強したい方に向けてまとめていきたいと思います.
テレビのニュースやマンガ・映画で取り上げられる義手をイメージしていると.今現在多く使われている義手を見ると「実際の義手の機能ってこんなものなのか…」とガッカリしてしまうかもしれません.義手を上手に使いこなすという事は想像以上に難しい事です.
手は,掴む,摘む,握るなど.状況に合わせて様々な動きをしています.それらの全ての機能を持ち,かつ操作できる義手というのは.まだ実際に使われているものではありません.
義手は発展途上の分野であり.義手の種類によっては,訓練が行える施設も,支給の体制も限られてしまっているのが現状です.
一方で,「格好良くて,機能的な義手のハンド」が登場しつつあり,発展が非常にめざましい分野でもあります.義手は使いこなすことが出来れば,仕事や趣味などの社会生活を行う上で.失われた機能を代償し「手の代わり」としての役割を持つことが出来る器具です.
失われた手の代わりとして,どんな機能が求められるのか触れながら.その機能的な分類について確認していきましょう.
手という機能を補うためには,それだけ多くの機能が必要とされますが.冒頭で触れたとおり,残念ながら全てのニーズを満たすような義手はまだ存在しません.
今ある身体の機能や,社会生活を送る上で必要な機能,本人のニーズなどに応えるために.義手には様々な種類とそのためのパーツががあります.
特に「手の部分」を担う,手先具と呼ばれるハンドやフックは.その義手の機能を大きく左右する違いがあります.義手の機能的な分類は,手先具の違いによる分類と言っても良いですね.
義手の分類は大きく分けてこの4つで
に分類されます.
今回は装飾用義手の解説していきます.
1つ目は装飾義手です.
外観の復元を第一義に考え.軽量化と見かけの良さを図った義手の総称
JIS-T0101
と定められています.
その説明のとおり,軽量さと外観には大きなメリットがありますが,手の部分(手先具)としての機能は最低限で.物を押さえたり,引っ掛けたりが出来る程度です.
パッシプハンドという,反対の手で義手の「手の形を変える」事が出来るタイプのものはありますが.自分の意思で掴んだり握ったり動かすことは出来ません.
そんな装飾用義手ですが,最も多く使用される義手でもあります.国内で処方される義手のうち,およそ8割は装飾用義手です.
その理由の1つとして.失われた手の重要な機能として,義手には外観が求められることが多いからです.義肢装具ユーザーのパラリンピックなどでの活躍から,義肢に対する認知は広がりはしたものの.まだまだご本人も,周囲の環境も,オープンに義肢を装着する事には.大なり小なり抵抗があるのが現実だと思います.
義足の場合は,ズボンや靴で隠れやすいですが.義手は手部など洋服の外に出ている部分も多いため,様々な動作をする時に目立ちがちです.上肢のプロポーションの修復を第一義とする,この装飾用義手が果たしている役割は非常に大きなものとなります.
手を動かす,という機能がないデメリットはあるものの.その主目的である外観に関する性能は.他のタイプの義手とは一線を画するものもあります.フルオーダーメイドの装飾用義手の中には,見ただけでは義手と認識出来ないほど精巧な物があるほどです.
↓ホームページを是非見ていただきたいです.
株式会社 佐藤技研
http://www.satogiken.jp/index.html
少し装飾用義手そのものの話からズレてしまいますが.その他のタイプの義手でも外観は当然重要視されます.
動かせる手先具の上から「コスメチックグローブ」と呼ばれる装飾用カバーを被せたり,パーツごと交換する事で.色や質感を肌に近づけることが出来ます.
多くのタイプの義手で共通して「外観」は義手に求められる重要な機能と言えますね
近年は基本的に合成樹脂製のもので.上記の通りシリコン製のオーダー品はパっと見ただけでは義手と分からない程です.一方で,シリコンが傷つき裂けてしまうと修復困難であったり.インクなどの汚れが付いてしまうと取れにくいといった点もあるので.使用する状況に合わせた選択が必要となります.
そんな外観に大きなメリットのある装飾用義手ですが.一方で,手先具は握ったり掴んだり自分の意志で動かす事ができません.
これは,手が担っている機能を考えると大きなデメリットです.それにも関わらず,国内で処方される義手の8割を占めるのには,どのような背景があるのでしょうか?
まず「1つ目」の要素として.手先具が動かない装飾義手ですが,日常生活で行われる動作のいくつかは行うことが出来ます.
字を書く時に,紙を押さえたり.バックを引っ掛けて持つ.はその代表です.
手の複雑な動きを必要としない,簡単な作業は装飾用義手でも可能ということですね
「2つ目」の要素はまた次回以降,他のタイプの義手のお話をする際に詳しく解説したいのですが.動かすことの出来る義手を上手にコントロールするためには,どのタイプの義手でもある程度の訓練が必須という事です.多機能である程,操作は難しくなってしまいます.
訓練によって獲得できる,掴むや握るといった動作が.訓練にかけた努力に対して,日常生活の中で活かせるものでなくてはなりません.
「3つ目」は,片側の上肢切断の方にしか当てはまらないのですが.そうして努力して獲得した義手での動作の多くは.効き手かどうかを問わず反対の健康な手には遠く及ばないという事です.
現在,保険適応で使用できる義手は.「手」の動きのほんの一部を可能にしているに過ぎないのが現状です.
「コップを掴み,口元に運んで飲む」という動作を義手で習得するためには多くの訓練が必要となりますが.反対の健康な手を使えばすぐにでも出来てしまいます.
また,どれだけ訓練をしても.「スマホを持って操作する」といった細かい動作は.義手ではまだまだ難しいのが現実です.
このような理由から日常生活や趣味や仕事で,義手で獲得できる手の動きを使った両手での作業が必要!という場合以外には.「健康な方の手を使おう」となりがちで努力に見合わないことも多く.
複雑な動きは健康な手を主に使いながら,押さえたり支えたり補助する役割を持った義手という「実用的な機能」が求められ.それならば「軽くて外観が良い装飾用義手の方が扱いやすくて良いよね」と選ばれる事も多いです.
実際に義手を使用していく上では,軽さと外観は非常に重要で.装飾用義手を8割程の人が使う程に選択される理由だ,と考えられる一方で.その裏ではユーザーさんの「大きな妥協」によって成り立っています.
「実用的な機能」とは言ったものの,選択肢の少なさからくる消極的な結果であり,満足のいくものでは無いと思います.本来であれば手を動かす機能が十分で外観も良い義手を使いたいですよね.
残念ながら失われた手の機能を満たす義手と,その訓練を行うリハビリテーションは存在していないというのが現実です.少しずつ進みつつある新たな義手開発とリハビリ,そしてそれらを支給する制度は義手を取り巻く環境の,今後の大きな課題となっています.
日常生活に必要な動作と,外観を含めた使い勝手,金額などを加味して.「選びうる選択肢の中では最適なもの」として.装飾用義手が多く選ばれているというのも,1つの現状であると思います.
手の代わりとして理想の機能とは言えないかもしれませんが.軽さと外観という点において装飾用義手は多くある義手の分類の中で,非常に秀でた機能を持っています.
義手において外観は非常に重要な要素であり,現在ある義手の選択肢の中から実用的な機能を検討していくと.多くの方に適応する義手です.
見ただけでは分からない程の精巧な外観と,触った質感がとても近い装飾用義手も現れています.(フルオーダーのものは高価ですが)外観のみにフォーカスすると機能を満たしつつあるのではないでしょうか.
一方で手を動かすという機能は無く,掴んだり握ったりは出来ず.仕事などでそういった動作が必要な場合にはニーズを満たすことが出来ません.
次回は,そういった日常生活や仕事で動かしたり作業する事を目的としている義手についてお話していきたいと思います.
日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p84
澤村誠志,切断と義肢,医歯薬出版,第1版,p4
Barbara Engstrom,切断のリハビリテーション-知っておきたい全プロセス-,共同医書出版社,第1版,p235
公益財団法人テクノエイド協会,補装具費支給事務ガイドブック,p82
ottobock 義手
https://www.ottobock.co.jp/prosthetic_ue/
株式会社 佐藤技研