正常歩行に近い能力を獲得するに従って.身体の動作と装具の働きの間に差が生まれてくる問題を解決するために,開発された装具の歴史をお話していく最終回の今回は.
DACS-AFOの開発と運用から得られた知見から,ゲイトソリューション継手が生まれるまでについてです.
非常に優れたコンセプトをもったDACS-AFOですが.残念ながらイマイチ受け入れられず,またいくつかの課題が残っていました.
GS継手に至る過程についてお話していこうと思います.
DACS-AFOについての詳細は,前回・前々回の↓記事を御覧ください.
DACS-AFOの課題
DACS-AFOは背屈遊動・底屈制動という制約により,正常歩行に近い動作を学習する上で優れた機能を持っていました.特に,立脚初期の制御では短下肢装具を全体で見ても,「特化」した機能を持つ装具と言えます.
歩行能力に合わせた装具の選択に,新たな選択肢を作ったこの装具ですが,いくつかの課題がありました.
最大の特徴と言える,下腿後面についたDACS力源ユニットですが.多くの装具で問題となる継手部の内外の嵩張りに追加して.後面にも嵩張りが増えてしまいました.
その嵩張りによる外観も受け入れられず,イマイチ普及しない原因の1つとなっていました.
また調整可能ではあるものの,バネの強さを変更する事は若干の手間があり.バネによる力で制御する特徴からは逃れることが出来ません.
ユニットの設定や作成の難度も高く.次の装具にはその改善が求められていました.
油圧シリンダによる制御
それらの課題を解決するために登場したのが
「油圧ユニット」による制御でした.
2000年代初頭ですでに,義足では.油圧や空圧を用いた膝継手が使用され始めており.製品化されたものも,多く臨床で用いられつつありました.
立脚相制御という点でも共通点がありますが.油圧は制動を行う上で大きな利点があり.
義足膝継手が接地時にイールディングによって,体重を支持する大きな力を発揮して大腿四頭筋の働きを代償するのと同様に.
IC時の踵が接地した瞬間に,前脛骨筋の遠心性収縮による働きを代償するための.大きな制動力を必要とする立脚初期の制御と非常に相性がよく.
バネの強さに制動力が左右されたDACS力源ユニットと比較しても.一瞬で大きな力を発生させる油圧での制御は,より正常歩行での働きに近づけるメリットがありました.
こういった高機能なユニットは大きくなってしまう事が多いものの,義肢では義肢内部に収納できましたが.装具では外側に付けるしかなく,嵩張りを生みがちでした.
ですが,このGS継手は当時の継手と比較しても許容可能な嵩張りで.後面に大きく嵩張りが増えてしまうDACS力源ユニットの問題を解決しました.
必要となる力が全く違いますが,膝継手を見慣れていた者としては.義肢装具にこれだけ小型の油圧ユニットが登場したのは衝撃的だったのではないでしょうか.
現在に至っても変わらない,非常に優れた立脚初期の制御と.限界ギリギリまでの小型化を両立したゲイトソリューション継手が完成することとなったのです.
いくつかの改善点
GS継手はDACS-AFOにあった,その他の課題についても改善がされています.
その1つは調整性です.
DACS-AFOは制動力を変更するためにはバネの力を変更する必要がありました.調整にはある程度手間がかかり,装具の評価を難しくする一因ともなっていました.
GS継手では,油圧シリンダの調整をすることで,ドライバー1本でかなり容易に制動力を変更することができます.
また,既存の装具やDACS-AFOにあった.バネやブラスチックの撓みを利用した制動では,制動力が大きくなるほど,戻るときの補助も大きくなってしまう問題も改善されています.
制動を行うのが油圧ユニットになった事で,制動を行っても余計な補助が無くなりました.
PSwからISwに移行する際に,トークリアランスを確保するために背屈補助が必要となるため.別途背屈補助のバネが用意されていますが.油圧による制動が大きくても小さくても,一定の力の補助行うことが出来ます.
こうして,GS継手ではDACS-AFOにあった問題が改善されています.
歩行能力に合わせた新しい選択肢として
DACS-AFOの課題を解決したゲイトソリューション継手は
- 生理軸と機械軸が一致している
- 立脚初期の制御には強い底屈制動が必要
- 底屈は制動したいが.背屈は遊動にしたい
- 適切な制動力に調整出来て.かつ変更が可逆
- 適切な背屈補助を行う
という,求められた機能を満たし.DACS-AFOの役割を引き継ぎました.
ゲイトソリューション継手は,「既存の装具」と「裸足」の間を埋める装具として.歩行能力に合わせた新しい選択肢となりました.背屈遊動・底屈制動を行い,立脚初期の制御に特化した装具として.現在でも代替品のほぼない特別な制約を行う装具となっています.
「制約」の方法という点で言えば.短下肢装具でこれ以降実用に至っている新しい概念はほぼ出てきておらず.近年になって,装具そのものが継手を制御するロボットなどが登場するまで.20年近くマイナーチェンジと,使用方法の改善を重ねながら最新の継手の1つとして使用され続けています.
今回お話してきた,課題を抽出し,必要な機能を検討し,それを形にするプロセスは.臨床に臨むうえでもとても学ぶ事が多く.日々意識していなければと感じさせられます.
DACS-AFOからGS継手に至るまでの開発と運用によって得られた知見は.脳卒中リハビリの装具そのものを大きく前進させる,非常に大きな存在だったのではないかと思います.
参考文献
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https://www.jstage.jst.go.jp/article/rigaku/39/4/39_KJ00008113248/_pdf/-char/ja
萩原 章由,足継手の調整ができる治療用装具,日本義肢装具学会誌,2007 年 23 巻 2 号 p. 142-146
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横山 修,油圧機構を用いた短下肢装具,総合リハビリテーション 30巻4号,p.363-368
https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1552109742
溝部 朋文,油圧機構を足継手に用いたAFOと理学療法,理学療法ジャーナル 36巻9号,p.651-657
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パシフィックサプライ ゲイトソリューション
https://www.p-supply.co.jp/products/index.php?act=detail&pid=375
https://www.p-supply.co.jp/products/documents/index.php?act=list&doctype=manual&d_id=1085
奥田 正彦,膝継手の歴史的変遷と今後の課題,日本義肢装具学会誌,2011 年 27 巻 1 号 p. 13-17
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspo/27/1/27_13/_pdf/-char/ja
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