短下肢装具に行う加工の1つである
トゥスプリングについて解説します.
基本的には後から付ける事が難しく
作成時には必要の有無を
決めておきたいものです.
「付けておけばよかった…」
と後からならないように
メリットとデメリットを
よく知っておきたいですね.
トゥスプリングってなに?
そもそもトゥスプリングとは何かという所から確認していきましょう.
元は靴のMP(床面)~つま先の高さを指している事が多いですが.
装具の足底面でも同様に,MP(床面)~つま先に高さの差を付ける事を
「トゥスプリングを付ける」と呼んでいます.
その目的は靴も装具も同様で,大きく2つの目的があります.
トゥクリアランスの確保
トゥスプリングを付ける最大の目的は,
遊脚期ISw~MSwのトゥクリアランス確保です.
つま先を持ち上げることでトゥクリアランスを確保し
遊脚期につま先が引っかかることを防ぎます.
装具使用時のトゥクリアランスの確保は非常に重要です.
そもそも下肢装具を使用する疾患は,トゥクリアランス確保が難しい事が多く
装具使用目的の1つであるため,それに関わるクリアランス確保は大切です
通常歩行のISw~MSwで
クリアランス確保に必要な
背屈は前脛骨筋の働きにより
角度は0°~5°とされていますが.
これはあくまでも
股・膝・足関節が連動して
動いている時の背屈角度です.
装具によっては背屈が制約されている事がありますし.
制約されていなくても,背屈をコントロールできないかもしれません.
また長下肢装具(KAFO)の場合には,膝の屈曲も制約されています.
脳卒中などの運動学習において,
スタビリティとモビリティはトレードオフで両立が難しい事が多いです.
出来ることならば,両立した練習をしたい所ではありますが.
難易度が高すぎて学習が難しい場合に,
装具を用いた自由度の制約によって難易度の調整を行います.
ただし遊脚期につま先を擦り続けたり,代償歩行を行うのは問題なので.
なにかしらの方法でトークリアランスを確保しなくてはなりません.
反対側の補高や,装具背屈角度の調整によるクリアランスの確保と併せて
トゥスプリングは重要な役割を持っています.
前足部への荷重の移行
もう1つの目的は,前足部への荷重の移行のしやすさです.
SHBのように背屈制動などを
行う装具では,前足部への荷重の
移行が行いにくい物があります.
膝のコントロールの難易度が高く
膝折れなど防ぐために
自由度の制約が必要となる
場合もあるのですが.
背屈制約によって行いにくい
立脚後期のアンクルロッカーと
フォアフットロッカーの代償を
(完全ではなくとも)
トゥスプリングは行っています.
この時に気をつけたいのが,前足部荷重に移行しやすいということは
裏を返せば,前に転がりやすく安定していないという事です.
MP以遠は接地していないため,十分な基底面が必要な場合には注意が必要です
足趾のコントロール
トゥスプリングにはもう1つの効果があります.
クロウトゥやハンマートゥなどの足趾の屈曲を
トゥスプリングによる足趾の背屈で改善するというものです.
しかし,これには大きな問題があります.
クロウトゥが強い緊張によって起こっている場合には
トゥスプリングによる支持は全く意味を持たず,
むしろ背屈位で更にクロウトゥを助長してしまいます.
そのような場合には,指枕による変形予防のほうが有用なことが多いです.
トゥスプリングを使用する場合には,クリアランス等の確保をする一方で
このような状態になっていないかチェックしていく必要があります.
トゥスプリングは必要か?
トゥスプリングには上記のような役割があります.
特にトゥクリアランスの確保はとても重要な役割で,
装具を使用する際には,関節の制約も相まって必要とされる事が多いです.
トゥスプリングによる,不安定やクロウトゥの助長などの問題がなければ
「あって損はないもの」と言えるかもしれません.
正しく機能するトゥスプリングは,
作成後に後付けする事が難しいです.
可能であれば,備品やデモ機を使い
作成時には必要の有無を
決めておきたいですね.
トゥスプリングのある備品がなくても
クリアランスに不安がある場合は
検討して良いと思いますし.
クロウトゥなど評価したい場合は
足趾部分にウェッジシートを入れて
状態を確認すると良いかもしれません
詳細はコチラの
中足骨頭部のトリミングを
ご覧ください
もう1点重要なのは,その装具がどこで使用するものなのか?という事です.
屋内では,絨毯や畳などトゥクリアランスが足りていないと
引っかかって転倒の恐れがある環境が多いのであれば,必要性は高まります.
一方,屋外はどうでしょうか?装具のタイプによっても変わっていますが
基本的には靴を履いていることが殆どだと思います.
冒頭で触れたとおり,
靴にもトゥスプリングが付いています
靴と装具両方にトゥスプリングが
付いていてもあまり意味がありません
場合によっては,意味もなく靴のトーボックスが狭くなり
足趾を圧迫するだけのものとなってしまうかもしれません.
最近のリハビリシューズでは,トゥスプリングが付いているものも多いです.
必要なトゥスプリングの高さや,屋内外や装具のタイプで変わると思うので
使用する環境は良く検討した上で必要性の有無を決定しましょう.
まとめ
装具に行う加工の1つである,トゥスプリングについて解説をしました.
装具を使用したい疾患において,また装具を使用したリハビリを行う上で
関節の制約を行う必要から,その代償としてトゥクリアランスは不足しがちです
脳卒中などでは主となる目的があって装具を使用して運動学習をするわけですが
他の動作があまりにも大きく影響されるようでは問題があります.
トゥスプリングは装具によって制約された関節の動作を
完全ではないものの代償することが可能です.
装具を使用するメリットを最大に,デメリットを最小とするために
トゥスプリングは検討が必要となる加工ではないかと思います.
参考文献
日本義肢装具学会 監修,装具学,医歯薬出版,第3版,p26
渡辺英夫,脳卒中に対するシューホーン型短下肢装具の形状と適応,日本義肢装具学会誌,2012 年 28 巻 1 号 p. 7-12
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