義手の種類について-機能的な分類 その2-

義手の種類について-機能的な分類 その2-

義手の機能的な分類を解説しながら,その義手にまつわる背景をお話していきます.今回は,動かせる義手である能動義手についてです.

最も多く処方される装飾用義手については前回解説をしました.少し長いですが,義手を取り巻く環境と課題についてはコチラの方が重要なので.ぜひ先に見ていただければと思います.

装飾用義手上肢のプロポーションの修復を第一義とする義手であり,その外観は他の分類の義手と比べて秀でたものでしたが.一方で自身の意志で動かすことは出来ず.物を掴んだり,握ったりといった事は出来ない義手でした.

外観ではなく,「動かす」事にフォーカスした義手にはどういったものがあるのでしょうか.

義手の機能的な分類

ここ義手の機能的な分類についておさらいしていきましょう.

手という機能を補うためには,それだけ多くの機能が必要とされますが.冒頭で触れたとおり,残念ながら全てのニーズを満たすような義手はまだ存在しません

今ある身体の機能や,社会生活を送る上で必要な機能本人のニーズなどに応えるために.義手には様々な種類とそのためのパーツががあります.

特に「手の部分」を担う,手先具と呼ばれるハンドやフックは.その義手の機能を大きく左右する違いがあります.義手の機能的な分類は,手先具の違いによる分類と言っても良いですね.

義手の分類は大きく分けてこの4つで

  • 装飾用義手
  • 作業用義手
  • 能動義手
  • 電動義手

に分類されます.

今回はこの中の,能動義手について解説していきます.

手と「動かせる」義手

前回お話した装飾用義手は,字を書く時に紙を押さえたり,荷物を引っ掛けて持ったりといったことは出来ますが.手先具の部分を動かすことが出来ないため,物を掴んだり握ったり出来ませんでした.

「実用的な機能」を持ちつつ,軽くて外観の良い装飾用義手が選ばれることが多いというお話をしましたが.

実際のところ,「手」は様々な形を取ることで多くの動作を行っているため.その機能が無いデメリットは想像に難くないと思います.

反対側の健康な手がある場合には,動作をそちらで行うことで解決してしまうことも多いですが.日常生活の中でも「ペットボトルを開ける」など両手が必要となる動作は多くあります.

手の動きというのは非常に複雑で.ひとことで「掴む」といっても「球」を掴むのか,「筒」を掴むのかによって手の動きと形は全く変わってしまいます

更に「摘む」となると.対象の大きさ次第で繊細な動きが必要となります.

「手」というのは本当にスゴイもので,似ているようで異なる動きを状況に合わせて,いくつも使い分けて行っています.

現在処方されている義手は,残念ながら手の動作の一部を行えるだけに過ぎません.

ですが,その「一部の動作」が日常生活や仕事の際に必要となる時に.動かせる義手は大きな力を発揮します.

能動義手

「動かせる」義手の代表的なものの1つが.能動義手です.

受動↔能動 の能動で,自分の意志で動かせる義手ということですね.

主として上肢帯および体幹の運動を,義手の制御のための力源に利用し,ケーブルを介して,専用の継手,手先具を操作する構造の義手の総称

JIS T0101

と定められています.

求められる機能は,指・手・肘・肩関節のどの部位の機能が残っているのかによって大きく変わってしまうのですが.能動義手は,「体内力源式」という.自身の身体の力で動かす義手です.

もし,上腕部での切断であれば.失われた手や肘の代わりとなる「手先具」や「肘継手」で,指・手・肘関節の動きを代償し.自身の身体の力を使って操作する必要があります.

能動義手の機能

「手」という点で見ていくと,能動義手の手先具である,フックハンドも.その多くは「開いて閉じる」というシンプルな機構で.物を掴んだり,摘んだりしています

能動義手を操作しているのは.切断側の残された関節と,反対側上肢が「関節を動かす筋力と,関節を動かす量」でケーブルを操作しています.

例えば上腕義手は,肩関節を曲げることでケーブルが引っ張られて肘を曲げたり,手先具の開閉が行われます.

失われた手の機能の一部を代償する手先具などを,残された関節の動きで操作するのが能動義手ということですね.

この能動義手を見たことが無い方にとっては,「え?義手ってこういうものなの?」と思うものではないでしょうか.実際義手を使用する事となったユーザーさんも,最初は大なり小なり「がっかりな気持ち」があるかもしれません.

それも当然で,動かせる義手といっても出来ることは,シンプルに「掴む」ことだけです.

冒頭で紹介したとおり手の機能で考えるとほんの一部なのですが,義手で物を「掴む」事ができるというのはとても大きな事です.

能動義手ハンド
ottobock  8K22 / 8K23 随意開き式

大切なのはこの「限られた機能」でどれだけ「出来ること」が増えるか?です.

能動義手を使用することで可能となる,掴む・握る・摘むといった動作が,日常生活や仕事をする上で大きな役割をもつ場合には.装飾用義手を使用するよりも大きなメリットを得られる場合があります.

義手が出来る事と出来ない事

本来であれば,自由に動いて外観も良い義手が存在すれば良いのですが.残念ながら全てを叶える義手というのは現状存在していません.

義手が持っている機能と,生活に必要な機能を吟味して選択しなくてはなりません.

能動義手を使用する事によって得られる動作が,あまり生活や仕事に直結していない場合には.装飾用義手の方がメリットが多いかもしれないですよね.

同時に,能動義手で出来ない事もよく考えなくてはなりません.

前記の通り,能動義手はケーブルを残った上肢機能で操作します.失われた上肢機能が多いと,補わなければならない能力は多いのに,操作する残存機能は少ないというジレンマがあります.

また上腕義手を例にすると,残った肩関節と両方の肩甲骨で.肘の継手と手先具の操作を行う必要があるのですが.ケーブルを操作するための動作の割当には限界があります

肘継手を曲げ,手先具の開閉を行う時には.肩を曲げ肩甲骨を広げる動き

肘継手にロックをかけたり,外したりする時には.肩を伸ばしたり肩甲骨を下制する動きが.ケーブルを操作するため,それぞれ割り当てられています.

これらの動作で,2本のケーブルをコントロールするのですが.当然ですが,肩や肩甲骨には義手操作以外でも動かす必要のある本来の役割がありますよね.

本来の動作を妨げない範囲でしか,義手の操作には割り当てられないということです.ケーブルを増やして複雑な動作を義手にさせようと思っても,割り当てられる動作には限界があります.

そういった制限から,能動義手では.「頭上」や手を「背中に回した状態」で手先具の開閉を上手に行うことが出来ません

もし仕事で,頭上のものを掴む機会が多い場合には.イマイチ使えない義手となってしまいます.

「出来る事が増える」ので生活とマッチすればプラスの面は非常に大きいのですが.同時に「出来ない事も多い」というのが能動義手の現実ではないでしょうか.

そんな義手を使用することで得られる動作ですが.限られた動作といっても簡単に習得できるものではありません

どれだけの機能が残っているかによって難易度は大きく変わってしまいますが.自分が思ったように義手を動かせるようになるためには.多くの訓練が必要となってきます.

この練習に限られたリハビリの時間を割くならば,余程のメリットが無い限り「出来ることは健康な反対の手でやって.義手は外観を重視しよう」となる事も多いのではないでしょうか?

こういった,出来る事と出来ない事.出来るようになるまでに必要となる訓練を吟味した結果.日常生活で必要となる!という場合に能動義手が選択されます.

特に仕事などの作業で,掴む動作が必須という場合にはとても有用な選択肢です.

一方で,あまりメリットが多くなく.ご本人のニーズとも合致しない場合には装飾用義手が選ばれる事が多いです.装飾用義手の処方が多い背景には,義手の機能がまだまだ生活やニーズにマッチしていないという一面があります.

まとめ

手の一部の機能とはいえ,失われた上肢の機能を代償することが出来る能動義手は,生活を送る上で必要となる能力の助けとなる義手です.

メリットもデメリットもありますが.能動義手「動かせる義手」の中で,現在最も処方されているもので.動かせる義手の最初の選択肢となっています.

得られるメリットが大きい場合には,非常に大きな力を発揮します.

一方で,出来ない事や難しい事も多く.消極的な選択として装飾用義手を選んでいる方が多いというのも現実です.これは義手全体に共通する問題で,満たせていないニーズを解消するためにも能動義手には更なる改良が必要となります.

また別のアプローチとして,「特定の作業に特化させる」「別の操作方法にする」といった選択肢があります.それが「作業用義手」と「電動義手」となるわけですね.

次回は特定作業に特化した作業用義手について触れつつ.義手が必要となる多くの要因である労災義手の使い分けなどについてお話していきたいと思います.

参考文献

日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p84

澤村誠志,切断と義肢,医歯薬出版,第1版,p4

Barbara Engstrom,切断のリハビリテーション-知っておきたい全プロセス-,共同医書出版社,第1版,p235

公益財団法人テクノエイド協会,補装具費支給事務ガイドブック,p82

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000070149.pdf

田中 宏太佳,日本における筋電電動義手の公的支給制度の現状,日本義肢装具学会誌,2014 年 30 巻 4 号 p. 219-222

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspo/30/4/30_219/_pdf/-char/ja

Ottobock 義手

https://www.ottobock.co.jp/prosthetic_ue/

はじめての義手:リハビリテーション | Ottobock JP

https://www.ottobock.co.jp/prosthetic_ue/info/amputees/rehabilitation/

はじめての義手 – 国立障害者リハビリテーションセンター

http://www.rehab.go.jp/ri/hosougu/Panf/upperlimb/guide-upper%20full.pdf

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