第54回作業療法士国家試験 午前-08 義肢装具問題解説

第54回作業療法士国家試験 午前-08 義肢装具問題解説

こんにちは,なぜなに。装具です.

今回からは第54回作業療法士国家試験で出題された義肢装具関連問題について解説をしていきます.

頻出である末梢神経と上肢装具についてです.似たような問題が過去問でも多く出題されていますね.

PT国試ですが,類似した問題は→コチラ

問題を解くうえで

上肢装具に関する問題の中で,最もスタンダードと言っても良い問題形式かもしれません.起こった末梢神経麻痺などに対して適切な装具を選択する問題ですね.

注目するべき点は

  • 神経麻痺の所見と特徴的な肢位
  • 各神経麻痺に用いられる装具

ですね.

上肢装具に関わる装具の多くは,脊髄損傷と末梢神経障害に関わる問題ですので.しっかりおさえておきましょう.

末梢神経障害に用いる装具

末梢神経障害に用いられる装具の多くは,起こった末梢神経麻痺による機能を代償する事を目的としたものです.

特に,橈骨・正中・尺骨神経麻痺によって起こる機能障害と,呈する特徴的な肢位に対応する装具はしっかりと覚えておきたいです.

橈骨神経麻痺の装具

橈骨神経は高位麻痺が起こると,手関節の背屈,手指の伸展,母指の伸展・外転が出来なくなります.

低位麻痺では後骨間神経のみ障害されると手指の伸展,母指の伸展・外転が困難です.

特に高位麻痺によって呈する,「下垂手」に対して使用される装具が多いです.

下垂手

手関節を背屈位に保持する装具を総称して「カックアップスプリント」と呼びますが,手関節軽度背屈位に固定する静的装具コイルばねなどで背屈を補助するオッパンハイマー型トーマス型懸垂装具などの動的装具に分かれます.

カックアップスプリント
Thomas型懸垂装具
Oppenheimer型

また低位麻痺の場合には,指の伸展を補助する装具が用いられる場合があります.

これも固定を行う静的装具と.バネなどで手指伸展の補助をする動的装具に分かれていますが.動的装具は変形予防や拘縮改善に用いられる事も多いですね.

IP伸展補助装具

正中神経麻痺の装具

正中神経麻痺の最も有名なのが手根管症候群によって引き起こされ.母指球の萎縮とともに対立位が取れず示指~小指と同一平面に位置して扁平となる事から「猿手」と呼ばれます.

また高位麻痺では,前腕の回内不能と母指・示指屈曲不能なが代表的です.

猿手

正中神経麻痺用の装具も様々なタイプがありますが.高位麻痺では手関節掌屈困難のため,手関節を軽度背屈位で固定しつつ対立位を保持するための長対立装具が.

手根管症候群など低位麻痺では.対立位を保持するための短対立装具が使用されます.対立装具はその形状によって,ランチョ型・エンゲン型など分類されますが.そこを問われることは,ほとんどない印象があります.

長対立装具
短対立装具

尺骨神経麻痺と装具

尺骨神経麻痺肘部管症候群などによって起こり小指球,骨間筋,環指・小指の虫様筋麻痺と萎縮を呈しそれに伴った運動機能が影響を受けます.

特に環指・小指のMP過伸展とIP屈曲を招きかぎ爪のような肢位から「鷲手」と呼ばれます.

鷲手

尺骨神経麻痺の装具では,このMPの過伸展を制限し.屈曲運動を補助するような装具が用いられます.MP軽度屈曲位で制限する静的装具虫様筋カフやゴムの力出屈曲を補助する動的装具ナックルベンダーが代表的です.

虫様筋カフ
ナックルベンダー

解答の考え方

では選択肢を見返していきましょう.

1.長対立装具は,正中神経麻痺に使用される装具です.これは正答ですね.

2.IP伸展補助装具.は誤りですね.変形予防や拘縮改善に用いられますが,橈骨神経の低位麻痺で用いられる場合もあります.

3.ナックルベンダー.は誤りです.尺骨神経麻痺に用いられる装具です.

4.Thomas型懸垂装具.も誤りです.橈骨神経麻痺に用いられる装具です.

5.コックアップ・スプリント.も誤りです.橈骨神経麻痺に用いられる装具ですね.

まとめ

末梢神経の障害とそれに必要とされる上肢装具について解説しました.

冒頭でも触れたとおり,非常に多い出題形式です.「上肢装具の勉強をするなら,まずここから勉強した方が良い」と言って良いくらいに重要な問題です.

脊髄損傷の麻痺レベルや,問われる神経障害のパターンが変わっても答えられるようにしましょう.今回の問題のように装具の名称のみしか出ていないと.どんな装具か分からなければ,解くのが難しくなってしまいます.

…といっても,こういった場合は明らかな正答がある場合がほとんどです.紹介したような代表的な装具は絶対に頭に入れておきたいですね.

もし,問題に絵が出ているけど.何の装具であるか分からない時の考え方の指標は,コチラの動画をご覧いただければと思います.

参考資料

日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p205

加倉井周一,新編 装具治療マニュアル-疾患別・症状別適応-,医歯薬出版,第2版,p143

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