PT国試義肢装具関連問題の解説.今回は第56回理学療法士国家試験午前の5問目から.正中神経麻痺に用いる上肢装具に関する問題です.
近年,末梢神経麻痺と上肢装具に関する問題は.PTかOTのどちらかでは必ず出題されると言ってもよいくらいの頻出問題です.よく登場する上肢装具の固有名詞や適応に関してはしっかり押さえておきたいところですが.PTの学生さんは下肢装具ならともかく,上肢装具の勉強については後回しになってしまいがちではないでしょうか?
もちろん毎年見かけるくらいなので,しっかり覚えていただきたいですが.今回は図の選択肢から適応の装具を選ぶ問題です.今回は導入として,固有名詞が分からなくても.図から「これが何をしている装具なのか?」を読み解く方法についてお話していこうと思います.
固有名詞が分からないと,全く解けない問題もあるので.類似問題も必ずチェックして覚えてくださいね.
固有名詞が分からないと解けない一例
PT国試,義肢装具関連問題の解説.今回は第53回理学療法士国家試験午後の47問目から.上肢装具と末梢神経障害に関する問題です.中枢・末梢神経麻痺によって起こる障害と,それに応じた上肢装具の組み合わせは.国家試験においてとても問われやすい内容です.解剖学・運動学・評価学といった基礎があれば.あとは装具に関する知識を補うだけですね!末梢神経障害... 第53回理学療法士国家試験解説PM-47 上肢装具と末梢神経障害 - なぜなに。装具 まとめ |
正中神経麻痺による猿手変形に対する上肢装具はどれか.
上肢装具の形状が図示されている問題を解く時に,もしその装具が「何をしているもの」なのか,全く知識がなかった場合の考え方の指針として挙げられるのが.
の3つを見ていくと.その装具が何を目的としたものなのか分かってきます.
上肢装具を使う理由はいくつかありますが,「失われた機能の代償」や拘縮など「悪影響を予防」することを目的として使用されることが多いです.
そのため,「装具を着けた結果の手の肢位」は.
となっている事となります.
今回の問題のように,末梢神経障害よって使用される装具の場合には.それぞれの神経障害によって「失われた機能を補う」ような装具となるはずです.神経障害によって起こる特徴から,逆算してなんのための装具なのか考えることが出来るわけですね.
「機能的肢位」をとっていることが多いですが.中にはこの「手の肢位」が大きなヒントとなることがあります.今回の問題にも特徴的な肢位をとっているものがあります.
すべての装具の機能の基礎となっているのが,身体を保持する3点固定です.どのような3点固定を行っているかを見ることが,装具の機能を知ることに直結します.
固定を行っているのは主に,「装具が覆っている部分」と「ベルト」となっています.
プラスチックや金属などの装具の基礎部分となるものがどこにあるのか?をまずチェックしましょう.
もう1つチェックするのがベルトの位置です.ベルトは身体と装具を固定するためのものですが,同時に三点固定を行う力点の1つとなります.
特に「ベルトが3本ある場合の真ん中のベルト」に注目しましょう.装具本体とベルトの固定によって,目的となる3点固定を行っているケースがとても多いです.
ベルトが4本以上ある場合には,2箇所以上の3点固定を行っています.装具の3点固定を知るうえで,ベルトがどこに付いているかは非常に重要な情報です.
装具の大半は「関節に何らかの力を加える」ことによって作用しています.
を順序立てて考えていくと,何をしている装具なのか分かってくると思います.
3点固定によって力を加えられるのは「3点固定を行っている間にある関節」です.
例えばこの装具ならば
中手骨と基節骨を背側から,MP関節部を掌側から力を加えるような3点固定を行っているので.「MP関節を屈曲させる力」として働きますし.
この装具ならば
手根部と前腕部を掌側から,ベルトによって前腕部を背側から力を加えるような3点固定を行っているので.「手関節を伸展させる力」として働きます.
働く力は,「機能を代償する力」や「拘縮する肢位を取らない力」となり.
そういった装具が必要な状況から逆算すれば,適応となる疾患がわかってきます.
これが重要な考え方の1つですね.
これは,補足というか.頭の片隅に置いておいてほしいのですが.もう1つ関節に力を加える要素として,装具に力を発生させるものが付いている場合です.
と言っても,そんなに大掛かりなものではなく.「輪ゴム」による収縮であったり,「コイルばね」による伸縮がそれにあたります.動的装具(ダイナミックスプリント)に付随するもので,3点固定に追加して関節に力を加えます.
図示されたものがゴチャゴチャしていて混乱する元になるかもしれませんが.描かれているコレって何?が分かると理解しやすいので,要チェックのポイントですね.
では,問題文と選択肢を見ていきましょう.
まず正中神経麻痺と猿手変形についてです.コレさえ分かっていれば,あとは何をしている装具なのか1つずつ見ていけば知識なしでも解くことが出来ます.
正中神経麻痺の最も有名なのが手根管症候群によって引き起こされるものですが.正中神経の障害として引き起こされるのが,手関節・手指の屈曲の障害に加えて.
母指球の萎縮とともに対立位が取れず示指~小指と同一平面に位置して扁平となる事から「猿手」と呼ばれます.
これらの障害によって失われた機能の代償.または起こる悪影響を予防するような装具が必要とされるわけですね.
1.の装具は,装着した結果「機能的肢位」を取っている事がわかります.「手関節軽度背屈位」と言っても良いですね.
特徴的な肢位ではないですが,逆に言えば機能的肢位を保持する機能が障害されていると言えます.
装具本体とベルトでの3点固定を見てみると.手関節を軽度背屈位に保持するような装具であることがわかります.
更に細かく装具の遠位部を見てみると.装具が掌側を基節骨まで覆っている事がわかります.
これはMP関節を背屈位に保持するような3点固定が行われています.
図示されたこれらの特徴から
が適応となる装具となります.
こういった障害が起こる代表的な疾患として挙がるのが「橈骨神経麻痺」です.
正中神経麻痺による猿手変形に使用する装具としては誤りですね.
ちなみに装具の名称は「カックアップ(コックアップ)スプリント」となっています.
(「正中神経麻痺」の場合には,手関節の機能的肢位を保持する装具が用いられる事があります.詳細は後ほどの補足解説を御覧ください)
2.の装具は,装着した結果少し特殊な肢位を取っています.「拳を握ったような肢位」となっていますね.
先程の解説でもお話したとおり,この装具は3点固定と輪ゴムの牽引によって,MP関節の屈曲する,または補助するような装具という事がわかります.
が適応となります.
MP関節伸展拘縮を予防・改善する場合に用いられる事もありますが.
こういった障害が起こる末梢神経障害という事で,「尺骨神経傷害」によって起こる「鷲手」のMP関節過伸展が挙げられるのではないでしょうか.
正中神経麻痺による猿手変形に使用する装具としては誤りですね.
ちなみに装具の名称は「ナックルベンダー」となっています.
握り拳の肢位を取るための装具という見た目そのままの名称ですね.
3.の装具は,装着した結果「機能的肢位」を取っている事がわかります.「手関節背屈位」と言っても良いですね.
装具の3点固定を見てみると,手関節の背屈を保持する装具であることがわかります.
また母指部分を見てみると,ゴムの牽引によって「母指の伸展・外転」の補助を行っています.
図示された装具の特徴から
が適応となります.
こういった障害が起こるのが「橈骨神経麻痺」です.
正中神経麻痺による猿手変形に使用する装具としては誤りですね.
ちなみに装具の名称は「Oppenheimer型装具」となっています.国家試験の選択肢としてもよく登場する,橈骨神経障害に用いられる代表的な装具の1つで.覚えにくいですが,頭に入れて置かなくてはならない装具ですね.
この図示だと,どんな装具なのか全体像が掴みにくいですが,実際はこのような装具です.特徴はないですが「機能的肢位」を取っている事がわかります.
装具を見てみると,3点固定と輪ゴムの牽引によって.
MP関節の伸展する,または補助するような装具という事がわかります.
が適応となります.
MP関節の補助だけを行いたい事は末梢神経の障害では少なく,用いられることはあまりない装具で.主に,MP関節屈曲拘縮の予防・改善に使用される装具です.
正中神経麻痺による猿手変形に使用する装具としては誤りですね.
MP関節の屈曲補助を行う装具が「ナックルベンダー」と呼ばれることから,その逆のMP関節伸展補助を行うこの装具は「逆ナックルベンダー」と呼ばれています.セットで覚えるようにしたいですね.
5.の装具は,装着した結果少し特徴的な肢位を取っています.「ものを摘む肢位」となっていますね.
逆に言えばピンチに関わる動作を行う機能が障害されていると言えます.
装具を見てみると,中手骨と基節骨を背側から固定しています.(この絵だと見えていないのですが…)手掌部からの固定を含めて,MP関節を屈曲位に保持する3点固定を行っています.
ここで注目したいのが,第1中手骨と第2中手骨を同時に橈側から押さえるように配置された部分です.
これは「対立位」を取るような3点固定が行われています.この装具の部位が「対立バー」という名称が付いているほどです.
が適応となります.
まさに「正中神経麻痺」による「猿手変形」に必要な装具です.
というわけで,5.が正答となります.
上肢装具は「静的装具(スタティックスプリント)」と「動的装具(ダイナミックスプリント)」に分類することが出来ます.
その名の通り,静的装具は対象となる関節を「一定の肢位で保持する」ことを目的とし.動的装具は「特定の動作を補助したり保持する」ことを目的とします.
今回の解説では,ややこしくなるのであえて無視しましたが.静的装具では一定の肢位で保持するために基本的に装具とベルトで「2つ以上の3点固定」を行っています.
一方動的装具では,基本的に1つの装具に1つの3点固定しか行っていません.
静的装具と動的装具を見分ける時の1つのポイントにもなるので意識して見ていただくとよいかもしれません.
選択肢1.の解説の中で,正中神経麻痺による「猿手変形」には.カックアップスプリントは用いないというお話をしました.
ですが,正中神経麻痺で「手関節を機能的肢位に保つ装具を使わない」という訳ではありません.
実際,手根管症候群の場合には.リストサポートなどが手関節の安静位保持を目的として処方されることがあります.
今回の問題の中では,「猿手変形」に用いるという点で誤りですし.図示された装具のMP関節を伸展位保持する機能は,正中神経麻痺において全く不要なので誤りの選択肢となっています.問題文はよく読まなくてはならないですね.
当然ですが,その疾患の症状や目的によって必要となる装具は変わってきます.こんがらがってしまうかと思い補足説明に回しましたが,「何のための装具なのか」は本当によく考える必要があります.
正中神経麻痺に用いる上肢装具に関する問題について解説しました.
本来であれば,装具の特徴を見て「対立位」を取るために必要だからこの選択肢!というようにパっと見て分かるのが理想ですが.
図示されている場合には,選択肢の図を1つずつ見ながら「何のための装具なのか?」を考えることができると.装具そのものの知識が少なくても,解剖と疾患の知識だけあれば解けてしまうことがあります.
国家試験の臨むうえでは,頻出の装具の固有名詞はしっかりと覚えておく必要があります.ですが,実際臨床に臨む際には.装具の名称よりも.
疾患の状態から「こういう機能の装具が欲しい」と考えたり.装具を見た時に「こういう機能を持った装具だからこんな応用が出来る」と考えられる力の方が重要だったりします.
3点固定はほぼ全ての装具に通じる基本の機能なので.国試の選択肢を絞る技術として,そして卒業後に装具と付き合っていく上で考える力を身につけるためにも.意識して考えてみると良いかもしれないですね.
また,図示された装具というのは.見えていない部分があって実物の構造が想像しにくいものです.きっと学校の備品室にも,これらの装具が眠っているはずなので.一度でいいので,自分の思い描くものと実物の整合性を取っておくと良いのではないでしょうか.
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日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p205
加倉井周一,新編 装具治療マニュアル-疾患別・症状別適応-,医歯薬出版,第2版,p143
アルケア リストサポート・プロ
https://www.alcare.co.jp/medical/product/orthopedic/supporter/wrist/wristcare-pro.html