PT国試義肢装具関連問題の解説.今回は第52回理学療法士国家試験午後の7問目から.
靴とインソールの補正に関する問題です.
何年かに一度,定期的に出題される問題で.他の年に同様の出題がされています.
学校の義肢装具の授業中には,あまりフォーカスされない事が多い,靴やインソールの補正についてですが.
臨床では,靴・インソールや下肢装具の補正を考える際に重要な内容です.
実際は「形通りの装具」では上手く行かない事もあり,状況に合わせてどう補正を行うかは.装具の適合を行っていく上で必要な知識です.
国家試験的にも大切ですが.基本的な考え方と,対応のバリエーションを増やすためにも.知っておくと卒業後に役に立つ問題といえるかもしれません.
病態と図に示す靴の補正との組み合わせで正しいのはどれか.2つ選べ.
問題を解く上で
靴の補正が行われる部位を分類すると
- 踵の補正
- 足底の補正
- 靴内部の補正
に分けられます.
今回チェックしておきたいのが
- 各部位に補正を行う目的と役割
- 適応となる疾患
についてです.
詳細については,義肢装具の教科書にテンプレートのように「靴の補正」の項がありますので,そちらを確認していただくか.下の記事を併せて参考にしてもらえればと思います.
解答の考え方
それでは各選択の靴の補正を確認しながら,適応の疾患との組み合わせを見ていきましょう.
「正しいものを2つ選べ」という問題であるため.正しい選択肢を探すと同時に,明らかに誤った選択肢を見つけることも重要ですね.
1.サッチヒール
選択肢1.に図示された補正は,踵の補正である「サッチヒール」です.
踵部分の一部を,柔らかいクッションとすることで.「衝撃の吸収」と「重心の移動」を行うことを主な目的としています.
ちょうど,この年の午前中に出題された問題の選択肢として登場した.義足足部の1つである「SACH(サッチ)足」と同じ役割を,靴の補正として行ったものです.
柔らかいクッションが入っている事で,踵を接地した際の衝撃を吸収したり.
接地後に,クッションがゆっくり潰れる事で.ヒールロッカーの動作を代償し.重心が前方に移動しやすく,MStへの移行を助けます.
拘縮など,足関節可動域制限がある場合に.ヒールロッカーを代償するために用いられる場合もありますが.
「衝撃を吸収」し,「重心の移動を助けて,一点に荷重を集中させない」という特徴から.「踵骨骨棘」などの踵部の荷重を避けたい場合にも適応となります.
というわけで,サッチヒールである「1.踵骨骨棘-①」は正答の選択肢です.
2.外側(内側)フレアヒール
選択肢2.に図示された補正は,踵の補正である「外側フレアヒール」です.
踵部の基底面を増やす加工で,踵を接地した時の安定性や,特定の方向に足部が傾くのを防ぐよう矯正します.
外側だけに補正を行う「外側フレアヒール」では内反足を
内側だけに補正を行う「内側フレアヒール」では外反足を
それぞれ防ぐことを目的として使用されます.
「2.外反扁平足」を防ぐために用いるのは「内側フレアヒール」であるため.
図示されている「外側フレアヒール」は誤った選択肢です.
3.トーマス(逆トーマス)ヒール
フレアヒールが,踵が接地してから全足底接地に至るまでに特に力を発揮するのに対して.全足底接地以降に,内・外反の安定に影響を発揮しやすいのが「トーマスヒール」と「逆トーマスヒール」です.
踵部を前方まで延長する事で安定性の確保と, 内・外側縦アーチが落ち込むような方向に足部が傾くのを防ぐよう矯正します.
トーマスヒール
踵の内側を延長し,
内側縦アーチの支持性を増強する.
外反扁平足などに用いられる.
逆トーマスヒール
踵の外側を延長し,
足根骨と中足骨外側を支持する.
内反尖足などに用いられる.
図示された③は外側が延長される「逆トーマスヒール」ですが.主に内反足などに用いられるもので,外反膝には直接影響を与えません.誤った選択肢ですね.
このトーマスヒールと逆トーマスヒールは,靴の補正が出題されるときに「必ず選択肢に登場する」といって良い程です.どちらがどの適応なのか必ず覚えておきましょう.
4.ロッカーバー
前足部に行う補正の中には「ロッカーバー」や「メタタルザルバー」などがあります.
選択肢4.に図示されたものは,MP以遠の補正のように見えるので「ロッカーバー」が該当するでしょうか.
「メタタルザルバー」は,中足骨頭部の免荷を主な目的としたものです.
中足骨頭部近位を支持する事で中足骨頭の荷重を免荷します.アーチサポートなどの靴内部の補正と併用される事が多いです.
その名の通り中足骨部を支持するものなので,MP以遠以遠を支えるものではありません.
一方で,ロッカーバーは前足部全体で転がるような丸みがついた補正です.
中足骨頭の免荷と共に,踏みかえしを容易にしています.
メタタルザルバーは中足骨頭の免荷を主としたものでしたが.ロッカーバーは踏みかえしを容易にして,アンクル・フォアフットロッカーを代償することを主な目的としています.
足関節背屈とMP関節背屈をせずに踏みかえしを行えることから.強剛母趾など足趾背屈によって症状が悪化するものや,中足骨骨折など安静が必要となるもの,糖尿病足病変など足部に知覚障害がある場合に一点に荷重が集中しないようになど.足底の補正の中でも,多岐にわたってよく使用される補正です.
「4.内反足」を防ぐために,前額面方向の矯正力を働かせることが必要ですが. ロッカーバーでは,MSt以降の重心の移動を助けることしか出来ません.「内反足」そのものには影響を与えないため誤った選択肢ですね.
メタタルザルパッド
メタタルザルパッドは中足骨頭の近位でのアーチサポートで,中足骨アーチの支持や中足骨頭の免荷など様々な目的で使用されます.横アーチパッドと呼ばれる事もあり,インソールでとてもよく行われる補正の1つです.
前足部(主に中足骨)の変形や痛みのある疾患に使用され.外反母趾,開張足,モートン病,フライバーグ病など前足部を主とした疾患から.尖足,槌指などその他の部位の疾患まで多岐にわたります.
中足骨横アーチの低下は,槌指を起こす要因となるので.メタタルサルパッドによるアーチの支持は,槌指を起こしにくくします.
というわけで,メタタルサルパットである「5.槌指-⑤」は正答の選択肢です.
まとめ
靴とインソールの補正に関する問題について解説しました.
非常によく行われる補正と,珍しいけれど特定の場面では機能を発揮する補正に分かれますが.どちらも知っておくと対応の幅が広がります.
靴は殆どの方にとって必需品であり.必要であれば補正を行う必要が出てきます.
国家試験としては,「トーマスヒール」など本当によく顔を出すものが決まっているので.他の過去問も併せてチェックするようにしておきたいですね.
参考資料
日本義肢装具学会 監修,装具学,医歯薬出版,第3版,p29
加倉井周一,新編 装具治療マニュアル,医歯薬出版,第1版,p263
松野丈夫 ほか(編集),標準整形外科学,医学書院,第12版,2015,p701
厚生労働省 補装具支給事務ガイドブック p146