短下肢装具:両側支柱付短下肢装具ってなに?

短下肢装具:両側支柱付短下肢装具ってなに?

短下肢装具について紹介していく今回は,「両側支柱付短下肢装具」についてです.

歩く能力を再獲得するためのリハビリで,そして失われた機能を代償することを目的とした日常生活で,非常によく使用される装具の1つです.

また,その特徴からすべての短下肢装具の中でも基準の1つとなっている装具でもあります.メリット・デメリットが非常にハッキリした装具でもあるので.なぜ使用するのか,その理由を知ることは正しく装具を使用する上でも重要ではないかと思います.

病院1

両側支柱付短下肢装具ってどんな装具?

短下肢装具は,膝から下の足を覆う装具です.

短下肢装具を表すショートレッグブレースの略から「SLB」と呼ばれている事もありますが.正式には「両側支柱付短下肢装具」と呼ばれる装具についてお話していきます.

構成する主な部分は金属製で

  • 半月
  • 支柱
  • 継手
  • あぶみ

が足を支える基礎となっています.

その名称ともなっている,足の内・外側にある2本の金属支柱が特徴となる装具で.上部にはふくらはぎを固定するための「半月」と呼ばれる金属の帯が接続されています.

下部では継手を介して,「あぶみ」と接続されています.これは乗馬の際に足を載せる「鐙(あぶみ)」と同じような形状である事からこのように呼ばれており.足部の固定を行います.

あぶみ
両側支柱付短下肢装具の構成要素
両側支柱

これらの金属部分が,閉じた輪となり強固な支持をしつつ.半月と接続している「カフベルト」や,あぶみと接続している「足部覆い」などを介して.足部を固定して足関節を制御することが.両側支柱付短下肢装具の大きな役割となっています.

継手によって大きく変わる機能

両側支柱付短下肢装具は,使用している継手によってその機能が大きく変わります.

その中で最もよく使用されているのが

ダブルクレンザック」という継手です.

足継手は足関節の動きをどのように制御するのかを担っており.ダブルクレンザック継手はロッド棒が刺さっている長さによって,足関節を固定したり,動く角度に制限を加えたりしています.

足の安定を保つために固定したり.変形するような方向への制限したり.動きを制約することで練習を行いやすくしたり,必要がなくなれば自由に動くようにしたりと.

足継手の選択は,その装具の機能を決めると言ってもよい重要な選択です.

同じ短下肢装具で,継手を持たないプラスチック製の装具である.SHBという装具と比較すると,その違いがわかりやすいので.ぜひ→記事も一緒にご覧いただければと思うのですが.

ダブルクレンザック継手を使用した両側支柱付短下肢装具は金属製の装具であることから.すべての短下肢装具と比較しても,最も強固な「固定力」を持ち

同時に,ドライバーとレンチがあれば.継手を必要な角度に調整することが出来る「調整性」を兼ね備えた継手です.

そのメリットの裏返しとして,金属製である事から「重さ」や「嵩張り」や「外観」などのデメリットがあります

非常にメリットとデメリットがハッキリとした装具なのですが.何を目的に使用されることが多いのでしょうか?

両側支柱付短下肢装具を使う目的

短下肢装具を使用する目的はいくつか挙げられますが.その種類に関わらず共通する使用目的があります.短下肢装具:SHB(シューホーンブレース)ってなに?の記事で共通の目的については詳しく触れているのですが.

主な使用目的は

  • 固定
  • 変形の矯正・予防
  • 失われた機能の代償
  • 歩行練習の道具

として使用されることが多いのではないでしょうか.

今回は,両側支柱付短下肢装具の特有の理由についてお話していこうと思いますが.その多くは前記の特徴である固定力」と「調整性」によるところが大きいです

求められる強固な固定

短下肢装具に求められる重要な機能に,体重の支持と足関節の制御が挙げられます.

立ったり,歩く動作の中で足関節は,想像よりも遥かに大きな力を支えています

当然,伸長や体重によってその負荷の変化しますし.病気や怪我などの影響よって,自身の力をどれだけコントロールできるかも関わってきます.

もし,全体重を装具が支える必要がある場合には.プラスチック製など支えが不十分な場合には撓んでしまったり破損の恐れがあります

SHB
ダブルクレンザック継手

固定が「安静」動作の「安定」を目的としている場合には.強固な固定が求められる事が多いです.

もし骨折をした時に付けるギプスの固定が不十分であったならば.安静を保つことが出来ずに治療とならないことは想像しやすいのではないでしょうか.

体重の支持」は足部の重要な機能ですが,それを補う必要がある場合には.その必要に応じた固定力が必要です.

最大の固定力を持つ両側支柱付短下肢装具は,取りうる選択肢を検討する際の1つの基準ともなっており.固定の必要性がなくなるに従って,他の装具が選択肢に入ってくる事となります.

ギプス固定

これは疾患特有に起こる事でも同様で.脳卒中などの病気の影響で,脳が正しい命令を伝えらず.筋肉を上手にコントロール出来なくなってしまう場合があります.

そういった麻痺による,自分の意志とは関係のない筋肉の緊張は.足関節では「内反尖足」と呼ばれる変形を引き起こしてしまいます

この状態で関節が固くなってしまうと,多くの動作の妨げとなってしまうため.変形の矯正予防を行うための固定力が必要となってきます.

異常な筋緊張の強さによって必要な固定力は変化しますが.体重支持と併せて強固な固定が必要な場合には,両側支柱付短下肢装具が選択される場合が多くなっています.

内反尖足
内反足・尖足

回復の経過に合わせて調整出来る

もう1つ必要とされるのが,継手が行っている足関節の制御を.状況に合わせて調整出来ることです.

前記の通り,「ダブルクレンザック継手」では.足関節を必要な角度で固定したり.動かせる範囲を調整する事ができます.

関節には時と場合に応じて,体重を支える「支持性」と.動作をするための「可動性」が求められますが.ケガや病気によっては,何が必要か異なりますし回復の過程でも変化していきます.

治療の目的に合わせて,足関節の動く範囲を.自由に動ける範囲と動きを制限する範囲に分けたり.回復の過程に合わせて,足関節を固定する角度を変えたりと対応の必要性は様々です.

ダブルクレンザック継手の構造
継手の構造

歩行の練習をする場合などは,「強固な固定」と「状況に合わせた調整」の両方の機能が求められるため.疾患や身体の状態にあわせて,こういった両側支柱付短下肢装具が使用される事となります.

目的に合わせた動きの制限
回復過程に合わせた角度調整

使用していく上での注意

装具を正しく使用することは,言うまでもなく重要なことです.短下肢装具で共通する装具装着時の注意点などについては.短下肢装具:SHB(シューホーンブレース)ってなに?の記事でも解説しているので併せてご覧いただきたいのですが.

両側支柱付短下肢装具を使用する場合は,強固な固定が必要となっている事がほとんどです.装着方法や使い方を誤っていると,必要とされている強固な固定が行えなくなってしまいます

丈夫な装具なので軽視しがちですが,負荷がかかりやすい環境で選択される装具でもあるので.使用している時の異常や消耗については注意して頂きたいです.

正しい装着方法

道具は正しい使い方をしなければその効果を発揮することが出来ません.使い方が悪いと時には悪影響を及ぼす事すらあるかもしれません.装具も同様で,本来の目的を果たすことが出来ないだけでなく.トラブルの原因となってしまう事があります.

すべての短下肢装具に共通することですが.踵はしっかり奥まで収まっているのか確認をしましょう

特にこの両側支柱付短下肢装具は,疾患による筋肉の緊張などから.踵の後端に隙間が開きやすい身体の状態で使用されることが多い装具です.

ズレた状態で履いてしまっていないかは,常に意識して装着する習慣を付けて頂くと正しく履くことが出来ると思います.

上から見た時も同様に,足が装具の真ん中に収まっているか確認しましょう.

疾患によっては片側に寄りやすく,時には装具の側壁に乗り上げてしまっている事もあります.中央に足を置き,再度ベルトをしっかり締め直しましょう.

正しい履き方
正しい履き方 上から

また履いたあとで良いので,足の指先をチェックしましょう.筋肉の緊張が強すぎる場合には,指先が「かぎ爪」のように曲がって食い込んでしまうクロゥトゥが起こりやすいです.

可能な限りで良いので,優しく引き戻して指を真っ直ぐな状態にしましょう

筋肉の緊張次第で,装具をきちんと履くことが大変な事は多いです.

安定した背もたれのある椅子に座り.一段高い滑りにくい台の上で,膝がもう少し曲がる状態で履くと.足部の筋緊張がとれやすいです.安全を確保して,可能ならば専門家の指示の下で試してみてください.

こういった誤った履き方は,加齢症状の変化など,ご本人も気が付かない身体の変化で.時間が経過してから起こってしまう事も多いです.こまめにチェックする習慣をつけたいですね.

正しい履き方 クロウトゥ
履くのが難しい時のコツ

消耗と作り替えの時期

両側支柱付短下肢装具は,金属製の装具であるため非常に丈夫な装具です.ベルトは装具共通の消耗しやすい部分なので交換が必要になる事もありますが.使用の仕方によっては金属部分は摩耗しにくい箇所です.

ですが,この装具は「最大の固定力」を持つ装具であり.これより強固な固定を行うには,この装具に追加で加工を行うしか方法がありません.

両側支柱装具での歩行

装具を必要とする方の状況は幅広くなり,疾患の状態や使用環境によっては装具に非常に大きな負荷がかかります.1日に何百~何千歩と歩いていると,金属ですら摩耗させます

装具には,「修理不能となるまでの想定年数」が定められており耐用年数と呼ばれています.小さなメンテナンスを繰り返しても,使用不能なくらい消耗してしまう可能性がある年数を定めたものです.

両側支柱付短下肢装具は「3年」が耐用年数として定められています.

場合によってはこの期間内でも,金属部分も消耗や破損による修理交換が必要となる可能性があることを頭の片隅に置いておいて頂きたいです.

装具の耐用年数の詳細については↓コチラの記事を御覧ください

注意しないとならないのが,プラスチックやベルトなどの革に比べて.金属の破損は前触れも無く起こる事があるということです.蓄積した負荷は,目に見えにくく突然破断してしまうのです.

特に起こりやすいのが,体重が最も集中する「あぶみの根元部分」です.もし亀裂などを見つけた場合には,速やかに専門家に相談してください.

また,継手も同様に消耗する場合があり.特に固定ではなく,ある程度動きを許す設定の時に金属同士がぶつかり摩耗が大きくなってしまいます.

角度を決めている,ロッドやあぶみの接点や.あぶみと継手を接続しているネジの穴を,まさに「水滴石穿」で日々の歩行が金属を摩耗させていきます

1番破損しやすい場所

両側支柱付短下肢装具は強い固定を目的とした装具ですから.装具がその機能を果たせなくなった時の悪影響は非常に大きなものです

ご本人の感じ方や,ご家族が見ていて歩きに今まではなかった違和感がある場合や.

「ぎぎぎ」と言ったそれまで無かった異音.接続部分のガタツキなど,なにか異常を感じたら,装具が摩耗している可能性があるのでご相談いただきたいです

継手の消耗

また,耐用年数内の3年間で.装具作成に関わった専門家に会う機会があった時には.必ず消耗していないかチェックしてもらうことをオススメします.

まとめ.

装具を選択する際に,最も固定力がある装具として選択肢に挙がる.ダブルクレンザック継手を使用した両側支柱付短下肢装具についてお話しました.

これ以上の固定力を持つ短下肢装具の選択肢はほぼ無いといってよいため.治療の過程や,症状の状態によって,足関節の強い固定や制御が必要な場合には.「最初の選択肢となっている装具です.

その固定力調整性では,数ある短下肢装具の中でもトップクラスの性能を持つ一方で.重さや外観に難があり,ユーザーさんに受け入れづらい装具であるのも現実です.

強固な固定の必要性から,「他に選択肢がない」という事も多く.渋々この装具を受け入れている方も多いかもしれません.

両側支柱付短下肢装具

出来ることながら,希望に沿った装具が作成出来ると良いのですが.効果の全く無い装具を使用していても意味がなくなってしまいます.

なぜこの装具が必要なのか」を知ることが,装具との良いお付き合いの最初のステップだと思います.作成時には,医師やセラピスト,義肢装具士など装具の専門家に疑問をぶつけて理解を進めていくことが.その後の装具の使用の仕方にも大きなプラスになっていくのではないでしょうか.

資料提供

今回の記事を作成するにあたり,「ダブルクレンザック継手」の資料提供を義肢装具総合メーカーの「株式会社 小原工業」様からご協力いただきました.

義肢装具のオーダーメイド作成から,作成時に必須となるパーツの販売を行ってらっしゃるメーカーさんなので,興味がある方はぜひご覧いただければと思います.

株式会社 小原工業 ホームページ

株式会社 小原工業 ロゴ

http://www.obara-kogyo.jp/product/%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%82%A8%E3%82%A2%E3%83%90%E3%83%8D/

参考資料

公益財団法人テクノエイド協会,補装具費支給事務ガイドブック,p38

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000070149.pdf

日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p348

日本義肢装具学会 監修,装具学,医歯薬出版,第3版,p2-

加倉井周一,新編 装具治療マニュアル-疾患別・症状別適応-,医歯薬出版,第2版,p56-

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