第53回作業療法士国家試験解説PM-09 橈骨神経麻痺に用いる装具

第53回作業療法士国家試験解説PM-09 橈骨神経麻痺に用いる装具

PTOT国試,義肢装具関連問題解説.今回は第53回作業療法士国家試験午後の9問目から,橈骨神経麻痺に用いる装具に関する問題です.

実地問題の選択肢として,装具の名称が登場しています.基本的には橈骨神経の障害によって何が起こるか理解していれば解ける問題ではあるのですが.装具の名称から,一体どんな装具なのかを知っていないと混乱してしまうので解説していきましょう.

作業療法士国家試験午後-問09

35歳の男性.飲酒後電車内で寝過ごし,右上腕部の圧迫によって橈骨神経麻痺となった.受傷4日後で橈骨神経領域の感覚低下があり,手関節背屈および手指伸展の自動運動は困難である.この患者に対するアプローチで適切なのはどれか.2つ選べ.

問題を解くうえで

神経の障害によって失われている機能の代償を目的として,装具が使用されることは多くありますが.今回の問題では橈骨神経麻痺によって起こった障害に対するアプローチの問題です.

末梢神経障害へのアプローチと,橈骨神経障害そのものについては各自勉強していただくとして,今回は選択肢の中に登場している

  • Engen型把持装具
  • コックアップ・スプリント

について解説していこうと思います.

今回の問題に関して言えば,装具名称が全く分からないと正答を導くことが出来ません.あまり登場しない装具の名称に関しては,ある程度仕方がない部分もありますが.頻出の装具名はしっかりと覚えておきたいですね

橈骨神経麻痺と装具

橈骨神経麻痺についてかんたんに触れておきましょう.

橈骨神経は高位麻痺が起こると,手関節の背屈,手指の伸展,母指の伸展・外転が出来なくなります.

低位麻痺では後骨間神経のみ障害されて,手指の伸展,母指の伸展・外転が困難です.

特に高位麻痺によって呈する,「下垂手」に対して使用される装具が多いです.

下垂手

Engen型把持装具

把持装具は,その言葉の通り把持を行うための装具です.

失われた把持機能を代償するためのもので,空圧など体外に力を発生させる力源を用意して把持を行う体外力源式把持装具がありますが.残された関節機能を利用して把持を行う体内力源式把持装具の方が,見かける機会が多いかもしれません.

把持装具は主に,脊髄損傷C6麻痺などで用いられる手関節駆動のタイプが多い装具です.

  • 手関節を背屈すると手指が屈曲して物を掴み
  • 手関節を掌屈すると手指が伸展して物を離す

というテノデーシスアクションを利用した装具で,随意で動作出来る手関節背屈を活かして背屈時には手指屈曲で物を掴み,力を入れていない時は手指伸展する把持動作を補助する装具です.

その他にも,能動義手のようにハーネスを介して肩関節で把持を操作するタイプもあります.

手関節駆動式把持装具にはいくつかタイプがあります.代表的なものに,Rancho型,Engen型,RIC型が挙げられます.

基本的な機能は同様なのですが

Rancho型は全体がアルミニウム製

Engen型は手掌アーチと対立バーが一体となったプラスチックで手部が構成され,前腕部はアルミニウム.

RIC型は全体がプラスチック製で連結部分がヒモで構成されている.

といった違いがあります.

手関節駆動式把持装具(Engen型)

国試上では,把持装具に関してこの種別の名称が出てくるのは珍しいです.Engen型という記載で混乱してしまいそうですが.把持装具がどういったものなのか?というのは知っておきたいですね.

コックアップ・スプリント

手関節を背屈位に保持する装具を総称して「カックアップスプリント(コックアップスプリント)」と呼びますが,手関節軽度背屈位に固定する静的装具とコイルばねなどで背屈を補助するオッパンハイマー型やトーマス型懸垂装具などの動的装具に分かれます.

カックアップスプリント
Thomas型懸垂装具
Oppenheimer型

総称でもあるコックアップスプリントですが,単体の装具を呼称している場合があり,「手関節軽度背屈位で固定を行う,プラスチック製などの硬性装具」を指しています.

橈骨神経麻痺などで失われた,手関節背屈を代償するための装具です.非常に頻出な装具なので,コチラは名称と装具の形状はしっかり覚えておきたいです.

解答の考え方

作業療法士国家試験午後-問09

では選択肢を見ていきましょう.

1.上腕部のアイシング.は,感覚の入力としてアイシングを選択したとしても上腕部には行わず.神経麻痺に用いることはないので誤りです.

2.手関節背屈の抵抗運動.は,橈骨神経の麻痺によって手関節背屈自動運動は困難となっているので.抵抗運動が出来るわけ無いので誤りです.

3.Engen型把持装具の使用.は,主に脊損C6麻痺などで用いられる装具で.手関節の背屈を把持動作へ変換する装具です.手関節背屈が困難となっている橈骨神経麻痺で用いられることはありませんので誤りです.

4.手指・手関節の他動伸展運動.は,自動運動が困難となった橈骨神経麻痺において.可動域の維持を行うために必要となるので,1つ目の正答です.

5.コックアップ・スプリントの使用.は,解説したとおり橈骨神経麻痺によって失われた手関節背屈機能を代償するために用いられるので,2つ目の正答となります.

まとめ

橈骨神経麻痺に用いる装具に関する問題について解説しました.

実地問題において選択肢の中に装具の名称が登場する事は意外と多いです.疾患やそれに伴う評価・治療の知識があれば,解けてしまう問題も多いのですが.中には装具の名称から,装具の役割を理解できないと解けない問題もあります

そんな中で更に稀ですが,国試であまり目にしない装具の名称が出てくる場合があります.少しメタ的な話になってしまいますが,そういった場合の多くは別の知識で解ける問題か,一緒に出てくる装具が非常にメジャーな事が多いです.

国家試験を解くうえで,「自分の持っている知識から消去法で答えを出す」というのはとても重要な事です.基礎的な知識を固めつつ似たような問題はチェックをしておきたいですね!

参考文献

日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p205

加倉井周一,新編 装具治療マニュアル-疾患別・症状別適応-,医歯薬出版,第2版,p143

川村次郎,義肢装具学,医学書院,第3版,p381

第53回理学療法士国家試験、第53回作業療法士国家試験の問題および正答について

https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/topics/tp180511-08_09.html

国家試験解説カテゴリの最新記事