両側支柱短下肢装具の足部 3つの選択肢

両側支柱短下肢装具の足部 3つの選択肢

装具は様々な要素で構成されており,その目的や使用する環境に合わせてパーツなどを選択する必要があります.装具の機能を決める重要なパーツは多くありますが,その中で短下肢装具の「足部」の選択は使用する環境を決定する重要な要素です.

両側支柱付短下肢装具を作成する際には,必要な機能と,ユーザーさん,ご家族の希望とのすり合わせが必須です.学生や新人のセラピストさんを含め装具の作成に関わる可能性がある方はぜひ知っておいて欲しい事です.

機能は当然重要なのですが,使用する環境に合っていない選択をしてしまうと.

全く使い物にならない装具となってしまうので注意が必要です.

3つの選択肢

短下肢装具足部の選択肢

足部ってなに?

両側支柱付短下肢装具の基本的な内容については.→の記事で紹介しているのでそちらをご覧いただきたいのですが.

両側支柱付短下肢装具はいくつかのパーツによって構成される装具で.

大きく分けると,金属部分である

  • 支柱
  • 継手
  • 半月
  • あぶみ

と.足を直接固定するベルトが付いた

  • カフベルト
  • 足部

に分類することができます.

今回お話するのは,足を覆っている部分についてです.

この「足部」は,装具としては継手が行った関節の制御を足部に伝えたり.変形の矯正や予防を行うための力を加える部分となるのですが.

そういった装具の「機能的」な良し悪しとしての選択があるのと同時に.ユーザーさんが実際に使用していく時に,「環境に適しているか」が非常に重要となってきます

両側支柱付短下肢装具の足部

3つの選択肢

足部は地面に直接触れる部分です.

これは日本の生活様式が大きく関わる問題で.屋外では靴を履き,屋内では靴を脱ぐという生活スタイルの方が非常に多いのではないかと思います.

これはほぼ,住宅の様式によるもので.変えようと思って簡単に変えられるものではありません

屋内外の環境の違いを,靴の脱ぎ履きによって解決しているわけですが.そこに装具が関わる場合には,どのように対応をするのか検討をする必要があります.

日本の生活様式 靴の脱ぎ履き

装具の足部の種類は大きく分けて3つあり

  • 足部が革などで覆われているタイプ
  • 靴が直接連結しているタイプ
  • プラスチックのタイプ

となっており,それぞれメリットとデメリットがあります.

ダブルクレンザック継手
足部覆い型
両側支柱付短下肢装具-足部 靴
靴型
両側支柱付短下肢装具-足部 プラスチック
プラスチック型

それぞれの違いは後ほど触れていきますが.どのタイプにするかは,作成を開始しする時点で方針が決まっていなくてはなりません.一度作成が始まってしまうと,基本的にその部分は作り直しなので.変更することは非常に困難です.

必要な機能と,今後予想される使用環境,ユーザーさんやご家族のニーズを検討した上で作成を開始しなければ.作ったはいいけれど全く使えない装具になりかねません.

決定の期限

時として,立場の違いもあり.想像している「必要な装具像」が異なる事は起こりうるのではないかと思います.

装具に関する知識が無いであろう,ユーザーさんやご家族にとっては尚更です

もし,装具作成の担当者が.そういったユーザーさんのニーズを集約出来ていなかったり必要性の説明が不足していれば

想像と全く違う装具が完成してしまうかもしれません.どれだけ必要なものだったとしても,「こんなはずじゃなかった」という物は受け入れ難いものです.

どんな装具?

ユーザーさんが納得出来ていない装具ほど無意味なものはありません.

作成する側は,しっかりとした情報収集と説明が必要ですし.ユーザーさんも,それぞれのメリット・デメリットを知っていると.その必要性やどのように使っていく物なのか,今後の展望が得やすいのではないかと思います.

足部覆い型

このタイプは施設や地域で,色々な呼ばれ方をしていますが.今回は「足部覆い型」としてお話していきます.

主に踵部を保持する芯材と,足を覆う皮革で構成されており.構造としては靴に近いものを想像して頂くと良いのではないでしょうか.

足を包み込むように覆い,ベルトで固定を行っています.比較的シンプルな構造であり,全体の容量を後からも調整が行いやすく.

ベルトを追加したり,クッションを追加したりと.足部覆いの内外で加工を行いやすくなっています.

ダブルクレンザック継手

その特徴は,装具着脱時に「ベルト部分を大きく開く」事ができるために.足をしっかりと装具内に収めやすく,着脱がしやすくなっています.

足が装具内でどのような状態になっているのか,確認しやすいことは麻痺が強く筋肉の緊張が強い場合などに大きなメリットです.

同様に,つま先がオープンなデザインとなっている事で.足の指先の状態を常に確認出来るようになっています.

着脱しやすい

筋肉の緊張が強いと,クロウトゥというかぎ爪の様に指が食い込んでしまう事があるのですが.そういったトラブルの確認や対処が行いやすいです.

一方で,この指先が出ているデザインには大きな問題があります.

本来靴が担っていた,足部の保護という役割を全く果たせていません.この事からも,「足部覆い型」は事実上,屋内での使用を想定したものとなっています.

正しい履き方 クロウトゥ

もし屋外で使用となると,オーバーシューズなどが必要となってしまい.嵩張りや外観の問題が大きく,冬場の寒さはとても厳しいものとなってしまいます.

こういった特徴から,症状の変化や状態の確認を行いやすく.装具を使い始めた時期でも幾分装着しやすい事から.「入院時などのリハビリで使用する際に優れた仕様」となっています.

退院後を含めた屋外での使用も想定される場合には,なにかしらの対策を検討しておかなければなりません.

アルケア キャストシュー

靴型

靴型」は支柱に靴が連結したものとなっています.

靴のメリットとデメリットをそのまま引き継ぐ事となるのですが.「足部覆い型」とは逆に,靴という事で屋外での使用を想定したものとなっています.

装具の底のスベリ止めも屋外向けに丈夫なものが選択される事が多いのではないでしょうか.「屋外を移動する際に優れた仕様」と言えます.

ここで問題となるのは,日本の生活様式です.

屋内外を靴の脱ぎ履きで解決していましたが,装具と靴が連結されていると.大きな問題が起こります.

屋内では装具なし」か「屋内に入る時には,いつも靴底をキレイに拭く」の2択を取らなくてはなりません

両側支柱付短下肢装具-足部 靴

帰宅の度に,装具を拭くという手間は相当なものですし.屋外向けのスベリ止めは,室内の畳や絨毯・マットなどで必要以上の抵抗があり.室内を傷つけたり,つまづく原因になりかねません

事実上,屋外専用であり.屋内の対応を検討しなければなりません

移動の少ない屋内は少し軽い別の装具を所持していればそれを使用できると.

長距離移動や仕事など負荷の多い屋外では,靴型の装具を使い分け出来るためメリットがとても大きいです.

屋内外の装具の使い分け

ですが,装具の支給は一定期間で1つと決まっているため.装具の使い分けが出来る状況は限られます.屋内では装具無しが可能であれば理想ですが,それが状態の悪化に繋がっては問題なので.身体の状態,生活の環境の両方をよく吟味して選択する必要がありますね.

プラスチック型

屋内での使用に向いた「足部覆い型」と屋外での使用に向いた「靴型」でしたが.プラスチック型」はその折衷案のような立ち位置です.

これら3つの型の中では,もっとも嵩張りが少ない「プラスチック型」は.種類やサイズの問題はあるものの,なんとか靴を上に履くことが可能です.

そのため,屋内では装具を.屋外に出る時は靴をその上に履くという.スタイルを維持することが出来ます.

日本の生活様式と,装具の必要性の両立を考えると最もよい選択肢にも思えますが,いくつか問題はあります.

両側支柱付短下肢装具-足部 プラスチック

まずは前記の通り,履ける靴が非常に限定されるということです.

比較的嵩張りが少ない「プラスチック型」とは言え.両側支柱付短下肢装具の支柱や継手部分の嵩張りは大きく.リハビリシューズなどが主な選択肢になりがちです.

また,装具をつけ.その上に靴を履くという手間は.日々の負担を考えると無視できるものではなく.

活動の制限や,装具装着そのものを止めてしまう可能性もあります.

屋内外の装具の使い分け2

装具そのものの機能をみると,プラスチック型は足を覆う面積が少なく.3つの型の中では,足を固定する力が小さくなりやすいです.

プラスチックという素材が硬いため,皮膚のトラブルに繋がる可能性があります.

とても強い変形や,筋肉の緊張がある場合には,許容できないベルトの食い込みや擦過傷などが起こり.プラスチック型」を選択できない場合もあります

プラスチック型の問題点

使い勝手のメリットと,装具に必要となる固定力をよく吟味した上で.身体の今後の変化を予測しつつ選択する必要がありますね.

まとめ

両側支柱付短下肢装具の,構成要素である足部の3つの選択肢についてお話しました.

向いている状況だけをまとめると

  • 屋内向けの「足部覆い型」
  • 屋外向けの「靴型」
  • 屋内外兼用の「プラスチック型」

という事が出来ます.

靴の履き替え

ですが,これはあくまで使用する環境のみを見たもので.正解と言えるものはありません作成する時期や,必要となる装具の機能,身体の状況などによって.これらの選択は大きく変っていく可能性があります.

装具の使い勝手」に直結する部分であるため.作成側とユーザー側の情報共有が重要となってきます.今後装具に触れることが増える学生さんや新人さんには,情報を収集しながら装具についてユーザーさんに理解してもらえるような説明を意識して頂ければと思います.

メリット・デメリットを知ることは,選択する時の基本的な情報です.もし2つ目以降の装具が必要となった場合には.これまでの経緯と現在の状況を再度検討した装具を作成を考えてもよいかもしれないですね.

参考資料

公益財団法人テクノエイド協会,補装具費支給事務ガイドブック,p38

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000070149.pdf

日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p348

日本義肢装具学会 監修,装具学,医歯薬出版,第3版,p2-

加倉井周一,新編 装具治療マニュアル-疾患別・症状別適応-,医歯薬出版,第2版,p56-

株式会社 小原工業

http://www.obara-kogyo.jp/wp/wp-content/uploads/2017/04/square3.pdf

アルケア株式会社 キャストシュー

https://www.alcare.co.jp/medical/product/orthopedic/castsupportgoods/castshoe.html

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